Sony Startup Acceleration Program(SSAP)から生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMP が共同で設立したエアロセンス株式会社 は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。
プロ野球のスター選手が集い、特別編成のチームで試合を行う “プロ野球の祭典”である「マイナビオールスターゲーム2021」が宮城県仙台市にある楽天生命パーク宮城で開催されました。本試合で中継カメラの1つとして活用されたのが、エアロセンスのエアロボオンエア(Aerobo on Air)です。
試合開始前から終了までの4時間半、連続飛行してスタジアム内の盛り上がりや開催地・宮城県仙台市の街並みの空撮映像を中継するなど、従来のドローンとは異なった活用がされました。
そこで、今回は中継カメラの1つとしてドローンが活用された背景や、エアロボオンエアのキーとなる「有線」へのこだわりに関して、株式会社テレビ朝日(以下、テレビ朝日) のスポーツ局 スポーツセンター 佐藤 達路さんと技術局 技術運用センター 福原 正之さん、エアロセンス株式会社(以下、エアロセンス)受託開発事業部 兼 技術開発部 岩田 啓介さんにインタビューしました。
復興が進む東北の街並みとプロ野球の祭典 両方を繋ぐドローンの映像
――今回の案件でのみなさんの役割を教えてください。
佐藤:「マイナビオールスターゲーム2021」のテレビ中継で、チーフディレクターを務めました。放映される映像の演出を担当し、どんな画をどのように撮影するのか技術チームに相談や指示をしました。
福原:私は技術面の統括をしました。カメラマンらが具体的にどのように撮影するのかなど、制作チームが考える演出を実現する方法を技術面からサポートしました。
岩田:エアロセンス側の技術担当を務めました。テレビ局の映像伝送機器への繋ぎこみやドローンへの給電方法など技術的な運用や安全管理を行いました。
――今回エアロセンスのドローンをどのようなことに使用したのですか?
佐藤:楽天生命パーク宮城で行われた「マイナビオールスターゲーム2021」のテレビ中継用のカメラの1つとして使用しました。ドローンを使うことで、最大90mの高さからスタジアムの俯瞰映像や夕焼けに染まった仙台の街並みなどといった、通常のカメラでは撮影できない映像が撮れました。試合開始から試合終了までの約4時間半にわたり、随所にドローンの映像を中継に乗せることができました。
――なぜドローンを使用しようと思ったのですか?
佐藤:この年、本試合が仙台で開催されることには理由がありました。東日本大震災から10年が経ち、復興支援の一環としての東北開催だったのです。テレビ朝日では復興へ一歩一歩進んでいる東北の様子を少しでも表現できる方法を模索していました。そのとき出たアイデアがドローンでの撮影です。
復興が進む東北の姿と、夢を与えるきっかけになり得るプロ野球の祭典を同じ軸で見せるために、ドローンからの空撮であれば両方を絡めて撮影できるのはないかと考えました。ドローンを使いヘリコプターより低い高度から撮影することで、仙台の街とその街の中にあるスタジアムでの試合を融合させ見せることができそうだということになりました。
――生放送の番組でドローンを使用することに不安はありませんでしたか?
福原:ありませんでした。今回使用したドローンは過去にテレビ朝日の音楽番組「ミュージックステーション」でも使用しました。その際にエアロセンスのドローンであれば、生放送に耐えられる安定性があると感じたため、今回使用しました。野球中継は長時間の生放送であり、競技の性質上いつドローンの出番になるか決め打ちすることができません。そのためいつ映像が使えるチャンスがきてもいいように、常に映像を伝送する必要があり、安定性が重要な要素です。音楽番組で使用した際に、野球中継にも耐えられる安定性を十分に感じることができていました。
またエアロボオンエアは、伝送の遅延もなく、テレビ放映に対して十分な画質で撮影できるため生放送でも中継用のカメラとして使用できると思いました。
「光ファイバー」の入った複合ケーブルで高画質な映像のリアルタイム伝送が可能に
――今回使用した有線ドローン「エアロボオンエア」の特徴について教えてください。
岩田:エアロボオンエアの特徴の1つが「有線」という点です。ドローンとベースステーション(給電や映像のリアルタイム伝送、通信制御が行える機器)を独自開発の光電複合ケーブルで繋ぎます。そうすることで、バッテリー交換が必要な上に大容量データ伝送が難しくデータ遅延も生じる無線のドローンでは難しい、長時間の飛行や高画質映像のリアルタイム伝送、有線制御による安心・安全な飛行を行うことが可能です。そのため撮りたいタイミングが刻々と変化する一方で、遅延なく高解像度のまま伝送する必要があるスポーツの中継にとても向いています。
――なぜこのようなドローンを開発したのでしょうか?
