2021.12.23
SDGsに挑むスタートアップ

#05 住まいで困っている障がい者が『0』の社会を創る

貧困、エネルギー、成長・雇用、気候変動等の社会課題を解決するために国連サミットで採択され、17のグローバル目標から成る持続可能な社会実現のために採択された持続可能な開発目標(SDGs)。Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、SDGsに取り組むスタートアップの事業化や事業拡大を積極的にサポートしています。

本連載では、SSAPでスタートアップとソニーグループのアライアンスやファイナンスを担当する吉村崇司が、テクノロジーの力で社会課題の解決にチャレンジするスタートアップをご紹介します。またそのスタートアップに出資をするベンチャーキャピタルの方にもご登場いただき、評価ポイントを伺います。

今回は、ソーシャルインクルー株式会社(以下、ソーシャルインクルー)をご紹介したいと思います。ソーシャルインクルーは、「住まいで困っている障がい者が『0』の社会を創る」という理念のもと、障がい者のための「住まい」の供給不足及び地域における雇用機会の不足という課題の解決に取り組んでいる注目のスタートアップです。

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ナビゲーター

吉村 崇司

吉村 崇司(よしむら たかし)
新卒でベンチャーキャピタルに入社後、スタートアップの経営を経て、ソニーネットワークコミュニケーションズ㈱の経営企画部でコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運営に従事。
その後、買収したソネット・メディア・ネットワークス㈱のIPO準備責任者として東証マザーズ上場を担当。2017年よりSony Startup Acceleration Programでファイナンスおよびアライアンス業務に携わる。

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こんにちは、吉村です。
連載第5回目の今回はソーシャルインクルー代表取締役社長の三浦恭平さん、ベンチャーキャピタルとしてソーシャルインクルーに投資する日本アジア投資の担当である天野晃さんにお話を伺いました。

三浦 恭平さんの写真と、天野 晃さんの写真
左:ソーシャルインクルー株式会社 代表取締役社長 三浦 恭平さん、右:日本アジア投資株式会社 投資開発グループ ディレクター 天野 晃さん

1.解決したい課題

吉村:ソーシャルインクルーが解決しようとしている課題はどのようなものでしょうか?

三浦:ソーシャルインクルーは、「住まいで困っている障がい者が『0』の社会を創る」という理念のもと、障がい者のための「住まい」の供給不足及び地域における雇用機会の不足という課題の解決に取り組んでいます。
障がい者のための「住まい」は圧倒的に不足しており、さらに今後、障がい者の人口は2045年をピークに増えることが予測されています。また、少子高齢化社会かつ、障がい者数の増加によるグループホームの利用需要が高まっている一方で、福祉業界は「仕事がハードそう」「賃金が低い」「離職率が高そう」など、一部でマイナスイメージを持たれていることも事実です。ソーシャルインクルーは、多拠点への展開による従業員の効率的な配置を行うことでワークライフバランスの確保や、蓄積されたノウハウ共有による従業員スキルの向上、そして新築で綺麗なグループホームにこだわり、ご利用者様と従業員の皆様がどちらも過ごしやすい居住空間を実現した、障がい者向けグループホームを展開しております。

SDGs 目標
(Sony Startup Acceleration Programは 持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています。)

2.解決のアプローチ

吉村:ソーシャルインクルーが運営するグループホームの数は、創業からわずか4年半で業界トップクラスまで増加したそうですね。どのような特徴があるのでしょうか?

三浦:ソーシャルインクルーのグループホームは、夜間も含め24時間世話人が常駐する「日中サービス支援型」が中心で、日中活動が難しい方でもご入居可能です。また、知的・精神・身体のどの障がい種別をお持ちの方でも利用可能で、入居者それぞれの障がいや生活スタイルに合わせて作成される個別支援計画のもと、食事の提供や洗濯、清掃、入浴介助や排泄介助などのサービスを提供しているのが特徴です。
入居定員は原則として、1ユニットあたり10名定員×2ユニット(計20名)。ユニットごとに男性・女性が分かれており、10代から60代までの幅広い年代の方たちが暮らしています。現在は1ヶ月あたり約5事業所のペースで新規ホームの開設が続き、創業からわずか4年半で運営拠点数は115拠点(2021年11月時点)と障がい者グループホーム数の業界トップクラスまで拡大しました。

