貧困、エネルギー、成長・雇用、気候変動等の社会課題を解決するために国連サミットで採択され、17のグローバル目標から成る持続可能な社会実現のために採択された持続可能な開発目標(SDGs)。Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、SDGsに取り組むスタートアップの事業化や事業拡大を積極的にサポートしています。
本連載では、SSAPでスタートアップとソニーグループのアライアンスやファイナンスを担当する吉村崇司が、テクノロジーの力で社会課題の解決にチャレンジするスタートアップをご紹介します。またそのスタートアップに出資をするベンチャーキャピタルの方にもご登場いただき、評価ポイントを伺います。
今回は、SSAPの支援先及び出資先でもあるLiLz株式会社(以下、LiLz)をご紹介。LiLzは、'機械学習とIoTの技術融合で、現場の仕事をラクにする'をミッションに掲げ、目視巡回点検をラクにする「LiLz Gauge」を2020年6月に提供開始。第6回「JEITAベンチャー賞」をはじめとする様々な賞を受賞し非常に注目されているスタートアップです。
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ナビゲーター
吉村 崇司(よしむら たかし)
新卒でベンチャーキャピタルに入社後、スタートアップの経営を経て、ソニーネットワークコミュニケーションズ㈱の経営企画部でコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運営に従事。
その後、買収したソネット・メディア・ネットワークス㈱のIPO準備責任者として東証マザーズ上場を担当。2017年よりSony Startup Acceleration Programでファイナンスおよびアライアンス業務に携わる。
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こんにちは、吉村です。
連載第3回目の今回はSSAPアクセラレーターの松岡秀峰と共に、株式会社LiLzの代表取締役社長の⼤⻄敬吾さんにお話、リード投資家としてLiLzに出資を行う株式会社環境エネルギー投資(以下EEI)の池田顕史さんにお話を伺いました。
1.解決したい課題
吉村:LiLzが取り組む社会課題とはどのようなものでしょうか?
大西:水道・電気などの社会資本やプラントなどあらゆる施設は老朽化が深刻となり、火災・漏えいなどの事故が増加の一途を辿っています。しかしながら、設備保全現場では電源やネットワークが十分に配備されていないケースが多く、アナログメーターなどの計器類の継続的なセンシングは現実的に難しく、人間の五感に頼る非効率な保全が行われているという課題があります。 LiLz としては、IoT/AIを活用した予知保全への取り組みにより、SDGsの目標9「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」の、ターゲット9.2「包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030年までに各国・各地域の状況に応じて雇用及びGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる。」に貢献したいと考えています。
2.解決のアプローチ
吉村:IoT/AIを活用した予知保全への取り組みというのは、具体的にどのようなものでしょうか?
大西:設備保全における計器の巡回点検を支援するクラウドサービスとして、「LiLz Gauge」を2020年6月に提供開始しました。LiLz Gaugeの特長は、電源が無いあらゆる場所での目視巡回点検をリモート化できる点にあります。具体的には、1日3回の撮影で約3年間と長期稼働する低消費電力IoTカメラとクラウド側の機械学習・画像解析によって、アナログ計器の値を自動で読み取り、現場に行くことなく点検対象の情報を効率的に取得することができます。
さらに、点検時に顧客のフィードバックを得ながら精度を向上していくことが可能な為、お客様自身で事前に学習データを準備する必要がなく、カメラを設置したその日から目視点検の省力化をスタートできることも評価されています。
3.実績・実例
吉村:LiLz Gaugeは、実証実験を繰り返す中で誕生した、点検現場のニーズに即したサービスだそうですね。
大西:LiLz Gaugeは、大手空調設備工事会社である高砂熱学工業との共同開発において実際の設備保全現場にて調査やテストを繰り返す中で生まれました。元々は、加速度センサなどを活用した機械設備の故障検知というテーマでの開発を検討していましたが、現場の施設管理者にヒアリングした結果、設備保全の現場では日常点検における目視の巡回点検に手間がかかっていることがわかりました。その後テーマを日常点検に変更して顧客課題を深掘りしたことで現在のサービスになりました。同様のニーズはあらゆる施設の点検現場でもあり、2021年4月現在、LiLz Gaugeはビル・病院、プラント、発電所、下水処理場、道路関連設備など多くの点検現場で導入されています。
また、直近ではLiLz Gaugeが労働力不足解消対策に貢献するだけでなく、コロナ禍におけるリモート化、不安全作業の軽減などの業務効率化を達成している点が評価されて、一般社団法人電子情報技術産業協会による第6回「JEITA ベンチャー賞」を受賞致しました。
4.外部評価(株主・取引先など)
吉村:2021年1月にSSAPはEEIと一緒に、LiLzに出資させていただきました。EEIは、環境・エネルギー分野にフォーカスされた独立系ベンチャーキャピタルですね。最近は「エネルギー産業の構造転換」や「スマート化」、「資源の有効活用」といった切り口から、SDGsに貢献するベンチャーを投資対象とされているそうですが、LiLzについては、どのような点を評価されて出資されたのでしょうか?
池田:EEIは、投資テーマとして「スマート化」を掲げておりますが、その中でもインフラメンテナンスのスマート化は、エネルギー関連設備においてもニーズが高まっている領域であり、注力分野であると捉えております。LiLzは、設備の日常点検における現場のニーズを汲み取り、現場で実際に導入し易い工夫を様々行っており、導入企業からも製品と企業姿勢の両方において高評価を頂いておりました。昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が叫ばれる中で、まずは現場のアナログ情報をどのようにして負荷のかからない方法でデジタル化するのかが一番の課題であり、LiLz Gaugeはまさにそれを解決するソリューションであると評価しました。今後は、発電所や石油プラント等のエネルギー関連の大型設備での利用シーン拡大も見込めると期待しています。
5.吉村の取材後記
松岡:今回、SSAPとして次期デバイスの利用シーン・商品仕様の策定等の支援を行う中、大西さんから「アイデアが山ほど湧きでた」という嬉しいお言葉をいただきましたが、たしかに専門分野が異なるメンバー同士でいろんなベクトルの意見が続出したことがありました。それでも多くの現場に足を運んでいる大西さんが自社のとるべきポジションを明確にイメージされていたため、健全な議論の後はものすごい勢いで収束していきました。支援をさせていただいて、とても爽快な気持ちになったことが思い起こされます。これからもLiLzさんならではの現場の視点に立脚した社会課題の解決を、SSAPとしてお手伝いできればと思います。
吉村:2021年1月にSSAPとしてLiLzに出資しましたが、LiLzの会議に出席すると、メンバー達が自由闊達に議論を行っており、経営の透明性が高いのが印象的でした。また、大西さんは事業の課題や経営の悩みを率直にお話しされるので、我々も支援やアドバイスを行う上でコミュニケーションし易く、今後もLiLzの持続的な成長に積極的に貢献していきたいと考えています。