2019.08.13
オープンイノベーションによる企業間連携 -Possi誕生ストーリーー

#05 Possiのターゲット層は?ニーズ検証

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2018年10月からは京セラ株式会社(以下京セラ)にサービス提供を開始し、京セラのメンバーがソニー本社内の専用スペース「Incubation Booth」に入居しています。そんな取り組みから生まれたPossi。どのような経緯でSSAPが京セラへサービス提供をするに至ったか、またどんなドラマがあったのか等、本プロジェクトを、連載にてご紹介してまいります。

今回は、“Possiがユーザーに親しまれるプロダクトになるためにはどうすれば良いのか”、実際に「ニーズ検証」を重ねた際のエピソードを、京セラ株式会社の渡邉孝浩さんと、ライオン株式会社(以下ライオン)の萩森敬一さんのお二人に伺いました。

渡邉 孝浩さん、萩森 敬一さん
写真左:渡邉 孝浩さん 京セラ株式会社 研究開発本部 メディカル開発センター 東京事業開発部 事業開発3課 係責任者 元ソフトウェアエンジニア。京セラには2006年に入社し、携帯電話のソフトウェア開発のリーダーを担当。その後ヘルスケア系のデバイス研究開発やR&Dでのエンジニアリング、リーンスタートアップの研修を半年間受け、シリコンバレーでもそのノウハウを学んだ経験を持つ。 写真右:萩森 敬一さん  ライオン株式会社 研究開発本部イノベーションラボ / 薬剤師 2007年にライオンに入社、新製品開発の研究を担当。リビングケア系の製品開発に携わった後、2018年に立ち上がったイノベーションラボの初期メンバーとして活動中。

「子どもの“仕上げ磨き”の負担を減らしたい」。そのニーズは本当にあるのか?

渡邉 孝浩さん

――Possiプロジェクトの初期段階では、どのようなニーズがあると想定していたのでしょうか。

京セラ渡邉:Possiの始まりは、リーダーの稲垣自身の、“小さい子どもを持つ親”としてのニーズからでした。「小さい子どもに行う“仕上げ磨き”の負担を減らしたい」という彼の想いから始まり、同じような悩みを抱えている親御さんは多いはずだ、そこにニーズがあるはずだ、という仮説がありました。
“仕上げ磨き”は子どもに乳歯が生えてくる生後8か月頃から9歳ごろまで、親御さんが子どもにやってあげる必要があります。子どもとのふれあいやコミュニケーションを楽しむ時間である一方、毎日欠かせない習慣であるうえに家庭によっては1時間以上かかってしまうこともあり、子育てにおける悩みの一つになっているのです。

――“仕上げ磨き”の負担を軽減したい、というリーダーのニーズが原点なのですね。そこから、どのように「ニーズ検証」を?

京セラ渡邉:まずはSSAPのアクセラレーターの方々に、ニーズ検証全体の各ステップの設計から、インタビューで使用する質問内容の要素分解・仮説立てをサポートいただきました。

最初に行った検証は、「“仕上げ磨き”の負担を減らしたいというニーズが一般的にあるのか」という部分。検証の手段として行ったのは、対面でのデプスインタビューです。ソニーさん内にある“ママ会”や、弊社の工場にも足を運び、子どもを持つ女性約20人にインタビューをしました。その後、アーリーアダプター層と仮定される方々に対して、MVP (※1) を1週間貸し出し、実際にプロトタイプ品を使ってもらった感想をもとに具体的なニーズ検証をしたり、ウェブ上のインタビューで価格やサービスについてヒアリングをしたりしました。

ライオン萩森:私もちょうど仕上げ磨きが必要な時期の子どもがいるので、実際にMVPを家に持ち帰り、子どもの仕上げ磨きの際に利用しました。子どもは最初ハブラシをあてると、音が聞こえることにポカーンとしました(笑)。しかし、音の正体がどうやらハブラシにあるらしいということがわかると、すぐに楽しくなって「また次!次!」とねだるようになるのです。そんな子どもの姿を見て、「これは行ける!」と確信することができました。

