2022.02.14
空飛ぶロボットの挑戦

#09 なぜ損害保険会社がドローン活用?長年の課題をドローンで解決

Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。

近年多発する自然災害の影響で、保険金の支払い額と件数が増えているという損害保険業界。そこで、被災者への保険金支払いをスピーディーに行うべく、災害調査にドローンや人工衛星、AIなどのテクノロジーを導入する取り組みが損害保険会社の間で広がっています。素早く正確に調査することでその後の保険金支払いを迅速に行うということですが、調査ではドローンをどのように活用しているのでしょうか。

三井住友海上火災保険株式会社(以下、三井住友海上)は2021年6月、エアロセンスと共同で、近年増加する自然災害による水害に対し、被災地域の浸水高をドローンの活用によって素早く推定することで、保険金を支払うまでの期間を大幅に短縮する体制を整えました。そこで今回は本件に関して、三井住友海上火災保険株式会社 損害サポート業務部の丸山 倫弘さんとエアロセンス株式会社 取締役の嶋田 悟さんにインタビューしました。

左:三井住友海上火災保険株式会社 損害サポート業務部 課長 丸山 倫弘さん 右:エアロセンス株式会社 取締役 嶋田 悟さん
左:三井住友海上火災保険株式会社 損害サポート業務部 課長 丸山 倫弘さん
右:エアロセンス株式会社 取締役 嶋田 悟さん

三井住友海上のドローン活用 狙いは迅速な保険金支払い

――三井住友海上とエアロセンスが共同で行った水害調査について教えてください。

丸山:2020年7月の豪雨で被災した熊本県人吉市において、浸水したエリアの精密な地形データを取得するため、2021年3月にエアロセンスのドローンを用いて被災地域の写真撮影をしました。また本件は実際の調査だけでなく、「エアロセンスのドローンを活用することで撮影時間の短縮が実現できないかを確認する」という目的を持つ実証実験でもありました。今回、垂直離着型固定翼ドローン(エアロボウイング)を活用したところ、800ヘクタールほどの面積を約100分で撮影できました。従来使用していた他社のドローンでは約240分かかっていたので、飛行時間が約6割削減できました。このようにリードタイム短縮の効果が確認できたため、今後、大規模な水災が発生した際にはエアロセンスとともにドローンで撮影を行うことを想定しています。

嶋田:ドローンでの撮影を行った熊本県人吉市の球磨川流域は大変広いので、目視内で飛行できる最大限のエリアに分割して、各離発着地点を移動しながらドローンを飛ばしました。結果として、1回あたり25分の飛行で約1,000枚の撮影ができ、計4回の飛行で撮影が済みました。離発着地点は撮りたいエリアの中心付近にある、見通しが良い河川敷や公園を選ぶことで、飛行の様子をどの方向からでも目視で確認できるよう工夫しました。

  エアロボウイングで実際に撮影した熊本県人吉市の被災地域
エアロボウイングで実際に撮影した熊本県人吉市の被災地域

――なぜ被災地域の地形データが必要だったのでしょうか?

丸山:保険金をお客様にお支払いする際に、損害額を算出する必要があるのですが、その過程で必要になってきます。もともと弊社はあいおいニッセイ同和損害保険株式会社と組み、この地域の水害の損害調査に他社のドローンとArithmer株式会社のAIを活用していました。活用方法としてはドローンで被災地域を上空から撮影し、その写真を元に精密な地形データが組み込まれた3Dモデルを作成。その3Dモデルに水量などのデータを加え、AIで分析することで被災した建物の浸水高が高い精度で推定できます。その浸水高に応じて損害額を算出していました。

水害調査にドローンを活用 損害保険業界が抱える課題

――なぜ、ドローンの活用を始めたのでしょうか?

