※プロジェクト名称は、2022年1月より「STAR SPHERE」に変更となりました。
ソニー・東京大学・JAXAは、「宇宙感動体験事業」の創出に向けて三者で共創契約を締結し、ソニーのカメラ機器を搭載した人工衛星の開発を開始することを発表しました。現在、SSAPが運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」にて、宇宙視点による新しい価値創出と事業探索を行う『Sony Space Entertainment Project』の共創パートナーの募集を行っています。
本連載では、Sony Space Entertainment Projectのメンバーの方々お一人ずつに、それぞれのプロジェクト参画の経緯や業務内容、プロジェクトにかける想いなどをインタビューしていきます。
今回は、プロジェクトで使用する衛星のエンジン部分の研究・開発サポートを行う、東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授 小泉宏之さんと、エンジンの開発を行う、株式会社Pale Blueの代表取締役 浅川純さんにインタビューしました。
衛星の要となる、「水で働くエンジン」。
――小泉さん、浅川さんのSony Space Entertainment Projectでのご担当領域と役割、業務内容をお教えください。
小泉:私は東京大学の准教授として小型衛星のエンジン等を含む宇宙推進工学を専門にしています。プロジェクトでの私の役割は、2017年からの起ち上げ期は小型衛星とそれを使ったミッションの構築にあたって技術面でのサポートを行い、現在は形になってきた衛星の実験等のサポートや将来機の構想を行っています。実際のエンジンを作っているのは浅川さん率いるPale Blueのメンバーです。私はPale BlueのCTOの役割も担っています。
浅川:私は現在、株式会社Pale Blueの代表取締役として水を推進剤とした超小型統合推進システムの開発等を行っています。ちなみにPale Blueの社名の由来は、「宇宙から見た地球の色」。NASAが宇宙から撮った地球の色が淡い青(=ペールブルー)だと言われています。
Pale Blueの事業として「水で動くエンジン」の開発を行っており、現在私は衛星に使われるエンジンの開発を担当しています。
小泉:プロジェクトに参画している東大側のメンバーには、我々の他に中須賀・船瀬研究室の方々(先生および学生達)がいます。彼らの担当領域がまさに「衛星を作る」ことですので、Sony Space Entertainment Projectの衛星初号機の開発は彼らを中心としており,東大内でも各分野で連携しつつプロジェクトを進めているイメージです。
――Sony Space Entertainment Project参画の経緯はどのようなものだったのでしょうか?
小泉:このプロジェクトには、2017年にJAXAの村木さんに誘われて参画しました。
私は現在東京大学に所属していますが、2007年から2010年までJAXAに勤めていた時期があり、その時にJAXA内のボトムアップ活動で村木さんと知り合いました。Sony Space Entertainment Projectの草案の段階で衛星の「エンジン」が必要になりそうだったので、村木さんに声をかけていただきました。
浅川:私は小泉研究室の出身で、約2年前の2019年3月に博士号を取得しました。このプロジェクトには、小泉先生に誘われて参画しました。
宇宙に興味を持った少年時代。東大で、研究とビジネスへの挑戦。
――お二人は宇宙の研究の道に進まれているわけですが、子どもの頃から宇宙に興味がありましたか?
小泉:そうですね、子供の頃から宇宙に興味を持っていました。家の本棚に子供用図鑑が沢山並べられてあって、その6巻が宇宙をテーマにした図鑑だったことを覚えています。その図鑑との出会いをきっかけに星座や宇宙が好きになり、「いつか宇宙に行く」と心に決めました。
最初は宇宙飛行士になりたいと思いましたが、子どもながらに色々と調べると、宇宙飛行士は宇宙に行くための準備も含めて沢山仕事をする必要があり自分の要求とはマッチしないなと気付き、別の方法を考え始めました(笑)。今考えれば億万長者を目指して観光感覚で宇宙に行く方法もありましたが、宇宙の研究やロケット等の開発の道に進むことに決めました。
また、実はNASAの無人宇宙探査機であるボイジャーが私の生まれ年である1977年に打ち上げられており、そういった意味でも宇宙には非常に親近感があります。
浅川:私が初めて宇宙を意識したのは中学生の頃です。当時テレビで放映されていたUFOの番組に無性に惹かれ、宇宙について調べるようになり「宇宙工学研究者になりたい」と考え始めました。それから航空宇宙の学科がある東京大学に進学し、小泉先生の研究室に入り「人工衛星」の研究を始めました。
――これまではどのようなキャリアを歩まれてきたのですか?
