2021.02.25
宇宙を解放!「STAR SPHERE」プロジェクトの裏側

#04 JAXA村木 祐介さん・藤平 耕一さん「ワクワクしながら、感動を創りたい」

※プロジェクト名称は、2022年1月より「STAR SPHERE」に変更となりました。

ソニー・東京大学・JAXAは、「宇宙感動体験事業」の創出に向けて三者で共創契約を締結し、ソニーのカメラ機器を搭載した人工衛星の開発を開始することを発表しました。現在、SSAPが運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」にて、宇宙視点による新しい価値創出と事業探索を行う『Sony Space Entertainment Project』の共創パートナーの募集を行っています。
本連載では、Sony Space Entertainment Projectのメンバーの方々お一人ずつに、それぞれのプロジェクト参画の経緯や業務内容、プロジェクトにかける想いなどをインタビューしていきます。

今回は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の村木 祐介さん(写真左)・藤平 耕一さん(写真右)にインタビューしました。

ボトムアップ活動を共に始めた、人工衛星のプロ「JAXA」のメンバー。

――村木さん・藤平さんのSony Space Entertainment Projectでのご担当領域と役割、業務内容をお教えください。

村木:今回の取り組みで、JAXAは人工衛星の開発・運用などの経験・ノウハウを活かし技術支援や事業・研究開発計画の検討支援を担当しています。私はこのプロジェクトがボトムアップ活動として立ち上がる最初のタイミングから参加しており、事業コンセプトづくりや実証用の衛星システムの検討など全般的に取り組んできました。現在は文部科学省に派遣中なのですが、後任の藤平さんに業務を引き継いだ後も課外活動の立場で引き続きサポートしています。

藤平:私は2年前からプロジェクトに参画しました。JAXAチームは我々の他にも、画像処理の研究者や過去に宇宙で使うカメラを担当していた人等、プロジェクトの遂行に必要な知見や技術を持った人達に声をかけて集まったメンバーで活動しています。
私は先日、本プロジェクトのJAXA側代表として『CEATEC 2020 Online』で「宇宙感動体験の幕開け~JAXA J-SPARC partnership with Sony~」をテーマにカンファレンスにも登壇しました。

 『CEATEC 2020 Online』の様子(右から2番目が藤平さん)
『CEATEC 2020 Online』の様子(右から2番目が藤平さん)

――JAXAに就職される前から宇宙にご興味があったのですか?

村木:話は子ども時代に遡り、5歳の頃から再放送されていたガンダムと、親に買ってもらった星の本の影響で宇宙や天体観測が好きになりました。当時宇宙に行った人たちのニュース等を見て「自分も宇宙飛行士になりたい」と思うようになり、大学では天文指導員等をやりながら宇宙工学を専攻し、JAXAに就職しました。

藤平:私は割と村木さんとは対照的で、もともと特に宇宙に何か特別な興味があったわけではなくJAXAに就職したので、宇宙に関しては「社会人デビュー」です(笑)。ただ意外とJAXAには私のような人も多く、半分は村木さんみたいな宇宙大好きなタイプ、半分は私みたいなタイプというイメージです。

――JAXAには様々なタイプの方がいらっしゃるのですね。これまではどのようなキャリアを歩まれてきたのですか?

村木:新卒でJAXAに入ってからは、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の開発運用を担当しました。

cJAXA:「きぼう」を担当していた際の様子
cJAXA:「きぼう」を担当していた際の様子

5年ほど経った時、JAXA内で「途上国開発援助で衛星データが活用されるよう切り拓く仕事をしたい人募集!」といった人員募集を見つけ、自ら手を挙げてアジア開発銀行に出向し、フィリピン・マニラで4年暮らしました。東南アジアはもちろん、西はアルメニアなどのコーカサス地方、東はフィジーなどアジア全体が仕事の場で、予算をとりプロジェクトを立ち上げて、防災や農業などの開発援助分野で現地の人々が衛星データを使えるようにするためにシステム開発・導入、能力開発するような活動を行っていました。

 バングラデシュにてプロジェクトに携わっていた際の様子(写真左が村木さん)
バングラデシュにてプロジェクトに携わっていた際の様子(写真左が村木さん)

