2021.04.26
空飛ぶロボットの挑戦

#02 AIBOのエンジニアから、ドローンカンパニーの社長へ

Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。

今回は、エアロセンス株式会社 代表取締役社長 佐部 浩太郎さんに、ご自身のキャリアやエアロセンスの事業に挑戦した経緯等をインタビューしました。

AIBO、QRIO等のエンジニア。「いつか僕も新規事業をリードしたい」。

――佐部さんがエアロセンス社長になるまでのキャリアをお教えください。

佐部:私は現在、エアロセンスの代表取締役社長として、会社・事業全体を見ています。エアロセンスに携わる前は、ソニーのソフトウェアの研究開発のエンジニアとして様々な製品に関わってきました。
記憶に新しいのは、エンタテインメントロボット「AIBO(アイボ)」。AIBOは最初、R&Dを行う部門で少人数によるプロジェクトとして始まり、私はソフトウェアを軸に、ハードウェア設計等も担当しました。当時は人数が少ない中でのスタートだったので、LSI(大規模集積回路)や基板の設計から基板を動かすデバイスドライバーの設計、アプリケーションソフトの設計等まで一通り、日々試行錯誤しながら自らの手で行いました。そのような環境で数年間AIBOのプロジェクトメンバーとして研究開発に携わり、当時のリーダーの方々の頼もしい背中を見ながら、「いつか僕もこういう風に新規事業をリードしたい」と、いつしか考えるようになりました。

佐部さんとQRIO開発チームのメンバーの写真
佐部さん(左から2番目)とQRIO開発チームのメンバー

佐部:AIBOを担当した後は、二足歩行エンターテインメントロボット「QRIO」等、新規製品の開発リーダーを行いつつ、私は次のチャレンジとして「ロボティクスの技術を使って、人ができないこと・社会に役に立つことを実現したい」と強く思うようになりました。当時のソニーの中では、AIBOの開発で培ったAI技術を既存の製品に組み込み、既存の製品を賢くしようという動きがありました。しかし私は、研究開発の本来の役割である「新しい産業の創出」をやりたいと思ったのです。
そのような思いから生まれた一つのアイデアが、「空を飛べる」ロボットをつくることでした。

エアロボオンエアが空を飛んでいる写真
エアロボオンエア(Aerobo on Air)

――R&Dを行う部門で「空飛ぶロボット」の開発を開始されたのですね。そこからエアロセンスの社長になるまでの経緯は?

佐部:当時(2011年頃)は、日本のロボット業界でも海外のスタートアップの事例を参考に、何かできることは無いかと議論されているタイミング。そういった流れの中ソニーではR&Dを行う部門内で事業創出を目的とする開発部門が設立されて、自らがリーダーとなり、空飛ぶロボットの研究開発の提案を行い、プロジェクトが採択されました。
余談ですが、今でこそエアロセンスの事業の軸はBtoBの産業用ドローンなのですが、当初はBtoCの空飛ぶカメラとして、子どもたちが遊んでいるシーンを自律撮影して楽しんでもらう用途をイメージしていました。

立ち上げ当初のメンバーとエアロセンスが集合している写真
立ち上げ当初のメンバー集合写真

佐部:研究開発を進め、いざ事業化しようとなった時「ソニーの中でやるよりも、ロボット分野で既に市場を持っている外部の会社と組んだ方が良いのでは」と各所からアドバイスいただき、2015年6月、ロボットベンチャーである株式会社ZMPとまずは「ジョイントプロジェクト」という形でPoC(概念実証)がスタート。ソニーとZMPからそれぞれ数名が参加する形でプロジェクトが開始しました。ドローンを試作してはあちこちで飛行テストをして、失敗して、改良して、ということを地道に何度も行いました。
その後、PoCの結果をソニー・ZMP両社のマネジメント層へ報告した際に成長可能性を評価してもらい、2015年8月には無事合弁会社を設立することになりました。そして2019年10月よりエアロセンスの社長として事業全体を見ています。

世界中でドローンが飛び交う未来を見据えて。

――2020年2月には住友商事と資本業務提携契約をしていますが、その背景をお教えください。

佐部:住友商事は、建機のレンタル事業および販売・サービス事業をグローバルに展開しています。我々がドローンというハードウェアだけでなく、測量・点検も行うソフトウェアを持ちトータルソリューションを提供できる点を評価してもらい、共に建設業界における課題解決に取り組むことで、社会インフラ整備や経済の発展に貢献できると確信し、提携に至りました。
現在、住友商事の方々とも一緒に営業活動を進めており、彼らの幅広いネットワークと営業力のおかげで実現した案件等もいくつかあります。

発表イベントにて、佐部さんと住友商事の人が握手をしている写真(2020年2月撮影)
発表イベントにて(2020年2月撮影)

――今は法人パートナー募集中とのことですが、どのような層を求めていますか。

佐部:色々な分野にドローンを導入していくためには、現場のニーズやワークフローを理解していないとできません。その上でそれを変革していき業界のリーダーとなれるパートナーを想定しています。業界としては、土木・建設・建機、警備・監視・防災、インフラ点検の電力・鉄道・道路、農林水産などになります。また、ドローンを活用する上で必須の「通信」技術をもった企業の方々と協業していきたいと考えています。通信業界では、ドローン向けの携帯通信網の利用が解禁されるという話も出てきていますので、そういった面での協業を想定しています。
また、求人もエアロセンスの公式サイトにて随時行っています(https://aerosense.co.jp/careers)。エアロセンスは事業として、これからようやくスケールアップしていけるフェーズに来ています。製造、品質の技術・ノウハウがこれからより必要になってきます。量産技術や品質の経験がある人にジョインしていただき、ぜひ活躍していただきたいです。 

――佐部さんご自身の、今後のエアロセンスにかける想いは?

佐部:いつか、世界中でドローンが空を飛び交っている未来が来るのではないか、と私は予測しています。エアロセンスは、その一部になりたいですし、そのような未来に貢献したいです。
また、ソニーのエンジニア出身としてもう一つあるとすると、「技術を世の中に出す」流れを今後も確立していきたいです。ソニーは今も昔も、優秀なエンジニアの手により良い技術が常に生み出されています。しかし、中には「埋もれてしまう」技術もあるのです。私はそこに風穴をあげて、エンジニアの頑張りが世の中に出ていくようにしたいです。
私自身がエアロセンスにてドローンの事業を行う姿を見て、挑戦してみたいと思うエンジニアの方々がいると嬉しいです。私もかつては、AIBOの開発リーダー達の背中を見て、彼らに憧れた身でした。もしご自身の技術を世に出したいと考えている方がいるのだとすれば、「できますよ!」と伝えたいです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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