小泉:私は大学院から、航空宇宙工学を専門に研究を開始しました。実は当時一番興味を持っていたのは「打上ロケットのエンジン」でしたが、それは既に出来上がっているものでした。私は何かを創り上げる経験をしたかったので、当時伸びしろがあると言われていた「衛星」、特に「プラズマを使ったエンジン」や「小型衛星用のエンジン」を軸にキャリアを積むことにしました。
修士修了後は東大の工学系研究科航空宇宙工学専攻助手として、研究と学生指導を進めながら博士を取得。2007年から2010年までJAXAで宇宙科学研究所助教として、「はやぶさ1」のイオンエンジン運用等に携わりました。2011年から東大の准教授になって、自分の研究室を持ちました。
浅川:私は研究室で最初の3年間、「火薬を燃やして動く衛星エンジン」の研究をしていました。博士課程の1年目からは「水で動く衛星エンジン」の研究を開始し、その後特任助教をさせてもらい、2020年4月に株式会社Pale Blueを創業しました。研究者が会社を創業するというのは比較的珍しいパターンかもしれませんが、日本で宇宙ベンチャーが盛り上がり始めている状況も鑑み、このタイミングで事業を始めました。
――浅川さんは、SSAPが2017年に開催したスタートアップを対象としたビジネスコンテスト「Sony - Startup Switch 2017」で優勝されていましたよね?
浅川:はい、東大内でも学内ベンチャーのビジコンが開催されており、Pale Blueの構想のもととなるアイデアで応募していました。そこで出会った審査員の方に「Sony - Startup Switch 2017」を紹介され、ソニー本社で「小型衛星用水エンジンの製造販売」についてプレゼンしたのを覚えています。
小泉:浅川さんはフットワーク軽く、色々な場に参加して仲間を増やしていきながら、一貫して水エンジンをテーマにして活動していますよね。
水でエンジンを動かすと様々なメリットがあります。他の方法に比べて力強い動きも出来ますし、軌道も変えやすい上に、将来的には月や火星での現地調達の可能性もあります。
宇宙を“産業”にしたい。まずは三者の協業の成功で盛り上がりを。
――ソニーのメンバーと仕事をすることでの気づきやギャップ等があればお教えください。
浅川:私は東大流のやり方しか知らなかったので、JAXAの衛星開発の進め方、ソニーのメーカーとして製品を作るプロセスは非常に新鮮で、モノづくりの考え方の違いを感じました。
また私がこれまで参画してきたプロジェクトは技術起点で学生を中心に行われるものなので行き当たりばったりになることが多かったですが、マイルストーンを切り要件を定義し、としっかりとしたプロセスをもつソニー流のビジネスの進め方に学ぶことも多いです。
小泉:私も浅川さんと同感です。大学はフットワークが軽く物事をリーンに進めてはいけるものの、個々の研究者の能力に依存している傾向があると思います。小型衛星を作っているチームも日々試行錯誤を重ねて研究しています。一方でソニーとJAXAの進め方は似ていて、チーム内でノウハウを共有しながら組織として動いているように感じます。
浅川:そうですよね、このプロジェクトではJAXAや東大は技術を起点に物事を考えており、ソニーは事業・ビジネスの観点から常にプロジェクトを客観的に見ている傾向があると思います。そういったバランス感覚も今回のプロジェクトのキーになっていると思います。
――Sony Space Entertainment Projectにかける想いをお教えください。
浅川:私は大きなビジョンとして、「宇宙を“産業”にしたい」「科学技術によって人類の幸福を最大化したい」と考えています。そのための第一歩として、ニッチなところから始めるべく、現在Pale Blueでは水エンジンを開発しています。今、宇宙ビジネスは盛り上がってきているもののまだ“産業”としてはまわっていません。まずはこのプロジェクトを成功させ、産業をまわすための一つのエコシステムを構築したいです。
東大が、JAXAとソニーと組んでこのプロジェクトを行うことは、宇宙が“産業”となる重要なきっかけになるはずです。ソニーが既存の宇宙企業ではないからこそ、三者で協業することで新たな風を吹かせられると思います。
小泉:私は宇宙探査をしたくて、宇宙の道に進みました。個人的にはいつか、木星、土星、最終的には海王星に行きたいです。人がまだ見たことのない惑星は面白いはずで、そういった環境を国家プロジェクトだけでなくアマチュアの人たちも気軽に探査できる世界になればいいと考えています。浅川さんも言っている通り、この世界は宇宙産業が盛り上がっていないと実現できません。まずは、このプロジェクトを成功させ宇宙産業を底上げしていきたいです。
そのために必要となっているのが、いま我々がプロジェクトで担っている小型衛星の開発。小型衛星により新しい形の宇宙利用を築ければ、ぐっと産業が広がるはずです。
エンタテインメントの分野で小型衛星を使おうとすると技術ハードルが高く、現在は様々な課題にぶつかりながらもプロジェクトを進めている最中ですが、この活動が宇宙というフィールドを大きくするきっかけになると信じています。