Sony Startup Acceleration Program(SSAP)から生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMP が共同で設立したエアロセンス株式会社 は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。
ドローンに関する規制の見直しが進む昨今。各地でドローンを用いた実証実験が進み、近い未来さまざまな場面でドローンが活用されていくとみられています。
そこで今回はエアロセンスのドローン活用事例として、今実証実験が進んでいる過疎地域への荷物配送についてご紹介します。
2021年、エアロセンスは環境省と国土交通省の連携事業である「過疎地域などにおける無人航空機を活用した物流実用化事業」に採択され、過疎地域でのドローンの物流実証実験を複数案件行うこととなりました。
今回はそのうちの1つ、兵庫県猪名川町での実証実験について、実証実験を主催する日本コンピューターネット株式会社(以下、NCN)ドローン事業部 テクニカルアドバイザーの竹内 良介さんとエアロセンス株式会社 代表取締役社長の佐部 浩太郎さんにお話を伺いました。
物流分野でのドローン活用 高まるニーズは過疎地域への配送
――2021年10月1日に行われた、物流分野の実証実験ついて教えてください。
竹内:兵庫県ではドローンを活用した過疎地域における積載率の低い非効率な輸送・配送や買い物弱者などの課題解決、住民サービス向上の可能性に着目して、ドローン活用の検討を進めています。今回は兵庫県の「多自然地域一日生活圏維持プロジェクト」の一環として、兵庫県が弊社やエアロセンスといった民間の会社、そして地元地域や、防災などを研究している大阪市立大学 都市防災教育研究センター(CERD)(※)と共に過疎化地域がある猪名川町にて、ドローンで医薬品を運ぶ実証実験を行いました。
――猪名川町での実証実験は以前も行ったとお伺いしたのですが、以前の実証実験との違いや工夫した点はどんなものがありますか?
竹内:はい、実は2021年3月に1回目の実証実験を行っており、今回は2回目でした。前回との違いは3点あります。
1点目は距離です。前回はドローンで荷物を運ぶ距離が2km台だったのですが、今回は距離を大幅に増やし飛行経路距離で約13km飛行しました。
2点目はシーンの設定です。今回は、地震でけが人が町の診療所へ搬送された際に、基幹道路がマヒ状態のためドローンで緊急輸血用血液を配送するという設定でした。そのため実際の状況に近づけるように、この町の看護師がドローンに搭載したダミーの血液の受け渡しを行いました。
3点目は地域の巻き込みです。今回は小学校に対してドローンが飛ぶ時間を事前に共有しました。この案件は小学生が将来の町づくりを考える機会を提供するといった側面もあるため、休み時間にドローンが小学校近くを飛行する様子を見てもらえるよう工夫しました。そのため前回に比べて地域住民をより巻き込んだ実証実験となりました。
――今回、NCNとエアロセンスがプロジェクトを一緒に行うことになった背景について教えてください。
佐部:元々、NCNさんがエアロセンスの製品にご興味を持ってくださったことをきっかけにやり取りをしており、その中でNCNさんから猪名川町の物流実証実験にお誘い頂きました。
お誘い頂いた際に弊社からこの案件を環境省と国交省の連携事業に応募することをNCNさんに提案しました。連携事業では、「Co2を削減するため、災害時も含めた新たな物流手段としてドローンの導入などを支援する」という側面があります。医薬品の輸送は従来、車で運ぶ必要があったため必然的に化石燃料を使用していましたが、ドローンの活用により化石燃料が不要となります。まさにこの連携事業にあてはまるということで公募に応募したところ、無事採択されたので、弊社もこの案件に参画することとなりました。
「新しい未来の仕組みをつくりたい」 産学官民の共通意識で挑む実証実験
――先程のお話にもあったように今回は場所を借りるだけではなく、地域を巻き込んだ実証実験だったのですね。
竹内:3月に1回目の実証実験を行ったことで、今回は地域の方にもご協力を頂けました。当初は、安全第一ということで念には念を入れて、市街地である町役場からドローンを飛ばすことは考えていなかったのですが、役場の方が「ぜひ役場を使ってほしい」ということで周囲の通過許可も含めて場所を調整してくださりました。また着陸地点の民間の診療所に関しても、ご厚意で場所をお貸し頂きました。町の方の多大なお力添えで今回のような実証実験ができました。
――なぜ猪名川町は地域の方々も協力的なのでしょうか?
