2022.10.07
Challengers ーイノベーションの軌跡ー

ジオ・サーチ株式会社 #02|北米進出のためのブランディングデザイン

Sony Startup Acceleration Program(以下、SSAP)では、スタートアップから大企業の新規事業まで、さまざまなプロジェクトを支援しています。本連載では、新しい商品や技術、サービスアイデアの事業化を行う会社や起業家など、今新しい価値を創造している方々の活動をご紹介します。

連載初回に続き今回も、自社開発の「スケルカ®」技術(※)を用いた公共構造物内部の非破壊探査を行うジオ・サーチ株式会社 (以下、ジオ・サーチ)にSSAPのコンセプトデザインのサービスを提供した事例をご紹介します。

※地下の空洞や床版内部の劣化箇所、埋設物の形状や位置を、マイクロ波を照射して素早く正確に診断する技術

今回は、ジオ・サーチの北米進出のためのコミュニケーションデザイン支援で生まれた「会社ロゴ」「探査車両ラッピング」などのデザイン開発秘話を、ジオ・サーチ株式会社 創業者・代表取締役会長 冨田 洋さんと、SSAPのデザイナー清水 稔にインタビューしました。

ジオ・サーチのロゴの前に並ぶ冨田さんと清水の写真''

ジオ・サーチの北米進出を"デザイン"する

――「スケルカートNEO」の支援の後、SSAPはジオ・サーチさんの北米進出のコミュニケーションデザインも支援させていただきました。その狙いなどを教えてください。

冨田:「スケルカートNEO」のデザインが完成したのが2021年11月頃。ちょうど2022年2月に北米進出の第一歩としてカリフォルニア州に現地法人 GEO SEARCH Inc.を設立するため、準備を進めているタイミングでした。

北米進出にあたり、まずは現地で知名度を上げる必要性を感じていました。ジオ・サーチは国内では実績を積んできましたが、北米ではほぼ認知されていない状況からのスタート。そこで、スケルカートNEOのプロダクトデザインとは別で、北米での“ブランド”を確立するために必要な会社ロゴ、探査車のラッピングデザインなどのデザインサポートをお願いしたのです。

スケルカートNEOモックアップ

――北米進出にあたり、冨田さんは"ブランディング"の必要性を感じてらっしゃったのですね。ちなみに、北米への進出を決めたきっかけはありますか?

冨田:ジオ・サーチは減災事業のグローバル展開を目指しています。2019年に台湾進出を行い、次のステップとして北米を選びました。アメリカはインフラの老朽化の課題を多く抱えています。地震や道路陥没の発生数も多く、減災の意識が強いと推測しました。
一方で減災事業を行う日本企業はまだ、ほとんど北米には進出していません。私たちが北米に進出することでマーケットを拡げるべく、このタイミングで北米への進出を決めました。減災テックで国際貢献をしたいのです。

北米で必要とした「会社ロゴ」と「探査車」とは?

――デザインはどのように進めましたか?

清水:新しいビジネスの地・北米で現地の方々としっかりコミュニケーションを行うことが出来るビジュアルデザインを目指しました。ジオ・サーチとのファーストコンタクトとなる、探査査両、会社のロゴタイプ、シンボルマークを通してジオ・サーチの想いを理解していただく必要があると考えたのです。
そのためにコミュニケーションストーリーの仮説を立て、必要なデザイン対象とそのデザインポイントを整理しました。

1. 目に留まる(気づいていただき、関心をもっていただく)
2. 挨拶をして会話する
3. 私たちの目的を説明する
4. 私たちのミッションと価値を理解いただく

この順番はジオ・サーチ社員の皆さんと北米の方々のコミュニケーションステップです。それぞれのステップのデザインが、社員の皆さんの北米でのビジネスをサポートすることを目指しました。そしてこのコミュニケーションストーリーに必要な計5種類のデザインを行いました。それは、①北米での社名ロゴ、②減災活動を表すロゴマーク、探査車両のラッピングデザイン、名刺デザイン、⑤案内板・表札デザインです。

コミュニケーションストーリーの流れ 目に留まる、挨拶・会話する、目的、使命・役割、覚えていただく
コミュニケーションストーリーの仮説を立てることでデザインポイントが見える。
ジオ・サーチのロゴデザイン 青色をベースにGの部分だけ赤色になっている
※ロゴ書体はAdobe Fontsのアクティベートフォントを利用規約に準じ、アレンジして活用しています。

