Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2018年10月からは京セラ株式会社(以下京セラ)にサービス提供を開始し、京セラのメンバーがソニー本社内の専用スペース「Incubation Booth」に入居しています。そんな取り組みから生まれたPossi。どのような経緯でSSAPが京セラへサービス提供をするに至ったか、またどんなドラマがあったのか等、本プロジェクトを、連載にてご紹介してまいります。
今回は、“Possi”の開発に取り組んだ、プロジェクトリーダーである京セラ株式会社の稲垣智裕さんとともに、ライオン株式会社(以下ライオン)の萩森敬一さん、蜂須賀良祐さんも交えて、両社が協業に至った背景や各自の役割などについてお話を伺いました。
「Possi」アイデアへの共感が生んだ、京セラとライオンの協業。
――SSAPの事業化支援のもと、京セラとライオンが協業することになったきっかけは?
京セラ稲垣:いちばん最初のきっかけは、2018年10月「CEATEC JAPAN 2018」というイベントでのライオンの方との立ち話です。京セラは、携帯電話・スマートフォン用に圧電セラミック素子を開発し、他の用途での活用の可能性を模索するため、デジタル化・大出力化した振動アクチュエーターモジュールを作り、昨年のCEATECに参考出展しておりました。
この技術に興味を持って下さったライオンの方が京セラのブースにいらして「この技術を利用して何かできないでしょうか?」と相談を持ち掛けてくださって。
ライオン蜂須賀:CEATECで話をさせていただいた者がライオン社内に話を持ち帰り協議を進めていくなかで、私の所属する研究所にも話が入りました。その後2018年12月頃からは、京セラの稲垣さんを始めとするPossi関係者の方々と実際にお会いし、その世界観や技術的なお話などを伺っていきました。とても魅力的な内容だったので、挑戦したいプロジェクトだなという印象を受けました。
京セラ稲垣:ライオンさんには3回ほど訪問し、いろいろと協議を進めていきましたよね。その後、正式に2019年1月よりプロジェクトに参加していただくことになりました。
――萩森さんはどのようにプロジェクトに参加されたのでしょうか?
ライオン蜂須賀:2018年12月頃、彼(ライオン萩森)と同席する打合せがあったので、そのときに初めて、Possiについて共有しました。
ライオン萩森:Possiの構想を初めて聞いたとき「お、何だそれは!?」と強烈な印象と興味を持ちました(笑)。
ライオン蜂須賀:萩森のその時の反応が良かったのを覚えています。ブラシの技術開発を自分が請け負ったとして、他社と協業するコラボの企画部分をイノベーションラボ(※1)なら一緒にやってくれるという期待があったので声を掛けました。
ライオン萩森:その場で「私が、引き受けます!」とお返事しました。イノベーションラボの中でも、何か生活が楽しくなるようなことを体験価値として開発できないかなと思っていたこともあって、タイミングがぴったりでした。
※1 イノベーションラボ:2018年1月にライオン株式会社研究開発本部内に設立。経営ビジョンを実現するために「顧客の共感につながる体験価値つくり」「オープンイノベーションによる研究開発のスピードアップ」を使命に掲げている。
通常では “あり得ない”スケジュール感。それでも“挑戦したい”と思った理由。
――製品コンセプトやクラウドファンディングまでのフローなど、具体的な内容を聞いた印象はいかがでしたか?
ライオン蜂須賀:稲垣さんとの打ち合わせで、「音が鳴るハブラシ」という発想や、Possiのデザインイメージである「動物のしっぽ」という世界観など、とても面白いなと。ただ、正直なところ、最初に稲垣さんに提示されたスケジュールはかなりタイトで、弊社にとっては、かなり厳しいものがあるとも感じました。
京セラ 稲垣:私としても、通常ではあり得ないスケジュール感でした(笑)。スタートアップのスピードは大企業のものとは全く違いますね。
――スケジュール等、厳しい面もあったのですね。それでもやってみたいと思ったのはなぜですか?
