2020.12.07
SDGsに挑むスタートアップ

#02 予防医療で「100歳まで歩ける社会」をつくる

貧困、エネルギー、成長・雇用、気候変動等の社会課題を解決するために国連サミットで採択され、17のグローバル目標から成る持続可能な社会実現のために採択された持続可能な開発目標(SDGs)。Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、SDGsに取り組むスタートアップの事業化や事業拡大を積極的にサポートしています。

本連載では、SSAPでファイナンスおよびアライアンス業務を担当する吉村崇司が、テクノロジーの力で社会課題の解決にチャレンジするスタートアップをご紹介します。またそのスタートアップに出資をするベンチャーキャピタルの方にもご登場いただき、評価ポイントを伺います。

今回は、株式会社ジャパンヘルスケア(以下、ジャパンヘルスケア)をご紹介したいと思います。代表取締役社長(医師)の岡部大地さんは「足病医」として診療を続けながら、運動器疾患の予防システムを作るために2017年に起業しました。2020年4月には、国内初のスマホでつくる3Dプリンタ製オーダーメイドインソール「HOCOH(ホコウ)」のサービスを開始しており、今後の成長が注目されています。またジャパンヘルスケアは、世界のSDGsの目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」の、ターゲット3.8「全ての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。」への貢献を目指しています。

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ナビゲーター

ナビゲーターの紹介

吉村 崇司(よしむら たかし)
新卒でベンチャーキャピタルに入社後、スタートアップの経営を経て、ソニーネットワークコミュニケーションズ㈱の経営企画部でコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運営に従事。
その後、買収したソネット・メディア・ネットワークス㈱のIPO準備責任者として東証マザーズ上場を担当。2017年よりSony Startup Acceleration Programでファイナンスおよびアライアンス業務に携わる。

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こんにちは、吉村です。

連載第2回目の今回は、ジャパンヘルスケア株式会社 代表取締役社長(医師)の岡部大地さんと、DMMのコーポレートベンチャーキャピタルであり、2019年にジャパンヘルスケアに出資を行ったDMM VENTURES(以下DMMV)の長南佑輔さんにお話を伺いました。

ジャパンヘルスケアは、環境改善型予防医学で、筋骨格系疾患の予防に取り組むヘルスケア・スタートアップです。筋骨格系疾患の予防の第一歩を、最も大事な歩行から支えるオーダーメイドインソール「HOCOH(ホコウ)」等を提供しています。 

株式会社ジャパンヘルスケア CEO 岡部 大地さん
株式会社ジャパンヘルスケア CEO 岡部 大地さん
合同会社DMM.com COO室 投資企画グループ グループリーダー兼DMM VENTURES 長南 佑輔さん
合同会社DMM.com COO室 投資企画グループ
グループリーダー兼DMM VENTURES 長南 佑輔さん

1.解決したい課題

吉村:ジャパンヘルスケアが取り組む社会課題とはどのようなものでしょうか?

岡部:足、膝、腰の痛み、肩こりなどの筋骨格系疾患は、世界中で大きな課題となっています。世界全体では17億人以上が筋骨格系疾患を抱えていると言われており、多くの人々は痛みを抱えながら、運動や趣味活動を制限して生活しています。また、筋骨格系疾患は高齢者の要介護の主な原因でもあり、国内の医療費は循環器疾患、がんの次に高く、2兆円を上回ると指摘されています。

こうした問題を予防するためには、適度に運動すること、正しくカラダを使うことが重要です。そのための第一歩を、最も大事な歩行から支えているのが当社のオーダーメイドインソール「HOCOH(ホコウ)」です。「HOCOH(ホコウ)」は人生100年を自分の足で歩き続ける、履くだけで自然と身体が整う新しいスタンダードであり、世界のSDGsの目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」の、ターゲット3.8「 すべての人々に対する財政保障、質の高い基礎的なヘルスケア・サービスへのアクセス、および安全で効果的、かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンのアクセス提供を含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。」に貢献したいと考えています。

解決したい課題
Sony Startup Acceleration Programは 持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています。

2.解決のアプローチ

吉村:予防医療の中でも、特に足の痛みに注目されたのは何故でしょうか?

