2022.03.14
空飛ぶロボットの挑戦

#10 “縁の下の力持ち”を点検!ドローンで土木業界のDXを推進

Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。

近年、増加傾向にある地震や豪雨の影響で国内の様々な地域で土砂災害が増えています。
土砂災害の予防対策が急務となる一方で、対策にあたる土木業界では、労働人口の減少・高齢化が課題となっています。そこで国土交通省はここ数年、労働力の補填や安全な労働のためにDX(※1)の推進に力を入れ始めました。今回は、DX推進に貢献するツールの1つであるドローンが、土砂災害の予防策としてどのように活用されているのか、またドローンがなぜDXの推進に貢献するのかについてご紹介します。

株式会社建設技術研究所(以下、建設技研)は、国内で初めてLTE通信(※2)を用いたドローンによる砂防点検の実証実験を、2021年12月10日にエアロセンスと協力して実施しました。この砂防点検とはどのようなものなのでしょうか。また、その点検にドローンをどのように活用するのでしょうか。株式会社建設技術研究所 東京本社 砂防部の内柴 良和さんとエアロセンス株式会社 代表取締役社長の佐部 浩太郎さんにインタビューしました。

※1 Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略。デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること。
※2 無線を利用したスマートフォンや携帯電話用の通信規格の1つ。従来の通信規格よりも圧倒的に速度が速く、たくさんのデータを一度に送受信できる。
左:株式会社建設技術研究所 東京本社 砂防部 内柴 良和さん 右:エアロセンス株式会社 代表取締役社長 佐部 浩太郎さん
左:株式会社建設技術研究所 東京本社 砂防部 内柴 良和さん
右:エアロセンス株式会社 代表取締役社長 佐部 浩太郎さん

下流の住宅地を守る“縁の下の力持ち”砂防ダム、その点検にドローンを

――今回、建設技研とエアロセンスが共同で行った「砂防点検」の実証実験ついて教えてください。

内柴:山間地域には、土砂災害を防ぐための「砂防ダム」というものが渓流沿いに多数設置されています。砂防ダムは水ではなく土や砂、石等をためるもので、大雨の際には流れる土砂をせき止めたり、土石流のスピードを抑えたりすることで、下流地域の人命や家屋、交通網、インフラ等を守る役目があります。今回はこの砂防ダムにたまった土砂の堆積状況を、LTE通信機能を搭載した、エアロセンスの垂直離着型固定翼ドローン「エアロボウイング」で点検をしました。

――なぜ堆積状況の点検が必要なのでしょうか?

内柴:砂防ダムの効果を最大限発揮するために、土砂のたまり具合を定期的に点検しています。土石流は雨等が原因で山や谷の土・石・砂等が崩れ、水とまじってドロドロになり、一気に流れ出てくる現象です。破壊力が大きく、流れ出る速度も速いため、大きな被害をもたらします。砂防ダムはこうした土石流を防いだり、土石流のスピードを抑えたりする役割があるのですが、たまっている土砂の量が砂防ダムの容量を極端に超えると、土石流を防ぐことができなくなってしまいます。そのため、定期的な点検・整備が必要となってくるのです。

土石流による被害のリスクは山間部だけに限ったことではありません。日本全国には、土砂災害警戒区域で土石流の危険があると指定されている地域が21万か所以上あり、皆さんの身近にも指定されている地域があるかもしれません。上流に砂防ダムが設置されきちんと機能していることで、私達の生活は見えないところで守られているのです。まさに、砂防ダムは「縁の下の力持ち」なのです。

――ドローンで点検するとどのようなメリットが得られるのでしょうか?

内柴:砂防ダムは1つの川に沢山設置されています。例えば私たちが今回の実証実験で委託を受けた、国交省の福島河川国道事務所の場合、管内には約70基の砂防ダムがあります。そのため人が現地に行くという従来の定期点検では3人1組で約3週間かかっていました。また大雨の後等には、できるだけ迅速に土砂等の除去の必要性を判断する必要がありますが、大雨直後に人が山間部に立ち入ることはとても危険です。
しかしドローンを用いることで、素早く安全に点検が行えるため、私たちが抱えている課題が解決できます。

エアロボウイング水平飛行中に撮影された砂防ダムの画像とその一部拡大
エアロボウイングの水平飛行中に撮影された砂防ダムの画像とその一部拡大

国交省も力を入れるドローンを使ったDXの推進 災害防止の対策を安全・迅速・効率的に

――ドローンを用いることで素早く安全に点検が行えるのですね。ほかにはどんなメリットがありますか?

