2023.01.16
大企業×新規事業 -Inside Stories-

【凸版印刷編 #2】初めての新規事業を成功に導いたのは “基本”と“熱量”

Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内の新規事業組織のトップにインタビューする企画です。

今回インタビューしたのは、凸版印刷株式会社(以下、凸版印刷)。凸版印刷では、事業領域の拡大と新たな価値の創出を図るべく、福岡を拠点とする新規事業組織を2017年に設立。スタートアップ企業などの事業アイデアと凸版印刷の経営資源を融合させ新規事業を共創する、公募型のオープンイノベーションプログラムなどを実施しています。

凸版印刷株式会社 九州事業部 ビジネスイノベーション営業本部 DX推進部 部長 高 博昭(たか・ひろあき)さんが語る、福岡を拠点に新組織を立ち上げたワケと福岡ならではのメリットとは?これからの凸版印刷が注力する領域と、高さんご自身のターニングポイントとなったある事業とは?凸版印刷の新規事業組織のリアルに迫ります。

社内調整を乗り越えるための、ミーティングの数々

――組織を作り拡大する過程で、立ちはだかった壁はありましたか?

組織を立ち上げ3人で活動を始めた直後、メンバーを増やすための社内調整には本当に苦労しました。人を増やすためには既存事業の営業や企画の部署から異動してきてもらう必要がありましたが、まだ実績の少ない組織に人をアサインすることは当然難しい。しかし、実績を作るためには人手が必要です。そのため、少人数で小さいながらも目に見える成果を出し、発信していくことを心がけました。

また、初期の頃は我々の組織やプログラムの認知度をあげるべくスタートアップ界隈のイベントや施設に地道に通って話を聞いてもらったり、地元企業の新規事業組織との連携を検討したり、事業開発の制度作りを行ったり。こういった基盤を作ることには手間と時間がかかりました。

――「メンバーを増やすための社内調整」の壁は、基盤を作り、実績を作ることで乗り越えたのですね。成果はどのように発信したのですか?

初期の頃は特に、社内に我々の組織を煙たがる人がいたり、他部署に協力をしてもらわないといけないタイミングで合意形成に難航したりすることが多かったです。その対策として、新規事業組織の活動を社員に理解してもらうための進捗報告会を開いたり、オフサイトミーティングを開いたり、活動の理解をしてもらう作業は数多く行いました。

――周囲の反応は変わりましたか?

僕らの活動を「面白いね」と言ってくれる人は増えてきました。「あの時話したあの案件は順調?」などと社内の方々から声を掛けられるなど、新規事業に関するコミュニケーションが増えてきた感覚があります。

机の上に資料やタブレット端末を置いて、話し合っているイメージ写真
イメージ

北米、ヨーロッパ、イスラエル…、初めての新規事業で受けた衝撃

――新規事業組織をリードする高さんにとって、これまでのキャリアで一番糧になっている経験は?

一番大きかったのは、販促開発部にいた頃、凸版印刷初となる「デジタル印刷機」(※)の事業を立ち上げた経験ですね。

僕はプロジェクトマネジメントの立場で、海外企業とのアライアンス、市場創出から事業戦略立案まで、グローバルに活動しました。北米、ヨーロッパ、イスラエルなど海外に何度も赴き視察をし、海外に拠点を置く開発部門と連携協議を繰り返し実施。その後も設備の導入検討から導入後のビジネス開発まで一通りを経験。プロジェクト運営、上層部との交渉や社内調整に奔走しました。

特に海外企業との連携は、それまでドメスティックな考え方で仕事をしてきた僕にとっては衝撃的。海外での打ち合わせでは必ずその場で、僕自身の意見が求められたのです。即座に考えて決断を下さなければならないシーンを何度も経験しました。

※デジタル印刷は、従来多く仕様されていた印刷版を用いた手法ではなく、無版で絵柄を被着体に塗布する技法

――海外企業とのアライアンスから事業戦略立案まで、多岐に渡る経験をされたのですね。

そうですね、無事アライアンスを結んでデジタル印刷機を導入した後も、「凸版印刷だからこそ出来るビジネスは?」というテーマで、技術開発やビジネス展開の戦略も考えました。複雑なことばかりでしたが、このプロジェクトを担当させてもらったからこそ、僕の中で「新規事業に対するハードル」は各段に下がったのだと思います。

デジタル印刷機の事業は現在進行形で拡大しているので、その成長を見るたび、嬉しく思っています。

笑顔でインタビューに答える高 博昭さんの写真

下手な鉄砲は数を打っても当たらない

――新規事業の組織をマネジメントする上で大切にしている考え方は?

