2021.04.15
空飛ぶロボットの挑戦

#01 ジョイントベンチャー「エアロセンス」が出来るまで

Sony Startup Acceleration Programから生まれ、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社(後に、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)へ全株式譲渡)と株式会社ZMPが共同で設立したエアロセンス株式会社は、「最先端のドローン・AI・クラウドで変革をもたらし、現実世界の様々な作業を自動化し、社会に貢献する」ことをビジョンに掲げ、ドローンソリューションの開発・実用化に取り組んでいます。

今回は、エアロセンス株式会社 代表取締役社長 佐部 浩太郎さんと、立ち上げ期からエアロセンスの社外取締役を務めるソニーグループ株式会社 Startup Acceleration部門 副部門長 兼 Open Innovation & Collaboration部 統括部長の小田島 伸至 に、エアロセンス立ち上げ期のエピソード、目指す未来をインタビューしました。

自らのアイデアを事業にした佐部さんと、事業成長をサポートするSSAP。 

――お二人のエアロセンスでの役割をお教えください。

佐部:私は現在、エアロセンスの代表取締役社長として、会社・事業全体を見ています。エアロセンスはソニーから生まれた事業で、私自身も元々はソニーの社員としてこのプロジェクトを立ち上げました。立ち上げの際からプロジェクトリーダーとして、この事業を牽引してきました。

小田島:私は、エアロセンスの社外取締役として事業の成長をサポートさせていただいています。エアロセンスはソニーとZMPの合弁会社ですので、取締役という立ち位置で、エアロセンスの経営に必要なものを提供しているイメージです。取締役会では、佐部さんを含むエアロセンスのメンバーとミーティングを行っています。

――エアロセンスでは現在、どのような事業を展開していますか?

佐部:主にBtoB向けにドローンを販売することに加え、空撮したデータの画像処理や管理を行うアプリケーションをお客様に提供したり等、ドローンを軸に一貫したソリューションを提供しています。現在、土木・建築分野のお客様に向けて提供している測量・点検ソリューションが事業の中心です。新しい製品群としては、有線ドローンシステム「エアロボオンエア(Aerobo on Air)」および自動飛行・垂直離着陸型 固定翼高速ドローン(VTOL)「エアロボウイング(Aerobo Wing)」を発表しました。前者は、独自開発の電力・信号複合ケーブルを備え、通常のドローンではできない長時間飛行や高品質映像のリアルタイム伝送を可能にする、画期的なソリューションです。後者は、垂直離着陸の利便性と固定翼の高速性を備え、既存の製品に比べて広範囲の飛行が可能で、測量・点検・物資輸送など多岐にわたるソリューションが期待されています。
我々の強みは、ドローンを活用したトータルソリューションを提供出来る点。他社ができない部分を我々が補い、もっとドローンの活用範囲が広がればいいと思っています。

エアロボオンエア(Aerobo on Air)
エアロボオンエア(Aerobo on Air)
エアロボウイング(Aerobo Wing)
エアロボウイング(Aerobo Wing)

未知の市場への参入と、ジョイントベンチャー設立。

――エアロセンスはソニーとZMP社の合弁会社ですが、合弁会社を立ち上げるに至った背景を教えてください。

佐部:エアロセンスが会社として立ち上がったのは2015年8月ですが、エアロセンスのもととなる構想が生まれたのは2012年頃。当時の私はソニーの一エンジニアとして研究開発を行っており、社内の様々な組織・方々からのご支援のもと、構想が始まってから約3年後に会社設立に至りました。

小田島:当時を振り返ると、とても懐かしいですね。佐部さんがおっしゃった通り、合弁会社設立前は、ソニー内で我々SSAPが事業化支援をしていました。共同で事業化検証を行うことになったのは2014年10月頃。当時はちょうどSSAPが組織として立ち上がった時期で、「R&Dで生まれたエアロセンスの技術をSSAPで事業化しよう」という話になったのです。エアロセンスと同時期にSSAPで事業化支援をした製品はもう一つ、IoTブロック「MESH™」というものがあります。
そのような中、ソニー内で事業化を進めていくにあたって一つの課題が出てきました。それは、エアロセンスの市場は「土木・建築分野」であり、ソニーが持っている既存の販路やマーケティング方法を活かせないこと。そこで、ターゲットとなる市場へのアプローチを得意とするロボット事業を展開するZMPと組むことになったのです。ZMPはソニーとも別領域でリレーションがあり、谷口社長との話もスムーズに進み、合弁会社設立が2015年に実現しました。

小田島 伸至さん ソニー株式会社 Startup Acceleration部門 副部門長
小田島 伸至 ソニーグループ株式会社 Startup Acceleration部門 副部門長

――合弁会社設立時、一番チャレンジングだった出来事は何ですか?

