Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。
今回は、エアロセンス株式会社クラウド開発部 統括部長 菱沼 倫彦さん(写真右)、技術開発部 額田 将範さん(写真左)に、エアロセンスが自社のドローンを活用し取り組む「スマート農業実証プロジェクト」についてインタビューしました。
インタビューの「前編」では、このプロジェクトの概要やエアロセンスが参画した経緯、プロジェクト内での菱沼さんと額田さんの役割、エアロセンスの製品・サービスがプロジェクト内でどのように用いられるかについて詳しく伺いました。「後編」では具体的な施策や各所からの反響・今後の展望等をご紹介します。
現地の生産者の方々のフィードバックをもらいながら進めている開発。
――1年の作物栽培のサイクルで、どのような作業効率化を行ったのですか。
菱沼:この表は、1年間の作物栽培のサイクルの中で、どのスマート農業機械を、どのようなスケジュールで連携させているかを示しています。従来の作業方式や使用機械を、エアロセンスのドローンをはじめとした「スマート農業機械」で置き換え、連携させることで効率化するのです。
具体的な事例がわかりやすいと思うので、「秋まき小麦」の例で、エアロセンスのドローンを始めとする「スマート農業機械」によるソリューションについてご紹介します。
秋まき小麦のサイクルは、前年度の秋に前作(大豆など)を刈り取り後、圃場(※1)を「自動運転トラクター」で無人で耕起・整地します。次に、翌年の成長に必要な肥料を散布した上で播種を行います。刈り取りの前には「センシング用ドローン」により圃場の栄養状況のばらつきのマップを作成し、そのマップに基づいて適切な場所に適切な量の肥料を「可変施肥機」(※2)を使用して散布します。越冬し雪解け後に生育が再開し、翌年の夏(7月頃)に「自動アシストコンバイン」により収穫されるのが一般的です。収穫までの間に、生産者の方々は「散布用ドローン」による農薬の自動散布、「センシング用ドローン」を利用した追加の可変施肥を行います。
――プロジェクト全体を推進する上で苦労したポイントは?
菱沼:まず、農業経営を全体として理解することが必要でした。そのため現地に赴き、このプロジェクトへの参画企業・生産者がトラクターやドローンを使用して実証している状況を実際に見るだけでなく、作物栽培のサイクルの中でどの機械がどのような役割を果たすのかを学びました。全体像が見えてくる中で、どこがビジネスになりうるのか等の理解を進め、収益化するためにはどのくらいの数の生産者に導入する必要があるのか?コスト的に適切か?本当に生産者が楽だと感じるポイントはどこか?減価償却も加味して利益が出るか?等、常に自問自答しながらプロジェクトを進めています。
農水省からの最上位評価と、現地の生産者・企業からの期待の声。
――技術的な苦労はございましたか。
額田:私はドローンのソフトウェア開発を担当しており、ドローンで撮影した写真のデータ処理を正しく行えるようにする部分を技術的に工夫しました。今回導入したドローンの機能としては2種類あって、まずは空中から畑の写真を撮ることと、撮った位置を計測することを行っています。しかしこの後者の「撮影位置の計測」を正しく行う難易度が高いのです。
菱沼:従来のドローンで撮影すると、使われているGPSの測位手法により、計測値と実際の値に1メートルを超える誤差が生じる可能性があるのですが、可変散布の際にメートル単位の位置誤差があると、ピンポイントで肥料を多く撒きたい箇所に正確に散布することができません。そこで、生産者の視点で許容できる50cm以内の誤差にとどめるべく、額田さんをはじめとするソフトウェア開発メンバーによりPPK(Post-Processed Kinematic ※3)という技術の導入が進められました。
額田:この実証実験の提案時に想定していたのは、エアロボマーカー(Aerobo Marker ※4)を圃場に設置し、エアロボマーカーにより取得される位置をもとに撮影位置を計測する方法でした。しかし生産者の方から、「広い地域の中でたくさんの圃場を1日に何回もセンシングしたいのに、その度にエアロボマーカーを置き、計測終了まで待っていられない」「また、建設・土木のように数センチという精度は必要がない。メートルを超えるような精度はダメだが、50cm以内なら許容範囲だ」というフィードバックがありました。
そこで、既にエアロセンスの別の機体「エアロボウイング(Aerobo Wing)」に導入していたPPKを農業用ドローンにも導入し、エアロボマーカーを設置する作業無しにデータの位置精度を50cm以内の誤差にとどめる方針に変更しました。
――プロジェクトの1年目を終えて、当別町の生産者の方々やプロジェクトの主催者である農林水産省から、エアロセンスのサービス・商品への反響はありましたか。
菱沼:各実証年度の終了時に農水省よりプロジェクトの実績評価をいただくのですが、本プロジェクトの初年度は、A,B,C,Dの4段階評価のうち最上位評価をいただくことができました。実証データによるコスト削減成果だけでなく、最新機器の導入コストや経営効果の設計の妥当性も評価いただけましたし、将来、地域での運用する際の体制や展開の想定の妥当性も評価いただけました。
現地の生産者や企業の方々には、他社製の小型のセンシングドローンに比較して、エアロセンスの農業ドローンは強風が多い当別地域でも安定して飛行ができることを評価していただきました。さらに、他社のドローンにはないPPKの導入によりデータの位置精度が向上し、圃場の生育データを手動で補正(※5)する作業が不要になることにも期待をしていただいています。
――農業分野で、今後エアロセンスはどのようなソリューションを目指していきますか。
菱沼:この実証実験では、要素技術の組み合わせの効果を示すことを目指していますが、現状では人手を介して要素技術を繋いでいます。究極的な理想の姿は、人の手を経由せずに機械同士がデータをやりとりし、必要な作業が全て自動化されることなのだと思います。
即ち、センシングドローンで取得した圃場の生育データが、LTE通信でクラウドサービスに送られ、可変施肥マップに変換された後、自動運転トラクターに接続された可変施肥機にダウンロードされ、さらに走行経路が自動的に決定されて、トラクターが無人で可変施肥を行う。このような姿を目指して、スマート農業ソリューションを開発していきます。
さらに、センシング結果をスマート農業機械に直接入力できるところまでの一連の過程をソリューションとして開発できれば、本実証以外のさまざまな農業体系に応用できるのではないかと考えています。