Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2018年10月からは京セラ株式会社(以下”京セラ”)にサービス提供を開始し、京セラのメンバーがソニー本社内の専用スペース「Incubation Booth」に入居しています。そんな取り組みから生まれたPossi。どのような経緯でSSAPが京セラへサービス提供をするに至ったか、またどんなドラマがあったのか等、本プロジェクトを、連載にてご紹介してまいります。
今回は、Possiのプロダクト担当、京セラ株式会社の矢野順也さん、日髙瑞穂さんに、Possiを支える技術と、アイデアを形にする段階でのエピソード等を伺いました。
「Possi」の始まりは、京セラが開発した技術から。
――ブラシを歯に当てると音楽が聴こえる「Possi」。どのような仕組みなのでしょうか?
矢野:「Possi」は、ハブラシヘッドの振動で音楽を楽しめる、仕上げ磨き専用ハブラシです。ブラシが歯に当たるとハブラシのヘッド部分から歯に振動(音)が伝わり、音楽などを楽しめます。歯磨きをしている間だけ、子どもに音楽が聞こえる仕様になっています。
「Possi」は大きく分けるとブラシ部分と本体で構成されており、ブラシ部分に京セラの「小型圧電セラミック素子」が搭載されています。これが「Possi」を実現するキーとなる技術です。
――今回キーとなる技術、「圧電セラミック素子」。これはどのようなものなのでしょうか。
矢野:京セラ製の携帯電話・スマートフォンに搭載されている「スマートソニックレシーバー(※1)」に利用されている圧電素子の技術がベースになっています。「スマートソニックレシーバー」とはディスプレイ部を振動させて相手の声を届けることで、新しい通話体験を実現するもの。Possiは、この技術をベースにしています。
※1 スマートソニックレシーバー・・・ディスプレイ部を振動させて相手の声を届けることで新しい通話体験を実現する、京セラ社のスマートフォン/携帯電話に実装されている技術。参考:「京セラ独自機能 「スマートソニックレシーバー(SMART SONIC RECEIVER)」https://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/ssr/function/
――なるほど。京セラが持つ技術を応用させたものなのですね。今回この技術が、「Possi」という商品に繋がったのはなぜ?
矢野:きっかけは、京セラが携帯電話・スマートフォン用に搭載していた圧電素子を他の用途での活用の可能性を模索するため、デジタル化・大出力化したアンプ・モジュールを作ったことです。このアンプ・モジュールを活用した具体的な商品を提案したいと考えていたタイミングで、SSAPへ参画することとなり、Possiの製品化に向けて走り出すことになったのです。
「子ども向けのハブラシ」への挑戦と、次々に立ちはだかる課題。
――圧電素子という技術をベースに、製品化を目指し始めたわけですね。
矢野:とはいえ、プロジェクトが始まったばかりの頃は、現在のPossiのようなエンタテインメント製品になるとは思っていませんでした。リーダー稲垣が、「父親としての悩み」と「エンジニアとしての仕事」を結び付けたことが、エンタテインメント性を持つPossiの企画の元になっていますが、最初にその企画案を見たときは「子ども向けのハブラシ?」と、京セラのメンバーはみんなびっくりしていましたね。
――「子ども向けのハブラシ」という分野は、京セラさんにとっても新しい領域だったかと思います。どのようにそのアイデアを製品化していったのでしょう?
日髙:まずはアイデアを可視化することから始めるべく、SSAPの皆さんのサポートの元、「プロトタイピング」と「ユーザーテスト」を繰り返しました。我々エンジニアも実際にインタビューに参加し、自分の手で作ったプロトタイプを使ったユーザーから直接フィードバックを聞き、次のプロトタイプに反映していきました。
「ハブラシから音楽を流す」という点ではかなり苦労しましたね。プロトタイピングを始めたばかりの頃は、「Possi本体に楽曲をデータとして入れる」という案もあったのですが、データを本体に入れるとライセンス問題が複雑になることが発覚。その他、コスト面など、様々な問題出てきました。
――音楽ひとつでも、考慮する点が多くあるのですね。
矢野:日髙さんの言う通り、音楽再生の部分は難航しましたね。そこで思い至ったのが、「スマートフォン内の楽曲を有線接続で音楽を再生する」ことです。消費電力が少なく済み、乾電池で大丈夫になるのでコストがぐっと抑えられる。また、無線のような初期設定が要らないため、ユーザーも使いやすい。コストとUXのせめぎ合いでした。
日髙:我々がやってきたスマートフォン開発とは勝手が全く違い、スタートアップの台数だとこんなにコストがかかるのかと面食らいましたね。
矢野:そんなときに、SSAPアクセラレーターで開発・設計支援担当の伊藤さんが、とても頼りになりました。非常に知見が広く、とりわけ、スタートアップに適したサンプル調達のためのルートとルールを熟知している点に助けられましたね。
携帯電話の開発では、量産を考える必要があるため性能や価格面で条件に合う部品しか使うことができませんが、スタートアップとしてMVP(※2)を作る時は、その時点で必要な要件だけ満たしてスピードを優先する割り切りも必要となりますから。
※2 MVP・・・Minimum Viable Product。顧客のフィードバックをもらうために最低限実用に足る商品のこと
プロトタイプ製作は効率よく。Possiをお客様に届けるために。
――ハブラシ部分のプロトタイプは、いかがでしたか?
矢野: MVPでのユーザーテストでは、未完成品のプロトタイプでありながら、より実際の状況に近い形でユーザーに商品を使っていただく必要があります。そこで立ちはだかるのが、「プロトタイプ品を口に入れる」ことの難しさ。手作りの未完成品を口に入れて、使い心地をテストしてもらう、というのは厳しいものがありました。
日髙:そうですよね、そこが第二の壁でしたね。そこで助け舟を出してくださったのが、今回Possiを共同開発したライオン株式会社(以下“ライオン”)さんでした。プロトタイプ品で、かつ幼児でもテストして問題ない「安全性の基準」を明確にお持ちだった。子ども向けのテストの種類、テスト実行の資格についてガイドラインがあり、安心してテストが出来ました。これがなければ、ユーザーテストのためのプロトタイプ製作の基準が分からず、開発は難航していたと思います。
――プロトタイプ製作は、実際にどこで行われていたのですか?
日高:プロトタイプ製作には、ソニー本社1階のクリエイティブラウンジ(※3)にある「3Dプリンタ」を使いました。不具合があれば「超音波カッター」で開封して原因を調べたり、半田付けも自分でやったり。プロトタイプに必要な機材がすべてあるので、非常に助かりました。特に便利だったのが3Dプリンタの使用状況がウェブサイトで分かること。プリンタの前まで来て誰かいるから出直す、ということが全く無く、効率的。空き時間をチェックして予約を入れれば、腰を据えて開発に集中できるので、数日で改良版を作らなければならない時でも対応できました。
矢野:私もクリエイティブラウンジはよく使っています。Possiが無事お客様の手に届くまで、また成長を続ける限り、まだまだ利用することになると思いますね。
※3 クリエイティブラウンジは、ソニー本社(品川)にある共創をコンセプトにしたスペース。 3Dプリンタ、UVプリンタやレーザーカッター、基板加工機などがある。
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『オープンイノベーションによる企業間連携 Possi誕生ストーリー』(全10回)
#04 「お、何だそれは!?」から即承諾まで、ライオンを動かした共感の奇跡
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