2020.06.11
Post/With COVID-19

#02 シリコンバレーの人々から学ぶイノベーションの原点

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大により、世界の多くの国や地域に様々な影響が出ています。
COVID-19の影響が長期化することが予想され「Post/With COVID-19」というキーワードが多く飛び交う今、新規事業に取り組む方々は、何を見据え、どう取り組めば良いのでしょうか。

今回は、サンフランシスコのベイエリアにあるSony Startup Acceleration Program(SSAP)のアメリカ拠点「Takeoff Point」(TOP)社長の石川 洋人さんに、シリコンバレーの今をインタビューしました。(取材は2020年5月上旬に実施)

「コミュニティ」の変化。オンラインのプレゼンで、投資の決定も。

――外出禁止になり、シリコンバレーで行われるスタートアップのイベントやコミュニティに変化はありましたか?

イベントに関しては、Facebook/Google/Salesforce等が行う、世界中から人が集まる超大規模イベントはすべて中止になっていますが、シリコンバレーで開かれるスタートアップのピッチイベントやデモ・デーは、オンラインでほぼスケジュール通り行われています。

例えばアクセラレーターが定期的に開催するデモ・デーは、従来は大きな会場に沢山のメディアや投資家が集まり、ステージ上でプレゼンテーションを行うスタートアップに対して、次々にその場で投資が決まっていくという、活気があるシリコンバレーの象徴的なイベントでした。しかし、今はスタートアップのプレゼンテーションが画面越しにZOOMで行われたり、動画で再生されたり、また事業概要やチームのメンバー紹介・略歴等は資料でダウンロードするようになったため、従来のデモ・デーに比べ、少し味気ないものになってしまったように思います。しかし、この状況下では投資家も今まで以上に早いスピードでの意思決定を行う必要性も出てきており、オンラインであればより多くのデモ・デーに参加することも出来るので、COVID-19をきっかけにデモ・デーのオンライン化は、今後も進むと考えられています。

“Shallower but broader” 、より浅く、でもより広く。

――ネットワーキングやコミュニティに変化はありましたか?

COVID-19が起こる前のシリコンバレーでは、毎晩のように何かしらのイベントが開催され、人が集まればネットワーキングが行われ、様々なコミュニティが次々に形成されていました。しかし、人が集まれなくなることで、このネットワーキングもコミュニティ作りも暫くは難しくなると思っていたのですが、むしろ全てがオンラインになることで、以前よりもオンラインで人が集まれる場が増え、その場に参加する人数も今まで以上に増えている気がします。

例えば、ベンチャーキャピタルやアクセラレーターは、COVID-19をテーマにオンラインイベントやウェビナー(オンラインで行われるセミナー)を連日のように主催し、大学はCOVID-19の診断や治療、ワクチン開発をテーマにした学会を公開し始め、技術を持ったスタートアップの参加を呼び込み、オンラインで人が集まる機会は今まで以上に増えています。また、MeetUpなどを通じて「COVID-19」をテーマにしたハッカソンやアイディアコンテストも行われており、オンラインでのコミュニティが次々に生まれています。

オンラインで行うネットワーキングや生まれるコミュニティも、直接会って築かれる人間関係よりは当然浅くなるのですが、ちょっと顔を出してみて、合わなかったら抜けるということが簡単になり、移動がない分参加障壁が減り、より多くのコミュニティに気軽に参加でき、さらにシリコンバレー以外の場所にいる人も容易に参加できるようなりました。このネットワーキングやコミュニティの変化は、こちらでは”Shallower but broader”と表現されています。

また、最近は日本でもオンラインイベントが増え、アメリカから私自身も日本のイベントに参加出来る機会が増えてきて嬉しいのですが、物理的に参加出来ない時は考えもしなかった「時差」が、今まで見えなかった大きなハードルとして浮き彫りになっています。

――「コミュニティ」の中では、どのようなトピックが注目されていますか?

やはりCOVID-19をきっかけとしたビジネスチャンスを考えるオンラインコミュニティがふえており、大きくテーマは、「vs COVID-19」、「During COVID-19」、「Post/with COVID-19」と、3つに分けられています。。

1つ目は「COVID-19にどう対処するか」。これは新しい自己診断ツールやウィルス検出技術などの医療ソリューションの議論が中心になっています。2つ目は、「外出禁止中の生活をどうより良くするか」。これは、内容は多岐にわたりますが、在宅勤務にオンライン教育、自宅でのフィットネスやオンライン診察を含む「テレ・ヘルス」等の新たなソリューションを考える人が増えています。3つ目は「COVID-19とどう共存していくか」。生活様式を変えていく必要性が叫ばれていますが、それらをどう受け入れ、安全に経済活動を続けていくかというテーマです。この分野では感染防止やトラッキングを目的とした行動記録・人流調査なども注目されています。

こういったコミュニティに積極的に参加し、この状況に少しでも立ち向かおうとしている人たちがシリコンバレーには沢山います。また、参加者の中には失業したばかりなのに参加している人達も多く、厳しい状況の中でも前に進もうとするバイタリティの強さを感じます。

