2021.05.24
EPコバヤシの「ビジネスのつくりかた」

#05 医療とバイオとITを組み合わせるベンチャー企業

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)のアクセラレーターは、新規事業の立ち上げを支援し加速するマインドセットとスキルを兼ね備えたプロフェッショナル集団です。それぞれが実際の事業経験を通じて学んだ豊富で専門的な知識を持ち、様々な分野で新規案件の事業化や収益化をサポートしています。

本連載では、SSAPでエグゼクティブプロデューサーとして様々な案件を担当するアクセラレーター 小林 敬幸 (以下コバヤシ)の独自の視点で「ビジネスのつくり方」を解説します。

今回は、いまコバヤシが注目する事業、RNA(※1)の発現量の高精度な定量を可能にする実験手法と解析技術を基盤としたバイオベンチャー「株式会社Revorf」(以下Revorf)とそのポイントをご紹介します。

※1 RNA:細胞の核の中にあるDNAから転写された情報元であり、細胞内で様々なたんぱく質を作らせる指令を出す物質。

-----------------------------

ナビゲーター

コバヤシ(小林 敬幸)
2016年ソニー入社前までの30年間、三井物産株式会社(以下三井物産)にて様々な新規事業を育成。
著書に『自分の頭で判断する技術』(角川書店)、『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『ふしぎな総合商社』(講談社+α新書)など。

-----------------------------

こんにちは、コバヤシです。

連載5回目は、医療とバイオとITを組み合わせるRevorfの末田社長にコバヤシがインタビューしました。医師の末田社長は、複数の大学・研究機関と連携して、DNA、RNAなどの遺伝子情報をITで分析し、創薬・診断・データ解析を進めます。九州大学と提携し、がんに対する研究も進めています。医師・バイオ創薬・IT技術者の約15人が協力し、21年3月に3億円の追加資本を調達した会社です。この専門家集団が目指しているのは、人の笑顔を守ることです。

そんなRevorfに今、私が注目する理由を、6つのキーワードと共にご紹介していきます。

末田社長によると、医療とバイオの技術は、革新的に速いスピードで発展しており、多様な技術がパズルの様に組み合わせられることで、多様な病気に対応し、世界中の患者様の元に普及しています。Revorfは、次の(キーワード①~③の)3つの事業を進めます。

株式会社Revorf CEO / Co-founder 末田 伸一さん

キーワード❶ 遺伝子診断を開発して、疾患の原理を見つける

末田:1つ目の事業として、DNA、RNAなどにより、疾患に関連する遺伝子の発現の有無、または、遺伝子変異を検出して、疾患の原因を探索しています。例えば、がん等のマーカー・指標を見つけています。Revorfは、この診断方法を、診断機器メーカーと協力して開発しています。

キーワード❷ 創薬標的遺伝子、及び、その新薬化合物の発掘

末田:2つ目の事業としてがんなどの疾患に関連して発現する遺伝子、タンパク質や、それらの変異を検出し新薬の創出に貢献します。疾患組織や細胞の解析で得た遺伝子情報等のデータを、Revorfで解析して、創薬を支援し、がんへの新薬候補化合物を検出します。事業を推進するために、理化学研究所(RIKEN)から、遺伝子解析プログラム「TIGER」の独占ライセンスを提供されています。また、九州工業大学より候補薬物の臨床作用を予測する機械学習プログラムの導入を実施しております。

キーワード❸ ビッグデータ・計算機科学を用いたバイオデータ解析・データマイニング

末田:3つ目の事業としてRevorfは、ビッグデータと計算機科学を用いて、幅広いバイオデータ解析・データマイニングを行っています。一般的なヘルスケアの健康診断でとった血液、尿の検査データを解析します。年に一度の健康診断をする多くの健康な方々に、雇用主の皆様が的確なアドバイスを行うための支援を予定しております。

Revorfの研究室の様子

キーワード❹ 3つの事業実現のための独自技術

末田:キーワード①~③でご紹介した3つの事業を実現するため、Revorfは、次の独自技術を使います。

ビッグデータベースの統合 
疾患関連遺伝子スクリーニング(発掘)システム。遺伝子解析プログラムTIGERを活用。がんをはじめとし様々な疾患の治療標的やバイオマーカーを検出できます。

エピジェネティクス(遺伝子発現変動)の高度解析 
共同創業者の村川氏/理化学研究所が研究しているエンハンサー遺伝子検出技術などのエピジェネティクス解析のノウハウを活用し、創薬応用を目指しています。

●標的細胞の遺伝子発現変動を予測 
創薬研究では、まず細胞株で実験を行うが、その結果と実臨床での結果は乖離することが多く創薬開発を困難なものとしています。そこで、テンソル分解・数学的手法を用いたマルチタスク機械学習モデルを九州工業大学より導入し、遺伝子発現変動を予測するようにしました。これにより、ヒト疾患サンプルでの予測を可能としています。

Revorf独自の疾患関連遺伝子の発掘システム
Revorf独自の疾患関連遺伝子の発掘システム

キーワード❺ RNAの発現量

末田:RevorfはRNAの発現量に注目して解析を行います。ある病気で、疾患に特徴的に発現するRNAを見つけ出し、治療標的として研究開発します。がん化の根幹に直接かかわる「ドライバー遺伝子」だけではなく、悪性度を決定する候補因子としての創薬標的を検出しています。Revorfは、このような候補遺伝子を正確に見つけます。

キーワード❻ 新型コロナウイルスへの対応

コバヤシ:新型コロナウイルス病で、DNAは、どう関係しているでしょうか?一部の人類が引き継いだネアンデルタール人のDNA遺伝子(常染色体の3番目)が、新型コロナウイルスの重症化リスクを高めている (英科学誌「ネイチャー」2020年9月)と言われています。 この遺伝子の保有者は、欧州で16%、南アジアでは50%。重症者が少ない東アジア(日本、韓国、台湾)では4%(図解「感染症の世界史」石弘之著)だそうです。

末田:新型コロナウイルスについては、現在Revorfが関与する形で、研究の話が進行しており、半年後に公表させて頂く可能性がございます。世界中の患者様に少しでも貢献出来ますように基盤を整えて参ります。

上記の情報は、限定的に参考にした方がいいと思われます。確かに、ホモサピエンスとネアンデルタール人のDNAは数十万年前の交雑を反映し、現在の人類において引き継いでいると数年前に公表されました。一方で、ネアンデルタールから引き継いだ、あるDNAが、新コロナウイルス症状を抑える可能性が公表されたこともあります。新型コロナウイルスの疾病は、DNAだけが、つまり種族のみが、決定的な原因でないかもしれません。生存地域によって異なる生活様式も影響しているでしょう。歴史的にも、日本が欧米食になって、増えた病気もあります。勿論、遺伝子情報が感染症に関与がないということでは無く、感染率や増悪因子の一因ではあると思われます。しかし、多面的に考える必要があり安易に安全だとは考えるべきではないと私の私見としては捉えております。

まとめ コバヤシの一言

「多様性と連続性で遺伝子に対応」(川端裕人著「不思議な社会」)とも言われています。Revorfは、遺伝子の変化、病気の多様性、生命の連続性に対応しています。

 

※本記事の内容は2021年5月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

ランキング