2021.03.15
社会連携講座@大学

#08 【東京大学】グランプリチームインタビュー「アイデアの社会実装、きっと社会を変えられる」

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)は2019年度に東京大学と、2020年度からは東京藝術大学と社会連携講座を開講しました。企業と大学・学生が連携し、スタートアップを創出する「産学協創エコシステム」の発展を目指しています。本講座では、年1回のニーズ検証結果をピッチするイベント「オーディション」を軸に、「トレーニング」、「ワークショップ」等が行われています。

今回は、東京大学にて行った講座のオーディション最終審査でグランプリを受賞したチームの方々5名、東京大学 文学部社会学科4年 王美月さん(写真一番左)、同 人文学科 美学芸術学専修課程3年 大場爽一朗さん(左から2番目)、同 工学部システム創成学科2年 熊谷大樹さん(左から3番目)、同 工学部機械工学科4年 原田龍之介さん(写真一番右)、デジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部デジタルコンテンツ学科 田中 礼さん(写真掲載無し)にインタビューしました。

「アイデアの社会実装」。チームで駆け抜けた半年間。

――講座に応募したきっかけは?

王:もともと私は、今回我々のチームで取り組んだテーマである「地域の個人飲食店のサポート」に興味があったのですが、自分一人では何をすべきかもわからず、モヤモヤしていました。そのタイミングで本講座を知り、自分の問題意識に向き合える場になるかもしれないと思い参加してみました。
講座の中で個人が持っているアイデアを発表し合う回があり、そこで私の課題意識に共感してくれるメンバーが数名集まりました。それが嬉しくて、ぜひアイデアを形にしてみたいと思い、チームを編成してコミットすることを決めました。

大場:私はこの講座で、自分のアイデアを「実際に世の中に出すことができる」という点に惹かれました。これまでビジコンやアイデアソンに積極的に参加したことはあったものの、結局は企画段階で終わり、実装までコミットできない点に段々と物足りなさを感じるようになりました。そんな時に見つけたのがこの講座でした。

熊谷:コロナ禍でサークル活動にも行けなくなった分、何か新しいことを始めたいなと思い面白そうな講座を探していました。一方で講座のペースについていけるのかなという不安もあったのですが、講座のプロデューサーであるSSAPの杉上さんがオンラインで開催していたイベントにも参加してみて、面白そうだと思い参加を決めました。

原田:私は機械工学科の所属なのですが、「エンジニアとしての成長にはビジネスの知識が今後活きてくるだろう」と考えていました。しかし実は単位としては既に取得していた枠のものだったので今年参加するかは非常に迷いましたが、予定していた留学が中止になったり、前年度参加していた友人の後押しもあり参加を決意しました。

田中:大場さんに似ていて、「アイデアの社会実装」という点に惹かれ応募しました。「自分が世の中に還元できる方法は何だろうか」を知るために、この講座に参加したのです。また、私は入学以来ずっとリモート授業という状況で孤独の身を極めており「チームで何かしたい」「少しでも誰かと繋がりを持ちたい」という思いもありました。

――今回5人のチームですが、チームはどのように組みましたか?

王:我々のチームは5人構成ですが、そのうちの3人(熊谷さん・原田さん・大場さん)は私が授業等でメンバー募集をしてみたところ、同じ課題意識を持っている同志として4月に集まりました。そこから6月にオーディション通過した後にデザインに通じているメンバーが必要になり、私が声をかける形で7月あたりから田中さんがジョインしてくれました。

メンター・メンバーで撮ったオーディション当日の写真
メンター・メンバーで撮ったオーディション当日の写真

インプットと実践の繰り返し。実際の店舗での「実証実験」も。

――講座では具体的にどのようなトレーニングを受けたり、フィールドワークを行ったりしましたか?

王:「トレーニング」では、他のチームの皆さんと一緒に週に1回、オンライン講義で丁寧に教えていただきました。具体的なテーマには、ビジネスモデル・アイデア創出・収益計画・ピッチなど、スタートアップに必要な基本的な考え方について。また「メンタリング」では、チーム個別にオンラインで週に1回行っていただきました。進捗確認をしてもらったり、細かく個別相談をしてもらったり等、その時のチームのフェーズで必要なアドバイスを細かくしていただけました。「フィールドワーク」はコロナ禍で外出の制限があったので、オンラインでのコミュニケーションをメインに、顧客・専門家インタビューをたくさん行いました。さらにサービスの実証実験は、実際のお店で行いました。

活動の中で作成したインタビューシート等の資料の一部
活動の中で作成したインタビューシート等の資料の一部

――講座の半年間で一番苦労したポイントはどこでしたか?

