2022.02.03
宇宙を解放!「STAR SPHERE」プロジェクトの裏側

#15 ソニー クリエイティブディレクター・プロデューサー 井手口 悦久「宇宙感動体験で、ユーザーの心の“G”が軽くなるように」

※プロジェクト名称は、2022年1月より「STAR SPHERE」に変更となりました。

ソニー・東京大学・JAXAは、「宇宙感動体験事業」の創出に向けて三者で共創契約を締結し、ソニーのカメラ機器を搭載した人工衛星の開発を開始することを発表しました。現在、SSAPが運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」にて、宇宙視点による新しい価値創出と事業探索を行う『Sony Space Entertainment Project』の共創パートナーの募集を行っています。
本連載では、Sony Space Entertainment Projectのメンバーの方々お一人ずつに、それぞれのプロジェクト参画の経緯や業務内容、プロジェクトにかける想いなどをインタビューしていきます。

今回は、BtoCビジネスのUX企画・マーケティング戦略をクリエイティブディレクター・プロデューサーとして担当する井手口 悦久(いでぐち・よしひさ)にインタビューしました。ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME) コーポレートビジネスマーケティンググループ BCルーム チーフプロデューサー 兼 SME Lab プロデューサーを務めつつ、Sony Space Entertainment Projectには兼務で参画しています。

宇宙自体をエンタテインメント・アートの視点で切り取り、形にしていく。 

――井手口さんのSony Space Entertainment Projectでのご担当領域は?

私はプロジェクトのブランディングやBtoCビジネスのUX企画・マーケティング戦略等を主に行っています。技術チームが作る衛星の活用を中心に、どのような「宇宙感動体験」を創り出すかを考え、宇宙自体をエンタテインメント・アートの視点で切り取り、形にしていくのが私の役割です。
私はBtoC領域をメインに、個人に楽しんでもらえ、かつビジネスにもなりそうな宇宙コンテンツを企画しています。

――具体的には何をしていますか。

業務範囲は多岐に渡るのですが、例えばブランディングの観点ではプロジェクト自体のコンセプトを整えたり、グループ横断でのBtoCビジネス体制づくり・企画・プロトタイピング、ファン・エンゲージメント設計、各施策のPoC(概念実証)を行ったりしています。
最近ですと宇宙ファン向けのサブスクリプションサービスを計画したり、公式YouTubeチャンネルを立ち上げると共に、宇宙的なLoFi音楽×ループアニメ作品も試作したりしました。SME側でも、メタバース(インターネット上の仮想世界)を活用してみたり、宇宙をマルチに楽しむメディア構築や、宇宙文化創造、ヒットコンテンツ創出を検討したりしています。

――SMEの井手口さんならではの役割ですね。衛星打ち上げの準備段階でビジネスのターゲットを模索している中、どうやって施策を進めているのですか?

そうですね、まだ衛星が打ちあがる前ですし、宇宙エンタ・アートはこれから作り上げていく市場。そのため既存ユーザーはおらず、暫定ターゲットを定め、例えば「カメラ女子」などペルソナを作りながら、とにかく面白そうなPoC施策をまずは試してみている段階です。
最近行ったのは、暫定ターゲット層に近い京都芸術大学の学生を対象にした「宇宙感動体験コンペティション」です。コンペでは特別審査員にJAXA宇宙飛行士の油井さん等を招き、学生の自由な発想で、宇宙をテーマにしたユニークな企画や作品を考えてもらいました。

写真左:惑星の周りにカメラやVRゴーグルなど様々なモチーフが浮かんでいるイメージイラスト、写真右:大学の教室内で大勢の人がノートパソコンを開いて話し合っている写真
写真左:京都芸術大学の学生を対象にした「宇宙感動体験コンペティション」の様子
写真右:宇宙感動体験コンペティション キービジュアル

こういった活動でターゲット層から得た生の声も参考にしつつ、プロジェクトの軸や方向性を整理していて、現時点で20種類以上の企画を考え検証している最中です。

宇宙を体験できる「メタバース」、宇宙にインスパイアされた「音楽・アニメーション」。 

――20種類以上の企画とは凄いです。「メタバース」を使った施策、特に気になります。

メタバースは新しいファン・エンゲージメント施策として検討しています。これは、既にSony Space Entertainment Project公式サイトで公開した「SMOES VERSE / Sakura Chill Beats」というWebメタバースのPoCを発展させ、今後ユーザー間のコミュニケーションや創作活動・アート体験の場に活用していく計画です。兼務している部門のSME Labで開発中のWeb メタバース「SMOES(スムース)※仮称」を応用して、ブラウザで気軽に、仲間と宇宙アートやアクティビティを体験したり、宇宙の映像や音楽を楽しんだり、ゆくゆくは宇宙関連のイベントにOMO(※)で参加できたり、という世界観を目指しています。公式サイトにて11/7までの期間限定で、宇宙的LoFiチャンネルとして注目されている「Sakura Chill Beats」のアナザーストーリーを楽しめるメタバースを公開しました。

※OMO(Online Merges with Offline):オンラインとオフラインの垣根を超えたマーケティング概念
近未来や宇宙を感じさせる空間で女の子がソファーに座っている3Dモデルのビジュアルイメージ
YouTubeで注目の宇宙的LoFi 音楽チャンネル「Sakura Chill Beats」をメタバース化

