2021.01.11
EPコバヤシの「ビジネスのつくりかた」

#04 【後編】宇宙ビジネスは多様な連携で成長する

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)のアクセラレーターは、新規事業の立ち上げを支援し加速するマインドセットとスキルを兼ね備えたプロフェッショナル集団です。それぞれが実際の事業経験を通じて学んだ豊富で専門的な知識を持ち、様々な分野で新規案件の事業化や収益化をサポートしています。

本連載では、SSAPでエグゼクティブプロデューサーとして様々な案件を担当するアクセラレーター 小林 敬幸 (以下コバヤシ)の独自の視点で「ビジネスのつくり方」を解説します。

今回は、いまコバヤシが注目している宇宙ビジネスに関係する、九州工業大学の趙 孟佑 教授、株式会社アクセルスペース(以下アクセルスペース社)代表取締役CEO 中村 友哉さん、ウミトロン株式会社(以下ウミトロン)代表取締役 藤原 謙さんとの4人会談を「前編」「後編」に分けてご紹介します。

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ナビゲーター

コバヤシ(小林 敬幸)
2016年ソニー入社前までの30年間、三井物産株式会社(以下三井物産)にて様々な新規事業を育成。
著書に『自分の頭で判断する技術』(角川書店)、『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『ふしぎな総合商社』(講談社+α新書)など。

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こんにちは、コバヤシです。

連載第4回目は、超小型人工衛星をリードしている4人との会談です。「一貫性」と「多様性」による宇宙ビジネスの解決です。

後編では、宇宙ビジネスが「多様」につながる連携によって、成長していくことについて、3名から学ぶ4つのキーワードを紹介します。2020年、米国、中国、発展途上国含め世界中の国・地域、及び、GAFA含めた多数企業が、超小型衛星に多くの人材と資金を向けています。

キーワード❶ 日本がトップだった超小型衛星に多様な国・地域と組織が参加した 

2000年代、NASA、JAXAの国立研究所も大企業も見逃すなか、日本の大学教授とベンチャー企業が、超小型衛星を世界にアピールしました。
超小型衛星の世界の先頭グループにいる、日本在住の3スターは、中須賀真一(東大教授)、趙孟佑(九州工大教授)、中村友哉(アクセルスペース社長)。日本では、大学がリードしてきました。
超小型衛星の国・地域のランキングは、次の通り。

2000年代 1位 米国 2位 日本 3位 ドイツ
2012年から爆発的に多国の多社が参入した。
2017年~ 1位 米国、2位 中国、3位 日本、4位 ドイツ

1基当たりの開発費が少額なので、多くの発展途上国も、超小型衛星に参入しています。
また、国の研究所に加え、大企業、ベンチャーの民間企業も取り掛かっています。

キーワード❷ 多様につながり連携する

超小型衛星では、大学・企業の連携、先進国・発展途上国の連携を行っています。

趙:従来の人工衛星では、米国を中心とした宇宙先進国が開発や利用の中心でした。21世紀の超小型衛星では、それまで宇宙とは関係のなかった国、企業、大学が参入しています。九州工業大学では途上国から留学生を受け入れ、キューブサットを実際に作ってみて、宇宙開発・利用の最初の第一歩を踏み出させる教育を行なっています。それらの国・地域による先進国・途上国間の連携が期待されます。

九州工業大学のBIRDS-IV衛星開発チーム
九州工業大学のBIRDS-IV衛星開発チーム

中村:100kg級ではまだ水平分業が進んでいるわけではありませんが、社内ではそれに近い効果が得られるよう、航空宇宙にこだわらない、さまざまなバックグラウンドの人間を積極的に採用しています。例えば自動車や電機メーカー、ITベンチャー出身のエンジニアが多く参画しています。また国際色も豊かで、社員の1/3は外国人。20カ国くらいから日本に来てくれています。うち数名は、発展途上国から九州工大の趙先生の研究室に留学し、実際の衛星開発を経験したエンジニアです。当然即戦力で、人柄もよくて社内の人気者です。

*12月、山口大学とアクセルスペース社は、多数の衛星の地球観測データを補正して活用する基本協定を結んだ。

キーワード❸ 産業貢献に加え、消費者へのエンタテインメントでの貢献を 

趙:ソニーには、超小型衛星を使って、エンタテインメントの分野を盛り上げてほしいと思います。超小型衛星関係者、みんなが喜んで、技術でも追加映像でも、水平でサポートします。超小型衛星が急成長する今でこそ、エンタテインメントに踏み込んだほうがいいと、関係者は、みんな思っています。
しかし、衛星関係の会社、大学、JAXAは、技術者で理系の人ばかりで、どういうエンタメを提供すれば、消費者が楽しいのかには詳しくありません。映画、音楽、ゲームの事業を持っているソニーは、よく知っているでしょう。また、家電、カメラ、ゲーム、旅行の企業とも、水平の提携を広げていきたいです。
中村社長、藤原社長も、強く同意していました。

キーワード❹ 超小型衛星の社会的意義

趙:超小型衛星のコンステレーション(※1)により、海洋、気象、環境の常時観測、非常時の通信中継などの貢献をしたいと考えています。
気象観測では、GPSオカルテーションに(※2)よる地球大気の水蒸気密度鉛直分布の測定。
海洋監視では、AIS(Automatic Identification system)受信による船舶の追跡。また、津波対応ができます。地上インフラに頼れない海洋では宇宙の意義は大きい。藤原さんが、社会的に貢献しています。

※1 衛星コンステレーション:多数の人工衛星が協調稼動するシステム
※2 GPSオカルテーション: GPS信号の通過の遅延量により大気の状態を調べる

藤原:ウミトロン社では、衛星データを活用したUMITRON PULSEで、世界中の海での、水温、溶剤酸素、クロロフィルa、塩分、波高を、無料で公開して、水産業に貢献しています。
超小型衛星は、大中小国、先進国・発展途上国、島・大陸、海岸から山中まで、すべてのヒトに、同等にサービスできます。国際的なSDGs とEMSにもつながります。

UMITRON PULSE
UMITRON PULSE

まとめ コバヤシの一言

小さな衛星が、大きな地球を丸ごと救う。
アマゾンは、本から始まり、多様なモノとサービスのビジネスに拡大するとき、一貫して、ネットを使ったサービスを提供しました。宇宙ビジネスでは、環境、経済、政治、エンタテインメントの多様の課題を、国際、各国・各地域、企業、個人の多様な組織と人が一貫してつながり連携したい。「一貫性」と「多様性」の二足歩行で前進すると考えています。

 

※本記事の内容は2021年1月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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