2021.10.07
空飛ぶロボットの挑戦

#06 【前編】 ドローンで農水省と実現する「スマート農業」

Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。

今回は、エアロセンス株式会社クラウド開発部 統括部長 菱沼 倫彦さん(写真右)、技術開発部 額田 将範さん(写真左)に、エアロセンスが自社のドローンを活用し取り組む「スマート農業実証プロジェクト」についてインタビューしました。インタビューの「前編」ではプロジェクトの概要とエアロセンスの役割、「後編」では具体的な施策や各所からの反響・今後の展望等をご紹介します。

農業の生産性向上を、先端技術導入により実現する。

――エアロセンスでは現在農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト」に参画していると伺いました。これはどういったプロジェクトですか。

菱沼:はい、エアロセンスは2020年4月より「スマート農業実証プロジェクト」に参画しています。これは農林水産省がスマート農業の社会実装を図ることを目的に公募しているプロジェクトです。採択された企業は、各地域の特色に合わせてドローン・自動運転トラクターといった先端の農業技術を組み合わせたソリューションを実際の農業生産現場に導入することにより、生産性・収益が向上することを実証(※1)します。エアロセンスの他にも全国の企業・生産者・大学等の団体が50以上のコンソーシアムを構成し、全国各地の営農体系にあわせたプロジェクトを推進しています。
エアロセンスは「スマート農業技術導入に伴う農家収益向上プロジェクト」を、広大な農業地帯である北海道 当別町を舞台に、現地の企業及び生産者とコンソーシアムを構成し、大豆や小麦をはじめとする畑作を実証対象(※2)として様々な品目の生産の効率化に取り組んでいます。

※1 ①無人化による人件費コストの削減、②自動運転による精緻化による資材投入コストの削減、③削減された余剰労働力を高付加価値作物栽培に振り向けることなどによる収益向上、④高価な最先端機器を地域で共用利用する体制を構築することによる導入費用の低減、など
※2 畑作以外に、水田作、果樹・茶、施設園芸、畜産、路地野菜・花卉、ローカル5Gの活用、が実証対象となっている
プロジェクトで実現するスマート農業体系
プロジェクトで実現するスマート農業体系

――「スマート農業実証プロジェクト」に参画することになった経緯は?

菱沼:農薬、肥料の散布用ドローンの市場はある程度確立されています。それに比べ、ドローンを活用した作物センシングは、市場は存在するものの散布用に比べれば規模はまだ小さく、取得されるデータをどう活用し、サービスとしてはどのように提供するべきなのか、私たちも知見を持っていませんでした。そのため、農業生産の実情をまずは正しく知る必要があり、その上でサービス・商品を検討・開発し市場に参入したいと考えていました。
そのような時に農林水産省が推進している「スマート農業実証プロジェクト」を知り、実際の生産者の現場でドローンを用いて実証実験を行えるという点が我々のニーズと一致。以前からつながりがあった、北海道でスマート農業の導入を推進している地元企業の方が、当別町の生産者の方々にも声を掛けてくださり、コンソーシアムを結成しました。2018年から当別町における畑作へのスマート農業技術体系の導入に向けた提案を重ね、2020年度の実証事業に晴れて採択され、プロジェクトを開始しました。

ドローンで圃場(※3)をセンシングすれば、必要な部分に必要な量だけ自動で肥料を散布できる。

――農業市場への参入アプローチの一つとして参画されたのですね。菱沼さんと額田さんのプロジェクトでの役割は?

菱沼:私は北海道 当別町を実証地域とする「スマート農業技術導入に伴う農家収益向上プロジェクト」の代表を担っています。エアロセンスは現地の企業・生産者で構成されるコンソーシアムの代表機関として、実証の課題設計や全体スケジュールの把握、実証のデータから試算される生産者の経営効果を農林水産省に説明する役割です。加えて、1参画機関として、ドローンの開発とそれを用いた実証実験の実施もリードしています。

額田:私は(株)ZMPに入社して、エアロセンス設立前から一貫してドローンを制御するソフトウェア開発を担当してきました。今回も、このプロジェクトで使う農業用ドローンの制御ソフトウェアの開発を行っています。具体的には本実証で導入する機能(後述するPPK機能やシステムのアップデート等)の本実証実験用のドローンへのポーティング(移植)やテストを実施しています。それらに加え、現地で我々のドローンを使用して作物センシングのオペレーションをする担当者への飛行・データ取得のレクチャー等も、全般的に行いました。菱沼さんと私の他にも、エアロセンスから多くのメンバーがこのプロジェクトに携わっています。
今年度に入ってからは4月だけで3回ほど現地の圃場に伺い、ドローンのオペレーションを行いました。当別町は地理的に石狩湾に近く、春先は海からの非常に強い風がありますが、安定した運用ができています。

額田 将範さん エアロセンス株式会社 技術開発部
額田 将範さん エアロセンス株式会社 技術開発部

――エアロセンスの製品・サービスはプロジェクトでどのように使用されていますか。

菱沼:この実証プロジェクトでは、エアロセンスの農業用ドローンが、農業経営を効率化するためのソリューションの一部として組み込まれています。マルチスペクトルカメラを搭載したドローンにより、圃場内の作物生育のばらつきを取得することができ、それを可変施肥(※4)マップに変換して適切な肥料の量の分布を割り出すことができます。可変施肥マップをトラクターに入力することで、必要な部分に必要な量だけ自動で肥料を散布できるようになるのです。当別町には広大な農地があり、1年を通じて小麦や大豆をはじめとする様々な作物栽培が行われており、作物栽培のフェーズに応じて、作業効率化のための機器の導入と効果測定を実施しています。

※3 圃場(ほじょう):農作物を栽培するための場所のこと。田、畑、果樹園、牧草地などを包括する
※4 可変施肥:肥料を散布したい場所に応じて、量を変えて散布することができる技術
プロジェクトで導入したエアロセンスの農業用ドローンと、計測データを使用して可変で肥料を散布するイメージ図(https://aerosense.co.jp/469748303981より引用)
プロジェクトで導入したエアロセンスの農業用ドローンと、計測データを使用して可変で肥料を散布するイメージ図(https://aerosense.co.jp/469748303981より引用)

後編では、「スマート農業実証プロジェクト」における具体的な施策や開発での苦労、各所からの反響、今後の展望等をご紹介します。
 

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により650件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年2月末時点)

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