清水:北米での社名ロゴデザインのポイントは、目に留まり記憶できる強さを持つことです。
これをシンプルな要素で実現するため、色使いとして赤と青の反対色の組み合わせ、文字表現は太文字(ボールド) にしました。またGEOきく、SEARCHさくしてアイコニック(※)なブロックの大小と組み合わせることにより、 “ジオ“と発音するニックネーム性と記憶に残すデザイン意図があります。
また、社名ロゴを用いて会社のPurpose(パーパス)を語れるメッセージストラクチャーをデザインしました。GEOのGはGensai(減災)であり、EはEncourage発展、促進であり、OはOrganizer主催、まとめ役、リードする。G.E.Oには減災を促進、発展、リードする。 「ジオ・サーチは減災を促進、発展、リードする」会社であるPurposeを語れるロゴデザインです。

※アイコニック:だれでも分かる特徴的な造形

清水:Gennsai(減災)のミッションをロゴマーク化することは冨田会長の強い想いがあります。冨田さんより「災害は防げないがテクノロジーにより被害を最小限にできる。この減災(Gensai)というワードは日本だからこそ世界に発信し、世界共通の認識と活動として推進させて行きたい」と伺っていました。
目指すものがフラッグになっていることは強いメッセージがあります。また、“ゲンサイ”という日本語で世界に浸透させ安心できる社会インフラを実現することは、減災のテクノロジーをリードするジオ・サーチの使命であり、多くの災害を克服してきた日本だからこそのメッセージになりうると感じました。
私は、社名ロゴとGensai(減災)ロゴマークのデザイントーン(色、フォント)を揃えて強いメッセージにしたいと考えました。ただ、デザインのトーンを合わすことで、どちらが会社ロゴか分からなくなる混同リスクがあります。そこで、社名ロゴにPurposeを語るメッセージストラクチャーを持ちGensaiロゴマークにミッション&バリューを語るメッセージを明確にしました。またロゴマークの運用ルールをつくることで混同リスクのないデザインとなりました。

冨田:私からの注文は日本発の「減災」のイメージを、日の丸を表す赤い丸(●)で表現してほしいという点で、これを実現してもらいました。

減災のロゴデザイン 青色をベースにiの点の部分だけ赤色になっている
英文字のみと、地球のモチーフと組み合わせGensai のメッセージを高めるマーク
※ロゴの書体はAdobe Fontsのアクティベートフォントを利用規約に準じアレンジして活用しています。

――探査車両のラッピングはどういったデザインに仕上がりましたか?

清水:探査車両のラッピングデザインは人々の目に留まり記憶に残るよう「大胆に目立つ、走る広告塔になる」ことを念頭においています。繊細で細かいデザイン表現をしても北米、特に西海岸は道路が広く開放的で遠くから見たら分かりません。探査レーダーのマイクロ波と減災活動の広がりをイメージした躍動感のあるウエーブラインとロゴマークと組み合わせ、道路の反対側から一見してもジオ・サーチの車両と分かるように大胆なデザインです。ビル階から車両を見下ろした時も 目に入るように車両天井も活用しています。

現地ならではの特徴を踏まえ、ジオ・サーチの車両がアイコニックであり、広告塔として機能するようにデザインしました。北米、西海岸らしい雰囲気も大切にしました。

社名ロゴと青色の流線形のデザインが施されたワンボックスカーが、北米海岸の鉄橋近くに置いてある写真
北米西海岸らしく、アイコニックで躍動感があるラッピングデザイン

冨田:この発想には私も感激しました。格好良いですよね。このデザインは確実に目立つと思います。清水さんが言うように、確かにカリフォルニアっぽい。海外で事業も行ってきたソニーだからこそ、センスの良いデザインが作れるんだろうと思いました。

探査車のデザイン四面図
探査車のラッピングデザイン
フォードTransit-Vanにラッピング施工された実車。サイド、リアの窓ガラスには中から外が透過して見える特殊フィルムで施工し安全性とデザイン面を両立した。

清水:名刺のデザインは、名前やタイトル、アドレス情報だけではなくGensai について理解いただきジオ・サーチへ関心をもっていただける窓口になるデザインです。
社名ロゴはPurposeを語れるメッセージストラクチャーがあり、裏面にはGensai マーク、そのミッション&バリューが記載されています。“名刺交換のコミュニケーションで理解と関心”を持っていただけるデザインです。

表面にジオ・サーチのロゴ、裏面に減災のロゴが配置された名刺デザイン
現地法人で使用する名刺デザイン

清水::現地オフィス表札、案内板のデザインは色を使わずモノトーンを基調とする表現です。GEOが大きくSEARCHが小さい、この大小ブロックの組み合わせがアイコニックであり目印になっています。表札などはアピールを目的とした広告塔ではありませんのでシンプルでよいのですが、来訪者に瞬時に分かるようアイコニックであることは重要です。

単色でデザインされたジオ・サーチのロゴの表札
現地オフィス表札、案内板

――車両は既に現地で使用されていると伺いました。何か反響はありましたか?