岡部:足は全身を支える基礎になりますので、その基礎がしっかりしていないと、姿勢がくずれて、膝、腰、肩、首などにも影響を与えてしまいます。最近では、先天的な疾患に加えて、運動不足や足に合わない靴を履き続けるなど、後発的な理由で足が変形してしまうケースも増えていますが、国内では足の診療を専門に行っている医師、特に予防に力を入れている医師は非常に少ないのが現状です。足腰の痛み(筋骨格系疾患)は、介護が必要になる主な要因とも言われていますので、医師として何かできることはないか?と考えるようになりました。

足の歪みを予防する方法は大きく分けて、3つあります。1つ目が正しい歩き方をすること、2つ目が足に合った靴を履くこと、そして3つ目が自分の足に合ったインソールを使うこと。3つ目のインソールは、特別な努力を必要とせずに靴に入れて履くだけで気軽に治すことができるため、インソールに着目して起業することになりました。

オーダーメイドインソール「HOCOH(ホコウ)」
オーダーメイドインソール「HOCOH(ホコウ)」

当社が提供しているオーダーメイドインソール「HOCOH(ホコウ)」は、欧米で広く処方されている骨格矯正を目的とした“硬い”インソールを、ITを活用してオーダーメードで迅速に安価で提供するサービスです。
従来、自分の足に合わせて骨格を矯正するインソールをつくるには、病院に何度も通う必要があり、費用も非常に高額でした。また、国内の足専門の病院は数が少なく、病院によっては数ヶ月待つこともありました。
このように治療において重要な役割を果たすオーダーメイドインソールが手に入りづらいという課題がありましたが、「HOCOH(ホコウ)」をお使いいただくと、スマートフォンで撮影した足の写真を送るだけで、医療者が解析し3Dプリンターで製造されたオーダーメイドインソールが自宅に届きます。

「HOCOH(ホコウ)」のサービスイメージ
「HOCOH(ホコウ)」のサービスイメージ

3.実績・実例

吉村:竹中工務店と共同で、建設作業員や医療従事者向けにHOCOHインソールの効果検証を行ったと伺いました。

岡部:竹中工務店が主催した「TAKENAKAアクセラレーター」プログラムの支援の元で、HOCOHインソールの効果検証を行いました。建設作業員や医療従事者など112名にHOCOHインソールを2ヶ月間使用してもらう検証を行ったところ、足の疲れやすさが軽減し、腰痛などのトラブルの解消につながることが明らかになりました。その結果、経済産業省や東京都の支援事業などに採択され、歩行可視化システムと連動させることや、足の写真だけで3Dスキャンするアプリなどからより高精度なインソール開発にも取り組んでいます。

竹中工務店との共同検証の結果
竹中工務店との共同検証の結果

また、直近ではグッドデザイン賞ベスト100にも選ばれました。今後は痛みのトラブルで来院しやすい整骨院でのHOCOHインソールの販売拡大を目指しており、導入数を増やしているところです。筋骨格系疾患は健康経営におけるプレゼンティーズムコストとしてメンタルヘルスの次に高く、痛みの予防や改善で従業員のパフォーマンスアップにもつながると思うので、企業での導入先も探しています。

イメージ

4.外部評価(株主・取引先など)

吉村:DMMVは、DMMのコーポレートベンチャーキャピタルとして、キャピタルゲイン(※)を求めずに長期的な視点で若手起業家の支援を行っている点が特徴ですね。ジャパンヘルスケアには2019年に出資されていますが、どのような点を評価されたのでしょうか?
※株式や債券など、保有している資産を売却することによって得られる売買差益のこと

長南:DMMVは、シナジーやキャピタルゲインを目的としていません。ベンチャーコミュニティへの貢献は私たちが果たすべき使命と考えており、ベンチャーコミュニティ活性化への貢献や“若手起業家支援等を目的に、出資比率1〜5%を基準に1,000万円を上限としたマイノリティ出資を行っています。起業家に対しては、DMMグループが保有する事業・テクノロジー・マーケティング等のノウハウやネットワーク等のリソースを必要に応じて提供しています。ジャパンヘルスケアに関しては、3つの点を評価しています。1. 代表岡部氏が足の専門医であること、2. 健康寿命の重要性が増す中で、同社サービスが健康寿命延長の1つの解決策となりうること、3. DMMグループの3Dプリンター事業の製造ノウハウの提供を通して支援を行うことができること。

DMMVのジャパンヘルスケアに対する評価ポイント
DMMVのジャパンヘルスケアに対する評価ポイント

5.吉村の取材後記

吉村:最近はコロナウィルスの影響もあり、在宅で働く機会が増えました。運動不足を少しでも解消しようとフットサルを始めましたが、ハリキリ過ぎて足の指を突き指してしまい、逆に整骨院に通うことになりました。皆様も無理なく適度な運動にお気をつけください!
骨格矯正を目的とした“硬い”インソールの存在は、今回の取材で初めて知りました。インソールは治療に特段の努力をしなくても、履くだけで効果が期待できるところが魅力ですね。足の痛みだけではなく、腰痛、肩こりの軽減にも影響がありそうなので、今後知名度が高まるにつれて、10代,20代の若い方々にもニーズが拡大するかもしれません。

本連載『SDGsに挑むスタートアップ』では、今後も「イノベーションを軸に、社会課題を解決する」という強い使命感を持ったスタートアップを取材していきます。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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