2020.01.30
東大とソニーの社会連携講座

#08 取り組みのきっかけインタビュー

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)は、2019年度に東京大学と社会連携講座を開講しました。企業と大学・学生が連携し、スタートアップを創出する「産学協創エコシステム」の発展を目指しています。本講座では、年1回のニーズ検証結果をピッチするイベント「オーディション」を軸に、「トレーニング」、「ワークショップ」等が行われています。

今回は、講座の企画・運営に関わった東京大学 工学系研究科の中尾教授・長藤准教授と、SSAP代表の小田島 伸至、講座プロデューサーの杉上 雄紀に、取り組みのきっかけ・今後の展望についてインタビューしました。

新規事業に年齢は関係ない。学生自らがテーマ設定をする、新しい教育への挑戦。

――中尾先生、長藤先生の講座でのお立場・役割をお聞かせください。

中尾政之さん 東京大学 工学系研究科 機械工学専攻 教授
中尾 政之さん 東京大学 工学系研究科 機械工学専攻 教授

長藤:中尾先生も私も東京大学大学院 工学系研究科に所属しており、今回の講座の実施に向け、企画・運営や学内での調整を行いました。私は現場に近い立ち位置で講座の企画・運営に携わり、中尾先生は、大学内の教員とのコミュニケーションをメインに行いました。

中尾:私は工学系研究科の中で、創造設計をキーワードにした講義を持っています。機械と電気を融合させた面白いモノづくりを目的としていたものの、世の中に出ていくレベルのものを生むことは非常に難しい。そんな時にSSAPの取り組みを知り、この枠組みならエンジニアリングとビジネスを掛け合わせ、世の中に通用するレベルのものを生み出せるのでは、と考えたのです。

長藤: SSAPとの取り組みは、私達にとっても新たな挑戦。例えば従来の社会連携講座は、学生の研究論文とリンクさせた「研究」がベースになっていましたが、今回は授業とリンクさせた「教育」の形で実現しました。また講座の手法として従来は、学生が企業から課題を貰って施策を考える「Project Based Learning(PBL)」がメインでしたが、今回は学生が自分達でテーマ設定をするところから始まる「Project Creation Learning(PCL)」を企画・構想しました。

長藤圭介さん 東京大学 工学系研究科 機械工学専攻 准教授
長藤 圭介さん 東京大学 工学系研究科 機械工学専攻 准教授

――工学系研究科としても新たな取り組みだったのですね。ソニー・SSAPと今回の講座を行うことになったきっかけは?

杉上雄紀 ソニー株式会社 Startup Acceleration部 プロデューサー
杉上 雄紀 ソニー株式会社 Startup Acceleration部 プロデューサー

杉上:私自身の経験から「SSAPのような仕組みが大学にもあったら面白い」と考えたことが始まりです。私はソニーに入社して7年目の時にSSAPの枠組みで新規事業を立ち上げました。その時に感じたのが、「新規事業に年齢は関係ない」「もっと若いうちから挑戦したかった」ということ。例えば大学生のうちに学内で新規事業に挑戦し、その経験を活かして社会に出た時、新たに挑戦できれば良いのでは?と考えたのです。
私は中尾先生の研究室の卒業生で、新しいモノづくりの楽しさを教えてくれたのはまさに東京大学 工学系研究科であり、中尾先生。SSAPの仕組みを導入するなら自分の原点である場所が良いと考えました。

小田島:SSAPが社外へのプログラム提供を開始した2018年秋頃の丁度良いタイミングで、杉上から提案を貰いました。SSAPとして大学と組むのは初めてでしたし、当初は大学と同じPurposeを持てるのか、という点が気がかりでした。しかし同年11月、中尾先生・長藤先生とお会いした際に、直感的に同じ方向を向いてやっていけることを確信しました。

中尾:2019年2月には社会連携講座設置のプレスリリースを配信しましたから、非常にスピーディでしたね。ここまでスムーズに話が進んだのは、「学生が特許を取れる」点が画期的だったからではないでしょうか。これまでは教授が特許を取れても学生にはそれが認められていませんでした。
学生の就職活動等を見ていても、最近は世の中の流れが変わってきていて、社会に求められるのは「理解力」があるだけでなく、こういう商品を作りませんか、と言えるような「提案力」がある人材になってきました。そういった側面でも実践的な教育はまさに今、必要なものでした。

期待を超える学生の姿。幅広い分野の経験・人材との融合がキーポイントに。

――講座に期待していたこと、不安に思っていたことは?

