2019.9.2
オープンイノベーションによる企業間連携 ーPossi誕生ストーリーー
#09 マネジメントから見たPossiプロジェクト
Interview

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2018年10月からは京セラ株式会社(以下”京セラ”)にサービス提供を開始し、京セラのメンバーがソニー本社内の専用スペース「Incubation Booth」に入居しています。そんな取り組みから生まれたPossi。どのような経緯でSSAPが京セラへサービス提供をするに至ったか、またどんなドラマがあったのか等、本プロジェクトを、連載にてご紹介してまいります。

本連載の最終回では、京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター所長の吉田真さんに、マネジメントとしてのプロジェクトへの関わり方をはじめ、SSAPに参画した狙いや京セラ社内にもたらした影響などについて伺いました。インタビューは、2019年7月に京セラが設立したばかりの「みなとみらいリサーチセンター」1Fクリエイティブファブにお邪魔させていただきました。

「みなとみらいリサーチセンター」1Fクリエイティブファブ
クリエイティブファブでは、約200m²のスペースに加工機などが設置されており、製品試作等が行える。

ありきたりなものを変えたい。SSAPでアイデアをブラッシュアップ。

──まずは、吉田所長のお立場について簡単にお聞かせいただけますか。

吉田真さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター所長
吉田真さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター所長

吉田:現在、約2年半前に設立したメディカル開発センターの所長をしています。京セラの医療・ヘルスケア事業の発展を目的にスタートした研究所ですが、それ以外でも、新しい取り組みがあればどんどんやっていきたいと思っています。

──Possi開発プロジェクトリーダーの稲垣さんとのご関係は?

吉田:研究所を設立してから1年後に、稲垣がメンバーとして加入しました。彼は圧電セラミック素子の応用技術を研究しており、その技術をヘルスケア用品などに生かすことができればと考えていました。ただ圧電セラミック素子という技術は、もともとオーディオの分野を主な用途としていたので、ヘルスケアとどう合体させて、新しい価値を生み出していくか、それを課題としていました。

──その当時、すでにPossiに近い製品はあったのでしょうか?

吉田:いえ、アイデアとしては持っていましたが、ここまでの製品はなかったですね。骨伝導によって耳を塞がないヘッドセットや、VR用ゴーグルなどへの応用がメインでしたが、それだけだとありきたりだなと思っていました。2018年10月にSSAPの支援が始まりソニーの皆さんといろいろと話していくうちに、段々とPossiの詳細が固まっていきました。

オープンイノベーションで、新しいことにも積極的に取り組む。

──吉田所長がPossiプロジェクトに関わることになったきっかけについてお聞かせください。

吉田真さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター所長

吉田:まず、京セラの研究開発本部のなかからSSAPから支援を受けるプロジェクトを選定するということになったとき、いくつかの研究所があるなかで、ソニーさんと一緒にやれるなら面白そうだなと思って真っ先に手を挙げたのが私でした。そして、稲垣が持っているテーマがSSAPのなかで揉まれていけば非常に面白いものになるのでは、ということから彼を推薦したのが最初の関わりになります。

──なぜソニーと組むことが面白そうだと思ったのですか?

吉田:私自身が昔からソニーさんのファンであったことが一番大きなモチベーションでした。1979年、初代ウォークマンが世に出たときからの付き合いになります。当時は学生だったのですが、その小さなオープンエアーのヘッドホンから素晴らしい音質の音を出すことができる技術を体験し、これはすごいぞという印象を受けました。それ以来、ソニーさんに対しては新しいものを生み出していく企業だというイメージを強く持っていたので、両社が組めば面白いものができるはずだと思いました。

──新しいことに取り組むことがお好きなのでしょうか。

吉田:私も含めて、京セラという会社はもともと新しいもの好きなのです。過去には、世界に先駆けてハンドヘルドコンピューターやカメラ付き携帯電話といった製品を世に送り出していました。新しいものを生み出す気風があり、新しいことをやるのが京セラ技術者のDNAと言えます。

2~3年ほど前からは、研究開発に携わるスタッフたちの技術や知見をより活かしていくためにも、オープンイノベーションという名目で、外部の人たちと一緒になって独自性のあるものを作っていくことに力を入れて取り組んでいます。

──その一環として、SSAPの話もあったということですね?

吉田:オープンイノベーションと言いますと、どちらかというと大企業対ベンチャーというイメージが一般的ですが、大企業同士が組んで新しいことを生み出すという動きがもっとあっても良いのではと考えていました。そういったときにこのSSAPの話があったので、ぜひやりたいと手を挙げました。

──オープンイノベーションとしての一つの事例になりましたね。

吉田:マネジメント側の立場からすると、こういう取り組みを進めることで、社内の研究者たちに対して「新しいことを積極的にやっていい」、「もっと自由な発想をしてもいい」ということを、具体的な事例として提示できることが大きなメリットですね。

マネジメントの立場から見てきたPossi開発プロジェクト。

──2018年10月の開始から、プロジェクトをどのように見てきましたか?

