Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2019年7月からは株式会社LIXIL(以下LIXIL)にサービス提供を開始し、2020年7月には電動オープナーシステム「DOAC」を発表しました。
どのような経緯でSSAPがLIXILへサービス提供をするに至ったか、またどのようなドラマがあったのか等、本プロジェクトを連載にてご紹介してまいります。
今回は、DOACのプロジェクトリーダー 株式会社LIXIL LIXIL Housing Technology Japanビジネスインキュベーションセンター プロデューサー 今泉 剛さんに、2021年7月15日(木)にリリースされたDOACのアプリと、DOACが目指す社会やその背景についてインタビューしました。
「ドアック、開けて」の一言でドアが開く、魔法のような体験。
――今泉さんのDOACプロジェクトでの役割は?
LIXILの新規事業開発を担うビジネスインキュベーションセンターにて、現在はDOACプロジェクトのリーダーをしています。同センターはLIXILという大企業の中で新しいチャレンジを生むための部門として2019年に発足し、DOACはそこで生まれた最初の商品です。
――先日発表されたDOACアプリには、どのような機能がありますか。
DOACの開発コンセプトは『家族みんなを笑顔にできる‟ドアマン“』。今回はそんな‟ドアマン”へ話しかけるとドアが自動で開閉してくれる、魔法のようなハンズフリー体験をしてもらえるよう、DOACをアップデートしました。
DOACアプリは、新たなDOACの操作方法として使用いただけます。スマートフォンでのタップ操作で「開ける」「閉める」を選択したり、音声でドアの操作をしたりすることが実現します。
既にDOACをご使用いただいている方も、今回発売するBluetoothレシーバーを追加すれば、スマートフォン・Apple Watchで操作ができるようになります。
――“魔法のようなハンズフリー体験”が実現するのですね。例えばどのような使い方ができるのでしょうか。
「ひらけ、ゴマ!」と魔法の呪文を唱えるように、「ドアック、開けて」「ドアック、閉めて」とスマートフォンやApple Watchに話しかけるだけで、鍵の解錠・施錠から玄関ドアの開閉まで自動で操作ができます。
自動車のドアを想像するとイメージしやすいと思いますが、鍵だけではなくドアの開閉まで自動化されます。これによりドアの開け閉めが圧倒的に快適になることは間違いありません。障がい者に限らず健常者も同様です。
車いすユーザーのお宅で確信した、スマホ・音声対応のニーズ。
――アプリを開発するに至った背景は?
DOACは2020年9月に発売しましたが、実はその開発段階から「DOACアプリによるスマートフォン操作」の導入案は上がっていました。しかし「DOACのメインユーザーになる障がい者や高齢の方にとって本当に必要なのか」という点が充分に検証できず、社内では懐疑的な声も多く、製品化には至りませんでした。
そんな中転機となったのが、DOACを発売後、商品を購入いただいた車いすユーザーのお宅を訪問した時のこと。その方はなんと家中の家電・カーテンまでを、AIスピーカーを使って音声で操作していたのです。理由は明白で、上半身にも障がいがありリモコンのボタン操作が苦手で、手を使わずに音声操作できるスピーカーが便利だったから。私はその時とても驚いたと同時に、DOACアプリを導入し、スマートフォンや音声による操作を実現する必要性を強く感じました。実際にその方からも、スマートフォンや音声認識による操作を熱望されました。
その後車いすユーザー約1000人に対してアンケートを実施したところ、DOACの購入希望者のうち約7割が上半身にも何らかの障がいを持っていることが分かりました。「DOACアプリは車いすユーザーにとってマストな機能である」ことが明確になり、開発を決定しました。
障がいがあっても無くても、誰もが快適に過ごせるインクルーシブな世界を。
――DOACは『第8回ソーシャルプロダクツ・アワード2021』ではソーシャルプロダクツ賞を受賞しました。どういった面で評価されたと考えていますか?
玄関ドアは「障がい者である当事者」だけではなく、「一緒に暮らす家族みんな」が使用するものです。だからこそ、健常者の方にとっても便利なプロダクトとして評価されました。私自身、この受賞は非常に嬉しく感じました。審査員からは、DOACの今後への期待を込めて「困りごとを抱える当事者以外への認知を進めることは、世の中を変えられる大手メーカーの責務」というコメントもありました。ソーシャルな課題の解決には多くの方々の理解と共感を得ていく必要があることを真摯に受け止めて、これからも邁進していきたいと思っています。
――2020年9月のDOAC発売から約10か月。今後のDOACに対する想いは?
DOAC発売前、想定していたユーザーは「身体的に不自由な障がい者の方」でした。しかし、いざ発売してみると購入者の約半数は健常者の方。ベビーカーを利用していたり、大切なロードバイクをスムーズに仕舞うために利用していたり等、理由は様々です。最近では、DOACを使えばドアに直接触れずに済むという点で感染症予防に使用したいという問い合わせも急増し、その反響の大きさに驚いています。
私たちが目指す未来は、障がいがあっても無くても、誰もが快適に過ごすことができるインクルーシブな世界の実現です。それはきっと、持続可能な社会の実現にもつながっていくと信じています。いつの日か、自動で開く玄関ドアが当たり前のように普及して、日常の暮らしがもっと快適になることを願っています。