2022.05.09
空飛ぶロボットの挑戦

#12 重機のオペレーターの「目」となる?"無人化施工"におけるドローンの活用

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)から生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMP が共同で設立したエアロセンス株式会社 は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。

今回は、離れた場所からショベルカーやブルドーザーを操作して工事を行う、"無人化施工"現場でのドローンの活用事例です。
2021年10月、長野県にある浅間山の麓にて行われた工事において、有線ドローン「エアロボオンエア(Aerobo on Air)」が使用されました。どのようにエアロボオンエアが使用されたのか、また年々増えているという無人化施工に関して、今回の工事の委託を受けた株式会社アクティオ 道路機械事業部 日南 茂雄さんとエアロセンス株式会社(以下、エアロセンス) 受託開発事業部 兼 技術開発部 岩田 啓介さんにインタビューしました。

エアロボオンエアで撮影した映像を確認しながら重機を遠隔操作する様子
左:株式会社アクティオ 道路機械事業部 ICTサポート課 課長 日南 茂雄さん
右:エアロセンス株式会社 受託開発事業部 プロジェクトマネージャー 兼 技術開発部 シニアソフトウェアエンジニア 岩田 啓介さん

重機を遠隔で操作する"無人化施工" 建設業界のDX(※1)推進

――今回、どのような案件でエアロセンスのドローンを使用しましたか?

日南:今回、浅間山麓の砂防堰堤(※2)の工事において、「無人化施工」を行いました。その際にエアロセンスの有線ドローン「エアロボオンエア(Aerobo on Air)」を使用しました。今回実施した無人化施工は、ショベルカーなどの重機とその周辺にカメラを設置し、カメラで撮影した映像を離れた場所まで伝送、その映像を見ながら重機を遠隔で操作する方法です。実際に重機に乗らずに操作するため"無人化"施工というのです。今回は空撮映像も撮影し、そのカメラとしてエアロセンスのドローンを使用しました。

※1 DX:Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略。デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること。
※2 砂防堰堤:水ではなく土や砂、石等をためて、土砂災害から沿川の被害を軽減させるためのダムの一種。砂防ダムとも言う。

――なぜ無人化施工で工事を実施したのでしょうか?

日南:今回の工事は国土交通省(国交省)が発注した案件で、実施の要件の1つに無人化施工がありました。浅間山は噴火を繰り返している火山で、噴火の際には土石流の危険があります。工事では、土砂災害を防止するための砂防堰堤というインフラを作ることに加え、「災害が起きた際に離れた場所から少ない人数で安全にインフラ回復の工事ができるか」を試す狙いもありました。そのため無人化施工が工事の要件に入っていたのです。
今回の工事だけではなく国交省が発注する公共工事では、ドローンや3次元データの活用などといった、ICT(情報通信技術)を活用した工事が増えています。

――なぜ国交省の公共工事では、ICTを活用した工事が増えているのでしょうか?

日南:DX推進の施策の1つとしてICTを活用した工事が増えています。国交省は2016年度から「i-Construction(アイ・コンストラクション)」という取り組みをスタートさせました。i-Constructionとは建設現場における測量から設計、施工等の様々なプロセスでICTを導入することによって建設業界の生産性向上を目指す取り組みです。また建設業界でもDXを推進することで、3K(きつい、危険、汚い)ともいわれるハードな労働環境のイメージを払しょくし、多様な人材を呼び込むことも狙っているということです。

遠隔地から重機のオペレーターの「目」となる 課題だった距離感の把握をエアロボオンエアで解決 

――今回行った無人化施工の特徴について教えてください。

日南:最大のポイントは、「遠隔地からの操作」です。
無人化施工の方法としては、ラジコンのように目視で重機の動きを確認し、操作する方法と、今回のように遠隔地から映像を確認して重機を操作するという2つの方法があります。どちらの方法においても重要となるのが、距離感の把握です。重機同士の距離や重機のアームと掘削する場所の距離、狭い場所での重機と対象物との距離など、事故を起こさずきちんと工事を進められるように細かく距離を把握する必要があります。目視と映像での確認を比べた際に距離感の把握が圧倒的に難しいのが後者です。映像だけでは瞬時にさまざまな角度から重機を見ることができないため、今回はエアロセンスのドローンを使用し俯瞰映像を見ることで距離感を細かく把握しました。

――今回は俯瞰映像を撮影するためのカメラとしてエアロボオンエアを使用したとのことですが、使用してみていかがでしたか?