冨田:メンバーが何人か現地へ出張に行った際に、この車両を見た多くの人が振り返って、何人かから声を掛けられたと聞きました。車両を駐車して休憩していた時に「何の会社なんだ?」と聞かれたそうなんです。現地でしっかり目立って、興味を惹けているということです。

清水:これはデザインがコミュニケーションのきっかけになったということだと思います。とてもうれしいことです!

コミュニケーションデザインでグローバル展開を成功させる

――清水さんは、コミュニケーションデザイン支援の過程で何か工夫した点はありますか?

清水:冨田会長にいただいた条件はシンプルで「北米で成功すること」「北米でブランドを築くこと」のみ。条件がシンプル明確で余白があったからこそ、ジオ・サーチの皆さんのお話を聞き、ひらめきが生まれました。"初めての地でビジネスをする社員皆さんの力になるデザイン"です。この方針(プロジェクトビジョン)があったからこそスピード感のあるプロジェクトになりました。プロジェクトビジョンを早期にメンバーで共有し、デザインの評価基準とすることがとても重要です。

冨田:ジオ・サーチのスタッフたちも、私の意思決定やそのスピードにドギマギしていたと思いますよ。そもそも、北米進出のロゴや車両デザインにお金をかけることにも、最初は全員が前向きには捉えていなかったのではと思っています。
しかし、フロンティアとしては最初に存在をアピールすることは必要不可欠。北米では最初は遊び心を持ちつつ、認知を獲得できてからメリハリをつけていく予定です。

――ジオ・サーチの今後にかける想いを教えてください!

冨田:災害が多発する日本で生まれた「スケルカ®」技術を、海外でも展開して、社会貢献したいと考えています。歴史が古い大都市は老朽化していきます。北米は特に災害や事故も多いです。まさに我々を待っていると思うのです。北米で成功して、またそのノウハウを日本で展開していければと思っています。

また日本と比べて北米は地下埋設物の ※輻輳(ふくそう)が少なく、AIも活用しやすいと感じています。我々がこれまで築き上げてきたデータベースを上手く活用できるはずです。現地の大学とも共同研究する予定です。
プロのアスリートが適切なタイミングで海外に進出すると一気に開花するチャンスがあります。私たちも今回の北米進出は、清水さんにサポートいただいたデザインをきっかけに成功を掴みにいくつもりです。

※集中過密が少ない状態
ジオ・サーチのロゴの前で腕を組む冨田さんと清水

清水:ジオ・サーチからは「スケルカートNEO」のプロダクトデザインに続き北米進出でのコミュニケーションデザインのご依頼もいただきました。ハードウェアデザインはユーザーにダイレクトに「点」で刺さるベネフィットをお届けできますが、コミュニケーションデザインの戦略も加えることで潜在ユーザー、市場、社会へ「面」で接してメッセージをお届けできます。この点と面でのデザイン力はビジネスの強いサポートとなると実感しました。

ジオ・サーチから発信されるGensai(減災)の思想とテクノロジーは地球の隅々まで浸透し、人々が安心して暮らせる社会インフラを実現すると信じています。

清水:今回SSAPではジオ・サーチ社の未来への事業を紹介する動画制作のデザイン支援も行わせていただきました。動画の持つエンターテイメント性はメッセージや機能を説明する素材として有効です。動画制作のマネージメント、デザインデイレクションにおいてもSSAPデザインノウハウをご活用頂けたらと思います。

動画はこちらよりご覧いただけます。

動画コンテンツシーン抜粋

SSAPは北米進出のブランディングデザインに加えて、スケルカートNEOのプロダクトデザインの支援も行いました。プロダクトデザインの詳細は以下よりご覧いただけます。
Challengers ~イノベーションの軌跡~ジオ・サーチ株式会社 #01|減災事業のためのプロダクトデザイン

※本記事の内容は2022年10月時点のものです。

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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