2021.04.19
スタートアップストーリー

【スマートルアー#01】「釣り人の発見をサポートする」センサー内蔵ルアーを

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2020年からは水中環境や気象条件、釣り人の行動をビッグデータ化し、釣り人向け情報サービスを提供するスタートアップ、株式会社スマートルアー(以下スマートルアー)に、プロトタイピングを中心としたサービスを提供しています。

今回は、スマートルアー 代表取締役 岡村 雄樹さんに会社設立のきっかけや事業概要、今後の展望等をインタビューしました。

4か月間、まったく釣れなくて。釣りが好きで立ち上げた会社「スマートルアー」。

――スマートルアーの設立のきっかけについてお教えください。

「4か月間まったく釣れない、アタリ(魚が仕掛けに反応して、竿に振動が伝わること)もない」という経験をしたのが直接のきっかけです。私は札幌に住むようになって、釣りに没頭するようになりました。2015年ごろのことです。ニジマスやヤマメが本州ではあり得ないくらい釣れる。当時、大企業に勤めていたのですがストレスで心を病み気味でした。釣りをしている時間だけは、素の自分で居られるように感じていました。

釣りは中学生以来の再開で、しかもアウェイの土地、魚種の釣りなので、SNSや雑誌で山ほど調べものをしました。いつ、どこで、どんな魚種を、どんな釣り方で狙うのが良いのか、といった情報は、釣果を上げるためには必須です。そこで気付いたのは、魚の習性を知る手がかりになるような、信頼性の高い情報はほとんど存在しない、ということでした。例えば、水温はとても簡単に測定できますが、「釣果があったときの水温」を記録している人はかなり稀です。自分でも測ってみたのですが、釣りに夢中で測定を忘れたり、測っているのを忘れて温度計を踏んで壊してしまったり、記録をとっておくのが面倒だったりでまったく継続できませんでした。
元々、生物系の研究者になりたかったこともあって、「釣りを科学的に分析したら何がわかるのだろう」と考えたことがスマートルアーの事業に結び付きました。

――スマートルアーの事業概要についてお教えください。

大の釣り好きだった作家の開高健が「永遠に、幸せになりたかったら釣りを覚えなさい」(『オーパ!』、1981)と書いたくらい、釣りは中毒性が高い遊びです。大きな理由は、自分であれこれ考えて、釣場で試して、気付きを繰り返していくプロセスに快感が伴うからだと思います。その「釣り人の発見をサポートする」ことが、スマートルアーのミッションです。それを実現すべく、我々はセンサー内蔵ルアーを使って、釣果があったとき・無かったときの釣り人のルアー操作と水中環境をデータ化しています。

センサー内蔵ルアー製品画像
センサー内蔵ルアー製品画像

――「センサー内蔵ルアー」の特長は?

センサー内蔵ルアーを使うと、従来型のルアーと同じようにキャスト(※)するだけで、ルアーがどんな水深を通ったか、どんな動きをしたかや、水中の温度や明るさがどうだったか、を正確に記録できます。記録されたデータはクラウドに集積され、ユーザーは専用アプリを通じて釣り人が自分の釣りを分析したり、他の釣り方と比較したり、といった情報を得ることができます。

※ルアーなどの仕掛けを飛ばすこと
センサー内蔵ルアーの仕組み
センサー内蔵ルアーの仕組み

プロダクトのレベルと、ビジネスのイシュー。「チーム」が必要だった。

――開発は最初、自社内で進められていたと伺いました。

はい、2019年9月にはスマートルアー内のメンバーでプロトタイプを作り、”世界初”と自称している釣果データを取れるようになりました。しかしこの時点で、課題が2つありました。

