2021.05.06
スタートアップストーリー

【スマートルアー#02】7か月で原理・商品試作、クラウドファンディングへ

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2020年からは水中環境や気象条件、釣り人の行動をビッグデータ化し、釣り人向け情報サービスを提供するスタートアップ、株式会社スマートルアー(以下スマートルアー)に、プロトタイピングを中心としたサービスを提供しています。

今回は、SSAPアクセラレーターの今井 貢(写真上段)、安住 仁史(写真中段)、松岡 秀峰(写真下段)にSSAPの支援内容や工夫した点、今後のスマートルアーの事業への期待等をインタビューしました。

約7か月で、アイデアの可視化からPoC用の試作機の作成を。

――スマートルアーの支援では、SSAPは具体的に何を実施しましたか。

安住:2020年6月から2021年1月までの約7か月で、3段階でのサポートをさせていただきました。最初の1か月でアイデアの可視化や実現可能性の確認を目的とした「フィジビリティ検証」、次の3か月で商品仕様の策定、個別の構成要素の設計と検証を目的とした「原理試作」、最後の3か月でPoC用の試作機の作成を目的とした「商品試作」を行いました。

約3センチメートルの大きさのプロトタイプが定規に添えられている写真と、プロトタイプが三つ並んで置いてある写真
小型化を実現したプロトタイプ

――SSAP内の体制と役割分担は?

安住:プロデューサーの小澤さんと、私を含む数名のアクセラレーターがサポートさせていただきました。PM(プロジェクトマネージャー)兼メカ設計を私が、電気・システムの詳細の設計・評価は今井さん、ソフト設計として原理評価用のファームウェア開発や商品試作用のファームウェア・アプリの開発サポートは片山さん、市場・競合調査や事業採算のシミュレーションを松岡さんが行いました。

検証を繰り返しながら、量産を見据えた試作をスピーディーに。

――スマートルアーの支援を始めた当初、何かハードルはありましたか。

今井:「実現したい機能が多いこと」と「ルアーに内蔵できるよう可能な限り小さくしなければならないこと」は我々もハードルの高さを感じていました。しかし幸いにも既にスマートルアーさん側で試作機を作られたことがあったため、その際の結果を参考にさせていただくことができました。

――原理試作の段階で工夫した点は?

安住:開発の面では、主に2つあります。
1つ目は、デバッグ(※)しやすい開発環境の構築です。スマートルアーさん側でも原理試作機の動作検証ができる環境が必要でした。また今回の製品はセンサー付きルアーで、性質上「実際に水中に投げてみないとわからない」項目が沢山ありました。一般的には全ての構成要素を一つの試作機に統合するのは商品試作になってからですが、今回は原理試作の段階で、検証が可能な試作機を作成しました。
2つ目は、水中の照度を計測するための照度センサーの比較検討です。採用するセンサーの候補が2種類あったため、原理試作の段階でそれぞれのセンサーを搭載した2パターンの試作機を作り、同一条件で見比べることで比較を行い最終的な仕様を決定しました。

部分的な仕様が違う2パターンの試作の写真
原理試作

今井:電気設計の面では、最終的に製品をとても小さく作る必要があったため、後になって問題が発覚した際に修理改修することは極めて困難だと分かっていました。そのため前段階の試作において問題点をすべて洗い出し、実際に川で使ってみた際に機能確認ができるようにしなければいけません。未決定の仕様もあったので回路に拡張性をもたせ、基板は改修工作をしやすい部品配置と機能確認に耐えうるサイズを確保しました。

※プログラム等のバグを見つけて改修する作業
試作機のルアーを川に投げ入れている写真
原理試作の段階でSSAPにて行ったフィールドテストの様子

――商品試作の段階で工夫したことは?

安住:ルアーの小さいボディの中に機能を詰めることが最優先でした。ソニーのモバイル機器設計のノウハウを活用して、電気とメカの密な連携が必要な高密度実装を行い、最小の基板面積を目指しました。結果として、恐らくこれ以上小さくすることは不可能な領域まで筐体を小さくすることに成功しました。
加えて、その後のファームウェアのアップデート等も考慮した環境構築も行いました。製品のサイズを小さくした影響でファームウェア開発が困難になることがないよう、SSAPがこれまでのIoT製品開発で培ったノウハウにより、通常のIoT端末と同じ感覚でファームウェアを開発できる環境を構築しています。

市場・競合調査等、マーケティング視点でのアプローチも。

――今回は原理試作・商品試作と並行し、マーケティングの視点でも一部サポートを行ったとのことですが、具体的に何を行いましたか。

松岡:試作機の開発をエンジニアチームがグイグイと牽引してくれている間に、私はマーケティングサイドから「市場・競合調査」と「事業採算のシミュレーション作成のサポート」を行いました。私は製品の顧客となる釣り人が、どのような場面でどのように釣りを楽しんでいるかという視点で支援させていただきました。
「市場・競合調査」では、市販のルアー・フィッシング関連用品のサイズ、機能・性能、価格などを調査しスマートルアーの製品と比較することで、実際に顧客となる釣り人の目に製品がどう映るべきかを議論しました。
「事業採算のシミュレーション」では、エンジニアチームが試算した開発投資コストをどれくらいの期間で回収できるかを試算するためのサポートをさせていただきました。まだ世の中にない新しい製品の販売計画なので夢と不安の間を行き来しましたが、CEOの岡村さんとは現実に近いと思われる線を引けたと思います。

――マーケティング面でのサポートは、プロトタイプにどう役立ちましたか。

安住:マーケティング視点が入ったことにより、ユースケースの定義や、あるべき商品像と商品仕様の摺合わせができました。その結果、技術的に可能な範囲内で、同時に理想的な顧客体験の実現に集中できたと思います。
また、市場調査によって釣り市場の市場規模・潜在顧客の情報が可視化され、商品価格の妥当性を検討できる材料が揃いました。

――最後に、スマートルアーの今後の展開への期待をお教えください。

松岡:私はスマートルアーが開発する製品は「釣り人に“勝利の方程式”を教えてくれる名参謀」と解釈しています。岡村さんは北海道の雄大な自然のなかで「4か月間、1匹も魚が釣れない」経験をされたことがあるそうです。積雪期で、気温マイナス2℃、水温4℃みたいな状況で、ウェーダー(胸までの高さがある、釣り用の胴長靴)で毎週のように、何時間も川に立って釣りをしていたと聞いています。「この前は釣れたのに今日はなぜダメなんだろうと途方に暮れる人」や「遠路はるばる釣りに出かけたのにさっぱりだった人」等を救う名参謀として、製品が元気に泳ぎだすのを楽しみにしています。

今井:世の中の釣り愛好家に向けたIoT Fishing の先駆けとなっていただきたいです。この製品が「釣り」という世界に科学的な新しいソリューションを提供できると信じています。そしてますます「釣り」の世界が発展していくことを祈っています。

安住:市場に同じことをやっている競合はまだいないと思うので、ぜひ先駆者として人類未踏の世界を切り開いてもらいたいです。岡村さんとは、コロナの状況や、東京⇔北海道という物理的距離もありまだ直接お会いする機会が持てておらず、釣行にご一緒できていないのが非常に残念です。これからの釣りシーズン、試作機を実地で使い倒し、製品をより一層ブラッシュアップしていただければと思います。

色鮮やかな魚を模したルアーが切り株の上に置かれている写真
センサー内蔵ルアーの製品画像

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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