岩田:ある時、「テレビの中継などで使えるような、長時間飛行できるドローンを開発できないか?」という相談をもちかけられたのがきっかけでした。そこで、テレビの放送で使用できるような高画質の映像をドローンで撮影し伝送できる方法として、大量の映像を送ることができる「光ファイバー」に着目。
光ファイバーと従来試作を重ねていた「給電できるドローン」を組み合わせようと試みました。光ファイバーと銅製の給電ケーブルを合わせてドローンで持ち上げられる細く軽い複合ケーブルにするのは大変で、試作を何度も重ねました。エアロボオンエアの光電複合ケーブルはそんな苦労を経て開発した特注品です。
――開発後の反響はいかがでしたか?
岩田:開発したエアロボオンエアは、まず2017年8月の静岡放送主催の音楽イベントで使用され、本機体で撮影した映像がテレビで放映されました。
この取り組みがきっかけで、テレビ局の方々にも使っていただけるということがわかり、本格的に商品開発へと進めました。音楽イベント時はフルHDの解像度でしたが、4K映像を遅延なく非圧縮で送る映像伝送部分やジンバル機構(揺れ補正機能)の開発を進め、現在の機体は4Kの解像度で30倍ズームの映像撮影に対応しています。
テレビ業界も驚き 新たな“中継カメラ”としての今後の展望
――エアロセンスのドローンを実際に使用してみていかがでしたか?
佐藤:ドローンの移動とカメラの動きを組み合わせることで、撮影できるカットのバリエーションが想像以上にたくさんありました。正直、「東北の街並みとうまく絡められたらいいな」くらいの感覚で思っていたのですが、例えば選手が打席に入るタイミングで上空からズームインするなど試合展開に応じてドローン映像を使うことができ、新鮮な映像を視聴者に届けることができました。またカメラ角度を変え遠くの街並みからスタジアムへ近づいたり、ドローンを地上近くから上昇させながら撮影することで徐々にスタジアム内の俯瞰映像に画角が変化したりと、ドローンならではのカットも撮れました。
さらにドローンで撮影する上空からのスタジアムや仙台の街並みは想像以上に美しいものでした。震災から約10年、復興途中の様子を1つの形として見せたいという私たち制作チームの思いは、ドローンで撮影した映像に乗せて視聴者に届けることができたと思います。
福原:実際のドローンを見てまず注目したのはケーブルです。「有線ドローン」ということで太いケーブルで給電や映像の伝送を行っているのだろうと勝手に想像していましたが、テレビ局で使うカメラのケーブルより細くて軽いため、驚きました。またセッティングも短時間で済み驚きました。現場で撮影場所を微調整する際、ドローンの設置からフライトまで本当にわずか数分という感覚でした。映像も終始安定していて安心感を覚えました。
岩田: 今回は、ドローンを使った中継カメラならではの映像を撮影するという佐藤さんたちの意図に従い、有線ケーブルの長さの範囲内でドローンを大きく動かしながら撮影しました。ドローンの水平移動に加え、高さの変化やスピードの緩急、さらに搭載しているカメラの方向変化やズームといった多様な動かし方を組み合わせました。放送中にはスタジアムに対して「どうやって撮っているの?」という問い合わせがあったと聞き、制作意図に沿う新鮮な映像をお届けできたと嬉しく感じました。
今後は、機材を車に搭載し、撮影場所を素早く移動することで、有線ドローンでも広範囲で撮影できればと思っています。またこれまでは地面に余ったケーブルを這わせて使用していましたが、車両搭載ができるようにケーブルの自動巻取り機「エアロボリール(Aerobo Reel)」も開発しました。これにより、放送用途を拡げると共に災害時など新たな用途でも貢献できればと考えています。
※本記事の内容は2022年4月時点のものです。