丸山:2015年ごろから時代に合わせ、デジタル技術を活用しようという機運が社内で生まれた中で、ドローンによる写真撮影の利用も色々検討していました。しかし大きな課題を解決するような良い活用方法がなかなか見いだせませんでした。
その後、保険金支払いの迅速化という特定の課題解決を模索する中で、ドローンとAIを活用し、水害で被災したエリアの浸水高を解析するソリューションを開発し、2020年から運用を始めています。従来は、災害で被災した建物に実際に調査員が出向き、1軒1軒立ち会い調査を実施していました。水害の場合は浸水高を測るだけのシンプルな調査です。しかし立ち会い調査となると、お客様にアポイントメントを取り、現地に行き、計測するという長時間を要する調査となってしまいます。そこで、今後より大規模な水災が発生した際に調査の実施から保険金のお支払いまでを効率的に行うべく、ドローンの活用を始めたのです。

――ドローンを活用することで、他にはどんなメリットがありますか?

丸山:人による立ち会い調査が不要になると、調査員も不要となるため、結果として調査コストの削減につながります。近年の大規模な自然災害の頻発により、損害保険会社の火災保険における収支は悪化傾向にありましたが、コスト削減という面でもドローン活用が有益であると思っております。

――なぜエアロセンスのドローンに着目したのでしょうか?

丸山:元々使用していた他社のドローンが1回で飛ばせる時間が短く、撮影範囲が狭くなってしまう点に課題を感じていました。例えば100㎢規模の水害などが起こった場合には、何回もドローンを飛ばす必要がでてきます。そこで甚大な災害であっても早期にドローンでの撮影を完了する手法や機体を検討している中、エアロボウイングであれば1回の飛行で長時間の撮影が可能ということで着目しました。

今回の案件で使用されたエアロボウイング
今回の案件で使用されたエアロボウイング

嶋田:弊社のエアロボウイングは、固定翼ドローンと回転翼ドローンの良さを1つに集約した機体です。この機体は固定翼ドローンにもかかわらず、狭い場所からでも垂直に離陸できます(※1)。一方で水平に飛んでいる最中は飛行機のように翼の揚力を利用できるので、消費電力を大幅に抑えながらも高速な飛行が可能となります。「長時間」かつ「高速」の飛行により、1回で広い範囲の撮影ができるのです。
また、撮影用のカメラは測量用として実績のあるソニーの「UMC-R10C」を使っています。このカメラは用途に合わせてレンズ交換可能で、​2000万画素の写真が1秒間に1枚撮影できるため、精度の高い3D地形データ生成に使用する写真撮影に向いています。さらに、撮影後のデータを高速処理可能なエアロボクラウドで解析することによって、​すばやく3Dモデルを提供できます。

※1 一般的な固定翼ドローンは補助をつけて離陸させる必要があるため、離陸時には滑走路が必要になる。

――今後の展望について教えてください。

丸山:ドローンの活用で、どのような災害が発生してもお客様をお待たせすることなく、早期に保険金をお支払いする態勢を構築することが当社にとって極めて重要です。とりわけここ数年は自然災害が多発しているため、迅速な保険金の支払いは喫緊の課題だと認識しております。現在、すでにソリューションの運用は始めていますが、今後は浸水高の計測データの精度向上や、ドローン撮影も含めた更なるリードタイムの改善などについては継続して研究を進めていきます。さまざまな技術を用いてソリューションのさらなるブラッシュアップを行い、早期の保険金支払い、ひいては被災地の早期の復旧・復興に役立てるように努めていきたいと思っています。

嶋田:弊社としては、ドローンをただ提供するのではなく、社会課題を解決するドローンソリューションを提供したいと思っています。災害分野においても、実際に課題を持っている方々に対し、本当に解決になるのか、実際に運用しやすいのかを常に問いながら製品及びソリューションを磨いていきたいと考えています。今回の運用は、あくまでも目視内飛行としたため、運用する人員が離発着場所を移動しながら実施しましたが、「有人地帯における目視外飛行(レベル4)(※2)」が解禁された際には被災地に立ち入らずに遠隔からの運用が可能となり、より安全に、より迅速に、より柔軟な飛行経路での調査が可能になります。ドローンによる災害対応が、被災された方に寄り添うものになったらいいなと思っています。

※2 政府が2022年度を目途に現状ドローンの飛行を認めていない領域において飛行可能となるよう整備している制度。
実証実験当日の様子

 

※本記事の内容は2022年2月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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