Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。
今回は、エアロセンス株式会社 受託開発事業部 事業部長 兼 技術開発部 統括部長 鈴木 康輔さん(写真左)と技術開発部 硲間 優一さん(写真右)に、エアロセンスが取り組む物流プロジェクトについてインタビューしました。プロジェクトでは、鈴木さんが機体開発の技術統括を、硲間さんが機体のソフトウェア開発リーダーを担当しています。
沖縄から北海道まで、ドローンを使った物流の実証実験を。
――エアロセンスのマルチコプター・垂直離着陸型の固定翼ドローン(VTOL)が物流プロジェクトで活用されていると伺いました。具体的にどのように活用されていますか。
鈴木:はい、エアロセンスの製品であるマルチコプターやVTOL(Vertical Take-Off and Landing Aircraft:垂直離着陸型 固定翼高速ドローン)を活用して、沖縄から北海道まで様々な地域で物流のサポートをしています。
硲間:例えば沖縄県では石垣島・竹富島で、製薬会社等と協同でドローンを使った物流の実証実験を行ったり、北海道では経済産業省北海道経済産業局・ANAホールディングス株式会社・国立大学法人旭川医科大学・旭川市等と協同で、ドローンで医薬品を定温配送する実証実験を行ったりしています。
――物流プロジェクトを行うことになったきっかけは?
鈴木:きっかけは、2016年頃から創業当時より開発を進めていたVTOLの有効活用法を検討し始めたことです。薬の搬送シーンでドローンのニーズがあることがわかり、緊急時の薬の搬送の実証実験を始めました。沖縄や福岡での離島間での物流実験から着手し、実績を重ねていました。
――薬の搬送シーンでドローンのニーズがあったのですね。他の「物流」の用途の事例はありますか?
鈴木:転機となったのは、国際協力機構(JICA)のプロジェクトであるアフリカ・ザンビア共和国での物流実証実験にエアロセンスの製品が採択された時のことでした。この時初めて、海外でVTOL・マルチコプターを用いて長距離の物流実験を行いました。部隊はザンビア共和国の地上交通インフラが未発達な地域。エアロセンスのドローンを利用して、中央病院等と農村部にあるヘルスセンター等の間の血液検体等の輸送を行いました。アフリカ現地の環境の面・ドローンの輸出の面など様々な問題に直面したのですが、結果的に多くの知見が得られました。
ザンビアでの実証実験後は、その結果をもとにマルチコプター・VTOLの性能を進化させるべく、よりスムーズに操作できるよう改良を加えたり、LTEでの無線通信を実現したりと、進化をしてきました。
また私は国土交通省(国交省)物流政策課主催の「過疎地域等におけるドローン物流ビジネスモデル検討会」に検討委員として参加していました。実際に物流で困っているのは、すでに物流網が整備されている地域ではなく、過疎地。そういった場所でどうやってビジネスとして運用できるのかを検討しています。実際にドローンを用いて物流配送を行うために議論を進めてきました。この結果、国交省側での規制緩和やルールの具体化に貢献でき、2021年6月発行のドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer2.0では、エアロセンスが希望する改善が多く反映されました。
ドローンを使った物流は「インパクトが大きくワクワクする」。
――物流分野でのエアロセンスのサービス・商品に対する反響があればお教えください。
鈴木:メディアにはANAホールディングス株式会社等の大手企業様と実証実験する事例が多く取り上げられています。
また、お客様となる企業や業者の方々に実際にドローンによる物流を実際に見ていただくと、インパクトが大きくワクワクしていただけることが多くとても嬉しいです。現在は、ドローンを使った物流の社会実装に向けて、必要なリソース・ビジネスとしてのアプローチ・採算性等を考慮し実現していくことが課題となっています。
――物流プロジェクトでは医療分野を中心に行っているとのことですが、今後はどのようなソリューションを提供予定ですか。
鈴木:医療分野は薬事法等含めてまだまだ規制が多く、ドローンを使った物流を実現するためには様々な対応が必要になります。しかしエアロセンスのドローンを使えば高速・長距離で、安心安全に医療物資を運ぶことができるようになるのは事実。マルチコプター機・VTOL機のそれぞれを改良しながら、社会実装に向けて運用・事業を含めた形でプロジェクトを進めていければと思っています。
硲間:医療分野の輸送では、特に緊急性が高い場合、迅速かつ的確に目的地に対象物を運搬する必要があります。私が担当するソフトウェア面でも、オペレーションをより迅速に行えるようなユーザインターフェースの実装・安全にフライトできる高い耐障害性が要求されます。
また、目視外・補助者なしでの飛行の実現のためにはLTE通信網の利用も対応中です。現状、エアロセンスのVTOLドローン「AS-VT01」は製品としてLTE通信網に対応していますが、汎用マルチコプター機も全国各地でのLTE通信を用いた実証実験が成功しているので、今後、正式に製品対応させる予定です。先日も携帯通信会社のLTE上空利用プランの新発表で大々的にエアロセンスの事例を紹介いただきました。
様々な実証実験を通してユーザの方々からいただいたフィードバックを反映し、運用しやすいシステムやフェールセーフ機能(※)を整え、安全なフライトができる機体を今後も改良していきたいです。