ライオン蜂須賀:難度の高い開発を求められていたので、様々な条件から厳しい面もあるなと思いましたが、それ以上に“京セラさんやソニーさんと一緒に仕事をしてみたい”という気持ちが強かったからです。また当時ちょうど私の子どもが生後8ヶ月くらいで、仕上げ磨きをやり始めた頃でした。小さい子どもを持つ親という当事者意識もあって、“ぜひやってみたい”と強く思いました。
ライオン萩森:実は私の子どもも2歳半くらいで、Possiの話を聞いたときはちょうど「イヤイヤ期」真っ最中でした。
京セラ稲垣:私も含め、皆さんそれぞれがたまたま「子どものハミガキに悪戦苦闘しているパパ」だった、という共通点があったことが幸いしました。本当にタイミング良く様々な偶然が重なって、今回の三社連携というベストなプロジェクト体制ができていったように思います。
三社それぞれの想いを、試行錯誤ののちに実現した「Possi」。
――ハブラシの開発で気を付けた点についてお聞かせください。
ライオン蜂須賀:小さな子どもは、大人が予想もできないような使い方をすることがあります。例えば、自分でハブラシを持って後ろの部分だけを噛むとか。
私は2017年に発売した、弊社の「クリニカKid’s」ブランドのハブラシ開発を担当したのですが、「安全性」を担保した上で、歯垢をきちんと除去できる「清掃性」も兼ね備えた設計を追求することができました。そこで得たノウハウが今回の開発で非常に役立ちました。
――その他、開発で苦労した点はありましたか?
ライオン蜂須賀:三社それぞれの想いや狙いを実現しつつ、着地点を探していく点でしょうか。京セラさんは「音をクリアに聞かせたい」。事業化支援・デザインや音楽によるエンタテインメント部分で入っていたソニーさんは「プロダクトの世界観を具現化したい」。そして我々は「ハブラシとしての基本的な機能(歯垢を落とす清掃性)と高い品質を確保したい」と。三者三様の想いがありましたので、ちょうど良い着地点を探していくのが難しかったです。
京セラ稲垣:各社の強みを生かしつつ、落としどころを見つけていくことは本当に大変でしたね。ただ、その苦労があったからこそ、今回の良いプロダクトができたなとも思います。
ライオン蜂須賀:はい。“音がクリアに聞こえる”という最も重要な狙いを大事にしつつ、ハブラシとしての基本機能も合格点を有するものを目指して試行錯誤を重ねていきました。最終的にそこに着地できて良かったです。
――各社がよりよいプロダクトを目指しているからこその苦労だったのですね。Possiプロジェクトの事業化支援をしてきた“SSAP”、他に役立った点はありますか?
ライオン萩森:SSAPの方々に客観的にプロジェクトを見ていただけたことは、大きな支えとなりました。特にスケジュール管理等のプロジェクトマネジメントの面では本当に助かりました。プロジェクトが進んで忙しくなってくると、自分の担当範囲のことばかり考えがちです。しかしその時期に、SSAPのプロデューサーに客観的で的確なアドバイスをいただけたことは非常にありがたかったです。
京セラ稲垣:SSAPのアクセラレーターのおかげでプロトタイプ製作を素早く行えたこともとても助かりました。ユーザーテストでも、関係者へのプレゼンテーションでも、形あるものを提示することで、コンセプトの共有や関係各位への説明がスムーズになりますからね。
――SSAPのプロデューサー、アクセラレーターに対する印象は?
京セラ稲垣:ライオンさんとの契約締結の際にもご尽力いただきました。両社とも大企業ですので、契約を締結させることは並大抵のことではありませんが、うまくバランスを取ってまとめてくれたのが、SSAPのプロデューサーである宮崎雅さん(ソニー Startup Acceleration部)でした。
ライオン萩森:今回は協業プロジェクトということもありそれぞれ立場が違うので、誰に相談してよいかわからない時も正直多かったです。しかしそのような時に、いつも中立的・客観的な立場でいてくれる宮崎さんにはよく相談に乗っていただきました。話を聞いてもらうことで気持ちがとても楽になり、精神的にも支えていただきましたね。
Possiを皆さんに届けたい。チャレンジは“これから“。
――最後に、Possiの支援募集がスタートした現在の心境をお聞かせください。
ライオン萩森:皆さんの反応が早く知りたいですね。通常ハブラシは低価格の消耗品ですが、Possiは実用性に加えてエンタテインメント性を兼ね備えた17,500円(税込)と高額なプロダクト。我々にとってはその点も新しいチャレンジでしたので。
ライオン 蜂須賀:「良いものができた」と同時に「まだまだこれから」という気持ちがあります。みなさんに実際に使っていただくことで様々な使い方が出てくるかと思いますので、そのフィードバックを受けて新たな気付きを得ていきたいです。
京セラ稲垣:Possi開発に全力を注いできましたので、世の中にどのように受け入れていただけるかとても気になります。クラウドファンディングサイト「First Flight」を通じて、“Possiを欲しい”と言ってくださる方々にきちんとお届けできるように、これからも頑張っていきたいと思います!
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