Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。
今回ご紹介するのはドローンを活用した地図作成の事例です。
中でも、災害時に被害状況をリアルタイムで地図上に表示する「クライシスマッピング」という分野。大規模な自然災害が毎年のように発生している日本において、注目すべきこの分野についてご紹介します。
2019年10月に発生した台風19号。日本列島を縦断し、多数の死者、行方不明者に加え、河川の堤防決壊や土砂崩れなど甚大な被害をもたらしました。
その際に救護や避難活動を、地図を通してサポートした団体があります。それが今回インタビューしたNPO法人クライシスマッパーズ・ジャパンです。こちらの団体は台風19号の際に被災地域をドローンで撮影し、被害状況を反映した地図をわずか2日で作成、オンライン上で公開しました。なぜ被災地域の地図を迅速に作ることが救護や避難活動に役立つのか、さらに今年から土地の空撮に使用しているエアロセンスのドローンについて、団体の理事長 兼 青山学院大学 教授 古橋 大地先生とサポートを行っているエアロセンス株式会社 ドローン事業部 営業部長 今井 清貴さんにお話をお伺いしました。
リアルタイムで地図を更新 素早い救援活動に役立つ「クライシスマッピング」
――まず、古橋先生の団体が行っている活動について教えてください。
古橋:私たちが主に行っているのは、「クライシスマッピング」という活動です。クライシスマッピングとは自然災害等の危機的状況下で、その現場の状況がわかる地図を作り、世の中に発信することを指します。クライシスマッピングで作られたオンラインの地図では、「この橋は通れない」「あの地域は水没している」「仮設トイレはここにある」などの情報がリアルタイムで更新されます。そのためこの地図は被災地域の方や救援活動にあたる人の役に立ちます。
――どのように地図をリアルタイムで更新しているのですか?
古橋:私たちの団体では世界中の誰でも自由に地図を更新することができるオープンストリートマップ(OSM)を活用しています。OSMではインターネットを介することで場所を問わず地図作りに参加でき、被災状況を地図に反映(マッピング)することができます。近年の大規模災害の例だと、まず私たちがドローンや衛星で被災地域の撮影を行い、その情報を元にベースとなる地図を作ります。その後、現地の様子がわかる方と共に地図へ最新の状況を反映・更新していくという流れです。
――クライシスマッピングにおいてなぜドローンを活用しようと思ったのですか?
古橋:ドローンを活用することになった理由の1つ目はスピードと柔軟性の高さです。地図を作る際は土地の俯瞰画像が必要になるのですが、人工衛星を使用する場合、地球を周回しているため撮影のタイミングに縛りがあります。一方、ドローンを使用する場合は自分たちで撮影のタイミングを選べるので地震や津波、土砂災害、火災などが起きた際に素早く高解像度で撮影ができます。
2つ目は撮影条件の自由度です。人工衛星(地球観測衛星)の場合だと雲に邪魔をされ、うまく撮影できないことがあるのですが、ドローンは雲の下を飛ぶため、雲の有無に左右されることなく撮影ができます。
災害そのものだけでなく、現場に行くまでの道路状況もドローンで撮影しマッピングすることで、現場に行くまでのアクセス方法も検討できます。
――クライシスマッピングを行った事例を教えてください。
古橋:2019年に発生した台風15号・19号の際は、被害把握のため、千葉県君津市や神奈川県相模原市、東京都調布市などで緊急撮影を行いました。撮影からデータ公開までは約2日で行い、大勢のマッパーたちがオープンストリートマップ上で一斉に12地域の地図更新を行いました。
基本的に現地でドローンを飛ばし、その状況を反映した地図を素早く作り公開することまでが私たちの役割です。そのデータをもとに誰かに地図を更新してもらうというのが私たちのシステムです。この「誰か」がいわゆる地図ボランティアでインターネットがあれば世界中どこからでも参加できます
2015年4月にネパールで起きた大地震の際は世界中から約1万人がマッピングのボランティアをしてくれました。
「固定翼と回転翼の良いところ取り」 エアロセンスのドローンに目を付けた理由
――なぜエアロセンスのドローンを活用し始めたのですか?
