2021.05.10
空飛ぶロボットの挑戦

#03 ドローン本体の「ハードウェア」エンジニア

Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。

今回は、エアロセンス株式会社 受託開発事業部 事業部長 兼 技術開発部 統括部長 鈴木 康輔さん、技術開発部 矢幡 潤さんに、ご自身のキャリアやエアロセンス参画の経緯、今後の展望等をインタビューしました。

ドローン本体を作る「ハード」のエンジニアチーム。 

――お二人の現在のエアロセンスでの役割をお教えください。

鈴木:エアロセンスの設計チームは2つに分かれており、1つがドローン本体を作る「ハード」のチームと、もう1つが、クラウドを作る「ソフト」のチームです(※)。私と矢幡さんはドローンの本体に関わる「ハード」のチームに属しており、私はその中で技術開発の統括をしています。
またそれに加え、現在は受託開発事業部の事業部長もしています。受託開発事業部では名前の通り「お客様からいただいたオーダーに沿った製品を作る」業務を担っています。

※エアロセンス内でエンジニアチームを2つに分け、ドローン本体を担当する「ハード」チームと、クラウドを担当する「ソフト」と呼んでおり、ハードチームの中にもドローン本体のソフトウェア担当者もいる。

鈴木康輔さんがオフィスで話をしている写真
鈴木 康輔さん エアロセンス株式会社 受託開発事業部 事業部長 兼 技術開発部 統括部長

矢幡:私はハードのチーム内で、メカ設計の担当をしています。エアロボマーカー(GPS受信機を内蔵した対空標識。標定点・検証点におくだけで、自動・高精度で計測が可能)をはじめ、マルチコプターや有線給電ドローン、VTOL(Vertical Take-Off and Landing Aircraft:自律飛行・垂直離着陸型 固定翼高速ドローン)等、エアロセンスのほぼ全ての製品のメカ設計を行っています。

――お二人のご経歴とエアロセンスに関わった経緯をお教えください。

鈴木:私はこれまでのキャリアで主にソフトウェア設計に携わってきました。ソニーに入社し、新しいカメラの立ち上げに参画した後、ソニーのAV機器の高級ブランドとして当時話題になった「QUALIA 」で、製品開発や企画・ソフトウェア設計まで、多岐の領域に携わりました。今振り返ると、QUALIAを担当していた数年間は商品開発のプロセスを学べた貴重な経験だったと思っています。その後も新規の開発に携わる機会が多く、例えば業務用のカムコーダーの立ち上げ等にも参画しました。
転機となったのが、社内募集の制度を利用して新規事業開発の部署に異動したときのこと。そこで現在エアロセンスの社長をしている佐部さんと、初めて出会いました。当時は佐部さんを中心に役に立つロボットとして「ドローンの新規事業をやろう」という話が進み始めていた頃。佐部さんは事業を進めるにあたってメンバーを探している最中で、ドローンにつけるための「カメラ」の開発ができる人が必要なのだという話を聞きました。私はちょうどいくつかのカメラの設計等を担当してきていたので、「カメラのことなら任せてください」と立候補したのです。そこから話は進み、今に至ります。

矢幡:私の専門はメカ設計です。新卒では富士ゼロックス株式会社に入社し、複合機の要素技術開発に携わりました。実は1年間、複合機の営業を担当したこともあり、開発の面から携わっていた製品を「営業」という全く別の観点からお客様に届ける仕事は、新たな発見の連続でした。
その後は、ハードディスクドライブの設計・開発・製造を行う株式会社HGSTジャパン(現ウェスタンデジタル合同会社)に入社。そこでもメカの機構設計や、ハードディスクの設計を中心にキャリアを積みました。
これまでずっとやってきた動きモノのメカ設計を引き続きやりたい、その中で新しいドローンという分野にチャレンジしてみようという想いで、エアロセンスには中途入社という形で2016年8月に参画しました。当時はスタートしたばかりの事業だったのでメンバーの人数も少なく、自分の目で製品全体を見られる可能性が高く、自分自身のメカ設計としてのスキルがあがると思ったのが、エアロセンスへの参画に興味を持った理由です。

矢幡潤さんがオフィスで話をしている写真
矢幡 潤さん エアロセンス株式会社 技術開発部

「壁」を乗り越えるカギは、柔軟さとスピード感。

――エアロセンスでは多くの製品を発表されていますが、これまでぶつかった壁はありましたか。

鈴木:2018年にお客様からオーダーいただいて作った製品では、納品までの過程での飛行テスト等で、非常に苦労した記憶があります。エアロセンスではお客様から受託する形でドローンの開発を行うことも多いのですが、その時はいつにも増してお客様からの要望に応じた開発項目の数が多くなりました。ドローンは開発した後に実際に現場で飛行テストをする必要があるので、設計メンバーで夜遅くまで解析を続けた後、テスト現場の山奥に滞在してテストをしました。しかし、現地でテストをするとドローンに不具合が発生したのです。ホテルに戻った後も寝る暇を惜しむ勢いで原因究明と改善を繰り返す日々。ちょうど台風が来た時期にも重なってしまいましたが、カッパを着て豪雨の中でテストを続けました。最終的にはすべて改良して、無事飛行テストも終えることができたので今だから笑って話せますが、当時は大変でしたね(笑)。

矢幡:私の記憶に新しいのは、1年前の2019年冬の頃の、固定翼産業用ドローン「エアロボウィング(Aerobo Wing)」を作る時のこと。2018年の末にエアロボウィングを作ることが決定したのですが、その時点で既に納品が2019年2月と決まっていました。原理試作等から進める必要があり、通常は早くても半年かかるフローを約2か月で終える必要がある。最初は絶望的でしたが、「どうやって2月納品を実現するか」という思考回路に切り替え、いろんなツテで協力を仰いだりアドバイスをいただいたり、設計のフローを柔軟に入れ替えたり等の手を尽くしました。無事2月に納品ができましたが、当時は冷や汗かきながら日々試行錯誤していましたね。

