2022年11月に一般販売が開始された、ライオン株式会社(以下、ライオン)が手掛けるお口のフィットネスサービス「ORAL FIT(オーラルフィット)」。
Sony Startup Acceleration Program(SSAP)はORAL FITの開発にあたり、事業化のための体系的なノウハウや知見をベースに、マーケティングやコミュニケーションデザインなどの支援を行いました。ライオンが50~60代をコアターゲットにした新サービスを開発したワケは?一般販売までの知られざる裏話とは?ライオンによる新たな事業創出ストーリーをご紹介します。
50歳からの多くが抱える“あの”課題にアプローチ
――春田さん、萩森さんのプロジェクトでの役割とこれまでのキャリアを教えてください。
春田さん:経営サポート部にて会長・社長直轄の特命案件を担っており、2030年に向けた新規事業の全体戦略策定、具体的に定めたテーマの実行を担当しています。ORAL FITでは、プロジェクトマネジメントとして経営視点で事業立ち上げを先導してきました。
現職に就く前は、ライオンの営業・マーケティング部門で一般用医薬品や医薬部外品の新製品開発などに携わってきました。その後は会社の派遣制度でMBAを取得し、人事部門を経験して現在に至ります。
萩森さん:春田と同じく経営サポート部に所属しており、ORAL FITではプロジェクトリーダーとして現場視点で推進力を高めることに注力してきました。
キャリアとしては、ライオンに入社後、R&D部門で医薬品関連と日用品の新製品開発業務に10年ほど携わり、その後は新規事業開発を担っています。2019年には京セラ、ライオン、ソニーの3社で協業したPossiプロジェクト にも参画しました。その節はSSAPの方々にお世話になりました!
――ORAL FITの事業化にあたって、SSAPはどのような体制で支援しましたか?
木村:SSAPはマーケティングやコミュニケーションデザインなどの支援を行いました。アクセラレーターは3人体制で、私が支援の初期フェーズで全体整理をさせていただき、マーケティング戦略面を荒木、デザイン面を清水が担当しました。
――改めて、2022年11月に一般販売を開始したORAL FITとはどのようなサービスですか?
春田さん:“お口のフィットネス” がコンセプトのサービスです。
お口の筋力の低下が原因のひとつとして考えられる、「むせる」「話しづらい」「噛みづらい」という衰えに対して、お口のフィットネスを日々の習慣に取り入れていただくことで筋力向上を目指します。スマートフォンのアプリで、お口の状態に合わせて「話す力」や「噛む力」などのメカニズムに着目したトレーニングメニューが毎日配信されます。自宅で1日10分、2ヶ月間トレーニングを続けることで、気になるお口機能の衰えの改善が期待できます。
口腔機能の低下による咀嚼・嚥下障害など、多くの人が日常生活に様々な課題を抱えています。ライオンの調査では55歳~74歳の37%の方が口腔機能に衰えを感じていることがわかっています(※)。そこで、お口のフィットネスを提案し、口腔機能の低下を感じる人のお役に立ちたいと思いました。
「難題だけど、世の中を変えられる」
――ライオンとしてORAL FITの開発に至った背景は?
春田さん:私は新規プロジェクトを立ち上げるにあたり、経営陣から「社会課題の大きな市場で、顧客と繋がり続けられる事業の創出」を期待されていました。
まずはプロジェクトテーマの検討から開始。「ライオンが強みとする領域」と「社会課題」を掛け合わせ、複数のビジネスアイデアを並行して検討しました。出てきたアイデアについて、それぞれの想定顧客の方々にヒアリングを重ねる中で、ビジネス拡大の可能性が最も高いと考えたのがORAL FITの原型となるアイデアでした。
萩森さん:私は春田に半年ほど遅れて、事業立ち上げの推進を加速する役割でORAL FITのプロジェクトに参加しました。「新規事業を立ち上げる」こと自体が目的なら、プロジェクトメンバーの興味やWillを起点にすれば進めやすいんです。しかし今回は、経営直轄のプロジェクトということもあり、目的は「ライオンとして新規事業の成功事例を作る」こと。
成功事例を作るために、私たちはコア事業からの距離感が1つの鍵になると考えていました。コア事業から離れ過ぎると、ライオンのアセットを活用できない。一方で近すぎると、既存事業の波に飲み込まれて沈んでしまう例がよくあります。こういった面で、50歳からをターゲットにしたオーラル分野のプロジェクトは既存事業とちょうど良い距離感で推進できると考えました。
――ORAL FITは50~60代をコアターゲットにされたのこと、それはなぜですか?
