Sony Startup Acceleration Program(SSAP)のアクセラレーターは、新規事業の立ち上げを支援し加速するマインドセットとスキルを兼ね備えたプロフェッショナル集団です。それぞれが実際の事業経験を通じて学んだ豊富で専門的な知識を持ち、様々な分野で新規案件の事業化や収益化をサポートしています。
本連載では、SSAPでエグゼクティブプロデューサーとして様々な案件を担当するアクセラレーター 小林 敬幸 (以下コバヤシ)の独自の視点で「ビジネスのつくり方」を解説します。
今回は、いまコバヤシが注目している宇宙ビジネスに関係する、九州工業大学の趙 孟佑 教授、株式会社アクセルスペース(以下アクセルスペース社)代表取締役CEO 中村 友哉さん、ウミトロン株式会社(以下ウミトロン)代表取締役 藤原 謙さんとの4人会談を「前編」「後編」に分けてご紹介します。
-----------------------------
ナビゲーター
コバヤシ(小林 敬幸)
2016年ソニー入社前までの30年間、三井物産株式会社(以下三井物産)にて様々な新規事業を育成。
著書に『自分の頭で判断する技術』(角川書店)、『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『ふしぎな総合商社』(講談社+α新書)など。
-----------------------------
こんにちは、コバヤシです。
連載第4回目は、超小型人工衛星をリードしている4人との会談です。「一貫性」と「多様性」による宇宙ビジネスの解決です。
2000年代、東京大学(以下東大)の中須賀真一教授、趙孟佑さん、中村友哉さんの3スターが、世界を超小型人工衛星に導きました。2015年、趙教授からの説明に基づき、三井物産からアクセルスペース社へ出資しました。当時その案件に関わっていたのが、三井物産に勤めていた藤原さん(元JAXA、現ウミトロン社長)とコバヤシでした。藤原さんは、今、衛星を活用して水産養殖業を経営しています。
前編では、超小型衛星が一貫して目指してきた開発と運用を探り、宇宙ビジネスが経済・社会を解決するのを、3つのキーワードで紹介します。
・趙孟佑教授:小型衛星(600㎏以下)の運用数にて、世界の大学で1位(2017年~19年)。
・中村友哉社長:超小型衛星で日本トップ企業。スタートアップとして初めてJAXA衛星の開発を受託。
・藤原謙社長:人工衛星とAIを使った水産養殖。
関連記事『地球上のあらゆる水産養殖に効く“データプラットフォーム”』
キーワード❶ 人工衛星は、コンピューターと同様に、一貫して小型化した
コンピューターと同じく、超小型衛星は、世界を革新する。人工衛星の開発経緯は、コンピューターからスマホに進化した開発経緯とそっくり同じです。
人工衛星 大型 ⇒ 中小型 ⇒(キューブサット※1)⇒ 超小型衛星(100㎏以下)
コンピューター メインフレーム ⇒ PC ⇒(iモード)⇒ スマホ
趙:超小型衛星は、社会に大きなインパクトをあたえます。
中村:それを実現するのが、小さい「マイ衛星」です。
コバヤシ:PCで登場したアップル、スマホでOS・アンドロイドを提供したグーグルが、フェイスブックとアマゾンともに(GAFA)、今、小型衛星に投資して活用し始めています。ウォークマンで、世界中の個人が、歩きながら世界の音楽を聞きました。超小型衛星で、世界中の個人が、「私の宇宙」を見ます。
キーワード❷ 小さな衛星で大きな地球を観測
中村:2003年、米欧加とともに世界初のキューブサット(10cm角)を打ち上げました。その後、中村さん、趙さんが育成したキューブサット(10cm~30cm)が、世界標準となり、多数打ち上げられた。現在までに、1300基を超えるキューブサットが宇宙に打ち上げられている。
趙:ソニーは、トランジスターラジオ(※2)、コンピューターゲーム、CMOSイメージセンサー(※3)を、創造的に小型化して、世界を席巻しました。人工衛星の小型化の革新も、それらと同じ道を進んでいると思います。
大学では、超小型衛星を教育、技術実証、科学観測に活用しています。学生にシステムによるモノ作りを体験させているのです。新技術の宇宙実証、実験と観測を行っています。
中村:アクセルスペース社は、2013年、北海海域の海氷分布および温室効果ガスの濃度を観測する、世界初の民間商用超小型衛星WNISAT-1 (30cm角、10kg)を打ち上げました。これを皮切りに合計5機の超小型衛星を開発し実績を積んできましたが、その間サイズはどんどん大きくなってきています。JAXAの衛星に至っては200kgで、自社のクリーンルームで製造するにはサイズが大きすぎで、つくばにあるJAXAの設備で組み立てや試験を行っています。学生時代に取り組んだキューブサットは研究・検証用途としてはいいのですが、どうしても性能面で制約があるため、現在の弊社の主流は100kgクラスの衛星ですね。
キーワード❸ 100㎏級の超小型衛星が、世界の経済・社会を革新する
中村:今後、100㎏級の超小型衛星の利用が、政府を含めて本格的に進んでいくと考えています。アメリカではキューブサットへの取り組みが中心でしたが、100kg級の衛星量産に向けた大きな政府予算もつき始めており、世界的に競争が激しくなっていくと予想しています。
アクセルスペース社では一歩先に量産を見据えた動きを始めており、21年3月に、超小型衛星グルース(GRUS 100㎏ 60×60×80cm)を4基同時に打ち上げます。18年に打ち上げ済みの1基と合わせ、衛星コンステレーション「AxelGlobe」を構成する予定です。GRUSのカメラは、分解能2.5m、撮影幅57㎞で、農業や都市計画など多様な分野での利用を見込んでいます。5基体制により、世界のあらゆる地域を3日以下という高頻度で観測することが可能になります。
藤原:2020年からの5年、約5つの会社・商品が、超小型衛星(100kg級)で成功すると思います。これまで、ネットでは、GAFA+ネットフリックスが中心。食肉では、牛・豚・鶏合計シェアが9割。穀物では、米・小麦・トウモロコシ+豆の合計シェアが9割だからです。
趙:超小型衛星で重要なアウトプットは、画像、通信、観測のデータ。そのために、非宇宙用の部品・技術、少人数の開発、大学・中小企業・発展途上国の連携が大切です。
これにより、宇宙利用が進化すると、私は考えています。
まとめ コバヤシの一言
探索と深化の「両利きの経営」(オライリー教授著)に書かれているように、変化の時代に対応することが大切。多くの組織と人が取り掛かる宇宙ビジネスも、「一貫性」と「多様性」の二足歩行で前進し、成長していきます。
※本記事の内容は2020年12月時点のものです。