Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)は2019年度に東京大学と、2020年度からは東京藝術大学と社会連携講座を開講しました。企業と大学・学生が連携し、スタートアップを創出する「産学協創エコシステム」の発展を目指しています。本講座では、年1回のニーズ検証結果をピッチするイベント「オーディション」を軸に、「トレーニング」、「ワークショップ」等が行われています。
今回は、社会連携講座が設置されている東京大学 大学院工学系研究科の染谷 隆夫 研究科長、SSAP責任者の小田島 伸至に、本講座の振り返りや今後の展望をインタビューしました。
「どうやるか」だけでなく、「なぜやるか」を問う。
――染谷研究科長の東大工学系研究科での役割をお教えください。
染谷:現在、東京大学大学院工学系研究科の研究科長、工学部の学部長をつとめています。東京大学工学部は、1886年に帝国大学工科大学として誕生して以来、時代とともに変化する社会の要請に応えるため、常にダイナミックに変化してきました。工学系研究科は18 専攻、11附属施設(2機構、9センター)、工学部は16学科で構成され、約540名の教員と約220名の事務・技術職員が所属し、日夜研究・教育に励んでいます。また、約2,200名の学部学生、約2,300名の修士課程学生、約1,100名の博士課程学生が工学を学び、研究活動を進めています。
――ソニーとの社会連携講座の実施についてはどのような印象をお持ちですか。
染谷:従来の産学連携では、企業のニーズと大学のシーズをマッチングさせる取り組みが中心でした。一方で、本講座では、学生の教育が大きな目的になっています。課題発見やニーズ検証を重視したプログラムを実施しています。「どうやるか」だけでなく、「なぜやるか」を問うています。
昨年度の優勝チームは社会実装を実現。学生の多様化、リアリティを見定めた実践へ。
――昨年度の講座の優勝チームは活動を継続しているそうですが、進捗はございますか。
小田島:昨年度は3Dプリンターでフルオーダーメイドインソールを作るというアイデアを提案したチームが優勝しました。その後もチームメンバーは意欲的にブラッシュアップを続け、SSAPもサポートをしてきました。そして、いよいよ2021年4月1日からFirst Flightにてクラウドファンディングに挑戦しています。ジャストアイデアだったものを1年間でここまで具現化したことは素晴らしいスピード感だと思います。チームのアイデアが社会実装され、課題を抱えてらっしゃる方の問題解決に繋がることを期待しております。
――本講座は2年目の取り組みでしたが、今年度を振り返っていかがでしたか。
染谷;2年目となる2020年度は、経済学部や文学部、さらには東京藝術大学の学生や社会人の方々まで参画し、多様性がより高まりましたね。
小田島:1年目は間もなく社会人となる工学系大学院生を対象に始めましたが、2年目である今年度は、染谷さんが仰っているように工学部・他学部の学生、更に駒場キャンパスに通う教養学部の学生等、参加者の枠を大幅に広げました。また、東京藝術大学やデジタルハリウッド大学にも参画していただき、更にメンターも様々な企業や組織から加わっていただき、非常に多様性に富んだ環境を作ることができました。
参加人数についても、Workshopに約500名、Trainingに約250名が参加され、Auditionには約100件のエントリーがありました。いずれも昨年比約1.5倍の増加です。プログラムの質的な面では、自分で課題を定義しソリューションを実行できるリーダー人材の発掘や育成を念頭に、社会のリアリティをしっかり見定めた上で、実践を意識できる内容になるよう努めました。コロナ禍での運営となり学生や現場のスタッフは大変だったと思いますが、結果としてクリエイティビティは更に増したように思います。
――オーディション最終審査をご覧になっていかがでしたか。
小田島:この1年はコロナ禍の影響で社会の構造やあり方が大きく変わりましたが、事業提案もその社会の現実を捉えたものが多かったです。デジタル技術を駆使して、人々の生活を豊かにしつつも、効率化やロスを無くそうとする案や、心や脳のケアを追求しようとするものなどです。また、チーム構成も東大生と藝大生、デジハリ生の混合チームがいたり、メンター陣も含め昨年よりも多様化が進み、ソリューションやプレゼンテーションの質も高まったように思います。最終審査に向け案をまとめていく過程で、チームビルディングの経験をされ、マネジメントの難しさを社会に出る前からいち早く経験し、大きく成長された方もいらっしゃったようで、実践型の研修の意義を感じています。
講座が学生に、殻から脱皮するような刺激を与えてくれたと思う。
――今回の講座を通じて、学生や学科に何か影響がございましたか。
染谷:いずれのプロジェクトでも、学生は、各自の原体験のような思い入れのある出来事を動機としていました。オーディション最終審査では、プレゼンの途中で感極まって涙ぐむ学生や、人生が変わったと言う学生もいました。
東大工学系研究科・工学部の学生は、提示された課題を決められた条件の下で取り組むことには長けている一方で、課題発見能力をより伸ばしていって欲しいと願っています。今回の講座は、その殻から脱皮するような刺激を多くの学生に与えてくれました。
――今後の社会連携講座への期待、展望がございましたらお教えください。
小田島:SSAPは引き続きリアリティと実践を重視していきます。社会を変えたいという意欲のある方々が速やかに社会実装できるような環境を提供していき、持続的に社会課題の解決を実践していける人材を着実に増やしていきたいと思います。このプログラムに参加される学生さんは既に十分な意欲をお持ちの方ばかりと思います。そもそも意欲を持てることが最大の才能ではないかと思っています。そうした皆様が、一生を捧げられるような課題を発見し、最初の一歩目を踏み出す一助となれることを願っております。
染谷:本社会連携講座のプログラムを通じて、多くの学生が課題発見やニーズ検証に取り組みました。これらのプロセスを早めに経験して、在学中に意識的に磨きをかけていくことは、社会に出た後で大きな差になります。工学系研究科では、社会連携講座の枠を活用しながら、既存の概念に捕らわれず、時代の要請に合った人材育成を産業界と共に実践して参ります。