イノベーションの原点/オープン・イノベーションという生き方。

――シリコンバレーでの生活が長い石川さんですが、COVID-19を経て、あらためて気付いたこと等があればお教えください。

キリスト教やアメリカの開拓時代からの「共助精神」か、シリコンバレー特有の文化なのかは分かりませんが、日に日に変わっていくCOVID-19の状況を「Observer」として静観するのではなく、「Player」として自分なりの貢献をしようと積極的に行動している人が多く、シリコンバレーの底力のようなものを感じています。

例えば、オークランドで教師をしながらメーカースペースを運営している私の友人は、外出禁止令でスペースを閉鎖せざるを得なくなってしまったのですが、スペースにある3Dプリンターとレーザーカッターを使って、医療従事者向けのフェイスシールドを作り始めました。勿論、最初から現場で実際に使用でき、かつ3Dプリンターで量産し易いフェイスシールドを作ることは出来ませんでしたが、医療関係者の友人からアドバイスをもらい、生産時間を計りながら何度もプロトタイプを作り、病院からの使用許可を得ることに成功し、最終的には50個のフェイスシールドをオークランドの病院に寄付しました。そのことを彼自身がソーシャルメディアに載せたら、彼のメーカースペース仲間たちが彼の活動に賛同し、それぞれの3Dプリンターで生産をサポートし始め、さらにそれに共感した友人たちが材料費を寄付し始め、今では何百個単位のシールドをベイエリアの病院やクリニック、老人介護施設に寄付し続けています。

また、普段から一緒に仕事をしているソフトウェアエンジニアの友人は、Code for San Franciscoというコミュニティで出会ったプログラミング仲間と、COVID-19の感染者数や死者数を、国や州単位ではなく、もっとミクロな地域レベルで可視化出来るダッシュボード及びサイト を作り始め、次々に新しい人と繋がり、新しい機能やデザインが共創され、SF市の行政とも連携するようになり、彼らなりのアウトプットをだして貢献しています。

そして、技術が無い人でも、「Folding@home」といって、普段自分たちが使っていないパソコンの演算能力を、COVID-19の治療法開発のシミュレーションに遠隔から無償提供出来るというプロジェクトに参加し、対COVID-19対策に結果的に貢献をしている人も沢山います。

3Dプリンターで医療従事者向けのフェイスマスクを作った友人

このようなシリコンバレーの人々を見ていて、あらためてイノベーションの原点は、「個人の熱い思い」であることを、再認識させられます。誰かに言われて仕方なくやり始めるのではなく、COVID-19というが未曾有の危機が起こっている中でも、何か新しいことを「やってみたい」「チャレンジしたい」、そして「貢献したい」という個人の強い思いがあり、やがてそれに共感する人が集まって、繋がり、イノベーションは生まれるのだと実感します。そして、トップダウンではなく、個人が能動的に「やってみたい」と思い実際に動き始めるのが本当の「イノベーター」であり、さらに「オープン・イノベーション」とは、仕事のやり方ではなく、このような人たちの「生き方」そのものなのだということに、あらためて気付かされます。

2001年の9.11の時も2009年のリーマン・ショックの際も私は東海岸におりましたが、失望する人に手を差し伸べる優しさは市民にあっても、シリコンバレーのように非常事態に果敢に挑む人はなかなか見なかった気がします。このような人々が集まっているからこそ、それは文化となり、その積み重なった結果が、「イノベーションの聖地」と呼ばれるシリコンバレーを作ってきたのはないか?と、COVID-19をきっかけにそう考えさせられました。

――最後に、シリコンバレーでビジネスを行うTakeoff Point社長の石川さんのお立場で、何かメッセージがあればお願いいたします。

「イノベーション」とは、新たなものを創造し、変革を起こすことで経済や社会に価値を生み出すこと、と一般的に言われていると思いますが、シリコンバレーでCOVID-19を経験することで、あらためてその原点とは、「やってみたい」「貢献したい」という個人の強い思いであると再認識させられました。そして、それと同時に、「何を?」「どうやって?」という点においては、必ずしもゼロから真新しいものを創り上げる必要はないとも感じました。大切なのは、COVID-19をきっかけに大胆に業態変更したジムや、教育用の3Dプリンターを使ってフェイスシールドを作った友人のように、いかに今、自分たちが持っている能力や技術、経験などの強みを、違った視点から見直してみることではないかと考えています。それまで「何故やるのか?」と大切にされてきた基本的な目的も含め、一度、抱いている固定概念を取り払い、「今、自分たちが出来ることは何か?」をピュアに考えてみると、実は意外とそこにイノベーションが隠れているのかもしれない、と今回のシリコンバレーの状況を俯瞰して感じていたりもします。その結果、見えてくるものは、現行のビジネスの延長ではなく、全く異なる形なのものかもしれません。しかし、それが結果的に社会貢献や誰かを救うことに繋がり、おそらく「ビジネスチャンス」と呼ばれるのではないでしょうか?

またその視点は、決して今この困難な状況に限って通用するものではなく、未来永劫ビジネスを継続する点において有効なものだと思います。

私たちTakeoff Pointが、皆様のお力になれるとしたら、皆様が潜在的にもっている「やってみたい」「貢献したい」の思いを、出来るだけ早くそれを世の中にお届けするお手伝いなのかなと思っています。

ぜひ皆さんと一緒に、その「イノベーション」を起こせる日を楽しみにしています!

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Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により660件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年3月末時点)

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