2021.07.08
SDGsに挑むスタートアップ

#04 貸付型クラウドファンディングで「世界を繋ぐ金融」を実現する

貧困、エネルギー、成長・雇用、気候変動等の社会課題を解決するために国連サミットで採択され、17のグローバル目標から成る持続可能な社会実現のために採択された持続可能な開発目標(SDGs)。Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、SDGsに取り組むスタートアップの事業化や事業拡大を積極的にサポートしています。

本連載では、SSAPでスタートアップとソニーグループのアライアンスやファイナンスを担当する吉村崇司が、テクノロジーの力で社会課題の解決にチャレンジするスタートアップをご紹介します。またそのスタートアップに出資をするベンチャーキャピタルの方にもご登場いただき、評価ポイントを伺います。

今回は、ソニーフィナンシャルベンチャーズ株式会社(以下、SFV)の出資先であるクラウドクレジット株式会社(以下、クラウドクレジット)をご紹介したいと思います。クラウドクレジットは、「世界を繋ぐ金融」をミッションとして掲げ、これまで多くの国・地域の資金需要者と日本の投資家を繋ぐ金融サービスを「貸付型クラウドファンディング」の形態で行ってきた注目のスタートアップです。

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ナビゲーター

ナビゲーターの紹介

吉村 崇司(よしむら たかし)
新卒でベンチャーキャピタルに入社後、スタートアップの経営を経て、ソニーネットワークコミュニケーションズ㈱の経営企画部でコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運営に従事。
その後、買収したソネット・メディア・ネットワークス㈱のIPO準備責任者として東証マザーズ上場を担当。2017年よりSony Startup Acceleration Programでファイナンスおよびアライアンス業務に携わる。

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こんにちは、吉村です。
連載第4回目の今回はクラウドクレジットの代表取締役社長の杉山智行さん、SFVの担当である原田果意さんにお話を伺いました。

クラウドクレジット株式会社 代表取締役CEO 杉山 智行さん、ソニーフィナンシャルベンチャーズ株式会社 原田 果意さん
左から、クラウドクレジット株式会社 代表取締役CEO 杉山 智行さん、ソニーフィナンシャルベンチャーズ株式会社 原田 果意さん

1.解決したい課題

吉村:クラウドクレジットが解決しようとしている課題はどのようなものでしょうか?

杉山:クラウドクレジットは、貸付型クラウドファンディングを通じて、社会インパクト投資を生み出すファンドを立ち上げ、SDGsの様々な目標達成に寄与しています。社会インパクト投資とは、社会的課題の解決に取り組む企業や領域に投資し、経済的なリターンと社会的なリターンの両立を実現する投資手法です。

例えば、「メキシコ女性起業家支援ファンド」では、主に女性起業家向けに融資を行う金融機関に貸付を行い、女性の経済的地位の向上を促すことで、メキシコにおける女性の社会進出の支援に繋がり、ひいては「ジェンダー平等を実現しよう」という目標の達成に寄与しています。
今後は、発展途上国における貧困、飢餓、ヘルスケア、教育、ジェンダー、上下水道など、SDGsの17の目標達成に寄与するファンドを数多く立ち上げていきたいと思います。

「メキシコ女性起業家支援ファンド」による女性の社会進出の支援の場合
「メキシコ女性起業家支援ファンド」による女性の社会進出の支援の場合
(Sony Startup Acceleration Programは 持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています。)

2.解決のアプローチ

吉村:貸付型クラウドファンディングを通じてSDGsに貢献するということですが、貸付型クラウドファンディングとはどのようなサービスでしょうか?

杉山:貸付型クラウドファンディングとは、お金を借りたい人とお金を貸したい人をインターネット上でつなげる、金融サービスです。
お金を借りたい人は、本当にお金を必要にしている海外の人や事業者で、主に新興国で事業を展開している金融機関や事業者が対象です。
お金を貸したい人は、主に日本国内の個人投資家です。投資家は、1万円の少額から、国や地域・セクター・通貨など様々な特徴をもった海外ローンに分散投資を行うことでリスクを分散しつつ、複利での高いリターンを目指すことが出来ます。また、投資を通して、世界中の新興国のさらなる発展や雇用の創出に貢献することができます。

特にクラウドクレジットでは、「世界を繋ぐ金融」というミッションのもと、投資家の皆様に、世界の様々な地域の事業者に対して投資をする機会をご提供しています。世界では貧困や教育問題などの社会的課題も日本国内のみと比べても様々ですが、当社は、その解決に取り組む企業や領域に投資し、経済的なリターンと社会的なリターンの両立を実現する社会的インパクト投資を重視しています。

「貸付型クラウドファンディング」の仕組み
「貸付型クラウドファンディング」の仕組み

3.実績・実例

吉村:これまで立上げ上げられたファンド数は1,500弱、累計の出資額は350億円超とのことですが、実際にファンドを通じて実現された社会課題の解決にはどのようなものがありますか?

杉山:クラウドクレジットでは、2021年3月に、社会的インパクト重視ファンドの販売により創出された社会的インパクト(社会に改善をもたらす前向きな変化)等を、定性的および定量的に説明することを目的に「社会的インパクト投資レポート」を発行しています。社会的リターンの計測については、たとえば、マイクロファイナンス機関に対して貸付を行ったことによって、「どれだけの方にお金が届いて、どういう需要が生まれたか」「どういう雇用が生まれたか」ということを可視化しているのが特徴です。

冒頭でご紹介した「メキシコ女性起業家支援ファンド」の場合、「地方・貧困地域に居住する女性の金融アクセスの乏しさ」という社会課題に対して、総額約5.2億円の融資を行い、女性経営者の所得向上や金融リテラシー向上、女性のエンパワーメントという貢献を行うことができました。

クラウドクレジットの「社会的インパクト投資レポート:年次報告2020」
クラウドクレジットの「社会的インパクト投資レポート:年次報告2020」

4.外部評価(株主・取引先など)

吉村:SFVは、ソニーフィナンシャルグループ(以下、SFG)のコーポレートベンチャーキャピタルとして活動されていますね。

原田:SFVは、フィンテックなどに独自の強みを持つベンチャー企業への投資を通じて、財務的なリターンに加え、ベンチャー企業とSFG各社の連携や協業による、既存事業の強化と新規事業の創出を目指しています。

クラウドクレジットは、日本のお金を世界の成長期待国・地域に繋げるという非常にユニークなビジネスモデルに取り組んでおり、SFVとしては、①金融・海外ネットワークに強みを持つ優れた経営メンバーであること、②拡大する貸付型クラウドファンディングのトップティア企業であること、③SFGのグループ会社との事業シナジーが期待できることを評価して出資しました。新興国の事業振興を支援しつつグローバルな分散投資を実現できるクラウドクレジットのスキームは、投資家にとって大変魅力的なだけでなく社会的にも有意義なものなので、今後も協業を通じて「世界に貢献する投資」の発展に寄与したいと考えています。

SFVのクラウドクレジットに対する評価ポイント
SFVのクラウドクレジットに対する評価ポイント

5.吉村の取材後記

吉村:最近では商品やサービスを購入する上で、メーカーの社会課題への取り組みを重視する消費者が増えているそうですが、投資においても単純な経済的リターンだけではなく、投資による社会的な貢献を意識する方も増えているようですね。クラウドクレジットの貸付型クラウドファンディングは、「社会的インパクト投資レポート」の発行により、社会的リターンが可視化されており、自分の投資がどのように社会課題解決へ貢献しているのか、わかりやすい点が非常に興味深いと感じました。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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