Sony Startup Acceleration Program(SSAP)では、「あらゆる人に起業の機会を。」というコンセプトのもと、起業を目指す方や新規事業担当者をサポートする情報を定期的にお送りしています。
第3回は、「カスタマージャーニーマップ」の目的や作り方について詳しくご紹介します。マーケティングにおいては、商品やサービスの対象となる顧客像(ペルソナ)を明確にすることが非常に重要です。そのペルソナが、時系列でどのような行動をするのかを分析する際に有用な手法として注目されているのが「カスタマージャーニーマップ」です。
1.ビジネスを展開する上で把握しておくべきカスタマージャーニー
「カスタマージャーニー」という言葉は直訳すると「顧客の旅」であり、顧客が商品やサービスを購入したり利用したりするまでの流れを旅になぞらえて、一連の行動を時系列でとらえる考え方です。
デジタル化で顧客と商品・サービスの関わりが複雑化していく中、ビジネスを展開する上で、カスタマージャーニーの把握は欠かせない要素の一つとなっています。
2. カスタマージャーニーマップとは
カスタマージャーニーの考え方を図にして見える化したものが「カスタマージャーニーマップ」です。これは、商品・サービスと顧客との接点(タッチポイント)と、それぞれのタッチポイントで顧客がどのように行動し、どのような心理になるかを時系列にまとめたものです。
カスタマージャーニーマップを作成すると、顧客の行動や感情、タッチポイントを可視化でき、新しいマーケティング施策の検討や現状の見直しも行いやすくなります。
3. カスタマージャーニーマップを作る前に
良いカスタマージャーニーマップを作るために、抑えておきたい二つのポイントをご紹介いたします。
――具体的にペルソナを定義する
商品やサービスを提供する際は、「ペルソナ」を正しく理解することが大切だと言われています。
ペルソナとは、商品やサービスのターゲットとなる典型的なユーザー像のことです。ペルソナを設定する際は、年齢や性別、居住地、家族構成、身体的な特徴などの基本的な項目に加え、職業や役職、年収、価値観、趣味、ライフスタイル、人生のゴールや目標など、細かい部分まで具体的に盛り込みます。例えば、スマートフォン専用のゲームアプリを企画する際に、「ゲームが好きな若年層」と漠然としたペルソナをたてるのではなく、「男子大学生Aさん/バイト収入が月3万円程ある/今は○○というオンラインゲームにはまっている」等と、より具体的に定義します。
このようにターゲット層の特徴を持ち合わせている実在の人物のように設定することで、周りと認識を合わせやすくなるだけでなく、戦略や施策の方向性が明確になります。先ほどの例で言えば、新しいゲームアプリを企画し戦略を立てていく際には、ペルソナに沿って、課金体系は大学生のバイト収入の範囲内、アプリのUIは男性受けするデザイン、そして競合のゲームを意識した特徴を持たせるといった、サービスの方向性も具体的にすることができます。
――ペルソナの「行動」を具体的に想起する
カスタマージャーニーマップは顧客の一連の行動を時系列にそって可視化するフォーマットです。一連の行動の中で顧客がとりうる行動、感情の変化、触れる場・モノ・サービスが可視化され、商品やサービスの購入をゴールとした際のペルソナの行動がわかります。この行動が漠然とした内容で定義されてしまうと、本当に必要な施策や現状の試作の改善点が見えてきません。
例えば、先ほど例に挙げた「スマートフォン専用のゲームアプリ」なら、
- 男子大学生Aさんは、よく利用するオンラインサービスの広告で、この新しいゲームアプリを知る。「最近はまっている○○というゲームと似ていて面白そうだ」と感じる。
- すぐにはダウンロードしなかったが、少し気になって調べてみると口コミ評価も良い。「やはりこの手のゲームはレビューも高いんだな」と感じる。
- 翌日、大学で友人にそのスマフォゲームアプリの話をしてみると、実はその友人は既に利用していた。友人から特典付きの招待コードをもらう。
- サービスに対する安心感から、いよいよ自分も興味が湧き、アプリをダウンロードする。
このように、購入・利用までにペルソナがとりうる一連の行動を想定すると、その過程で必要な施策も同時に明確になります。そのために、ペルソナの行動をより具体的に想起することはとても大事です。
4. カスタマージャーニーマップに必要な項目
