2021.04.13
社会連携講座@大学

#10【東京藝大】東京藝大 山崎さん・鈴木さん×SSAP 杉上「ソニーと藝大で挑む、デザインからのスタートアップ」

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)は2019年度に東京大学と、2020年度からは東京藝術大学と社会連携講座を開講しました。企業と大学・学生が連携し、スタートアップを創出する「産学協創エコシステム」の発展を目指しています。本講座では、年1回のニーズ検証結果をピッチするイベント「オーディション」を軸に、「トレーニング」、「ワークショップ」等が行われています。

今回は、東京藝術大学 美術学部 デザイン科 山﨑 宣由 准教授、同 鈴木 太朗 准教授、SSAPのプロデューサー 杉上 雄紀に、取り組みのきっかけや今後の展望についてインタビューしました。

ソニーと藝大の社会連携講座、「デザインからのスタートアップ」。

――山崎さん、鈴木さんの講座での役割をお聞かせください。

山崎:私は藝大側の講座責任者として、他と差異化しつつ藝大らしいチャレンジをすべく、講座の企画・計画を実施しました。また、私自身の専門領域であるUX視点での魅力・体験価値の創出に関する指導も行いました。

鈴木:私は、自身が藝大の学生だった頃に東京大学の学生とコラボレーションしたプロジェクトを行った経験があります。当時の経験を活かしながら、講座のコンテンツ企画等を行いました。大学側がお膳立てをした講座に学生が受動的に乗っかるだけでは、学生からは何も生まれない。学生が自分の頭で真剣に悩み考え何かを飛び越えた時、はじめて喜びとともに本人の力となっていくのだと考えました。

講座内でのチームの活動の様子
講座内でのチームの活動の様子

――ソニー・SSAPと藝大の社会連携講座の設置を決められたきっかけ・狙いは?

杉上:東大では2019年度から、私が学生時代お世話になった中尾先生とのご縁で社会連携講座を立ち上げていました 。2019年の春には中尾先生の研究室の後輩の紹介で鈴木先生とお会いし、東大生と藝大生のワークショップを開きました。そこで両者の化学反応のポテンシャルを改めて感じ「藝大でも社会連携講座を実施できないか」と考えました。その後、山崎先生も含めて講座の実現を検討し「アートとビジネス」「創作と教育」のバランス感覚を持ちつつ、双方にとっての挑戦として2020年度からソニーと藝大で社会連携講座を開講することになりました。

山崎:スタートアップ講座やイノベーション共創が社会や教育のムーブメントになっている中、その多くがイシュードリブンなテーマで、テーマ自体の特異性や0→1的な独創性、夢のあるビジョンが少ないこと、若い世代が無邪気に自由に発想できないケースが多いことに大きな危惧がありました。「ロジック・社会倫理」に基づいたアイデアより、「なんかいいよね」と感覚・感性で共感できるアイデアに夢ややりがいを持たせて正当化できないものかと。個人の発想や熱い想いから生まれる、まったく新しいものづくりを実現できないかと。今回、SSAPの方々にはこの考えに賛同をいただけたことがきっかけで、講座では「デザインからのスタートアップ」をスローガンに、個人の発想・パッションから「みんなの嬉しい」を導くことを狙いとしています。

東京藝術大学 美術学部 デザイン科 准教授 山﨑宣由さん
東京藝術大学 美術学部 デザイン科 准教授 山﨑宣由さん

個人ではなくチームで「創作活動を社会に結び付ける方法」を学ぶこと。

――社会連携講座に期待していたことは?

山崎:期待していたことは、学生の変化の面と講座の運営面で1つずつあります。

1つはまず、学生に期待する変化。藝大の学生には、自分たちの創発する力(アートの力)が、これからの豊かな社会に重要な役割や可能性があること、社会の期待として経済にも結びついていくことを知って欲しいですね。
もう1つの運営面では、個人の藝術的な発想・創発による魅力創出の新たなメソッドやプロセスを具体化できることを期待しています。個人の思想や気づき、得意なスキルを改めて振り返り、本質的な価値を再発見する。社会・文化、ビジネスの創出において、アートやデザインのさらなる役割と可能性への手掛かりが見つかることに期待します。

鈴木:今回の講座は、学生に「自分の創作活動が、どうやったら社会に結びつくか」を知ってほしいと思って企画しました。学内の通常の授業では、作品を通して個人の理想を求めることが重要視されています。しかし社会に出ると、個人の理想と社会の需要がかけ離れていてギャップを感じることもあるわけです。しかし社会に合わせすぎると、個人の良さは消えてしまいます。僕自身が社会に出て実感したことでもあり、これまでそういった学生を何度も見てきました。学生に、自身の創作活動が社会に結び付く過程を知ってもらうことで、創作活動に自信が持ち、新しいアイデアへと繋げてほしいと思っています。

