貧困、エネルギー、成長・雇用、気候変動等の社会課題を解決するために国連サミットで採択され、17のグローバル目標から成る持続可能な社会実現のために採択された持続可能な開発目標(SDGs)。Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、SDGsに取り組むスタートアップの事業化や事業拡大を積極的にサポートしています。
本連載では、SSAPでファイナンスおよびアライアンス業務を担当する吉村崇司が、テクノロジーの力で社会課題の解決にチャレンジするスタートアップをご紹介します。またそのスタートアップに出資をするベンチャーキャピタルの方にもご登場いただき、評価ポイントを伺います。
今回は、遠隔医療サービスにかかるプラットフォームと医療機器の製造、開発および販売を行う「メロディ・インターナショナル株式会社」(以下メロディ)をご紹介します。最近では、同社が提供する妊婦さんの新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策としてモバイル胎児モニター「分娩監視装置iCTG」が注目されています。またメロディは、妊婦さんが安心して過ごせる環境を実現し、世界のSDGsの目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」の、ターゲット3.1「妊産婦死亡率低減」と3.2「新生児死亡率低減」への貢献を目指しています。
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ナビゲーター
吉村 崇司(よしむら たかし)
新卒でベンチャーキャピタルに入社後、スタートアップの経営を経て、ソニーネットワークコミュニケーションズ㈱の経営企画部でコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運営に従事。
その後、買収したソネット・メディア・ネットワークス㈱のIPO準備責任者として東証マザーズ上場を担当。2017年よりSony Startup Acceleration Programでファイナンスおよびアライアンス業務に携わる。
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こんにちは、吉村です。
連載第1回目の今回は、メロディ・インターナショナル株式会社 CEO 尾形 優子さんと、ハードウェア・スタートアップに特化したベンチャーキャピタルであり2020年にメロディに出資を行った株式会社Monozukuri Ventures(以下Monozukuri Ventures)代表取締役 牧野 成将さんにお話を伺いました。
メロディは「世界中のお母さんに、安心・安全な出産を!」を企業理念とし、医療と健康をICT(情報通信技術)で支え、世界中の妊婦さんと医師のコミュニケーション・プラットフォームを構築しています。
1.解決したい課題
吉村:メロディが取り組む社会課題とはどのようなものでしょうか?
尾形:発展途上国や新興国では、分娩監視装置(CTG)の普及率が低く、しかも専門医が不足している為、妊産婦死亡率や周産期死亡率が非常に高く、医療体制の強化が非常に大きな課題となっています。また、日本国内でも、後継者不足などの理由から産婦人科医の減少が続いている一方、⾼齢出産などのリスク出産の割合が高まっていることもあり、産婦人科医の負担が非常に高まっていることが大きな課題となっています。
メロディは、世界初のIoT型胎児モニターを使った妊婦健診が出来るプラットフォームを提供しており、妊婦さんが安心して過ごせる環境を実現し、世界のSDGsの目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」の、ターゲット3.1「妊産婦死亡率低減」と3.2「新生児死亡率低減」に貢献したいと考えています。
2.解決のアプローチ
吉村:メロディが提供する「分娩監視装置iCTG」は、胎児の心拍と妊婦さんのお腹の張りを測ることが出来るデバイスですね。最近では妊婦さんの新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止策として注目されていると伺いました。どのような特徴があるのでしょうか?
尾形:「分娩監視装置iCTG」は従来型機器の数十分の一程度のサイズにも関わらず、お腹の中にいる胎児の心拍を、高感度の超音波センサーによりスムーズに計測する事を可能としています。大幅な小型化により、病院内での移動はもちろん、院外への持ち運びが容易となりました。インターネットを活用してデータを送信することで、救急搬送中の胎児モニタリングや大きな病院とクリニックとの連携など、様々なシーンで胎児の状態をモニターすることが可能です。
また、当社が開発した「Melody i(メロディ・アイ)」は、妊婦さんが計測した結果を医師に送信でき、遠隔で医師から受診推奨などアドバイスを得ることができるコミュニケーションプラットフォームです。「分娩監視装置iCTG」と「Melody i」と組み合わせることで、遠隔で胎児の健康状態のモニタリングを行い、妊婦さんと医師との連携だけでなく、医療機関から医療機関のデータ連携を⾏うことも可能となっています。
3.実績・実例
吉村:「分娩監視装置iCTG」は、2018年5月に管理医療機器(クラスⅡ)(※)としての薬事認証を取得、2019年1月から販売を開始していますが、手ごたえはいかがでしょうか?
尾形:国内では、離島や僻地などの「産科過疎地域」のクリニック、地域連携の核となる病院と連携先のクリニック、そして都心部のいわゆるブランド病院と言われる医療機関での導入が進んでおり、「Melody iサーバ」に蓄積されるCTG(胎児心拍陣痛図)データ件数も順調に増加しています。
また、最近では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、在宅で受診するオンライン妊婦検診を北海道大学病院で臨時的に行ったこともあり、問い合わせが急増しています。
海外では、東南アジアを中心に導入が始まっており、タイのチェンマイではSNSを活用した周産期リファラルネットワークを運用しています。直近ではブータンでも周産期サーバを設置することが決まりました。まずは20病院から始まり、将来的にはプータン全体をカバーする世界有数の周産期リファラルネットワークの構築を目指しています。
4.外部評価(株主・取引先など)
吉村:Monozukuri Venturesは、ハードウェア・スタートアップに特化したVCファンドの運営と試作コンサルティングで実績がありますね。メロディには2020年に出資されていますが、どのような点を評価されたのでしょうか?
牧野:Monozukuri Venturesは、京都とニューヨークを拠点に、ハードウェア・スタートアップへのベンチャー投資ファンドの運営と、ハードウェアの試作・製造に関する技術コンサルティングを提供する企業です。VCファンドは計30社(日本15社、米国15社)に投資、試作コンサルティングでは70以上のプロジェクト支援の実績があり、今後はCOVID-19環境下で必要とされるモノづくりにも投資する新たなベンチャー投資ファンド「New Normal Monozukuriファンド(仮)」を立ち上げ、日米での投資事業を拡充していく予定です。
メロディに関しては、3つの点を評価しています。1つ目は、電子カルテ事業を展開するミトラを創業後、事業を拡大・エグジットを実現させた経営者としての手腕。
2つ目は、世界標準となっている分娩監視装置の基本原理の発明者である原量宏さんや竹内康人さんを顧問として迎え入れるなど、強力な応援団が同社を支援していること。
最後に、主力製品である「モバイル分娩監視装置 iCTG」に対する産婦人科のニーズが明確で、PMF(Product Market Fit)に向けた課題(原価低減など)やロードマップがはっきりしていることです。
5.吉村の取材後記
吉村:メロディ・Monozukuri Venturesの取材を終え、多くの方々が自発的にメロディという会社をサポートしていることに気づかされました。「妊婦と産婦人科のさまざまな課題を解決したい」という尾形さんの熱意とチャレンジが、周囲を巻き込む力になっているのだと改めて感じました。
本連載『SDGsに挑むスタートアップ」では、今後も「イノベーションを軸に、社会課題を解決する」という強い使命感を持ったスタートアップを取材していきます。