カスタマージャーニーマップの作成に必要な項目は、以下の4つです。ただし、対象となるサービスや企画によって必要な項目は変わってくる場合もありますので、内容に合わせて作成します。
ここでは、SSAPのカスタマージャーニーマップのフォーマットをもとに、それぞれの項目について詳しく見ていきます。
――フェーズ
フェーズとは、ペルソナが商品やサービスを認知してから利用するまでの行動を表す軸のことです。フォーマットでは、「商品を知る」「情報を集める」「比較・体験をする」「購入する」「利用する」の5つに分かれています。(図1~5)
マップ作成の目的や事業内容などに応じて、フェーズを設定します。「認知」「興味・関心」「比較検討」「購入」といったフェーズを用いることもあり、設定するフェーズは商品やサービスに応じて作成する必要があります。
――ユーザー行動
想定されるペルソナの行動を、時系列に沿ってできるだけ具体的に記述します。フォーマットでは、「顧客の行動(A)」の部分にあたります。
フェーズごとに、A-1には「媒体広告を見る」「友人から薦められる」、A-2には「Webで商品を確認する」「取り扱い店舗を探してみる」、A-3には「比較サイトや口コミを見る」「店舗に見に行く」、A-4には「ECサイトで購入する」「店舗で購入する」、A-5には「感想をSNSに投稿する」「毎日使う」などを記入します。
――ユーザー思考・感情
ペルソナの行動を記入したら、フェーズごとにその行動について顧客の感情や思考を書き出していきます。フォーマットでは、「顧客の感情(B)」の部分にあたります。
B-1には「何ができる商品なのか知りたい」、B-2には「便利かも」「価格を知りたい」、B-3には「実際に使用している人に聞きたい」「商品を体験したい」、B-4には「すぐに手に入れたい」「いつもの店舗で購入したい」、B-5には「この商品が気に入った」「もっと詳しい使い方を知りたい」などを記入します。
この時、顧客が不満やストレスを感じることは商品やサービスの改善のヒントになることが多いので、ネガティブな感情を記入することも有効です。
――タッチポイントとチャネル
タッチポイントとは、顧客と商品やサービスとの接点のことです。その接点にアクセスして情報を得た媒体・経路のことを、チャネルと言います。SSAPのフォーマットでは、「顧客との接点(C)」の部分にあたります。
C-1には、「発表イベント、プレスリリース」「デジタル広告」「知人」、C-2~4には「Webサイト」「ECでサイト」「店舗」など、C-5には「Webサイト」「商品の公式SNS」「購入者イベントなどを記入します。
顧客との接点を明確にすることは、顧客の行動や感情を考える上で重要となります。
5. カスタマージャーニーマップの作り方のコツ
では、カスタマージャーニーマップの作り方のコツを見ていきましょう。カスタマージャーニーマップは、基本的に以下のようなプロセスで作成します。
――客観的なデータをもとにペルソナを設定し、行動・感情の仮説を立てる
顧客の志向や行動が多様化する中、自社の商品・サービスの顧客をペルソナ化して把握することは非常に重要です。
なお、ペルソナを想像で設定するのは得策ではありません。なぜなら、どうしても商品やサービスを提供する側の視点になってしまうためです。レビューやアクセス分析など、客観的なデータをもとにペルソナを設定します。
また設定したペルソナが商品を購入するまでにどのような行動を取るのか、どのような感情や思考を持つのか仮説を立てる際にも、客観的なデータを踏まえたうえでペルソナの行動や感情を書き出します。インタビューやアンケートなどを利用して、顧客の声を集めるのも有効です。
――仮説を検証し、何度も見直す
作成したカスタマージャーニーマップをもとに検証作業を行うと、想定した仮説と異なるところも出てくるでしょう。その際には検証結果を踏まえて、カスタマージャーニーマップを使用しながら各フェーズのペルソナの行動や感情を整理し直します。そうすることで、改善点や課題が明確になります。
6. 新規事業の立ち上げを支援する「SSAP」
「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」はソニーが持っている起業のノウハウや開発環境を、新規事業を創りたいと考える全ての人に提供し、新規事業の立ち上げから販売・拡大までをサポートするプログラムです。
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