2019.07.22
オープンイノベーションによる企業間連携 -Possi誕生ストーリーー

#02 Possiのアイデアが生まれたとき

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2018年10月からは京セラ株式会社(以下”京セラ”)にサービス提供を開始し、京セラのメンバーがソニー本社内の専用スペース「Incubation Booth」に入居しています。そんな取り組みから生まれたPossi。どのような経緯でSSAPが京セラへサービス提供をするに至ったか、またどんなドラマがあったのか等、本プロジェクトを、連載にてご紹介してまいります。

今回は、開発プロジェクトリーダーである京セラ株式会社の稲垣智裕さんに、「音の鳴る歯ブラシ」といったユニークなアイデアが生まれたきっかけや他企業との協業に行きつくまでの背景など、SSAPとともに走り抜けてきたプロジェクトの全容について伺いました。

稲垣 智裕さん 京セラ株式会社
稲垣 智裕さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター 東京事業開発部 事業開発3課 Possi開発プロジェクトリーダー。学生時代より趣味でギターを弾いており、音に関する製品の開発に携わりたいという思いから、前職では補聴器のエンジニアリングを担当。2005年に京セラへ転職し、携帯電話の開発などに携わる。

「エンジニア」であり「三児の父親」でもある。2つの側面の融合から、生まれたアイデア。

――まず、「Possi」はどのような商品なのでしょうか?

稲垣:「Possi」は、「子どもが嫌がる歯磨きを楽しい時間に変える」をコンセプトに、デザイン・音楽・テクノロジーを融合させた新しい子ども向け仕上げ磨き専用ハブラシです。仕上げ磨きが必要な時期のお子さんを持つ親御さんをターゲットにしています。

Possi

――とても斬新な「音の鳴るハブラシ」というアイデア、一体どこから生まれたのですか?

稲垣:実は私自身も小さな3人の子どもを持つ父親として、仕上げ磨きに苦労している一人です。子どもたちのハミガキには、本当に手を焼かされてきました。子どもはハブラシを口に入れられることを嫌がって、大声で泣いたり、暴れたりしますから、“仕上げ磨きが楽になればどんなに助かるか“と日々感じていました。そんなとき、自分のエンジニアとしての技術や経験を生かして、”子どもを楽しませながら歯磨きできるハブラシを開発できないか“と思い至ったわけです。

――「育児の負担軽減」が出発点になったわけですね。

稲垣:そうですね。育児の負担が大きいと、夫婦関係にも影響することがあったりします。ウチも子育てに関しては、些細なことで妻とケンカすることが何度かありました。子どもが喜びながら歯磨きできれば、子育ての苦労も楽しい時間に変わるので、妻をはじめとする家族全員をハッピーにできるのではないかと。その思いからPossiの発想が生まれました。

チームビルディングから始まる「初めての新規事業」。 “SSAP”のサポートは、羅針盤に。

稲垣 智裕さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター 東京事業開発部 事業開発3課

――アイデアを形にしていく過程で、SSAPとはどのように関わりましたか?

稲垣:今回の私たちのプロジェクトでは、SSAPのプロデューサー宮崎さん(ソニーStartup Acceleration部門)を中心に、プロダクト・セールス&マーケティングを始めとする様々な領域のアクセラレーターにサポートを頂きました。
宮崎さんには随分助けていただきましたね。プロジェクト発足当初はチームがなかなか一枚岩になり切れない部分もあったのですが、豊富な経験から出る意見や、客観的で的確な助言を与えてくれたおかげで、うまくチームがまとまっていきました。“京セラ”社員のみで構成されたチームに、“SSAP”の宮崎さんがプロデューサーとして入り、客観的な視点を持ちつつチームメンバー各自の意見を聞き、方向性を示し、開発スピードを落とすことなく良い方向へと導いてくれました。

――“プロデューサー”という第三者の存在は、プロジェクト走り出しの加速に役立つのですね。今回9ヶ月間での事業立ち上げとなりましたが、具体的にはどのようなステップで?