古橋:ドローン自体は2008年頃から使用していましたが、エアロセンスのドローンは2015年のエアロセンスの創業当初から着目していました。この年、固定翼ドローンのプロトタイプを飛ばす際にご一緒させて頂き、非常に良い機体だなと思ったのを覚えています。
プロトタイプからようやく製品が出ますという情報を頂いたので、2021年6月に購入しました。
今井:2020年に製品版のエアロボウイングが完成し新製品として発表したところ、すぐに古橋先生からご連絡を頂きました。確か、本製品への問い合わせとしては、2番目か3番目だった記憶があります。まずはオンラインで詳しい説明を行った後、古橋先生の運営するNPOが定期的に行っているドローンの訓練に、エアロボウイングを持って行きました。古橋先生は固定翼ドローンを多く使われてきただけあって、知識が豊富で運用についてもとても詳しく、エアロボウイングに対する質問も非常に鋭かったことも印象的に残っています。
――実際に活用してみていかがですか?
古橋:垂直離着陸型 固定翼高速ドローン(VTOL)「エアロボウイング(Aerobo Wing)」を活用しているのですが、固定翼と回転翼(マルチコプター)の良いところ取りのような機体です。
固定翼のドローンは手投げ式(※1)のものが多く、離着陸させるのに広い場所が必要なのですが、この機体は離着陸に広い場所が必要ありません。従って、広い平地が確保できない山間地域の山が険しい場所でも離着陸可能です。また、街中で近くに障害物がある場合でも同じように飛ばせることも魅力です。例えば、学校の校庭でネットが高くて斜めに飛ばす際にはリスクがあるという場合もこの機体なら離着陸させることができます。
また固定翼のドローンは一度に広い範囲の撮影ができるため、短時間で地図作成に必要な場所が撮影でき助かっています。さらにこのドローンはパワーとスピードを兼ね備えているので存在感があるのも魅力に感じています。
古橋:さらにもう1点ありがたいのが、今井さんやエアロセンスのエンジニアたちがすぐに相談に乗ってくださる点です。実際にエアロボウイングを活用し始めてみると、うまく使えない点があったのですが、今井さんに相談したところ、すぐに原因を確認して使い方のコツを丁寧に説明してくださり、大変助かりました。
今井:逆に先生からは、ドローンへの深い理解と積み重ねられた運用実績を背景に、具体的な改善提案を頂けたので、その点を実際に検討してドローンの改良に反映したこともありました。
精度の良い地図を作るために…キャッチコピーは「一億総〝伊能〟化」
――災害時以外にはどのような活動をしているのか教えてください。
古橋:平時はドローンを活用した地図作成を仕事として受けています。活動資金のためというのもありますが、平時に運用することでそれが訓練となります。
いつもメンバーと話すのが、平時に運用できていなければ災害時にも運用できないということです。いざという時に動ける体制で運用するためにも普段から地図作成の活動をしています。
また、自治体と協力し防災訓練を行っているのですが、その中で住民に対し、マッピングのレクチャーを行っています。自分が住む街の公衆トイレや公園などの情報を普段から色々な人が持ち寄り整理しておくことで災害時に利用できるため、防災訓練でマッピングを教える活動を行っています。
――今後の展望を教えてください。
古橋:私たちのキャッチコピーで「一億総〝伊能〟化」というのがあります。つまり江戸時代に日本地図を作った伊能忠敬さんのように、みんなが地図を使う側だけでなく、作る側・更新する側になるということです。作り手が多くなればより詳細で精度の良い地図となります。
現代では難しい測量の知識がなくても、GPS付きの携帯電話があれば、正確な緯度経度を測ることができます。普段からマッピングをできるようにしておけば、災害時に地図ボランティアとして災害地域の人を救うことができるので、地図を作れる人材を増やすのも私たちの使命だと思っています。
さらに自治体との連携も強化していきたいです。現在は全国33の自治体と防災協定(災害時応援協定)を結んでいますが、全国には1700以上の自治体があるので協定を結ぶ自治体をさらに増やしていきたいと思っています。この協定を結んでおくことで防災訓練でもドローンを飛ばすことができ、災害時には素早くドローンがかけつけられる体制づくりもできます。マッピングができる人と撮影できる場所を平時から増やすことで、災害時のクライシスマッピングにも役立てていきたいです。
今井:エアロセンスは、ドローンを使って社会課題を解決する様々なソリューションの提供を目指しています。古橋先生の「地図を世の中に役立てたい」という想いに、エアロセンスがドローンを使って貢献できることを嬉しく思います。今後も、エアロボウイングがマッピングの現場で活用しやすく運用しやすいように、できるサポートや改善をしていければと考えています。
※本記事の内容は2022年1月時点のものです。