※1 MVP・・・Minimum Viable Product。顧客のフィードバックをもらうために最低限実用に足る商品のこと

京セラ渡邊さんがSSAPアクセラレータ-と共に行ったインタビューの様子

製品に対する反応は良いのに…。立ちはだかった一つの壁。

渡邉 孝浩さん、萩森 敬一さん

――ニーズ検証は順調に進んでいったのですね。

京セラ渡邉:実は、そう簡単には行きませんでした。検証のデータを集めた結果、“仕上げ磨きの負担を軽減したい”、“子どもに楽しんでもらいたい”というニーズは確かにあるし、製品に対する反応も良い、という結果が出ました。しかし価格の話になると、子どもを持つママたちは「消耗品でしょ?価格が高すぎる」と。収入の高い女性に絞ってヒアリングしても、価格の面がネックになることがわかりました。

――価格の壁があったのですね。どうやって乗り越えたのでしょうか。

萩森 敬一さん

ライオン萩森:弊社のイノベーションラボでの経験が、一つのきっかけとなりました。イノベーションラボでは、子どもを持つ親御さんの「ニーズ検証」をよく行うのですが、母親は“ただ楽しいだけでは欲しいとは言わない”という調査結果がありました。母親は一般的に、楽しさよりも実用性や経済性をシビアに見て判断する傾向が強いのです。しかし父親をターゲットにすると、“子どもが楽しめるのであれば欲しい”、“楽しければ価格はあまり拘らない”という意見が多くなります。この経験談を、ニーズ検証のチームに共有しました。

京セラ渡邉:萩森さんからその話を聞いた際、私たちには“子育て製品=女性向け”という先入観があったことに初めて気づきました。初期に行ったインタビューは対象が全て女性だったのです。そこからは、ニーズ検証の対象を男性にも広げました。

ライオン萩森:そうでしたね。実際に小さな子どもを持つ男性を対象にニーズ検証をしてみると、製品の機能やデザインに対する反応は女性と同じように良く、価格面でも、“価格は問題ない”、“家族で食事に行ったりディズニーランドに行ったりすればPossiを購入するよりもっとお金がかかる”、“家族の日常の楽しみのためなら十分ありうる価格だ”という意見が出ました。

「消耗品」ではなく「子どものためのエンタメ」として。

渡邉 孝浩さん、萩森 敬一さん

――視野を広く持ってみることで、ターゲット層のシフトに繋がったのですね。

ライオン萩森:はい。今回の検証で多くの女性はPossiを「消耗品」と捉え、男性は「子どものためのエンタメ」と捉える、という傾向が明らかになりました。そうすると当然、価格に対する考え方が違ってきます。その点が明確になって、メインターゲットを女性から男性に切り替えることができました。この方針転換は大きなターニングポイントになりましたね。

京セラ渡邉:このターゲット層のシフトは、ライオンさんが参画されていなかったら、辿り着けなかった答えかもしれません。その後も着実に、子どもを持つ男性にもニーズ検証を進めていくことができました。

――なるほど。「パパ向け」という一つの方向性が出てきた後は、どのような検証を?

京セラ渡邉:方向性が見えてきたあとは、“ターゲット”となる人々を深く分析していくことを徹底しました。普通は検証となると“質より量”が大切だと考えがちだと思うのですが、今回は多くの方にインタビューできたうえ、その一人ひとりへの検証の“質”も意識して行ったのです。SSAPのアクセラレーターにレクチャーいただいたこのやり方は、私にとって新たな発見でしたね。

ライオン萩森:自分たちで足を運んで、一人ひとりを深堀してインタビューしていく過程はかなり大変ですが、その分得るものも多かったですね。検証という意味では、今も引き続き、マーケティング等の観点などでターゲット層へのインタビューは継続しています。より多くの皆さんにPossiを楽しんでもらうために、ニーズの検証はかかせません。

渡邉 孝浩さん、萩森 敬一さん

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『オープンイノベーションによる企業間連携  Possi誕生ストーリー』(全10回)
#06   歯ブラシを「アレ」に見立てることから始まった、ソニーのクリエイティブセンター流プロダクトデザイン
 

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