Sony Startup Acceleration Program(SSAP)のアクセラレーターは、新規事業の立ち上げを支援し加速するマインドセットとスキルを兼ね備えたプロフェッショナル集団です。それぞれが実際の事業経験を通じて学んだ豊富で専門的な知識を持ち、様々な分野で新規案件の事業化や収益化をサポートしています。
本連載では、SSAPでエグゼクティブプロデューサーとして様々な案件を担当するアクセラレーター 小林 敬幸 (以下コバヤシ)の独自の視点で「ビジネスのつくり方」を解説します。
今回は、いまコバヤシが注目する、立命館アジア太平洋大学(※)の実践型課外プログラムのAPU起業部「出口塾」と、そのリーダーを務める出口治明学長ご自身を「前編」「後編」に分けてご紹介します。
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ナビゲーター
コバヤシ(小林 敬幸)
2016年ソニー入社前までの30年間、三井物産株式会社(以下三井物産)にて様々な新規事業を育成。
著書に『自分の頭で判断する技術』(角川書店)、『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『ふしぎな総合商社』(講談社+α新書)など。
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こんにちは、コバヤシです。
連載第3回目の今回は、多くの海外留学生を受け入れている立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長に、コバヤシがインタビューしました。APUは2018年に、将来本気で起業をしたい学生を支援するため、自らがベンチャー企業の起業家であった出口学長ご自身がリーダーを務める「APU起業部」(通称:出口塾)を発足させました。「APU起業部」は、学生の中から起業家を育成し、国内外で活躍してもらう実践型課外プログラムです。
出口さんが、ライフネット生命保険株式会社を設立したとき、私(コバヤシ)は、協力しました。
前編では、そんな出口学長の「APUでの取り組み・起業の経験」から私が学ぶことを、3つのキーワードと共にご紹介していきます。自らが起業家であり、その経験をもとに起業を目指す学生を教育する出口学長から、ビジネスのつくり方のヒントを得ました。
キーワード❶ APU起業部(出口塾):起業に必要なことは、「夢」「多様性」「志と算数」
立命館アジア太平洋大学(APU)では、実践型課外プログラムのAPU起業部、通称「出口塾」が開催されている。
コバヤシ:APU起業部(出口塾)は、どういうことをしていますか。
出口:大学で、「起業」の授業をしているわけではありません。学生がやりたい夢を、教職員7人が各チームのメンターとして寄り添いハンズオンで応援しています。
九州大学の起業部では、熊野正樹准教授が、学生をハードに鍛えている。それとは、理念が違って、APUの起業部では、学生の夢をソフトに助ける。学長の部屋をオープンにしているので、年間400組の学生が部屋に来るが、その時にも起業の相談にのる。
APU起業部で、年齢の近い卒業生の起業家・NPOの方々の苦楽経験とアドバイスを聞くと、学生も元気がでる。多くの学校は、学生の就職活動をサポートしているが、今のAPUでは、それに加え、起業やNPOのチャンスを提供している。
出口塾で身に着ける、起業の仕方。大きく3つの観点が重要。
・大きい夢:夢は、ある程度大きい方がいい
・多様性:ダイバーシティの中からイノベーションがうまれる。広い世界を見て。
・志と算数:異なりがちな、志(理想)と算数(事業計画、キャッシュフロー計画)の両立が大切。つらいが楽しい。社会では、片方だけを持っている人・組織が多いがそれでは、成功しにくい。
キーワード❷ APUの留学生:日本は今、世界から学ぶべき
コバヤシ:日本が存在感を維持するには、世界から、どう学ぶべきですか。
出口:GDP成長率をみると、アメリカ3%、EU 2%、日本 1%、世界 も3%。日本は、世界からもっと新しい時代の成長の仕方を学ばないと成長できない。
明治維新がうまくいった秘訣は、維新の3傑の内の大久保利通、木戸孝允を含む岩倉使節団が2年間、世界を訪れ学んだこと。日本は、もっと謙虚に世界から学ばないと、衰退する。
コバヤシ:留学生、特に発展途上国の学生から、何を我々が学ぶべきでしょう。
出口:APU学生総数5,745人のうち、国際学生(留学生)が2,691人、約半分。90の国や地域から学生が来ている。インドネシア、ベトナム、中国、韓国、タイ、バングラデシュの6か国から100人超の学生が来ている。そのうち、インドネシアやバンングラデシュからは多数のイスラム教徒が来ている。
APUの学生は、志がちがう。「マザーテレサのあとを継ぐのは、自分しかいない」という日本人の学生もいる。APU卒業後ダイレクトにハーバードの大学院に入った留学生もいる。自国の女性の地位をあげたいという大きな夢を持つ女学生もいる。現実対応力も、大きな夢も持っている。
APUの学生寮では、日本人一人と外国人一人が二人部屋で住んでいる。日本のある大学の先生が、「相性があわないと、一年間つらいでしょう。どうしますか」と尋ねた。外国の留学生は、「人生は、思う通りにならないということを、学べ。」と答えた。先生は、人生を教えてもらったと、感動していた。
そういう学生は、どこかの一つの国・地域ではなく、世界全体を救う可能性を持っているのではないか。
キーワード❸ ライフネット生命保険:成功の理由は、夢と現実の両方を細かく見ること
2006年、出口さんは、社長としてネットライフ企画株式会社を設立。2007年、小林が属する三井物産が社員6名のネットライフ企画会社に15億円出資、19.16%の株主になり、小林が取締役になった。2008年、ライフネット生命保険株式会社は免許を得て営業開始。2012年、東証マザーズに上場。
コバヤシ:出口さんは、ライフネット生命を産み、育てました。
出口:ライフネット生命は、小林さんたちのおかげで、現在、1500円/株、時価総額1,000億円(2020年8月26日)に達した。1つの夢であった時価総額1,000億円を初めて突破して何よりうれしかった。少人数の企画会社の頃から、性別や年齢を超えて多様な経験の人が集まったのがよかった。
コバヤシ:出口さんは、日本生命で、生命保険協会の委員長や、ロンドン現法(現地法人)の社長として、活躍された。日本は、生命保険料シェアで、2015年まで世界2位で、世界が敬意を持っていた数少ない日本の金融業界。その後も、大学も含め様々な業界全体をまとめてこられた。
出口:夢とリアリズムの双方を持ち、人の話をよく聞き、同時に広く細かく現実を見ないといけない。
また、ライフネットでもそうだったが「安くて良いもの」が、大事。ところで、小林さんは、大企業にいながら、「自由人」の印象が強かった。コロナが落ち着いたら、APUに、遊びに来てください。
まとめ コバヤシの一言:多様な創造と実行
理想と現実、志とチャンスを見逃さない。未来と歴史、精神と経済を、悩みながらも、多様な創造と実行が大切ですね。次の出口さんとの対談(後編)で、そういう生き方を説明します。
※本記事の内容は2020年9月時点のものです。