東京藝術大学 美術学部 デザイン科 准教授 鈴木太朗さん
東京藝術大学 美術学部 デザイン科 准教授 鈴木太朗さん

杉上:SSAPによる社会連携講座を東大と藝大で開講するという点で、私は双方の学生が良い意味で刺激し合える環境ができることを期待しています。本郷にある東大の工学部のキャンパスと上野にある藝大のキャンパスは距離が近く、よりコラボレーションが生まれやすい環境にあると思っています。
スタンフォード大学には芸術学部と工学部があるのですが、両者の学生が交流し一緒にプロジェクトを行うことが多いそうです。これは敷地内に両者のキャンパスがあるため、「今度こういうこと一緒にやってみない?」「いいね、じゃあ夕方にカフェテリアで話そう!」といったコミュニケーションが繰り広げられているそうなのです。日本でもこういったコラボレーションが、東大生と藝大生の間で生まれやすい環境ができあがっていくことを期待しています。

――講座内の、学生たちによる最終発表会をご覧になっていかがでしたか。

山崎:まず、学生のファーストアイデアからの進化を感じました。講座を通じて、個人で考えていたアイデアにチームで取り組むようになり、多様な専門性が加わりました。これにより、論理性と実現性が向上したと思いました。一方で、ファーストアイデアにあった「なんか、いい」は薄らいでしまった部分も感じました。説明的にすることで理解を得られる反面、感覚的な共感、心で感じる魅力を侵食するリスクも伴うこと、このバランスを操る絶妙なプロデュースが大切ですね。

鈴木:「お!始まったな!」という感じです(笑)。初年度の講座の最終発表であり、これが講座としての始まりなのだと思うのです。実際、学生はこの講座が始まって以来、面白い動きをしています。自分がやっていることを面白がってくれる人がいる、ついてきてくれる人がいる。それを知るだけで自信がつき、次に進めるのだと思います。

杉上:2020年度はコロナ禍で臨機応変な対応が必要となる難しいスタートでした。藝大での講座は5月半ばに始まり、学生同士を対面させたり同時期に同じプログラムを実施したりするのは難しかった。試行錯誤は色々ありましたが、オンラインでも何組か、藝大生と東大生の混成チームが生まれ、最終発表終了後も活動を続ける彼らを見て、改めて講座をやってよかったと思っています。藝大生の特性の理解が進んできたので、これからが更に楽しみです。

ソニーグループ株式会社 Startup Acceleration部 プロデューサー 杉上 雄紀 
ソニーグループ株式会社 Startup Acceleration部 プロデューサー 杉上 雄紀 

講座が学生の自信になる。自由な空気感で、才能を引き出す。

――今回の講座を通じて、学生や学科の変化を感じる点はございますか。

山崎:講座ではチームでの活動が多く、人を巻き込み動かすことがプロジェクトにとって大きな力になることを学び、またそれが個人での活動以上の力を生むことを実感したと思います。自身の考えが揺らいでいると、プロジェクトも人も動かないことを感じた人もいると思います。周囲に耳を絡むけて改めて信念を貫くこと、広い視座で周囲を見ることなど、考えの持ち方には、明確な変化があったと感じます。

鈴木:山崎先生の仰っている通りだと感じます。未知なことに足を踏み入れる。これは学生にとって相当に勇気のいることです。その勇気を乗り越えてこの講座をやり遂げた。それは本人にとって大きな自信に繋がっていると思います。一方で、全員が全員 「やり遂げた」と感じなくても良いかな、とも思います。いまの学生に直接的に響かなかったとしても、5年後、10年後に、ジワジワ響いてくるものだと思うのです。

――今後の社会連携講座への期待、来年度の展望をお聞かせください。

杉上:藝大生は強い原体験を持っていて、抽象的な心象風景を可視化できる人が多いです。論理的でニーズ検証をうまく回せる東大生と組みながら、より野心的な未来構想を描くことをお手伝いしていくことで、自分起点のプロジェクトが社会実装されていく好例を作っていきます。また講座が「楽しかった」だけで終わってはダメですが、楽しいからこそはまるし、はまるからこそ成果が出るし成長にもつながる。「やってみたら、ほんとうに楽しかった!」と学生に言われる講座にしていきたいです。

山崎:今後の社会連携講座も、参加者の多様性を鑑み、学生の型にはまらない柔軟性と進め方を尊重し、学生の創造力や行動力を存分に発揮できる自由な空気感で実施したいですね。学生の個性、性格、専門性に合わせて、我々運営側がその能力を引き出す工夫が重要だと思います。過去に成功した計算式に当てはめず、共に歓喜し共に悩み、共に考えて、これからの社会連携講座のスタイルを模索しながら進めていきたいと思います。学生の才能を生かし、他が思いつかないような独創的な魅力価値を誘発できればと思います。

鈴木:参加者である学生も、運営側も日々新しいチャレンジです。学生それぞれの面白さをどう引っ張っていくか。学生がどこまで本気を出すか。こちら側も今後もずっと悩みながら進めていくことになるのかな、と思います。この講座を通して、アウトプットにワクワクが出てくるような、新しいデザインの仕組みを創り上げられたらよいな、と期待しています。

講座でのチームの活動の様子
講座でのチームの活動の様子

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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