空を飛んでいるエアロボウィングの写真
メディア向け飛行お披露目会でのエアロボウィング(Aerobo Wing)

――お二人ともそれぞれ問題に直面されたことがあったようですが、なぜ乗り越えられたのでしょうか。

矢幡:エアロセンスに参画してから他にもこれまで色んなことがありましたが、常に諦めず柔軟に、新たな知識やノウハウを取り入れることを意識しているからでしょうか。
エアロセンスのようなスタートしたばかりの組織では設計メンバーは少ないので、エアロボマーカーにしてもマルチコプターにしても、メカのほぼ全部を自力で設計する必要がでてきます。例えば私の場合は、これまで防水設計や空力設計の経験はなく、身近に知見者もいない状態でした。しかしじっとしているだけでは解決しないので、ソニーの「知の共有プロジェクト」に参加して防水の分野のイベントに行ってみたり、SSAPが主催するエンジニアが集まるイベントに行って知見を得たりしました。そこで出会った方々に設計アドバイスや解析支援などのご協力を頂いた事も大きかったです。
その他にも、既存の電子機器やその周辺機器などを量販店で観察したり、家にある機器を分解して構造を見てみたりという所から設計のヒントを得るのは、自分の目で把握し学ぶことができるので効率がよい方法だと思います。

鈴木:私の場合は、エアロセンスの立ち上げ前から、PoCやアジャイル型の開発を実践してきたことが大きいと思います。
エアロセンスがスタートした際の初号機の立ち上げもわずか3か月で行う必要がありました。それからも様々なお客様と会い、現場に行き、実験をして、コミュニケーションを取りながら、いただいたフィードバックを反映して、製品を改善していく。テストをしてみて上手く飛ばなかったりすることがあれば、素早く原因究明を行い改良する。そういったスピーディーに臨機応変に対応していく姿勢は、常に意識しています。

「お客様が必要としているか?」の世界最高を目指したい。 

――2020年8月には、固定翼産業用ドローン「エアロボウィング(Aerobo Wing)」を発表。そんな新製品に対する想いは?

鈴木:Wingは多くの実験、試行錯誤を繰り返して、ここまで辿り着きました。一番重要視しているのは「現場で使えるもの」。設計メンバー全員がヘルメットをかぶりつなぎを着て現場に足繁く通って得たお客様のフィードバックを反映しているので、ニーズに沿った「現場のためのもの」になっている自信があります。
私自身、これまでエンジニアとしてキャリアを積んできましたが、ここまで現場に足を運ぶのは初めての経験です。普通の職場では設計メンバーが現場にいくことはあまりないですが、自分で現場にいき、自分で営業し、リアルな声を聴き、それを反映していくというプロセスがエアロセンスらしさだと思っています。

矢幡:エアロセンスでは、限られた人数と予算でこれだけのものを作った、ということを誇りに思っています。ただこれは、自分の力だけでは達成できなかったことであり、社内外の様々な方からアドバイスや手助けをいただいたからこその「今」です。
エアロセンスから今出ている製品は、これまでエアロセンスを好きになってくれて、応援してくれた方々たちの温かい想いもつまった製品なのではないかと思っています。
鈴木:実際にエアロボウィングを使ったお客様から言っていただけるのは「安定しているよね」というコメントです。風が吹いてもリカバリできる安全機構も実現されており、表面上の機能には出てこない部分ではありますが、アピールしたいポイントです。

矢幡:エアロボウィングは第5回ジャパンドローン展で「Best of Japan Drone Award 2020 製品・技術部門 最優秀賞」を受賞しました。授賞式で佐部さんが「懇意にして頂いている大学の先生から『よく飛ぶ性能の良い飛行機は往々にして見た目もかっこいい』と言われるが、エアロボウィングは少なくともかっこいいという部分は満たしている」とコメントされました。かっこいいという部分は満たしているので、性能も素晴らしいとお客様に言って頂けるようにお客様の声を反映した改善活動にも取り組んでいきたいです。

社員と協力者が表彰状を囲んで並んでいる写真
「Best of Japan Drone Award 2020」表彰状を前に記念撮影する社員と協力者

――お二人それぞれの、エアロセンスの今後にかける想いをお教えください。

矢幡:つい設計に携わるものとしては、細かい機能等の「世界最高」を狙いがちです。しかし本当に大切なのは、「それをお客様が必要としているか?」。機能はもちろんのことですが、お客様のニーズにこたえるという点でも世界最高を目指したいですね。
また個人的に思うのは、BtoBの製品は私自身の複合機の設計・営業時代の経験を踏まえても、お客様からの「メンテナンスしてほしい」という要望が多いです。エアロセンスが事業として、そういったメンテナンス性等も考慮してビジネスを展開できるようになればいいと考えています。

鈴木:エアロセンスは、お客様の「あれがあったらいいな」に対応していける組織です。そういった強みを生かしながら、競合と明確に差別化できる領域で利益が出る体制をとっていく必要があります。
また最近のエアロセンスは、製品や機能のアップデートも多くなりました。このように、やりたいことがある人は、手をあげれば何でもできる環境にあります。
エアロセンスではエンジニアを募集しています(https://aerosense.co.jp/careers)。指示をただ待つのではなく、誰もやったことがないことに自らの意思で挑戦したいと思える人、チームでやっていける人、興味のある方がいらっしゃれば、応募をお待ちしています!

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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