※プロジェクト名称は、2022年1月より「STAR SPHERE」に変更となりました。
ソニー・東京大学・JAXAは、「宇宙感動体験事業」の創出に向けて三者で共創契約を締結し、ソニーのカメラ機器を搭載した人工衛星の開発を開始することを発表しました。現在、SSAPが運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」にて、宇宙視点による新しい価値創出と事業探索を行う『Sony Space Entertainment Project』の共創パートナーの募集を行っています。
本連載では、Sony Space Entertainment Projectのメンバーの方々お一人ずつに、それぞれのプロジェクト参画の経緯や業務内容、プロジェクトにかける想いなどをインタビューしていきます。
今回は、ソニーでミッション部開発リーダーを務める久保 秀暢にインタビューしました。
開発リーダーとしての参画、3年越しのチャレンジ。
――久保さんのSony Space Entertainment Projectでのご担当領域と役割、業務内容をお教えください。
人工衛星は大きく2つの機器に区別され、それぞれバス部とミッション部(※)と呼ばれています。バス部を東大、ミッション部をソニーが開発しています。私はミッション部の開発リーダーを担当しています。主に、各担当(電気、メカ、ソフト、光学系、環境試験)の取りまとめや、スケジュール管理を行っています。COVID-19の影響で直接会って会話するのが難しい状況ですので、オンラインでも気軽にメンバー同士で会話できるような風通しの良いチームになるように心がけています。
※バス部は、電力、通信、姿勢制御などの人工衛星としての基本機能に必要な機器と衛星の主構造の総称。ミッション部は、その衛星が通信、地球観測、科学データの収集など衛星のミッションを遂行するにあたって必要な機器のこと。
――これまではどのようなキャリアを歩まれてきたのですか?
学生時代は電子工学を専攻しており、デジタル画像処理に関わる研究をしていました。ソニーには2006年に新卒で入社し、最初に配属になった部署ではTVの設計に携わりました。電気担当で、主にBRAVIA向けの画像処理LSIやFPGA開発を行っていました。機種名で言うと、X5000シリーズやHX920シリーズなどを担当しました。
その後ソニーセミコンダクターソリューションズに異動して、スマートフォン向けのイメージセンサーのロジック設計を行っていました。入社以来、デバイス開発がメインでしたが、商品設計をやりたいという思いがずっとありました。いまはメディカルソリューション事業部へ異動し、メディカルカメラの商品設計を担当しています。
――久保さんのSony Space Entertainment Project参画の経緯はどのようなものだったのでしょうか?
このプロジェクトはボトムアップ活動から始まったものですが、私自身、ソニーシティ大崎のBRIDGE TERMINALにて有志で行われていたイベントに参加したことがきっかけでした。最初にイベントに参加したのは2017年6月。東大やJAXAの方も参加するイベントで、かねてから宇宙に興味があった身としてワクワクしたのを覚えています。
東大・JAXAの方も当時は有志が集まっており定期的にワークショップ等を開催していました。その過程で盛り上がった事業プランを、JAXA主催のビジネスコンテスト「S-Booster」に応募しないかという話が出てきて、数人でプランを検討し始めたことが、このプロジェクトが始まったきっかけになっています。
――コンテストに応募する際には、東大・JAXA・ソニー三者でどのように役割分担をしてプランを詰めていったのですか。
JAXAは宇宙開発に関して知見があり、東大は最先端の宇宙システムの研究をしています。ソニーはカメラをはじめ映像の技術を持っており、そんな三者の特長の掛け合わせで知恵を出し合いながら、コンテストの準備を進めました。結果的にそのコンテストでは結果が出ませんでしたが、それまで有志で放課後活動的だった構想が一気に現実味を帯び、より一層メンバーのモチベーションが高まったと思います。
「宇宙」を舞台にした設計は、エンジニアとしての幅を広げる。
――久保さんはエンジニアとして色々な商品を担当されてきていますが、「衛星システム」の設計となると、やはり既存の領域とは違うポイントが多いですか。
