Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、2014年のプログラム開始から数々の新規事業をゼロから立ち上げてきました。2019年7月にはウェアラブルサーモデバイス「REON POCKET」のクラウドファンディング開始を発表し、わずか6日間で目標額を達成し、その後事業化を実現。2021年4月には次世代モデル「REON POCKET 2」を発表しました。そんなREON POCKETの舞台裏を、連載にてご紹介してまいります。
2021年7月1日(木)からは環境配慮活動の一環として、ゴルフアパレルブランド PEARLY GATES(以下パーリーゲイツ)より、REON POCKET対応のゴルフウェアが販売されました。今回は、パーリーゲイツ ディレクター兼チーフデザイナー 酒井 昭征さん、伊藤忠商事株式会社(以下伊藤忠) ファッションアパレル部門 東浦 壮一朗さん、ソニーグループ株式会社(以下ソニー) Startup Acceleration部門 Business Acceleration部 REON事業室 統括課長 伊藤 健二に、協業の経緯や各々の狙いをインタビューしました。
パーリーゲイツとREON POCKETの、環境配慮活動。
――まず、パーリーゲイツ販売のREON POCKET対応ゴルフウェアとは?
伊藤:パーリーゲイツの定番モデルであるゴルフウェア「BEATRIX PLUS」の背中部分に「REON POCKET 2」を入れられるようデザインされた、特別仕様のウェアです。
酒井:ゴルフが好きな方は経験があると思いますが、ラウンドをまわる日は1日の気温の変化への対応が大変です。例えば朝は集合時間が早くて肌寒いのに、昼になると外はカンカン照りで蒸し暑い。でも夕方になるにつれてまた涼しくなったりします。そんな時にこのウェアがあれば、自分の好きなタイミングにREON POCKETで好きな温度に調整して、気温の変化に対応できます。
――この取り組みは、パーリーゲイツ・REON POCKET双方の環境配慮への強い想いが背景にあると伺いました。
伊藤:はい、実はREON POCKETの構想のきっかけは、2017年に行った中国・上海出張で感じた、地球温暖化への不安です。当時7月の上海の気温は38度。猛暑に驚愕した一方でホテル等の室内は空調がガンガンに効いていて寒いほど。上海中で空調がフル稼働している様子と、気温とのギャップに環境への問題意識を持ち、「環境課題をテクノロジーで解決する」ことをコンセプトに掲げREON POCKETを開発しました。
今回、パーリーゲイツの酒井さんが我々のコンセプトに共感してくださったことがきっかけで協業が実現しました。
――REON POCKETはどのように環境課題を解決するのですか?
伊藤:例えば暑い夏には、室内では空調温度を低めに設定して室内の空間全体を涼しくすることが一般的です。一方で、それでは室内という空間全てを冷やすために大量の電力を消費してしまい、全くエコではありません。加えて個々の体感温度も人によって違うため、「寒い」「暑い」といった多様なニーズにこたえられません。REON POCKETを身に着けることで個人の好みの冷感・温感を首元に付与できます。その分、空調温度を2~3度上げられ、結果的に通常の約20%もの電力を削減できるのではと考えました。
酒井:暑い夏に、広い室内空間をわざわざ冷やす必要はなく、自分自身がREON POCKETを身に着ければ涼しさを体感できる。これって当たり前のことのようでなかなか思いつかなかった発想ですよね。そして、REON POCKET対応のゴルフウェアをパーリーゲイツが作るということで、暑い夏だけでなく寒い冬もゴルフプレーを快適に過ごせるものでなくてはならないということに重点をおき、シーズン問わず年間で選ばれ続けている定番のベストセラーモデルを採用しました。
――パーリーゲイツでも環境への取り組みは行っていますか?
酒井:パーリーゲイツは、「Think Golf」というスローガンのもと、ゴルフアパレルブランドとして “ゴルフ” の未来に向けた取り組みを実施しています。ブランドのイメージを守りつつ、焦らずにまずは自分たちが出来るところから取り組むべく、環境配慮型の紙ショッパーや包装袋・備品の切り替え等を中心に行い、今回のREON POCKET対応のゴルフウェアを企画することや空調温度を2℃上げてみようプロジェクトも、この取り組みの一つです。
環境のために、背伸びせず始められる第一歩。
――ゴルフアパレルブランドパーリーゲイツとテクノロジーのREON POCKET。一見異質な組み合わせですが出会いのきっかけは?