杉上:「そういうアイデアがあるのか」と、想像もしていなかったような角度からのアイデアが出てきてほしい、とワクワクしていました。不安に思っていたのは、本当に受講生が集まるのかということ。蓋を開けてみると講座のオリエンテーションにも学生がとてもたくさん来てくれて、受講生も当初の予想を超える約30名が集まりました。

長藤:私も当初は、受講する学生が集まるのか、ということを危惧していました。しかし結果多くの学生が集まり、ワークショップでは会社やNPOに所属する方々をゲストとして呼んだり、トレーニングではメンターによるコーチングを行ったり、様々なアプローチができました。それらの成果か、最終審査での学生達のピッチは想像以上にレベルが高かったです。

小田島:私が講座に期待していたのは、学生が持つ「ポテンシャル」です。これまで多くの新規事業を育成してきた経験上、成功する人材には共通して「純粋さ」と「やり抜く力」が備わっています。東大生は学業の難関のスクリーニングを通ってきたという点で、上記2つの要素を持つポテンシャルのある人材です。
一方で不安に思っていたのは、事業を創っていくための「コミュニケーション能力」。事業を行うには関係者に自身のアイデアをわかりやすく伝え、周囲の協力を得るための力が必要不可欠です。その点は学業では測れないので、未知数だと思っていました。

小田島伸至 ソニー株式会社 Startup Acceleration部門 副部門長
小田島 伸至 ソニー株式会社 Startup Acceleration部門 副部門長

中尾:研究や教育のお作法は「仮説と立証」で、「仮説」を考える部分から学生自らが行えるという点に期待していました。普通の講義では、教授が「仮説」を出して、学生が立案・立証をしますから、今回の講座はとても新鮮でした。最終審査でピッチをした10組の仮説はとても面白かったですね。

――講座開始初期のSSAPの印象、最終審査を終えた今の印象は?

中尾:最終審査でピッチを行ったチームの中で面白いアイデアを出していた人達は、留学をしたり休学をしたり、様々な経験をしている人が多かった傾向にありました。つまり講座自体も、大学の中だけに閉じてしまうのでは勿体無く、他の大学の学生や、人生のまわり道で面白い経験をした人たちとも融合できる機会が必要だということ。そういった機会を今後も増やし、学生達がより広い視野でアイデアを考えられるようにしていきたいですね。

小田島:私は中尾先生と長藤先生がこの講座に関わってくださったことが本当に幸運だと思っています。新規事業の創出や育成は社会の課題で、それに気づいて動いていらっしゃる方はまだまだ少なく、貴重な存在です。また実際に学生の様子を見ていると受講生は集中力があり熱しやすい人が多かったように感じました。

長藤:そういったキャラクターの学生が今回の講座に魅力を感じ自然に集まってきたのだと思います。このようなアンテナを張っている学生に火をつけ持ち上げていくことで、組織全体のレベルアップを行いたいですね。

この社会連携講座が、多くの学生に憧れられるモデルケースとなることを目指して。

――2019年度から開始した社会連携講座。今後の講座に期待することは?

東京大学 工学系研究科の中尾教授・長藤准教授、SSAP代表小田島伸至、講座プロデューサー杉上雄紀

長藤:この講座を始めてから学内外から多くの反響があり、世の中からのニーズがあるということがわかりました。今後もこのような取り組みをまずは大学内で広めていきたいです。

中尾:機械工学専攻だけに閉じず、大学全体でこういった講座のカリキュラムを整備したいですね。学生がアイデアをベースに簡単にプロトタイピングできる環境も整備して、文系と理系関係なく融合してモノづくりができるような面白い組織にしていきたいと思います。

小田島:SSAPとしての観点からは、「フォロワー」ではなく、自分で課題を定義しソリューションを考えていける「リーダー」を務められる人材を発掘したいと考えています。
また学生の教育という観点からは、「何のために勉強するのか」という“目的”がわかりやすいプログラムにしたいと思います。この講座がいずれ、多くの学生に憧れられるようなモデルケースになると嬉しいです。

杉上:私はこの講座を通じて“イケてる先輩”を増やしていければと思っています。お互いに高め合えるチームが溢れるような環境を作っていきたいです。
また、学生たちが「自分が本当にやりたいことは何か」という問いを考え、そこから己を見出し、世の中を大きく変えることを目指して秘めたる野心に火をつける、という状態に自然となっていくようにできればと思っています。スタートアップを通じた自己実現ですね。それが結果的に個人の成長と、面白いスタートアップの創出に繋がっていくはずです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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