そうですね、衛星は宇宙で使用されるものなので、「真空」「衝撃」「放射線」の3点は既存のソニーの領域とは違う、考慮すべき重要なポイントです。
まず「真空」。熱は空気を伝わっていきますが、宇宙は真空なので熱の伝達が問題になります。そこで、衛星では発熱部にアルミを接触させて熱を逃がす等、日々試行錯誤を重ねています。次に「衝撃」。宇宙に向けて衛星を載せたロケットを飛ばす瞬間が最も衝撃があり、13G近くになる場合もあるそうです。衛星内の各部品が確実に固定されていないと衝撃で飛んで行ってしまうため、その点の考慮も必要です。
最後に「放射線」。宇宙では放射線が飛び交っているので、それらをいかにガードし機材を守るかということも重要です。放射線試験を実施するためには最低限の専門知識が必要であるので、開発チームのメンバーで講習に参加しました。
――これまでのキャリアでのご経験が、今回の宇宙プロジェクトで役立った点はございますか。
今までのプロジェクトでリーダー業務を経験していたので、今回のプロジェクトでも取りまとめや、パートナーとのやり取り等、プロジェクトをマネジメントする経験は活かされていると思います。また、今回のプロジェクトは、ソニーのカメラを使用します。カメラ選定や、システムを考える上で、カメラやテレビの設計に携わってきたことで得たノウハウはSony Space Entertainment Projectの技術面を支える上で活きています。
――エンジニアとしてSony Space Entertainment Projectに関わる醍醐味は何だと思われますか?
エンジニアとしての幅を広げられることだと思います。
例えばISS(国際宇宙ステーション)は1日に地球を何周するでしょうか?だいたい地球1周で約90分、つまり1日で約16周します。なぜISSがそんなに速いスピードで動いているかは、重力が影響しています。宇宙に関わっていれば当たり前だと思うことも、すべて新鮮に映ります。
宇宙で高度を維持するためにはどうするのか、電力はどうするのか、地上とのデータのやり取りはどうするのか等、数え上げるとキリのないほど疑問が湧いてきます。エンジニアの多くは好奇心の固まりですから、想像しただけでワクワクする方も多いのではないでしょうか。
開発した衛星システムで、宇宙の楽しさを知ってもらいたい。
――Sony Space Entertainment Projectにて最近嬉しかったこと、ワクワクしたことはありますか?
本プロジェクトに対して、社内外からの期待が大きいことは嬉しいことです。
社内でエンジニア募集したのですが、ありがたいことに多くの方から応募がありました。ソニーで宇宙に関連したプロジェクトが出来るとは思ってなかったといった声や、ぜひ宇宙開発に携わりたいという熱い思いを持っていただいている方が社内に多くいることがわかりました。また、社外でもソニーと宇宙ビジネスで協業したいと多くの企業の方から声をかけていただいているようです。
本プロジェクトは東大・JAXAと協力して進めていますが、カルチャーや得意とする領域も違うので、日々気づきや学びが多いです。宇宙に関わる業務は社内でもこれから知見を蓄積していく領域なので、良い意味で毎日が手探り状態です。大変な部分と表裏一体ではありますが、貴重な経験をさせていただいています。
――Sony Space Entertainment Projectにかける想いをお教えください。
小さい頃から宇宙が好きでした。まさか自分が業務で宇宙に携われる日が来るとは思ってもいませんでした。ボトムアップ活動に参加した2017年から約3年がたち、ようやく本格的にプロジェクトがスタートしました。
今までの宇宙開発は国が中心となる国策の側面が強かったですが、最近は民間も積極的に宇宙産業へ参入しています。我々ソニーが関わることで、新たな「エンタテインメント」の視点で宇宙を見ることができるようになります。このプロジェクトによって、地球上に宇宙の「体験」を持ち帰られればいいなと思いますし、その体験によって、宇宙が“非日常”ではなく“日常”の、皆さんに近い存在になってくれればいいなと考えています。
小さい頃はいつか宇宙に行ってみたいと思っていました。年月を経た今は純粋に宇宙に行くことがすべてではなく、現在開発している衛星システムによって、より多くの方に宇宙の楽しさを知ってもらいたいと思っています。