吉田真さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター所長

吉田:まず、毎月実施される月例会議で進捗報告を受けていました。プロジェクト内で起きたことや企画の方向性などをその場で確認しながら議論していきました。それとは別に、京セラ側のメンバーたちとは大体2週間に1度くらいのペースで顔を突き合わせて話をして、そこで相談事などを受けていました。あと、メールや電話でのコミュニケーションは毎日とっていました。

──そこで受けた報告を、京セラの研究所内で共有することはありましたか?

吉田:はい。メディカル開発センター全員が集まる定例会議があるので、その場で共有していました。SSAPでやることによってどんな気付きがあったか、ソニーさんから学んだこと、京セラ社内との違いなどをプロジェクトに参加しているメンバーたちに話してもらって、そこから質疑応答していく形でした。

──マネジメントの立場から見て、SSAPで得た学びはどのようなものがあったと思いますか?

吉田:今回のプロジェクトに参加した研究者たちは、「消費者が求める価値」を追求することの重要性を学ぶことができました。京セラはBtoBビジネスが多いこともあり、研究者が消費者の要望を直接聞く機会は多くありません。SSAPで一緒にやらせていただいたことで、この部分を徹底的にトレーニングできたことは非常に有意義な経験でした。

お客様にインタビューしてペルソナを形成し、仮定したペルソナに対して再度インタビューを行い、本当に合っているかどうか検証を重ね、間違っていたらピボットする、といった流れを知らない研究者もなかにはいると思います。プロジェクト参加メンバーたちが実際に行ったこれらのことを社内で報告すると、他の研究者たちからは「そこまでするのか」という声が上がっていましたから。

──研究者の方がそこまで経験する機会はなかなかないかもしれませんね。

吉田:現在も、クラウドファンディングで支援していただくために皆で頑張っているところですが、そこで必死になって様々な手法を考えることも良い経験になっていると思います。お客様のお財布からお金を払っていただくことがどれだけ大変なことなのかを身をもって知ることが大切なのです。

プロジェクト参加メンバーの変化を実感。今後の活躍にも期待。

──今回のプロジェクトを通じて、プロジェクトメンバーの変化を感じる点はありますか?

吉田真さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター所長

吉田:特にリーダーの稲垣は、プロジェクトをまとめる立場を経験したことによって、以前より周囲に対して気配りができるようになったと思います。技術者は個人プレーになりがちですが、周りを納得させないとプロジェクトを先に進めることができませんし、さらには社外の人たちもいらっしゃいましたから。

──稲垣さんご自身がPossiのPR動画に出演するシーンもありましたね。

吉田:Possiの開発は、稲垣自身の悩みがモチベーションになっている点がすごく良かったと思います。小さな子供を持つ親である自身の「家庭の悩み」を解決したいという気持ちがすごく強かったでしょうから。今回は「家庭の悩み」でしたが、より広い範囲である「社会の悩み」を自分の問題として捉えていくことができるようなれば、彼は今後もっと大きなプロジェクトを担っていくと思います。

──その他、プロジェクトメンバーが変わった点はありますか?

吉田:開発のスピード感がグンと早くなりましたね。社内では開発会議が月単位で行われるので、締切も月単位で考える部分がありました。ただ、スタートアップでは日単位で締切が発生していくので、社内だけで仕事していたときと比べると間違いなく意識が変わりました。

Possiは「人間拡張」の一つ。何か新しいことが起きるきっかけ。

──最後に、吉田所長はPossiをどのような製品だとお考えですか?

吉田真さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター所長

吉田:Possiは「歯から音楽を聴く」といった新しい体験をさせてくれます。日常にはない体験は、人間の感性に何かしらの影響を与えてくれるのではないかと思うので、その意味では「人間拡張」の一つだと言えます。物は目から見るもの、音は耳から聴くもの、といった人と機械との関係性の既成概念を覆す影響があるのではないかと。何か新しいことが起きるきっかけになればいい、そんなデバイスだと捉えています。

Possiの面白さは、実際に体験することで気付くことができます。「子供の仕上げ磨き」というコンセプトではありますが、これまでにない経験をしてもらうために大人の方々にもぜひ使ってほしいですね。

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Sony Startup Acceleration Programはソニーが手がけるスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムです。2014年から5年間で、国内外で750件の新規事業案件を審査し34件を育成、14の事業を立ち上げ。それらを通じて培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援する仕組みを整備し、スタートアップ支援サービスとしてみなさまにご提供しています。