王:「地域の個人飲食店を助けたい」という課題意識から始まった活動を「どうビジネスにしていくか」を考えることが非常に大変でした。最初はどうしても「助けたい人(飲食店側)」に目がいってしまって、顧客側の課題の深掘りが甘かったり。飲食店側と顧客側、双方のニーズを満たすアイデアを発想する点に苦労しましたね。

大場:個人的には実証実験の段階が一番辛かったです。実験をするためには、協力してくれる飲食店を探す必要がありました。しかしただでさえコロナ禍で店舗側にも余裕がない中、学生の実験に進んで協力してくれるお店なんてあるはずもなく、心無い言葉をかけられることも多々ありました。しかし結果的にある店舗で協力いただけることになり、実験後に店長さんにお礼を伝えると、「営業に来たのが大場君だったから、協力することに決めたんだよ」と。この時は、思わず感激して泣いてしまいました。この時の気持ちは、生涯忘れることはないと思います。

実際の店舗で実証実験を行った際の様子
実際の店舗で実証実験を行った際の様子

原田:私はエンジニアとして、アプリのバックエンドの設計と実装、そしてフロントエンドとの連携を担当していました。これらをワンオペでこなすことはかなり大変でした。特に自分以外のメンバーは設計に携わったことがなかったため、意思疎通が難しかったですね。夜の会議で急遽方針が変わり、翌朝の実証実験までに新しく3つの要件を実装しよう!と決定したときは正直死ぬかと思いました(笑)。特に実証実験は店舗の方を含めて一般の方にもご協力いただくものだったので責任も感じていました。
また、チームメンバーが自分を含め、それぞれ考えを貫くタイプの人が多いチームだったため、議論が活発化するという強みがあると同時に、意見の収束が困難になった場面も多々ありしたね。

熊谷:そうですね、この講座がほぼオンラインでの活動だったこともあり、チーム内でのコミュニケーション面は例年以上に難しかったと思います。私はチームメンバーそれぞれと密にコミュニケーションをとっていた方だったので、チームが上手く連携できなくなると、最初に気付いてしまうんです。「これ、やばいかも」と思ったタイミングは何回かありました。ライフスタイルが全然違う人たちが、オンラインで長期的な活動をするというのは難しさもありましたね。

田中:私はプロジェクトの最後の数か月間は新潟に引っ越した関係で、リモートで活動していました。実証実験はリアルの場で行っていたので、リモートで出来ることは何だろうかと常に考えていました。

チームの次の目標は、新御徒町に新しいランチ文化を作ること。

――皆さんそれぞれの役割で、壁にぶつかりながらも着実に乗り越えてきたのですね。では、講座の中で一番学びになったことは何でしょうか?

王:少し誇張した言い方にはなりますがが、「熱意を持って取り組めば、自分にでもきっと社会を変えられる」ことでしょうか。
我々の活動の始まりは、近所の中華料理屋さんのおばあさんが道端でポツンと弁当を売っているところを見て、何かしてあげられないかと思ったことでした。最初は一消費者としてその店でお弁当を買うことでしか貢献できず、無力感でいっぱいでした。しかしこの講座を通して賛同してくれる仲間が集まり、本気で向き合ってくれるメンターに出会えた。講座開始当時は本当にダメな案しか出せなくて、熱い思いだけで「なんとか拾ってもらえた」私たちでしたが、諦めずに取り組み続けました。最終的には実際のお店に「みんながいて助かった、ありがとう」と伝えてもらえるようになりました。経験が足りなくても、熱い思いで取り組み続けることができれば、きっと社会を変えられる。この講座にはそんな場が用意されていると思います。

大場:一番の収穫は、「クリエイティビティとは何たるか」を知れたことです。今まで私は、本当にニーズがあるかどうか分からないアイデアを出して、新規アイデアを思いつく自分はクリエイティブだなと喜んでいました。しかしながら、講座を通してクリエイティビティとは、「自分が作るものの先にいる人達を喜ばせるために、最後までその人達のことを想い続けることのできる力のことなのだ」と思うようになりました。新しく培った、この精神をこれからも大事にしていきたいです。

熊谷:デザイン思考を学べたのはとても大きかったです。しっかりとニーズ調査をしてそのニーズに合致したサービスを作ろうと、メンバー全員で悩んだ時間はかけがえのないものだったかなと思います。

田中:一つの課題を解決するアイデアをつくるということが、想像以上に時間と労力のかかる作業だということが発見でした。仮説を立てプロトタイプを作っても、検証してみるとターゲットの人にまるでウケないという事が多々ありました。アイデアを出すということへのイメージが180度変わった半年間でした。

原田:新規事業アイデアを立案・実行するプロセスを吸収できたことが一番の学びです。自身の研究にも役立つ知識を得られたと思います。さらにプロダクトマーケットフィットやリーンスタートアップの考え方など,今後自分がモノづくりをする上で必要なマーケティングや検証の知識を習得できたのは、社会に出てから非常に役立つと確信しています。

――今後のチームの展望は?

王:直近の目標で言えば、今年中に「新御徒町に新しいランチ文化を作ること」が目標です。2021年の秋までにサービスやオペレーションなどを改善し、規模を拡大して複数店舗で実証実験を行う予定です。我々がつくったサービスを利用してくれたお客様がよりランチを楽しめるようになり、その結果、街の個人飲食店が活性化するような事例を作りたいと思います。最終的にはサービスの展開をランチだけでなく、ディナー・テイクアウトにも広げることによって、それぞれの個人飲食店が自分たちの個性を存分に発揮でき、それぞれのお店の個性を楽しむ人であふれる世界をつくりたいです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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