萩森さん:プロジェクトのテーマを検討していた際に行った、想定顧客の方々へのヒアリングからヒントを得ました。多くの方に話を聞くうちに「お口の衰えは加齢の影響だから仕方がない」「気をつけて生活するしかない」という考え方が当たり前になっている現実を知りました。私からすると、そういった状況は当たり前ではないし、そこに適切なソリューションがないことが不思議だったんです。現状を深掘って調べ、その背景にある問題点に気付いた時は、ダイヤの原石を見つけた感じでした。難題だけど、世の中を変えられるな、と。
春田さん:年齢を重ねると共に、お口に関する悩みを抱える方が多くなります。「大好きなお餅を思い切り頬張りたいけど飲み込むのが怖いため、小さく刻んで食べるしかなく、つまらない」「食事のときに夫婦揃ってむせてしまい、お互い顔がごはん粒だらけになる」など。
それを年のせいだと受け入れてしまっていたり、悩みを歯医者さんに相談しても具体的な解決方法を示してもらえなかったり。お口の老化を防ぐためには日頃のケアが大切だと言われていますが、そういったケアまでは誰からもサポートしてもらえないのが現状だと感じました。
内側に入り込んだ伴走で、プロジェクトに変化が?
――当初からプロジェクト自体は着実に進んでいたと伺いました。SSAPの支援を導入された背景を教えてください。
萩森さん:サービスが形になり始めた頃に、ふと「プロジェクトチームの居心地が良すぎやしないか?」と感じ始めました。企業内新規事業の開発はスタートアップとは違うし、既存事業とも違います。だからこそ、紆余曲折があることが自然です。過去に新規事業をいくつか開発してきた経験上、妙な安心感は何かを見落としているサインだと思いました。新しい風が必要だと考えたのです。
SSAPはソニーグループという大企業であるからこその強みを活かした企業内新規事業の支援実績があります。課題を浮き彫りにし、事業化に導いてくれるだろうという期待がありました。私が参画したPossiプロジェクトで信頼関係ができていたことも決め手の1つです。あと、SSAPの発信力にも期待をしました。新規事業の立ち上げ期の話題作りは本当に難しいので、Sony Open Innovation Day 2022への登壇などもありがたかったです。
――事業化が加速することを期待されていたのですね。木村さんは、アクセラレーターとしてどのような支援を行いましたか?
木村:支援を依頼いただいたのは、これから事業コンセプトを最終化しつつ一般販売に向けたマーケティング施策の企画に進もうとしている段階でした。SSAPとしてはプロジェクトに途中から関わることになるので、私は支援期間の初期で全体整理を担当しました。
まずは「既に仮説検証などで方向性が固まっているポイント」と「まだ仮説段階や課題がありそうなポイント」を整理すべく、春田さん・萩森さんにプロジェクトの経緯や成果物をインプットいただき、さまざまな確認や質問をさせていただきました。
その結果、ペルソナのライフスタイルなどの特徴や条件の明確化や、50~60代に対するオンライン・オフラインでのマーケティング施策の洗い出しが重要なポイントになりそうだと考え、ペルソナやカスタマージャーニーマップの整理を実施しました。
後に続くローンチに向けたサイト構築やPR施策は必然的にお金がかかるフェーズです。そのため、こういった全体整理をしっかりと踏んで進めることで、本当に必要なコミュニケーションや制作物の定義ができ、リーンに事業化を進められるのです。
――SSAPの支援で役立った点はございますか?