――初回のプロトタイプを作られた時点で課題が生じたのですね。その課題とは何でしょうか。

1つは、「扱いやすさ」や「動作の安定性」といったプロダクトとしての到達レベル。もう1つは、量産したときの「初期投資や原価」「MOQ」(Minimum Order Quantity:発注できる最低数量)といったビジネスのイシューです。
スマートルアーのメンバーには凄腕のハードウェアエンジニアがいたとは言え、1人では解けないものでした。ハードウェアをプロダクトにしていくためにはチームが必要だったのです。しかし、スマートルアー内のチームメンバーは全員、副業として参加している状態。そのため回路や筐体(※)、量産の見通しを付けられるようなチームを組成するのは厳しいと思い、エンジニアのチームがいる開発委託先を探していました。そんな中で、SSAPの釣り好きのご担当者からコンタクトをいただいたのがご縁でした。

※機械や電気機器などを中に収めた箱のこと

――SSAPは約7か月間で、原理試作・商品試作等を支援させていただきました。どういった点で支援が役立ちましたか。

プロダクト開発では、SSAPチームの動き方は、「これぞメーカー」といった感じでした。それまで我々は「まずはやってみよう」と、一か八かみたいなやり方で進めていた。SSAPでは、選択肢を洗い出した上で要求仕様に最も適合するものを選び実機を使った動作テストのほか、サプライチェーンや法規まで視野を広げながら、リスクを一つ一つ猛スピードで潰しながら開発を進めていくのに驚きました。またビジネス面でも、生産までのスケジュールや投資の時期、金額、予測原価といったものをいただいたので、現実性の高い事業計画を作成できました。

写真手前:SSAPで開発したセンサー、写真奥:当初チーム内で開発したプロトタイプ
写真手前:SSAPで開発したセンサー、写真奥:当初チーム内で開発したプロトタイプ

スマートルアーを使えば、「人」が「魚」の目線で水中を見られるようになる。

――今後、クラウドファンディングを日本とアメリカで実施するとのことですが目標がございましたらお教えください。

クラウドファンディングにかける目標は主に2つあります。
1つ目は、世界最大の釣りマーケットであるアメリカでの初期ユーザーを確保すること。スマートルアーのビジネスモデルはプラットフォーマーを目指すものなので「釣果データを誰よりも早く大量に集める」ことが競合優位性に繋がるはずです。そう考えると、釣果数が最も多いマーケットは最優先で対応しなければなりません。日本国内では、スマートルアーが運営している釣り人向けメディアや過去実施したユーザインタビューを通じて、スマートルアーを知っている釣り人がそこそこいます。しかしアメリカでは、スマートルアーを知っている人は数えるほどだと思います。そこで、アメリカでの認知拡大、ニーズが検証できるクラウドファンディングサイト「kickstarter」を使います
もう1つは「量産に必要な資金調達を行う」ことです。オリジナルのハードウェアを扱うスタートアップが最も苦労するのは、プロダクトをユーザーに使ってもらって反応を見たり、それが売れるものであることを証明したりするまでの助走期間が長いこと。今回のクラウドファンディングでは、スマートルアーが提供する製品が売れるものであることを証明し、投資家からの資金調達につなげます。

――クラウドファンディングの反響が楽しみですね。最後に、今後の展望をお聞かせください。

数年から10年くらいのスコープでいえば、世界中の釣果情報を集めて分析するのが楽しみです。釣り人の間には、「明け方と日暮れは釣れる」等、たくさんの言い伝えがあります。それをデータで裏付けていくのが最初の一歩です。その先に、今まで釣り人が気付いていなかったようなアノマリー(※)が出てくるかもしれません。
釣り道具がどんなに発達しても、人が魚目線で水中の様子を知ることはできません。しかし、スマートルアーならそれができます。見えなかったものを見えるようにする、という点では、顕微鏡の発明みたいなインパクトがあるんじゃないかと考えています。

※ある法則・理論からみて異常であったり、説明できない事象
センサー内蔵ルアーのフィールドテストをしている岡村さん
センサー内蔵ルアーのフィールドテストをしている岡村さん

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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