その後はJAXAに戻り、「新しい衛星や事業を考える」ことを担当する部に異動。そこで、先ほど藤平さんからもご紹介があったJAXAと企業が共同で宇宙関連事業の共創に取り組む「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」を企画立案し、制度として立ち上げました。これまでJAXAは国の予算で国策的な用途での研究開発を行うことが多かったのですが、JAXAの強みを活かし、民間の方々との協業も行いながら、もっと違う視点で宇宙の未来を切り拓きたいと思ったのです。

藤平:私はJAXAに入った後はまず、小型実証衛星4号(SDS-4)の開発を担当しました。JAXAが担う仕事は通常は、衛星の企画・設計や試験の判断等で、それを受けて実際に手を動かし衛星を作ってくださるのは衛星のメーカーさん。しかしSDS-4等の小型衛星は基本的にJAXAが全てを担当するタイプのものだったため、当時の私はクリーン着を着て、試験室で衛星のネジを回すところから携わりました。

cJAXA:SDS-4を担当していた際の様子
cJAXA:SDS-4を担当していた際の様子

その後、温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)の開発を担当し、その後、出向という形で文部科学省の研究開発局宇宙開発利用課へ。JAXAは基本的に文科省の予算の元、研究開発を行っているので、その視点から宇宙事業を見ることは新たな発見が多かったですね。

「誰でも宇宙の写真を撮れると面白い!」。RPGのように進んだプロジェクト。  

――お二人のSony Space Entertainment Project参画の経緯はどのようなものだったのでしょうか?

村木:2017年6月にソニーシティ大崎のBRIDGE TERMINALにて有志で行われたイベントに参加し、そこで初めて現在のソニーのメンバーと出会いました。そのイベントで、当時の国際宇宙ステーション(ISS)で使われていたソニーのミラーレスカメラ「α7S II」の地上モックアップが展示されていたのを覚えています。
イベントの後の懇親会で「誰でも宇宙の写真を撮れると面白いよね!」というアイデアが出てちょうどそのイベントの一ヶ月後に内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster」があったため、「何か事業アイデアを応募出しましょう」という話になり共同で応募しました。落選しましたが、せっかくなのでソニーでの事業化に向けて頑張ってみよう、ということになり、それから放課後活動的に、夜な夜な打ち合せをして事業プランを練っていきました。

打ち合せの様子
打ち合せの様子

藤平:私は、村木さんがプロジェクトを一旦離れる際に引き継ぐ形で参画しました。しかし実をいうと、村木さんも参加した2017年のBRIDGE TERMINALでのイベントには、私も参加する予定でした。当日仕事で急きょ行けなくなってしまったのですが…。ですので、このプロジェクトに関われることになって非常に嬉しかったです。
村木さんからもお話がありましたが、JAXAには2018年4月より「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」という研究開発プログラムが新設されており、私はそのJ-SPARCの担当です。このプログラムはJAXAと民間の企業等との間でパートナーシップを結び、共同で新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指すためにJAXAが主導するもので、今回のソニー・東大との取り組みもこの一環として行っています。

――ボトムアップ活動から開始し、それもJAXA・東大・ソニーの三者協同で正式なプロジェクトとなるまでの道のりは簡単なものでは無かったと思いますが、いかがでしょうか。

村木:活動開始してからの3年間、まさに山あり谷ありでした。最初はメンバー全員が本業とは別に放課後活動的に集まっていましたが、前に進まないことが何度もあり、実は何回も「もうこの活動は終わりにしようか」という話が出たこともありました。
私は「宇宙開発利用の価値」についてライフワークとして考え続けているのですが、人に「ワクワク」「感動」をもたらすという宇宙の感性的・精神的な価値に基づく宇宙利用というのは、税金を使った国の宇宙開発では取り組みにくい領域であると感じていました。しかし、テクノロジーとエンタテインメントに強みを持つソニーとであれば、この新しい宇宙利用の経済を回していくことができるのではないか?そういう強い思いがあったため、粘り強く続けることができたと思っています。

藤平:村木さんは、本当に驚くほど粘り強いですからね。

村木:はい(笑)。共通のマイルストーンとなった宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster」には落選したのですが、「それなら自分達でやってやろう」と更にメンバーが団結しました。それからはまるでRPG(ロールプレイングゲーム)のように仲間が集まってきました。

藤平:村木さんのネットワークで宇宙関連の有識者や東京大学の准教授もプロジェクトに参画することになりましたし、ソニー側も、事業経験豊富なメンバー等どんどん優秀なメンバーが増えていきました。