――コンテンツの一つとして、宇宙を想起させる音楽コンテンツも作っているのですね。

YouTubeにもプロトタイプを露出していく予定で、現在はテスト的に宇宙をフックにした試作コンテンツをいくつかアップしています。音楽系では “SPACE NOMAD”というループアニメ・シリーズをプロデュースしました。これは、リアルな宇宙映像を背景に近未来的な“宇宙船の窓”のループアニメを重畳させ、チルアウト系の音楽との組み合わせで、作業用音楽としても楽しんでいただけます。以下のYouTubeから再生できるので是非聞いてみてください。

同時多発的に、さまざまな新進気鋭のクリエイターやアーティストと実験的な作品を企画してみたり、宇宙作品表現の場を作ってみたりと、「いかにターゲット層の心に刺さる作品が自発的に生まれるか」という視点で、実験的であり挑戦的なアプローチを取っています。

新しい感動を、IPとテクノロジーの掛け算で実現。 

――これまではどのようなキャリアを歩まれてきましたか。

私は宇宙の専門家ではなく、プロジェクトの中でも異端な方かと思います。最近のキャリアで一貫しているのは、IPとテクノロジーの掛け算で、新しい感動を社会実装してきたこと。様々なクリエイターとともに、テクノロジーと発想力で宇宙というIPのポテンシャルを引き出し、とにかく「おもしろい」と思ってもらうのが自分の役目だと思っています。
キャリアの始まりは、学生ライターとしての活動でした。『CanCam』、『POPEYE』、『名探偵コナン推理ファイル 人類の謎』等を執筆したり、90年代には週刊スピリッツ連載の傍らアーティストや漫画作品とコラボしたWebゲーム企画開発に没頭しました。その後、お笑い番組の放送作家やコピーライターなどを経て、家業のデザイン会社で経営と空間プランニングを担当。この時に現ライゾマティクスの石橋さんや真鍋さん達と、ソニービル「Melody Step」や、SKIPシティでの先端アート開発、テーマパークでの『ドラゴンボール』や『どうぶつの森』の体験型アトラクション実装など、IPとテクノロジーを融合させた新しいモノづくりを探求しはじめます。
その後ソニーグループでのキャリアがスタートし、ソニーPCL株式会社でも主に先端技術を駆使した企画をプロデュースしつつ、プロとしてのSI※(システムインテグレーション)をマスターした後、ソニーミュージックグループに転籍してARサイネージ“MITENE”の事業化や、ソニーのさまざまな要素技術を応用した作品のプロトタイピング・ビジネス検証・プラットフォーム開発にも携わってきています。 XR関連では、『ゴーストバスターズ』のアトラクションを空間プロジェクションマッピングで実現したり、サウンドAR初のアトラクションを『ムーミンバレーパーク』に実装したりしました。

※SI(システムインテグレーション):コンピュータやソフトウェア、ネットワークなどを組み合わせて利便性の高いシステムを作ること。
写真左:ゴーストバスターズの光線銃でゴーストを撃っているビジュアルイメージ、写真右:ムーミンバレーパークを背景とイヤホンをつけた女性のビジュアルイメージ
写真左:ラグーナテンボスでPoC後に常設された『ゴーストバスターズ』のシューティングアトラクション
写真右:『ムーミンバレーパーク』でPoC後に常設されたサウンドARアトラクション

――井手口さんがプロジェクトに参画したきっかけは?

プロジェクトを机の下活動で進めていたソニーの友人から去年の2月頃に「ビジョンを具現化・事業化できる人材を探している」と声をかけていただいたことがきっかけですね。宇宙という海の物とも山の物ともわからない事業体への兼務のハードルは高かったのですが、「これはライフワークだ」と確信し、当時在籍していた株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ(SMS)の会長に社食で直談判して「やってみるか」とご英断いただき兼務が実現しました。当時、衛星の設計面ではほぼほぼ計画ができていたものの、宇宙感動体験事業をどう面白く盛り上げて、どうビジネスを生み出すのかがほとんど白紙の状態で、そのビジョンづくりとビジネス開拓がソニーミュージックグループに求められていると感じたからです。

――最後に、プロジェクトにかける想いは?

まだ誰もやったことのない領域での挑戦なので、私自身、毎日ワクワクしながら楽しんでいます。このプロジェクトが創造する「宇宙感動体験」を通じて、ユーザーの心の“G”が軽くなってくれると嬉しいですね。
心の”G”が軽くなるとは、例えば宇宙を自分事化してくれたり宇宙視点で「地球をもう少し大事にしなきゃ」と生き方に前向きになったり、そういった変化の積み重ねで日々が輝いたりすることを意味しています。日々が、人生がキラキラしてくれると嬉しいです。
地球上の人々は皆、それぞれの人生を日々クリエイトしているのですから、もともと立派なクリエイターです。
最近は、SDGsやマインドフルネス等の言葉を聞く機会が増えましたが、宇宙が自然に人々のメンタリズムに作用し、それが一種のムーブメントになればと願っています。

※本記事の内容は2022年1月時点のものです。
※プロジェクト名称は、2022年1月より「STAR SPHERE」に変更となりました。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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