酒井:以前から仕事で繋がりのあった伊藤忠の東浦さんにソニーの伊藤さんを紹介して頂いたことから始まりました。もともと、私自身がソニーという企業に興味があったことがきっかけではあるのですが、今回の取り組みが実現した本当の背景は、伊藤さんの考える環境問題に対しての取り組み方や、何より伊藤さんの言葉に強く共感したのがきっかけです。
REON POCKETの初代モデルが発売された後、2020年9月頃に初めてお会いして、実際に見せてもらいました。
東浦:2020年夏よりソニーの伊藤さんと、伊藤忠のネットワークを活用した、アパレル及び周辺領域における協業の可能性についてお話をしておりました。一方、酒井さんとは、日々商談の中でパーリーゲイツとして新たに取り組めるものはないか、様々な角度から日々ジャンルを問わず会話をしていました。その中でソニーの名前があがり、今回REON POCKETとパーリーゲイツをお繋ぎするに至りました。
――酒井さん・東浦さんがREON POCKETに共感したポイントは?
酒井:REON POCKETの「環境課題をテクノロジーでの解決を目指す」というコンセプトと、製品誕生のきっかけとなった伊藤さんの上海出張でのリアルすぎる体験談を伺って、そういう背景があったことに衝撃を受けたんです。出張先の”たった一人で過ごすホテルの広い部屋が極端に冷えていた”という、これまで自分自身もそういう経験をしてきたからこそ強く共感し、それに疑問を持った伊藤さんの想いに感銘を受け、共感しました。
パーリーゲイツのお客様がこのデバイスを知り、日本のゴルファー一人一人がこのデバイスを身に着け、森や緑の中でやるスポーツだからこそ、プレーを楽しみながら自然環境について考えられたら最高じゃないですか?
東浦:私も、REON POCKETが人のため、地球のためになるデバイスである点に深く共感しています。我々は繊維カンパニーとして服作り等を手掛けることが多いですが、REON POCKETと組むことによって、デバイスとアパレルの掛け合わせが生まれます。これがビジネスとしてだけでなく、環境にも良い影響を与える取り組みになることは、個人的に環境問題に課題意識を持っている身としてとても嬉しいです。
――では逆に、伊藤さんがパーリーゲイツに共感したポイントは?
伊藤:まず酒井さんは社会課題意識がとても高く、身近な環境課題を解決したいという点で深く共感できたから。そして、酒井さんのディレクターとしての考え方やコンセプトメイキングの力を純粋にリスペクトしたからです。
アパレルブランドであるパーリーゲイツとデバイスであるREON POCKETが協業することで、互いの強みを生かし足りない部分を補完し合えると考えるようになりました。
この取り組みが共感を生むことを願って。
――今後も協業して解決していきたい社会課題は?
伊藤:環境課題にはこれまで通りトライしていきたいです。REON POCKETのデバイスとしての進化ももちろんですし、今回のように、高い社会課題の意識を持っていらっしゃる方々と協業して、さらなるREON POCKETの可能性にチャレンジしていきたいです。
東浦:パーリーゲイツとREON POCKETの協業が、パーリーゲイツのファンの方々にREON POCKETを知ってもらうきっかけとなり、一方でREON POCKETやソニーファンの方々にパーリーゲイツを知ってもらうきっかけになればと思っています。まずは沢山の方に着用して涼しさを体感していただきたいですし、この取り組みが盛り上がり、多くの方に共感してもらうことで、環境問題や社会課題の解決にも寄与することを願っています。
酒井:まずはパーリーゲイツとREON POCKETが協業して、環境課題に取り組むこの活動を持続させていきたいです。以前は社会課題や環境配慮活動というと「何からすればいいか分からない」と構えてしまったり、取り組まなければと追い詰められてしまったりすることもあったのですが、自分たちがその時できることをあたりまえにやっていきたいですね。
1回限りではなく変化しながら継続して取り組んでいきたいと思っています。
何よりこの取り組みの中で、それぞれの思っている事やアイデアをぶつけ合い、本気で言い合えたからこそ、実は深い意味が込められたものとなります。
この記事を読んでくださった方が少しでも我々の想いに共感し、何かのきっかけになれたら本当にこの取り組みの意味があると思います。