Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、2014年から社内を中心とした新規事業創出プログラムを始め、5年間で14の事業を立ち上げてきました。2019年8月26日(月)には、SSAPのオーディションを通過した新規事業アイデア、ウェアラブルコミュニケーションギア「NYSNO-100」のクラウドファンディング開始を発表。1ヶ月間のクラウドファンディング期間を終え、約808人の方々に支援を頂き目標額を達成いたしました。そんな「NYSNO-100」のクラウドファンディング舞台裏を、連載にてご紹介してまいります。
今回は、プロジェクトリーダー尾原昌輝と、電気担当の佐々木啓太、ソフト担当の高橋敏に、特徴的な技術や機能、プロトタイピングのストーリーなどをインタビューしました。
スポーツシーンで気軽にグループトーク。キーとなる技術は“Bluetooth® 無線技術”。
――「NYSNO-100」、想定する使用シーンは?
尾原:「NYSNO-100」は、様々なスポーツジャンルでご活用いただけると思いますが、特にウォータースポーツやスノースポーツ、登山などの場面で重宝すると想定しています。スマートフォン無しで最大3人の仲間が同時に会話できるというのがポイントなので、スマートフォンを持ち込めなかったり、圏外で使用できなかったりするシーンでのニーズが高いです。
――距離があっても最大3人が同時に話せる仕組みは、どのようなものですか?
佐々木:通信にはBluetoothを使用しています。NYSNO-100はマイクを内蔵していますので、人が言葉を発するとBluetoothで接続された自信以外の相手に音声データとして伝わります。Bluetoothの送信レベルと感度を極限まで高めて、この機能を実現しています。Bluetoothは音楽の通信に使用されることが多いですが、NYSNO-100では「人同士の会話、・コミュニケーション」をメイン機能としています。音声データは音楽に比べるとデータ量が少なく、その分距離を伸ばしても音切れすることなく伝えることができるのです。
――なるほど。「NYSNO-100」の一番キーとなる技術はやはりBluetoothですか?
高橋:そうですね。「Bluetooth規格に準じた形で、一番声が遠くまでクリアに届く方法は?」と試行錯誤しました。音としては届いているけれど聞き取れない時があるというレベルではなく、伝えたいことが伝わること、「会話」として成立つ通話品質レベルを目指しています。
尾原:どの距離だったらどの程度の会話ができるのか、ということを検証するために、チームメンバーであらゆる場所でテストをしましたよね。冬場のスキー場はもちろん、直線2kmの一本道などでもテストを行いました。例えばスキー場でテストをした際には、チームメンバーが二手に分かれ、一方はリフトの上に向かい、一方は下で待機。そこで会話しながらどこまで声が届くのか、ということを計測しました。
佐々木:スポーツ中の会話となると、風切り音や布擦れなどの雑音が懸念になります。実際に尾原さんにスキーで滑走してもらい、高速で滑走していても会話が成り立つかなどの検証も行いました。
改良を重ねて出来上がった形。“ウェアラブル”だからこその、様々なこだわり。
――プロトタイピングはどのように進んだのでしょうか?
佐々木:「NYSNO-100」の現在の形になるまでは、大きく二つのプロトタイプを作りました。一番左がSSAPのオーディションに出した際のもの、真ん中がそれを改良した二番目のもの、一番右が現在の形です。一番左のものは、あくまでグループトークを体験していただくための必要最小限の試作機(MVP:ミニマムバイアブルプロダクト)で装着感などはブラッシュアップされていないものだったので、そこから細かい改良を重ね、真ん中の形にしていきました。例えば眼鏡をかけたままでも違和感なく装着して使えるようにと更にプロトタイピングを繰り返し、現在の製品の形を作っていきましたね。
――商品を形にする際に工夫した点、苦労した点は?
尾原:「NYSNO-100」はウェアラブルで耳に直接つけるものだからこそ、あらゆる人の耳に快適かつ確実にフィットさせるために、どのような手法・構造を選択するのかがとても重要でした。左右どちらの耳にも装着できるようにすること、人の耳の形状はどの部分にどのくらいの差異があるのか、長時間の装着で痛みや不快感を持つ箇所はどこか、など、研究を重ねましたね。
私はこれまでウォークマンやヘッドホンのメカ設計に携わってきたのですが、自身の経験は勿論、周囲のエンジニアから得た知見も存分に活用しました。
佐々木:私は、先ほどもあったように「コミュニケーションの質」を担保するために工夫しました。会話する際の風切り音などの自然音をいかに排除するか、という点には特にこだわりました。
高橋:小型化を実現しつつ、多くの機能に対応するために使い勝手の配慮にも苦労しましたが、何とか技術的な目処が立ちました。
応援してくださった方々と「一緒に作り上げる」。
――クラウドファンディングの目標額を達成し、今後の「NYSNO-100」にかける想いは?
尾原:クラウドファンディングを実施して良かったと感じた点は、お客様の直接の声や気持ちをダイレクトに受け取れたことです。コメント欄に「こういうシーンで使いたい」「こういう商品を待っていた」「届くのが楽しみです」という声が、支援金と共に、ひとつずつ寄せられてくるのです。
まだ開発途中の完成していない製品にもかかわらず、期待を込めてお金を払ってくれている。まさに「ご支援」を受けているのだと強く感じました。これは通常の販売方法では得られないとても貴重な事です。ご支援いただいた皆様と共に作り上げるんだ、という意識で今後の出荷までのプロセスに取り組んで行きたいと思います!
佐々木:私はこれまでのキャリアでずっと商品設計に従事してきましたが、実際に自分が携わった製品へのお客様の反応を間近に感じられる機会は殆どありませんでした。クラウドファンディング特有の臨場感で、今いくら売れていて、何人の方が支援してくださっていて、という反応を見られるのは本当に嬉しかったですし、今後もその声に応えたいと思っています!
高橋:“いつでも、どこでも、会話しよう”という製品のコンセプトがもっと広まればいいなと思います。「NYSNO-100」は、会話をしたい相手と距離が離れてしまう場所や、大きな声を出しにくいところなどでも、常に気軽に会話ができる手段です。お客様の手に製品が届くと、私たちの想像を超える使い方をする方が出てくるかもしれません。そうなれば、また更に次の世代で、より進化したものを出していければと思います!