明るいナチュラルウッド調の内装 廊下を挟んで引き戸の部屋が並んでいる写真とキッチンの写真
ソーシャルインクルーのグループホーム

3.実績・実例

吉村:最近は社会的インパクトファンドを活用したグループホームの展開も積極的に行われていますね。

三浦:日中サービス支援型のグループホームの開発・運用を目的として2021年に設立されたファンド「合同会社 GH プロパティ」にオペレーターとして参加しています。このファンドには、新生銀行グループの昭和リース株式会社、ユニ・アジアインベストメント株式会社、日本アジア投資株式会社の3社が共同で匿名組合出資を、株式会社商工組合中央金庫が不動産ノンリコースローンの融資枠を設定し、組成されました。
ソーシャルインクルーは、オペレーターとして、全ての施設が安定した高品質なサービスを提供できるよう施設を直営し、本社が中心となって施設運営マニュアルの整備や研修の実施、施設内外での通報・苦情処理体制の構築、内部監査室による定期的な指導等を行うことで、グループホーム運営に付随する社会的リスク等を適切にマネジメントした運営を行います。
このようなファンドを活用した仕組みは、ソーシャルインクルー単独でグループホームを展開する場合に⽐べ、より⼤規模・多数のプロジェクトを⼿掛けることができるため、プロジェクトのもたらす社会的インパクトが⼤きくなり、今後も積極的に活用していきたいと考えております。

ソーシャルインクルーが参加するファンド「合同会社 GH プロパティ」のチャートの図
ソーシャルインクルーが参加するファンド「合同会社 GH プロパティ」のチャート

4.外部評価(株主・取引先など)

吉村:日本アジア投資は、経済同友会を母体として設立されたベンチャーキャピタルですが、現在はさまざまな事業分野で、プロジェクトの企画や開発に精通したベンチャー企業とパートナーシップを組んだ戦略投資も⾏っていますね。

天野:日本アジア投資は、「⽇本とアジアをつなぐ投資会社として少⼦⾼齢化が進む社会に安⼼・安全で質と⽣産性の⾼い未来を創る」を経営理念とし、投資活動を通じて広く SDGsに貢献することを経営の重要課題と位置づけており、再⽣可能エネルギー、スマートアグリ、ヘルスケア、ディストリビューションセンター等を注⼒分野としています。
また、発電所や住宅施設などを運営するベンチャー企業では、これらの資産への設備投資資金の不足が成長のボトルネックとなるケースが多くあります。特に、新規性に富んだ事業を行う実績のないベンチャー企業にとって、融資資金の調達は困難を伴います。

そこで日本アジア投資は、投資先企業が運営するこれらの資産にも投資を行い、その成長を支援しています。資産の投資にあたっては、我々の持つスキルを活用し融資資金も調達しています。
ソーシャルインクルーには、①「障がい者の住まいの不足」という社会課題をダイレクトに解決できる事業であること、➁日中サービス支援型障がい者グループホームにおける日本最大級のオペレーターであり多くの実績や知見、ノウハウを有していること、③障がい者グループホームのニーズは日本全国に存在しており、地銀を中心とした当社の地域金融機関のネットワークを活用することで、早期に全国展開が可能だと見込まれたことなどを評価して、2019年に事業パートナーとして戦略的出資を行いました。

日本アジア投資は実際に、地域金融機関とのタイアップにより全国各地でグループホームを所有しています。これらの運営はソーシャルインクルーに委託しており、同社の運営棟数の増加に寄与することで、同社の成長を支援しています。2021年には、ソーシャルインクルーをオペレーターとする 24 時間⽀援体制の⽇中サービス⽀援型障がい者グループホームの開発・運営を⽬的として設⽴されたファンド「合同会社 GH プロパティ」に対して、SPC を通じて匿名組合出資を実⾏するなど、今後も戦略投資先ソーシャルインクルーの事業拡⼤をサポートしていきたいと考えています。

日本アジア投資の評価ポイント 1.社会課題をダイレクトに解決 2.日本最大級のオペレーター 3.全国展開可能なネットワーク
日本アジア投資のソーシャルインクルーに対する評価ポイント

5.吉村の取材後記

吉村:今回の取材で、障がい者向けグループホームという事業の存在を初めて知りましたが、現場で働いている方々の生の声を聞けたことで、日中活動が難しい入居者への対応の必要性など大変勉強になりました。また、ファンドを活用した仕組みを使って⼤規模なプロジェクトを動かすことで、より大きな社会課題の解決にチャレンジしている点も非常に興味深いものでした。
本連載『SDGsに挑むスタートアップ』では、今後も「イノベーションを軸に、社会課題を解決する」という強い使命感を持ったスタートアップを取材していきます。

※本記事の内容は2021年12月時点のものです。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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