Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2018年10月からは京セラ株式会社(以下”京セラ”)にサービス提供を開始し、京セラのメンバーがソニー本社内の専用スペース「Incubation Booth」に入居しています。そんな取り組みから生まれたPossi。どのような経緯でSSAPが京セラへサービス提供をするに至ったか、またどんなドラマがあったのか等、本プロジェクトを、連載にてご紹介してまいります。
今回は、マーケティングを担当された京セラ株式会社の田中孝之さん、大山修平さん、ライオン株式会社の中島輝久さん、水谷みなもさん、そしてSSAPのアクセラレーター井上令子による対談をお届けします。クラウドファンディングによる事業化のため、短い期間で一丸となって実施してきた施策などについてお話を伺いました。
限られた時間のなかでのプロジェクト加速を目指して。
──Possiの開発プロジェクトは2018年10月に発足されましたが、皆さんはそれぞれ、いつ頃からプロジェクトに参加されたのでしょうか?
京セラ大山:田中と私は、Possiの商品コンセプトや基本的な機能が決まった2019年4月に加入しました。そのタイミングでは、簡易的なモックしかできていない状況で、商品の色や世界観を決めることからスタートしました。
ライオン中島:私も同じ時期で、生産や販売のところでスピード感を出していくため、これから人員が必要になってくるというタイミングで参加しました。
ライオン水谷:私がプロジェクトに参加したのは、皆さんより少し早い2019年1月になります。ちょうどライオンのPossiプロジェクトへの参加が決まったタイミングで、Possiのハブラシ部分の受容性および顧客調査を担当させていただきました。
SSAP井上:私は2019年4月からになります。クラウドファンディングを7月に始めるにあたってマーケティングの準備が始まるタイミングで、3ヶ月という短い期間で一気にいろいろと進めていきました。
新しい体験や価値を売る。習慣化してもらうための販売プランを立案。
──クラウドファンディングを行うにあたって、商品の値段などはどのように決めていったのでしょうか?
ライオン中島:Possiの場合、“競合がいない分野”であり難しい部分もあったのですが、まずは「必要な機能を実現した上でどこまでリーズナブルに作ることができるのか?」といった機能と価格のバランスを考慮して販売価格を検討しました。
京セラ田中:お客様にもヒアリングしていき、「このぐらいの値段だったら買ってもいいかな」といった“値ごろ感”を調査していきました。コストとお客様の求める値段、その両方でどこまでできるかを擦り合わせていったイメージです。
ライオン水谷:価格を抑えれば購入してくれる人も増えるかもしれませんが、新しい価値を提供する上で必要な技術を妥協できない部分もあります。Possiが提供する価値に対して“お金を払ってくれる人が一定数いるかどうか”も、ヒアリングのなかで見極めました。
──ライオンさんのなかでは、やはり1万円を超えるハブラシは“高い”という反応もあったのではないでしょうか?
ライオン中島:そうですね、ライオンが販売する日用品のなかで1個1万円以上するものはありませんからね。ただ、我々が従来考える開発の切り口とは異なり「エンタテイメント性」から商品開発を行うことで、今回のような価格が成り立つということを学べたことは非常に良かったです。
──支援プランのセット内容(*1)はどのように決めましたか?
京セラ大山:“ものを売る”というよりは、“新しい体験を売る”ことが大事だと考えています。そのため、“仕上げ磨きが習慣化されるにはどのくらいの期間が必要だろう”、というところから検討し、1ヶ月に1本のブラシを使用するものとして4ヶ月分のブラシを含むセットをクラウドファンディングの支援プランに設定しました。
*1 ベースプランセット内容:ポッシ1匹(本体+ブラシ)、ポッシのしっぽ3本(替えブラシ)
各社の繋がりを生かしながら、スピード感を持って販路を開拓。
──クラウドファンディング中の認知拡大施策は、どのようなものがあるのでしょうか?
SSAP井上: SSAPではこれまで数多くのプロジェクトや商品を扱ってきたこともあり、家電量販店や百貨店などの実店舗をはじめ、様々な業態の取引先との繋がりがあります。各商品に合わせた販路のリストもあり、今回もそれを活用しました。
──そのなかで今回、蔦屋家電+さんでのPossi展示イベントが実施されましたね?