小田島:一番苦労したポイントは、ベンチャー企業であるZMPと、ソニーのギャップを埋めること。合弁会社を設立するということは、それぞれの会社のカラー・考えをすり合わせる必要があるということです。会社の風土・カルチャーも違えば、予算の使い方や社内での言語も、時間の使い方も全然違う。新しく設立された「エアロセンス」では、それぞれの会社の良いところを採用すれば良いのですが、それをすることすら最初は難しかったですね。実際に、SSAPから担当者を派遣して毎週のようにエアロセンスに通い、幅広くサポートを行っていました。

佐部:そうですね、私自身も会社設立時は色々な手続きに走り回っていた記憶があります。そんな中で私が一番苦労したのは会社設立後、ドローンの販売を始めた直後の頃でしょうか。
当時はドローン市場がまだまだこれからという状態で、コンシューマ向けの海外製のドローンが一般にも話題になり始めていた頃でした。エアロセンスが提供するドローンはBtoBの産業用、お客様にドローンの飛行デモを行い、「あなたの業務でこのように役に立ちます」ということを具体的にお伝えする必要がありました。現在では多くのお客様にご活用いただいていますが、市場に受け入れられるまでには時間がかかりました。

佐部 浩太郎さん エアロセンス株式会社 代表取締役 社長
佐部 浩太郎さん エアロセンス株式会社 代表取締役 社長

エアロセンスが叶える「省人化」と「コスト削減」、海外にも展開を。 

――小田島さんはエアロセンスの最近の取り組みをどのように見ていますか。

小田島:新規事業は「ニーズありき」です。製品はお客様に必要とされ、実際にお金を払って購入してもらう必要があります。BtoCでもBtoBでも、新規事業が「必要とされる」製品になるまでのステップは、とても険しい道です。理論的にはとても良い製品でも、実際に使っている姿は想像できない、というお客様もよくいます。

社内で初めてエアロセンスの構想を聞いた2014年頃はまだドローンが日常的に使われる前で、SFの世界観に近いものがありました。しかし最近はドローン市場が拡大し、産業用ドローンの認知度があがってきています。土木・建築の現場の方々が、「ドローンに頼った方が楽」と思い始めているのだと思います。BtoBのニーズが顕在化し、問い合わせが増えていることがそれを顕著に示しています。売上も積みあがってきており、エアロセンスで働くメンバーも徐々に増えていますが、より多くのお客様に喜ばれるサービスになってほしいです。

――お二人が今後のエアロセンスに期待すること、想いをお聞かせください。

佐部:エアロセンスは土木・建築分野での強いニーズがあります。エアロボ測量(ドローン、対空標識+GPS測量、クラウド処理)を中心に、様々な現場で活用されています。これらの分野でまずは国内需要を押さえて、海外にも展開していきたいと考えています。またVTOL型ドローンは無人運用で航空機並みの広域をカバーできるので、規制など課題も多いですが、圧倒的な費用対効果を生むソリューションに化けて社会に貢献できるのではないかと期待しています。

小田島:私がエアロセンスに期待しているのは、「省人化」と「コスト削減」、そして「人間が見えないものを可視化すること」です。日本の労働人口は減少傾向にありますし、人が行くと危険な場所にエアロセンスが提供するドローンが代わりに行ってくれるような役割を果たす鳥ロボットとなってほしいと考えています。
また、大切なことがもう一つ。私が佐部さんに2012年に初めてお会いしたとき、「ドローンは空飛ぶロボット。私はロボットエンジニアとして、ドローン事業を実現したい」と熱い想いをぶつけられました。その夢を是非、これからも叶えていただきたいです。佐部さんが思い描いている世界を実現していくことが、我々の役目だと思います。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、730件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年8月末時点)

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