竹内:猪名川町は、宝塚市や大阪府の北側に位置しています。場所としては好立地なため町の南側はベッドタウンとして成立しているのですが、たった10km違う北部は山間部が広がるなど同じ町の中でも開発されていない部分が多くあり、生活格差が広がっているという現状があります。また交通手段を持たない高齢者の方が増えていたり人口減少が進んでいたり、町としても今後過疎地域化の懸念があるといった課題意識が強くあります。そのため新しい取り組みで課題を解決していきたいという雰囲気があるのだと思います。
――今回は地域住民だけではなく、県や大学なども絡んだ「産学官民連携」という形ですが、連携で難しさはありますか?
竹内:ありがたいことに「新しい未来の仕組みを作りたい」「自分たちの実験で少しでも未来を変えたい」というような気持ちが私たちや猪名川町だけではなく、兵庫県や大阪市立大学の担当者にもあるため意思疎通が早くできるようなベースが作れています。
逆にこの共通の価値観がなかったら、産学官民連携はかなりやりづらかったのだろうなとも思っています。兵庫県知事も本実証実験について記者会見でお話をしてくださり、兵庫県の意気込みを感じました。
――今回の実証実験でエアロセンス側が注力したポイントはどこでしたか?
佐部: 1点目は医薬品を運ぶ距離が13kmと長いため垂直離着陸型 固定翼高速ドローン(VTOL)「エアロボウイング(Aerobo Wing)」を使ったこと。2点目は長距離飛行に伴いWi-Fiが届かなくなるためLTE通信モジュール(小型の通信端末で携帯電話基地局と通信する)を搭載して実験を行ったことです。
そして3点目は入念な準備です。今回は電波も視界も届かない山間部での飛行でした。こうした環境はドローン飛行の難易度が多少高くなるため、十分準備して臨みました。
――今後の展望を教えてください。
竹内:猪名川町は、最終的には限界集落と呼ばれる地域が出てきてもおかしくないということを危惧しています。そしてドローンを日常に溶け込ませることで限界集落にならない未来を望まれています。そのような未来の実現のためには、海外の会社よりも日本国内の環境や課題などをよく知り、そうした状況にあったものを作って頂ける日本国内の事業者が今後も生き続けると思っております。そういった点を踏まえ、佐部社長を始め技術者の集団でコツコツ前向きに取り組んで頂いているエアロセンスと共にこれからも実証実験を重ねていきたいと思います。
佐部:今後も地域のニーズに根差した形で実証実験を継続し、それが定着していくことを目指し、2年目、3年目も続けていきたいと思っています。また、2021年に株式会社NTTドコモがLTE通信の上空利用サービスを開始したので、その意味でも今後はより長距離物流がしやすくなることも期待しています。運用に関しては今回、私たちがオペレーションを行いましたが、今後は地元の方がオペレーションできるようにサポートし、製品へのフィードバックなどを通じて、誰でもエアロボウイングを安全で簡単に使える実際の運用に近づけていきたいです。
――今回の案件を通じ、どのような未来を目指しているのでしょうか?
竹内:ドローンの物流分野での実証実験は数限りなくされており、ニーズに沿った活用ではない形での事業化がされている場合もあります。しかしその地域にきちんと寄り添いニーズが合致した形での事業を作ることが自分達の責任だと思っています。そのためにはいろんな課題を解決する技術的部分よりも、どれだけ町の方と一体となり、進められるかがさらに大事になると思っています。弊社としては、どちらかというと技術の範疇ではないところで強みを発揮し、本当に必要な人にドローン配送ができたらいいなと思っています。
佐部:弊社としては、ドローンをただ提供するのではなく、社会課題を解決するドローンソリューションを提供したいと思っています。物流分野においても、実際に課題を持っている方々に対し、本当に解決になるのか、実際に運用しやすいのかを常に問いながら事業化へ近づけていくことが重要だと考えています。そして、ドローンによる荷物の配送が、アクセスの悪い地域の医療の安心や日常生活のサポートに繋がったらと思っています。
※本記事の内容は2022年6月時点のものです。