稲垣:ニーズ検証をはじめとし、商品開発、事業開発と各ステップを踏んで来ました。例えばニーズ検証の段階では、アイデアを精査し、MVP(※1)を定義し、ユーザーインタビューを実施する、等。各フェーズでは目標や期限を設定し、それを厳守するよう進めてきました。

※1 MVP・・・Minimum Viable Product。顧客のフィードバックをもらうために最低限実用に足る商品のこと

SSAPのプロデューサー宮崎によるレクチャーの様子

――SSAPのサポートで印象的だったものはありますか?

稲垣:対面でのレクチャーやミーティング等のサポートの他、スタートアップ支援のWebアプリ「StartDash」も活用しました。このツールを初めて使った際は、“考えるべきことが膨大にあるなあ”と現実を突き付けられた感じでしたね。エンジニアの視点ではついつい、“財務計画”や“物流ルートの開拓”などは自分たちの仕事ではない、と考えがちになってしまいますが、今回のプロジェクトは何もかも自分たちでやっていかなければいけない。そのフローで何をするべきで、何が足りていないのか、と都度気付かせてくれました。
また、SSAPの皆さんのサポートや「StartDash」によって、現実的でない選択肢を“この路線はない”と初期の段階で可視化し、軌道修正しながら進めてきました。それが羅針盤になってくれて、事業や商品の方向性が間違えた方向に進まずに済みましたね。
またソニーさんの強みであるBtoCビジネスの観点からのアドバイスや、デザイン・音楽によるエンタテインメント化の支援など、様々な意見をいただけて非常にありがたかったです。

京セラの社員でありつつ、ソニー本社に座席を持つ。スピーディな事業立ち上げのための、新しい試み。

稲垣 智裕さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター 東京事業開発部 事業開発3課

――2018年10月のプロジェクト開始から、京セラのメンバーの皆さんは、ソニー本社内のIncubationブースに入居されていますよね。ブースの印象はいかがでしたか。

稲垣:作業に集中できる環境で、とても落ち着きます。今回協業したライオン株式会社(以下“ライオン”)のブースや、SSAPの皆さんの座席もすぐ近くにあり、何か問題があればすぐに話し合って解決することができました。コミュニケーションが密に取れるので、お互いの悩みや、メールや電話で聞きづらいことなども顔を見て、必要なタイミングで話せました。9ヶ月という短い期間で開発できたのも、こういった環境があったからこそだと思います。
Incubationブースは、京セラとライオンの「中間点」のような場所ですから、チームのみんなが変に気を使うことなく、伸び伸びと作業することができました。

――ブースの存在も、今回のPossi開発を加速させていたのですね。京セラさんのような大企業が、SSAPを利用して良かったと思う点は?

稲垣:通常、社内でプロジェクトを進めていく場合、いくつもの承認プロセスを踏んでいく必要があります。しかし今回のSSAPとの座組では、プロジェクトリーダーである私に、会社がある程度の裁量を与えてくれたことが非常に良かったですね。
スタートアップはスピードが肝心です。しかも意思決定を行う際、判断基準がダブルスタンダードだと弊害が生じてしまいます。SSAPとの話し合いでOKが出たものについて、次に会社内に持ち帰ったときにNGが出てしまっては、開発のスピード感が損なわれます。スピーディに動ける体制が実現できることは、大企業にとって非常に有益だと思います。

Possiを、世界中に届けたい。

――クラウドファンディングでの支援募集が始まっていますが、今後Possiに期待することは?

稲垣:小さなお子さんを持つ親御さんは、仕上げ磨きできっと大変な苦労をしていると思います。私自身がそうなのですが、子どものためにやっていることで泣かれると、ちょっと心が挫けますよね。やはり子どもには笑顔になってほしいですから。Possiを使うことでみんなが楽しくなって、親御さんの負担が少しでも軽くなれば嬉しいです。
また「ニーズ検証」のインタビューを通して、海外でも同じ悩みを持つ方の存在が確認できたので、Possiを世界中の人々に届けていきたいですね。子育ての負担軽減という面では、小さなことかもしれませんが、全世界に広げていければ大きな貢献になると思います。そのためのプロダクトができたと信じています!

Possiプロジェクトに関わった京セラ株式会社・ライオン株式会社・ソニーのメンバー集合写真

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『オープンイノベーションによる企業間連携  Possi誕生ストーリー』(全10回)
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Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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