「新規事業は、あくまでも凸版印刷の中の1つの事業」だと捉え、それをメンバーにも共有するようにしています。

新規事業に携わっていると、自分たちが会社の中で異質な存在のように感じられることもあると思います。既存事業は既存事業、新規事業は新規事業と、別軸で考える人がいることも確かです。

しかし「今の既存事業の状況は?」「既存事業では何が課題か?」ということは、新規事業に携わる僕たちも深く理解しておくべきことなのです。会社の方向性に沿った新規事業であることは大切ですし、既存事業の課題がヒントになることも多いからです。「既存事業をやっている人たちと同じポジションにいるんだ」と実感してもらえるように、僕は組織のメンバーには常に“透明性”を持って、会社の状況を共有します。

――新規事業と既存事業を分離しすぎない考え方を大切にされているのですね。事業を推進する上では、何か大事にしているルールはありますか?

新規事業の種を見つけ拡大していく面では、「戦略・戦術を考え抜いたか?」「ユーザー層にヒアリングしてみた結果はどうだったか?」など、“基本的なこと”を大事にしています。

「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」とうことわざがありますが、僕はこのやり方では新規事業は生まれないと思っています。むしろ当たらないことの方が多いですから。そのような状況下でも成功率を上げるためにはどうすべきか?と考えると“再現性”が大切です。戦略を考え抜けば、それが成功しても外れても、次の挑戦に繋がります。しかし当てずっぽうで挑戦すれば、それが例えば当たったとしても再現は出来ないのです。

だからと言って事業を前に進めるスピードを落としたくはないですが、最初の段階で基本に忠実に、しっかりと構想を練り上げることは必要不可欠だと思っています。

メンバーの“熱量”が、新規事業のエンジンになる

――再現性のために“基本”を重視するのですね。他には何か大切にしていることはありますか?

姿勢としては、「自分の意志をはっきり示そう」といつもメンバーに言っています。これは新規事業に対する“熱量”を持ってもらうためです。

僕自身もそうなのですが、新規事業を推進する過程では、壁やハードルをなかなか越えられずスタックする瞬間が必ずあります。その時、越えられるか越えられないかを決めるのは「熱量があるかどうか」だと思うのです。壁やハードルを越えるために、常に周囲から手を差し伸べてもらえるわけでは無い。そんな時に、自分達の足で立ち、自らのエンジンで進んでいけると強いのです。

組織の責任者として、メンバーに熱量があるかどうかは常に気にしていますし、熱量を持てていなければ、どうしたら持ってもらえるか?と考えるようにしています。

――熱量が足りないと感じた時にはどうしますか?

コロナ禍でリアルでのコミュニケーションの制限はどうしてもありますが、なるべく外に出てもらうようにします。海外視察やイベントなど、面白そうなことがあれば積極的にメンバーに行ってもらうのです。刺激は、外から得られるものが多い。組織をマネジメントする立場としては、そのような機会を提供したいです。

こういった試行錯誤を重ねるうちに、最初は自分の意見を持ったり基本に忠実に戦略を考えたりすることが出来ていなかったメンバーも、徐々にそれらが習慣化してきています。

――なるほど。高さんが“基本”と“熱量”を大切にするのには、何か理由があるのでしょうか?

僕自身が、デジタル印刷機のプロジェクト立ち上げの経験で実感したことであり、この組織を回していく上で痛感したからです。

組織のメンバーは希望して異動してきた方もいれば、僕が引き抜いてきた方もいます。出来るだけ自分達で動くチームにしたいと思っていますし、仮に今そうでなかったとしても、いずれはそんなチームに育って欲しいと思います。

応接室でインタビューをするSSAP社員と、インタビューに答える高 博昭さんの写真

>>次回 【凸版印刷編 #3】 凸版印刷のアセット×地元企業のインフラ×スタートアップ企業の技術・アイデア につづく

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※本記事の内容は2023年1月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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