SSAP井上:以前に別件で店頭展示させていただいた繋がりがあったことと、今回も新しい商品の見せ場としてすごく良い場所だと判断しましたので、声を掛けさせていただきました。蔦屋家電+さんからもPossiに対して好反応をいただいたこともあって、トントン拍子に決まっていきました。
ライオン水谷:蔦屋家電+さんを訪れるお客様と、私たちが想定するPossiのターゲット層とが合致するのではないかと。また、店頭でPossiを体験したお客様の反応をリアルタイムに共有してくれるという仕組みがあったことも大きな要因でした。
ライオン中島:性別や年代などのデータと併せて、お客様の感想も共有していただきました。「子供に使ってみたい」、「すごく良いので、家に帰って検討します」など、ポジティブなコメントを多くいただいたときはすごく嬉しかったですね。
──京セラさん・ライオンさんがお持ちの繋がりから認知拡大施策を決めていくこともありましたか?
ライオン中島:ライオンの繋がりを生かした一例としては、福岡にある保育園で実施したPossi体験会があります。普段からお付き合いのある取引先に声を掛けてすぐに打ち合わせを行い、その週には福岡まで赴いて体験会の開催からレポートの撮影までを一気に敢行しました。これまでライオンが培ってきたネットワークを最大限生かして、このスピードで実現できました。
京セラ田中:京セラ側でも、イオンモールさんで体験会を開催しました。直接の繋がりがあったわけではないですが、夏休み前に家族連れが集まる場所でイベントを実施したいと思い、その場ですぐ電話してアポイントを取って決めていきました。私は、普段から新規開拓の営業を担当していますので、その経験も活かしフットワーク軽く動くことができました。
SSAP井上:SSAPでは、社内のネットワークを生かして、SNS広告の出稿や著名なママさんブロガーへの執筆依頼なども展開しました。3社でこういった施策を進めていくにあたり、普段から近くにいる「Incubation Booth」という環境があったからこそ、何でも話しやすく、小さなグループとしてスピード感を持って取り組むことができたと思います。
前例のないことだからこそ、予想外のこともたくさん。
──今回のオープンイノベーションとして参加されたプロジェクトや、Possiに対する周囲の反応はいかがでしたか?
京セラ大山:京セラのなかでは、興味を持って、面白いと言ってくれる人たちが多かったですね。それもあってみんな協力的でしたし、社内での調整もスムーズにいくことが多かったです。
京セラ田中:いままでやったことのない分野に行こうとしていることを社内のみんなが認識してくれていましたので、それが大きかったと思います。
ライオン中島:前例がないために、社内調整で時間が掛かることもありました。そんなときは、京セラさんやソニーさんと協業している意義をきちんと伝えることで話を通していきました。3社の名前が並ぶことはとても価値があり、社外に向けても大きなブランディングができたのではないでしょうか。
ライオン水谷:Possiの情報がリリースされた後は、社内外のいろいろな方が興味を持つようになって、様々なアドバイスをいただけるようになりました。商品自体の面白さもあるかと思いますが、ライオンが持つ繋がりを通じて、古くからの取引先からもポジティブな反応をいただけたのは非常に嬉しかったです。
子供との時間が豊かになる。一人でも多くの人にPossiを届けたい。
──最後に、Possiに掛ける思いを一言ずつお願いします。
ライオン中島:Possiは実際に体験してもらわないとなかなか価値が伝わりづらい製品だと思います。言葉ではなかなか言い表せない部分が大きいので、その価値を伝えるためにも、できることは何でもやっていきたいと考えています。
ライオン水谷:マーケティング調査の中で、小さな子供を持つ人たちにヒアリングを行ったのですが、「いますぐ欲しい」という仕上げ磨きに苦労する切迫した声をたくさん聞きました。Possiによって、世の中のお父さんお母さんたちが笑顔になって、子供と一緒に豊かな時間を過ごせるようになってくれれば嬉しいです。
京セラ大山:Possiを作って“終わり”ではなく、“先につながる第一歩”にしたいと思います。京セラ社内でも、これまで以上に新しいことにチャレンジし、お客様目線の商品をどんどん世の中に送り出していけるようになればと願っています。
京セラ田中:今回のプロジェクトを通じて、それまで持ちえなかった視点や新しい商品への展開を勉強させていただきました。複数の観点、異なる文化が合わせることで、画期的で新しい製品の開発の可能性があることを立証できたと思いますので、今後はそれを広めていきたいと思います。
SSAP井上:支援者の方々から「子供と一緒にPossiを使うのを楽しみにしています」といった声もいただいています。仕上げ磨きの悩みを解決するだけでなく、親子の時間を楽しむことができるよう、京セラさんやライオンさんと一緒に作り上げてきました。その良さを一人でも多くの方に届けていきたいです。
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『オープンイノベーションによる企業間連携 Possi誕生ストーリー』(全10回)
#09 「そこまでするのか」と言われても。協業を通してマネジメントが大切にしたかった「体験」とは
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