日南:今回使用したエアロボオンエアは、搭載しているカメラ1台で、工事現場全体を俯瞰的に見ることも、見たい時に見たい場所を瞬時にズームをすることも自由にできました。そのため固定カメラの数や、俯瞰用の固定カメラを取り付けるためだけに使っていた重機の数も減らすことができました。
さらに連続飛行が可能かつ長時間に渡って高画質のまま遅延なく映像伝送ができたため、工事を進めるのに大変役立ちました。また、ドローンを柔軟に動かせることも確認できたため、災害時でもエアロボオンエアは活用できそうだと思いました。

実際にエアロボオンエアで撮影された工事現場の俯瞰映像

岩田:2020年11月にもこの場所で無人化施工の工事を実施し、その際はエアロセンスの社員がドローンのオペレーションを行いました。しかし今回は現場で作業をする方々にあらかじめ座学と実践の研修を行い、現場の方がエアロボオンエアと搭載したカメラを操作しました。
また、今回はエアロボリールも導入しました。従来の有線ドローンシステムにおけるオペレーションでは、光電複合ケーブルが絡むのを防止するためにケーブルを常時さばいて管理する人員が必要でした。しかしエアロボリールは、ドローンとケーブルの状態に合わせ、自動でケーブルの巻き取りと送り出しが行えます。そのため必要な人員を削減でき、1人でケーブルも含めたエアロボオンエアの操作が可能になりました。結果として普段ドローンを操作していない、現場で工事をする方だけで、長期間安全に運用することができました。
さらに今回の工事では切り出した土を幅の狭い橋を渡って運ぶといった、実際の災害時の複雑な運搬経路を想定した作業が行われました。安全に遠隔操作ができたので、「エアロボオンエアの空撮がないと怖くて重機が動かせない」というありがたい評価もいただき、まさに、重機のオペレーターの「目」になれたと嬉しく思いました。

全自動巻取機「エアロボリール」を使用した有線ドローンシステム「エアロボオンエア」飛行の様子
全自動巻取機「エアロボリール」を使用した有線ドローンシステム「エアロボオンエア」飛行の様子

――今回の無人化施工での使用を踏まえて、今後エアロボオンエアをどのように活用していきたいですか?

日南:初めてエアロボオンエアを見た際は、将来の監視カメラになるのではないかと思いました。長時間飛ばし続けられる有線ドローンはあっても、高画質な俯瞰映像も途切れなく伝送し続けることができるドローンは他にありません。無人化施工に関しては、引続きエアロボオンエアを提案していきたいです。また、エアロボオンエアを使用して無線や通信基地局としての役割を持たせた利用も含め、様々なユースケースを検討してきたいです。
このように建設現場のDXを推進することで労働環境の改善に加え、若者にも建設業がかっこいいと思ってもらえるような、より魅力的な業界づくりに貢献できればと思っています。

岩田:今回はエアロボオンエアとエアロボリールの導入で「現場の方だけで使えるシステム」が実現できました。今後、無人化施工の現場に必ずエアロボオンエアが常設されるようになれば、建設現場がより安全に、効率的に、作業しやすくなると思います。そのために、より現場に合った実証実験を進めていきたいです。

エアロボオンエアで撮影した映像を確認しながら重機を遠隔操作する様子
エアロボオンエアで撮影した映像を確認しながら重機を遠隔操作する様子

 

※本記事の内容は2022年5月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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