2021.11.22
宇宙を解放!「STAR SPHERE」プロジェクトの裏側

#12 ソニー 設計・開発リーダー 全 真生「宇宙をみんなが身近に体験できる場にしたい」

※プロジェクト名称は、2022年1月より「STAR SPHERE」に変更となりました。

ソニー・東京大学・JAXAは、「宇宙感動体験事業」の創出に向けて三者で共創契約を締結し、ソニーのカメラ機器を搭載した人工衛星の開発を開始することを発表しました。現在、SSAPが運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」にて、宇宙視点による新しい価値創出と事業探索を行う『Sony Space Entertainment Project』の共創パートナーの募集を行っています。
本連載では、Sony Space Entertainment Projectのメンバーの方々お一人ずつに、それぞれのプロジェクト参画の経緯や業務内容、プロジェクトにかける想いなどをインタビューしていきます。

今回は、ソニーで設計・開発リーダーを務める全 真生(ぜん・まさお)にインタビューしました。

東大・JAXAとミーティングを重ねながら、システムを設計・開発中。 

――全さんのSony Space Entertainment Projectでのご担当領域と役割は?

設計・開発プロジェクトリーダーを務めつつ衛星システムの設計・開発の取りまとめも併せて行っています。設計・開発チームは「地上システム」と「衛星システム」の大きく2つの分野があり、前者を梅田さんが、後者を私が取りまとめております。人工衛星はミッション部とバス部によって構成され、ミッション部をソニー、バス部を船瀬先生や松下さんを中心とした東京大学のメンバーが開発しています。

※バス部は、電力、通信、姿勢制御などの人工衛星としての基本機能に必要な機器と衛星の主構造の総称。ミッション部は、その衛星が通信、地球観測、科学データの収集など衛星のミッションを遂行するにあたって必要な機器のこと。衛星に搭載するレンズやカメラの部分。
機材に囲まれた大学の研究室でノートパソコンをのぞき込んでいる写真
東京大学で行った作業風景

――設計・開発リーダーをされているとのこと、具体的に日々何をしているのですか。

衛星の全体的な仕様を協議しながら、2022年の衛星打ち上げに向けて開発を進めています。
全体スケジュールを管理しながら、プロジェクト要求に合わせて詳細な仕様への落とし込みを行い、ソニーが設計しているミッション部(衛星に搭載するレンズやカメラの部分)と東大が設計しているバス部のインターフェイスの仕様協議や検討をチームメンバーと行っています。
例えば、ユーザーがいかに低遅延でカメラ操作や衛星操作を体験できるようなシステム構築をするか、いかにブレの少ない写真を撮影できるかなどを東京大学と連携しながら検討しています。超小型衛星の限られたスペースの中で、どのようにミッション部とバス部の機能を充実させるかを日々協議しながら開発中です。

「やったことがないことをやる」をポリシーに、辿り着いたプロジェクト。 

――プロジェクト参画のきっかけは?

プロジェクトの衛星システムのメンバーであり、以前同じ部署に所属していた久保さんに声を掛けてもらい、2020年6月から参画しました。現在はソニー株式会社でテレビの開発を行いつつ、このプロジェクトに入っています。

イベント会場に展示されているソニーのロゴの前に立つ全さんの写真
2019年のCES(ネバダ州ラスベガスで開催される電子機器の見本市)にて

――参画の決め手は何でしたか。

私は自分が「やったことがないことをやる」ことをポリシーにキャリアを積んできました。この宇宙を舞台にしたプロジェクトはもちろん私がやったことが無い領域ですし、ソニーとしても事業としては初めて取り組む領域。宇宙にも興味はありましたし、あまり迷わずに参画することに決めました。

――現在はSony Space Entertainment Projectで設計・開発のリーダーを務めつつテレビの開発も担当されているとのこと、これまではどのようなキャリアを歩まれてきたのですか。

システムアーキテクトとして製品の全体的な仕様検討等をメインで行ってきました。
ソニー入社後すぐはテレビ事業部にてLSI(大規模集積回路)開発を担当しました。テレビ向けの信号処理や部分駆動等を担当した後、ソニー初となる4KテレビのLSI設計の開発リーダーをしました。
その後はソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(SSS)にて、スマートフォン向けのイメージセンサーのロジック開発を担当。スマホ内蔵カメラでスーパースローモーション撮影を実現しました。
現在は再びテレビ事業部にてOLEDシステム等の主要部分の開発を担当しており、下記に示すようなOLEDのパネルと画質処理LSIを組み合わせて発光性能を最大限まで高め、従来のOLEDパネルより明るく、高コントラストな映像表現ができるような機能を実現しています。

温度センサーによって映像内の温度分布を検知するシステムと、放熱用アルミシートを組み合わせることで、映像を全色同時点灯を実現できる説明図
(ソニー公式HPより引用:https://www.sony.jp/bravia/products/XRJ-A90J/feature_1.html

システムアーキテクトとしての考え方を活かして、持続できる設計・開発を。 

――これまでの経験が、衛星の設計・開発に役立ったと感じる時はありますか。

システムアーキテクトとして培ってきた「物事を整理し考える思考方法」が役立ちました。製品は色々なパーツの組み合わせで成り立っており、どんな製品にも仕様上の制約があります。その中で実現したいことを最大限形にして、最適化を図りつつ物事をクリアに組み立てていく必要があります。これは宇宙を舞台にした衛星という製品でも、ソニーの製品でも共通して重要なポイントです。

――逆にこれまで担当した製品と衛星の設計・開発とのギャップは?

地上環境とは異なる「宇宙環境」で製品を使うため、地球上ではあまり考慮しなくてよい制約を考慮する必要があります。例えば宇宙空間では宇宙線が飛んでいるため半導体に悪影響があり、不要電荷の発生や欠陥が生じます。 こういった影響を調査するため衛星の放射線試験を実施する必要があり、放射線従事者になるための研修を受けたりもしました。初めての経験で分からないところは、その分野のプロである東京大学やJAXAの人々にアドバイスを貰いつつ学びながらの毎日です。
またこのプロジェクトはソニーとしても新たな試みであり、まだまだメンバーも少ないです。そのため自分自身でも手を動かしつつ、リーダーとして全体を見ながらプロジェクトを推進していくことが求められています。視点を全体最適化したり、逆に現場にフォーカスしたり等を自分の中でもコントロールしつつ、大変さもありながら面白みも感じています。

――最後に、Sony Space Entertainment Projectに期待することをお教えください。

衛星開発はソニーとして初めての試みです。ソニーの強みを生かしながらプロジェクトを構築していくことが求められています。開発だけをやるのではなく、長期的な目線で持続できる事業にするためには、事業開発も非常に重要な要素になります。まずは自分の得意領域である設計領域で衛星の設計手法を確立していきながら、事業チームと協力しつつソニーの新たな事業分野になれるようにプロジェクトを邁進していきたいです。その中で宇宙をもっと身近に体験できる場所にできたらいいなと思います。

様々な機械が置かれた実験室で、白い防護服とマスクを身に着けて実験をしている写真
東京大学で行った作業風景

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