Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、2014年から社内を中心とした新規事業創出プログラムを始め、5年間で14の事業を立ち上げてきました。2019年7月22日(月)には、SSAPのオーディションを通過した新規事業アイデア、ウェアラブルコミュニケーションギア「NYSNO-100」のクラウドファンディング開始を発表。そんな「NYSNO-100」のクラウドファンディング舞台裏を、連載にてご紹介してまいります。 今回は、「NYSNO-100」プロジェクトリーダーの尾原昌輝に、アイデアが生まれたきっかけやクラウドファンディングに至るまでのストーリーをインタビューしました。
ソニーのエンジニアであり、スキー選手・指導者でもある。そこから生まれた「NYSNO-100」。
――「NYSNO-100」とはどのような商品なのでしょうか?
尾原: 耳に装着するだけで、スマートフォンなどを介さずに離れた場所にいる仲間との会話を可能にするコミュニケーションギアです。 「グループトーク」機能を搭載しており、予め登録した最大3台の「NYSNO-100」同士が、2者間通信距離最長約500mの範囲で同時会話を楽しめます。
――500mの距離でもグループで会話ができるとは便利ですね。どのようなシーンでの利用を想定されているのですか?
尾原:主に、スノースポーツやサーフィン、マウンテンバイクといった、スマートフォンを操作するのが難しいアクティブなスポーツシーンでの利用を想定しています。海水に対応した防水性能や防塵、耐衝撃、耐低温性能を備えるとともに、激しい運動でも外れないイヤーハンガーが付いているので、アクティブなスポーツに適しています。
――「NYSNO-100」のアイデアが生まれたきっかけは?
尾原:私は仕事の傍ら、"スキー選手"や"スキーの指導者"としても活動してきました。平日は会社で仕事、土日はトレーニングに打ち込み大会に出場する自身の選手活動や、元全日本チャンピオンの恩師と共に全国を巡業してスキーを指導する活動を実施。恩師の紹介でオリンピック選手やメーカー・雑誌社・リゾート会社など、スノースポーツ業界の様々な方々と接点を持たせて頂きました。
そのように長くスキー業界に携わるうちに、「スキーを始めとするスポーツ業界に何か恩返ししたい」という気持ちが芽生えました。自分が選手として滑ることやコーチとして教えることでの恩返しではなく、「エンジニアの自分」と「スポーツ業界に関わってきた自分」を融合することで、スポーツの普及・発展に貢献できる製品やサービスを提供できたら、と考え始めたんです。
「スポーツ業界への恩返し」をしたい。パワーアップした「NYSNO-100」。
――「スポーツ業界への恩返しをしたい」という想いからはじまったのですね。ウェアラブルコミュニケーションギアというアイデアに至った背景は?
尾原:実は今回の「NYSNO-100」は、 2017年に限定販売をしたスノースポーツ専用コミュニケーションギア「NYSNO-10」が原型になっています。この商品は、現在のソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社での新規事業化を目指して私が考案し、開発・企画・さらにはマーケティング戦略を指揮した最初の商品でした。
もともとのアイデアとしては、2012年にモノを振動させるデバイス「アクチュエーター(振動子)」に出会ったことがきっかけでした。「これを新しいウォークマンのアクセサリーとして使えないか」、と検討を始め、車のダッシュボードや冷蔵庫にアクチュエーターを取り付けて、それ自体が振動してスピーカーになるような構想を思い付きました。
その後2013年5月、春スキーで山形県の月山で滑っているとき、ふとひらめいたんです。スキーをする時には、安全のためにヘルメットを被ります。一方で、音楽を聴きたくても、耳を塞いでしまうイヤフォン等は、危険なので使用できない。でも、"ヘルメットを振動させれば、ヘルメット自体がスピーカーになり、耳を塞がずに音楽を聴ける"。このアイデアから、初号機となる「NYSNO-10」が生まれました。
――そうだったのですね。そこから今回、「NYSNO-100」としてSSAPで事業化検討することになった経緯は?
尾原:「NYSNO-10」は、2016年11月にプレスリリースをし、2か月後には国内での販売を開始しました。日本市場に加え、ヘルメット使用率の高いアメリカでも実販売による検証を実施しました。多くの反響と、お客様からの応援も頂きましたが、仮説したビジネスモデルによる新規事業としての可能性を模索する、という当初の目的は達成したこともあり1回目の挑戦は終了しました。
この挑戦で得た知見を活かしてビジネスモデルを再考することになったのですが、正直なところ、前回のチャレンジは、熱意とスノースポーツ業界との接点だけを武器にして、ただ我武者羅に手探りで模索しているような感覚を抱きながら活動していたのが事実で、「新規事業の創出とはいっても、ある程度のプロセスのひな型はあるはず。それをしっかり学びたい」という思いが常にありました。
また、私が思い描く「コミュニケーション」というUXは、現在のオーディオ事業の枠内に限らないかもしれない、という気持ちもありました。
そこで、SSAPであれば私のニーズを満たす学びの場と新規事業創出のプラットフォームが整っているはず。加えて、オーディオ事業の枠に囚われない「新規事業」として、もう一度チャレンジできると思い、事業アイデアのオーディションに応募しました。
新規事業の「型」がある場所での、再チャレンジ。
――クラウドファンディング開始までのフローは?
尾原: オーディション通過後に短期集中育成プログラムに参加してからの5ヶ月間は、自分自身の過去の経験を活かしつつ、SSAPのプログラムに沿って、外部の専門家によるコーチングや、SSAPの加速支援チームの方々にサポートを頂きながら顧客検証やビジネスモデルのブラッシュアップを進めてきました。それと同時進行で、商品の設計開発も行ってきました。またチームを強化するために新たなメンバーを確保するためにリクルート活動も。6月は全国のスポーツ展示会でインタビューを行っていました。本当に息をつく暇もないほど、奔走してきました。
この活動の結果、より具体性のあるビジネスモデルと裏付けのある顧客検証結果を導き出すことができました。そして7月末にIntensiveの発展的延長としてクラウドファンディング実施のフェーズに進むことができました。
「エンジニア」の枠を超えて、新規事業の道を切り開く。
――「NYSNO-100」のクラウドファンディングにかける想いは?
尾原:クラウドファンディングとは、商品やサービスなどの提供する価値をお客様にストレートに問う場、だと思います。まだ現物に触れた事もない試したこともないモノに対しお客様の財布を開いてもらうのは既存の商品を店頭で売るよりも難しい事です。つまり商品の価値とお客様のニーズが合致していなければ、どんなに高性能なものでも、簡単には買ってもらえない。
この点については、NYSNO-10の時代からスポーツ愛好家のニーズのメカニズムを十分に理解し、仮説検証を存分に繰り返してきましたので、ニーズに合った価値を提供できているはずだと思っています。
またクラウドファンディングとは、お客様から支援を頂き、共に商品化を実現するという取り組みですが、これまで長年にわたり一歩一歩を自分の足で走ってきた私にとっては、お客様に伴走して頂けるような感覚で、この上なく嬉しいです。
お客様と共に事業化というゴールをめざして走り続け、NYSNOという商品でスポーツ文化の発展に貢献できるよう愚直に取り組んで行きたいと思います。