春田さん:プロジェクトに足りていなかった点が明確になり、チームにも「このままではいけない」という緊張感が生まれましたね。あのまま自社だけで進めていたらローンチすること自体で満足してしまって、その後の目標が定まらなかったかもしれません。
萩森さん:第三者であるSSAPの方々に、ORAL FITを改めて説明する機会ができたことが変化に繋がったと思っています。ライオン社員は基本的に口腔の知識があるので、説明の文脈からこぼれる部分を勝手に汲み取り理解してくれます。しかし知識がないと、「なぜ?」がいっぱい。それが後にユーザーとなる方々の違和感のポイントとなるはずです。SSAPの支援開始を機に、チーム内での認識のズレ、例えばペルソナなども摺合せができたと思います。
そして、SSAPの方々が必要な時には結構ズバッと物申してくれたのは、個人的によかったです。私が求めていたのは「外からの支援」ではなく「内側に入り込んだ伴走」でしたので。
ORAL FITで“お口のフィットネス”の文化をつくりたい
――支援の過程で工夫したポイント、こだわったポイントは?
木村:春田さん、萩森さんがおっしゃっているように、SSAPのアクセラレーターという第三者視点でプロジェクトを分析し、解像度をあげられるように意識しました。ペルソナやカスタマージャーニーマップの整理の過程では、主観に偏りすぎないように、オープンデータによる客観的な情報も活用しました。
また余談ですが、支援に関わったアクセラレーター全員でORAL FITのアプリとツールキットをお借りして、実際に”お口のフィットネス”プログラムを体験しました。これはサービスに対する理解を深め、ユーザーとしての感覚も掴むことが目的。ジムで身体を鍛えるように、お口もこうやって鍛えることができるんだと体感。まさにインサイトを突くソリューションだと思いました。
――最後に、今後のORAL FITの展開にかける想いを教えてください!
萩森さん:目指すは「歯みがき」です。今日、歯を磨いた方は多いと思いますが、昔はそんな習慣はありませんでした。当社を含めた多くの方々の活動があって、今の習慣がつくられているんです。そんな風に、「お口を鍛える」という行動も人々の日常に溶け込む習慣にまでしたい。その先陣を担えるのがORAL FITだと信じています。
でも、ORAL FITは「お口を鍛える」一つの手立てに過ぎないので、世の中の変化に応じて形を変えていくことが理想です。また、お口を鍛える文化が浸透して、いずれ「ORAL FITはもう必要ない!」と役目を終える時が来ることも大きなゴールです。
そのために、まずは私自身が楽しみながら本気で考え続けること。そして何年後かに「たくさんの人の笑顔に貢献できたよね」と思えれば最高です!
春田さん:ORAL FITで “お口のフィットネス” を文化にしていきたいと思っています。例えばランニングやウォーキングは、我々が子供の頃はまだ一般的じゃなかったと思います。今それらを楽しんでいる人は周りの誰かからその良さを聞いて、やってみて、徐々に広がってきたんですよね。
“お口のフィットネス”は今までになかったものです。これからORAL FITを利用する方々と一緒に、周りにもその良さを伝えていきたいですね。何才になっても自分の口で好きなものを食べたり、自由に話せたりする幸せは何ものにも代えがたいことですから、ORAL FITを通じて、そんな日々の幸せを守っていきたいと思っています。
木村:ORAL FITは、お口の健康を起点に、皆さまのウェルビーイング(身体だけでなく、精神的、社会的にも満たされている状態)に貢献するものだと信じています。トレーニングを通じお口がもっと健康になると食事や会話が楽しくなり、その結果、以前よりも外に出掛けてみたり友人に会ったり。そういった人々の幸せで充実した毎日・未来に向かって、本サービスの浸透や次の展開を、引き続き応援させていただきたいと考えています。
連載「ライオンの強み×社会課題で創出する、次なる新習慣」では、今後もライオンが挑む新規事業のストーリーをご紹介してまいりますので、お楽しみに!
※本記事の内容は2023年2月時点のものです。
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