JAXA・東大・ソニーで、ワクワクしながら進めたい。そして、家族を感動させたい。   

――JAXAが民間企業であるソニーと組むことの意義は、JAXA内ではどのように捉えられていますか。またソニーのメンバーと仕事をすることでの気づきやギャップ等があればお教えください。

村木:ソニーには様々なアーティストが所属していますし、アニメやゲームなどエンタメ領域の事業も幅広いですよね。エンタテインメントは、宇宙と一般市民を繋げる強い力があると思っていて、ソニーさんの強みを最大限生かして、宇宙の感性的な価値に基づく新しい宇宙開発利用を切り拓いていきたいと考えています。また、ソニーが持つ宇宙以外の分野の技術を組み合わせ、宇宙感動体験という新しい用途のための技術開発を進めることで、JAXAや日本全体の宇宙利用で活用可能な革新的な技術が生まれてくるのではないかと期待しています。

打ち合せの様子
打ち合せの様子

藤平:ソニーとお仕事する中でのギャップという意味では、JAXAはご存知の通り、一般消費者向けの事業は行っていません。「宇宙を解放する」というコンセプトのもと、本来プロのみが操作するものである「衛星」を一般の人に操作してもらうということは我々にとっては未知の領域です。また、衛星を地上システムに繋げ、一般消費者向けにそのデータをどう扱うかという点ではソニーの経験やノウハウを活用させてもらっています。
実現させるのは本当に難易度が高く日々試行錯誤していますが、いつか自分や個人のために衛星が使える日が来るのは楽しみですね。

――コロナ禍でありながらプロジェクトが始動したばかりの現在、打ち合わせはどのように行っているのですか?

藤平:現在は全てリモートですが、プロジェクト全体の定例が月に1回と、プロジェクトの主要メンバーの定例が週に1回、それ以外は各々でチームごとに打ち合わせを行っています。技術チームメンバーは週2-3回で打ち合わせがあります。この状況なので、オンラインでは顔を合わせたことがあるものの、実際にお会いできていないメンバーも多いですね。

――Sony Space Entertainment Projectにかける想いをお教えください。

藤平:私はこれまで衛星の開発等を担当してきましたが、自分のために衛星を使ったことや、自分の目で宇宙を見たことはありません。それがいつか、誰もが自らの手で衛星を操作して、自分の好きな写真が撮影できる日が来るかもしれない、ということは非常にワクワクします。私の子どもや家族、友達にもその感動を提供できる日が来ることを楽しみにしています。
いつか実現するという楽しみと共に、自分達の手でそれを実現することに挑戦しているという点も楽しく、期待が大きいです。

藤平さん
藤平さん

村木:まずJAXA職員としては、宇宙ビジネスが進んでいる欧米とは別の切り口で日本の宇宙ビジネスが発展し、全く新しい宇宙技術が生まれてきてほしいと願っています。
加えて、ウォークマンの出現によって「外で音楽を聴く」という文化が創出されたのと同じように、「宇宙に触れる」ことが日常的になり、宇宙視点に基づく新しい「文化」が生まれてほしいと思っています。プロジェクトを通して実際に宇宙に触れたクリエイターやアーティストが、宇宙に関連する曲やアニメ、映画等のコンテンツを提供したり、実際に衛星を操作し疑似的に宇宙から地球を見下ろしたり、星空を見上げる体験が人々にとって一般的になっていくことで、ゆくゆくは多くの人々の意識が宇宙視点に基づき変わっていくでしょう。人々は精神的に豊かになり、地球環境保護や国際平和に向けた取組や宇宙に進出するための取組に対する共感も生まれていく、そのような世界観が実現できないかと考えています。これは、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献にもつながるはずです。

cJAXA:2009年、スペースシャトルと村木さん
cJAXA:2009年、スペースシャトルと村木さん

個人的には、家族に衛星を操作してもらって感動してほしいなぁと思います。芸術家が宇宙で撮影したアート作品を家に飾って毎日眺めたいですね。
最後に、プロジェクトに関わるものとして、宇宙開発利用に関する幅広い知見・ノウハウを持ったJAXAと、超小型衛星の研究開発を行う東大、そしてテクノロジーとエンタメ領域に長けたソニーとが、それぞれの強みを生かして共創したからこそできる、新たな価値創出にワクワクしながら取り組んでいきたいです。

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Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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