内柴:ドローンによる点検では、定量的な三次元データが得られるのも大きな違いです。これまでの目視による点検では、人が経験に基づき砂防ダムの土砂堆積割合を算出していましたが、三次元データが得られると砂防ダム内の堆積量の正確な数値を出すことができます。

佐部:私たちは、詳細な三次元データを得るためのサポートもさせて頂いています。具体的には、ドローンで撮影した画像をSfM(※3)という技術を用いてエアロボクラウドで解析することで三次元データが得られます。

※3 Structure from Motionの略。さまざまな角度から撮影した画像を使って、撮影対象物の形状をコンピュータ上で復元する手法。

――DXの1つとしてドローンに大きな期待を寄せているとのことですね。

内柴:そうですね。今回の案件も含め、私たち建設技研が受注する業務の約50%は国交省が発注する国策的なインフラプロジェクトです。その国交省もここ1~2年、DXを強力に推進し始めました。その背景には労働人口の減少や高齢化が進んでいることがあります。働き方改革も推進される機運の中で、安全に、迅速に、効率よく現場対応を行うことは土木業界の喫緊の課題で、現場の色々な作業のDXが要望されているのです。
そこで、私たちは国交省に対して、DXの1つとしてドローンを使った実証実験を提案しました。今では国交省も、砂防ダムの定期点検はドローンで置き換えることに前向きです。実用化するために検証実験を積み重ねたいと考えているため、今回の案件は大きな一歩になりました

今回の点検の様子

LTE通信ができるドローンで、山間部でも安定した飛行を

――エアロセンスと一緒に実証実験を行うことになったきっかけについて教えてください。

内柴:もともと回転翼型のドローンの使用を検討していましたが、飛行できる時間が短いため、1回の飛行で点検できるのは砂防ダム1基でした。そんな中、2020年に製品化されたエアロボウイングは滑走路が不要かつ1度に複数の砂防ダムの点検ができるため注目しました。さらに、LTE通信の上空利用の解禁に真っ先に対応して、LTEモジュールを内蔵した機体を準備していたので、山奥で見通しが効かない場所の点検に最適だと話が進みました。

――LTE通信に対応したドローンはなぜ山奥での点検に最適なのでしょうか?

内柴:砂防ダムは山奥に多く設置されているため、ドローンは離着陸地から見通しのきかない目的地まで飛行する必要があります。一方、飛行しているドローンと、ドローン操作端末(コンピュータ)は通常、Wi-Fi通信の帯域を使ってつないでいます。しかしこの通信方式では、山奥に向かう途中で他の山に遮られて通信が切れてしまい、飛行制御や映像伝送ができなくなってしまうことが課題でした。
そこで、携帯電話網の1つであるLTE通信を使って通信をすることで、安定した通信でドローンによる飛行・点検を行うことができました。飛行中に撮影した画像からは、約5kmに渡る折れ曲がった経路沿いに8基の砂防ダムの様子をくっきり確認することができ、土砂の堆積量や流木の有無等を詳しく点検できることが分かりました。

佐部:私たちは、LTE通信の上空利用の解禁を見越して、エアロボウイング発売当初からLTE通信機能の搭載準備を進めていました。2020年に上空利用の規制が緩和され、2021年7月には株式会社NTTドコモがLTE上空利用プランの提供を始めたので、ドローンのLTE通信の一般利用ができるようになりました。日本では山頂付近までLTE通信が可能なエリアがある山が多いので、全国の多くの山間調査でドローンでの点検ができると考えています。長距離を飛行できるエアロボウイングの特長を山間部でも活用できて、一度に沢山の砂防ダムの点検が可能になります。

今回行われた実証実験における点検対象の砂防ダム(砂防堰堤)と飛行ルート概要
今回行われた実証実験における点検対象の砂防ダム(砂防堰堤)と飛行ルート概要

――今後の展望について教えてください。

内柴:まず砂防ダムの点検では、遠距離の調査を増やし、エアロセンスと実績を積み重ね、実際の運用に持っていきたいと考えています。また、災害が起きた場合に、災害対策本部で現地の映像をリアルタイムで確認できれば、迅速に対応を判断できると考えています。
さらに、山間調査では、火山灰の降灰状況の確認も重要です。火山灰はたった1cm積もっただけで土石流が起きやすくなると言われ、現地に立ち入らずにドローンで降灰量の確認ができれば災害防止対応がしやすくなります。砂防ダムの点検を実際に運用できるようにすること、今よりもドローンでの点検でできることを増やすことが今後の目標です。

佐部:今後も、現場の課題に寄り添って、ご要望にできるだけ応えていくことで、山間部でのドローンによる点検の運用を軌道に乗せたいと考えています。運用までできて初めて、社会課題を解決するドローンソリューションを提供したと言えると考えています。そして、土木業界の方々の安全性を向上しながら負担を軽減し、ひいては、日本全国の被災防止にも繋がればと願っています。

点検を行った建設技研とエアロセンスのメンバー
点検を行った建設技研とエアロセンスのメンバー

 

※本記事の内容は2022年3月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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