2019.12.19
大学発、医療系スタートアップのモノづくり ー株式会社グレースイメージングー

#02 共に走る。チーム一丸のプロトタイピング

Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、これまで培ってきた経験やノウハウを、スタートアップの事業化支援サービスとして社外にも提供中です。2019年からは汗中乳酸センサーを用いた最先端疲労分析・評価サービスの開発・提供を目指すスタートアップ、株式会社グレースイメージング(以下グレースイメージング)に、プロトタイピングを中心としたサービスを提供。さらにその成果を受け、2019年9月にSSAP支援先に対する出資第1号として、新規出資を行いました。直面する様々な問題をグレースイメージングがどう乗り越えてきたのか、ソニーの持つ経験とノウハウを大いに活用し、SSAPがどのようにサポートさせて頂いたのか等を、連載にてご紹介いたします。

第2回は、株式会社グレースイメージング 代表取締役CEOの中島大輔さん、取締役COOの林田大造さん、取締役CTOの藤岡昌泰さん、さらにSSAPアクセラレーターの安住仁史に、プロトタイピングの様子をインタビュー。慶應義塾大学病院のある信濃町キャンパスの中に構えられたグレースイメージングのオフィスを訪問し、お話を伺いました。慶應義塾大学医学部主催の『健康医療ベンチャー大賞』社会人部門において最優秀賞を受賞するなど、評価が高まるグレースイメージングのモノづくりの裏側に迫ります。

病院内に居を構える、大学発スタートアップ。

慶應義塾大学病院

――病院の中にオフィスがあるのですね。

中島:はい。ここはもともとナースステーションだった場所になります。その名残で電源がいたるところにあるなど、通常のオフィスとは少し雰囲気が違いますね。

林田:グレースイメージングは、JSR・慶応義塾大学医学化学イノベーションセンター(JKiC)の取り組みから生まれた、大学発のスタートアップです。JKiCは、高度な素材と化学製品開発を促進しているJSRグループの化学研究者と、基礎から臨床まで一体型の最先端医学と医療を展開している慶應義塾大学医学部と慶應義塾大学病院の研究者および医師がともに協力し、研究開発を行っており、慶應義塾大学のキャンパス内に施設があります。

ナースステーションの名残があるグレースイメージングのオフィス
ナースステーションの名残があるグレースイメージングのオフィス

中島:私達が入居している大学病院の建物内には、私達のほかに4件の医療系スタートアップが入居しています。

株式会社グレースイメージング 代表取締役CEOの中島大輔さんと取締役COOの林田大造さん
写真左:中島大輔さん 株式会社グレースイメージング 代表取締役CEO 医師/博士(医学) 写真右:林田大造さん 株式会社グレースイメージング 取締役COO 博士(工学)

――林田さん、藤岡さんがグレースイメージングへ参画した経緯を教えていただけますか。

林田:私はJKiCにJSRから参加しており、戦略プロジェクトマネジャーとして、特に先端医療機器領域をリードする立場にいます。グレースイメージングには、会社設立前から中島先生のビジネス面での活動サポートを申し出、2018年7月の会社設立時に正式に参画しました。現在は、交渉事など、ビジネス面でのマネジメントを担当しています。

藤岡:私はJSRの研究所で乳酸センシングの技術を研究していました。JKiCを通じ、中島先生の疲労研究と私の研究を組み合わせることになり、現在まで乳酸センサーの開発者として技術周りを担当しています。

藤岡昌泰さん 株式会社グレースイメージング 取締役CTO
藤岡昌泰さん 株式会社グレースイメージング 取締役CTO

修正は想定内。早期に課題を洗い出し、改良を重ねて作り上げるプロトタイプ。

――プロトタイピングのためのアクセラレーターとの打ち合わせには、お三方とも参加されていたそうですね。どのように進みましたか?

林田:最初の1か月はユースケースを挙げるブレストからスタートしましたが、とにかく発散しっぱなしでした。週に1度、通常1時間の打ち合わせ枠だったのですが、毎回白熱して、気づけば2時間以上経っていましたね。

藤岡:このデバイスをどう使うのか、この場で決めてください!と迫られて、まずは打ち合わせの中でユースケースの仮説を決めていきました。そしてそれを即座に検証して課題を見つけて、直していく。修正が発生することは初めから織り込み済みで、なるべく早いタイミングで課題をどんどん出して潰していくという進め方でした。理想から始めて、現実とのギャップを埋めながら歩み寄っていく感じですね。

安住:設定したユースケースに応じて、それが現実的な仕様であるかを確認するために、例えばバッテリーの持続時間や、Bluetoothを使った場合の無線通信の到達距離といった技術的な検証はソニー側で行いました。StartDash Boardを活用し、かなりスピーディに進められたと思います。

安住仁史 ソニー株式会社 Ideation & Incubation部 Prototyping and Manufacturing Service Team
安住仁史 ソニー株式会社 Ideation & Incubation部 Prototyping and Manufacturing Service Team

中島:装着方法などの検証は、3Dプリンターで作成されたモックアップを使い、アクセラレーター立ち合いのもと、ポテンシャルユーザーに実際にヒアリングしながら確認しました。乳酸値を汗からセンシングするので、なるべく汗をかきやすい背中に装着するのが理想的ですが、一人で使う場合は背中に取り付けるのはなかなか難しい。しかし、取り付けやすい腕につけるにしても、人によっては発汗量が異なるため腕からでは計測しづらいといった場合もある。どこに取り付けるのが最適なのかは、今も実証実験の最中です。

藤岡:ただの図面や写真と違い、モックアップがあることで装着シーンがより具体的にイメージでき、それまで気づかなかったたくさんの課題が出てきましたね。

実証実験の様子
実証実験の様子

――グレースイメージングとSSAPのチームが、一丸となって取り組んでいるのですね。

藤岡:一緒に進めていく大きなメリットとして、ノウハウが蓄積できることがあると思います。完全に外注に投げてしまうと、出てきたアウトプットに対してどうしてそうなったのか、内部に知見が残りません。一方で、一つ一つ検証しながら進めていく今のスタイルであれば、この仕様になった背景など、様々なことをきちんと自分たちで把握できます。

共に考え、議論する。アクセラレーターはまさに伴走者。

――アクセラレーターの支援は、率直にいかがですか?

林田:アクセラレーターの皆さんは、我々スタートアップにとってのメンターであり、必要なときにお尻を叩いてくれる存在です。時にはそんなじゃだめだと怒られることもありましたね(笑)。ハードウェアスタートアップを取り巻く環境を考えると、物を作る場や設備を提供しているところはあっても基本的には自分たちで全て手を動かさなければいけないことが多く、困ったときに誰かに相談に乗ってもらうというスタイルが多いと思います。SSAPの運営するCreative Loungeを訪れたことがあり、SSAPも場や設備を提供しているだけで具体的なサポートなどは無いのだろうと想像していましたが、実際は全く違いました。

藤岡:一緒に作っている、まさに”伴走”という表現がぴったりです。我々はサポートされている立場のはずなのに、なんだか自分たちがSSAPとの合同チームの中でモノを作っているような気分にすらなります。

中島:個々の技術に対応できるエンジニアを確保できたとしても、一つの製品を作り上げようとするとチームとして機能するようにいろいろと調整が必要で、それだけで多くの時間を割く必要がありますよね。一方、SSAPのアクセラレーターはチームとして完成度が高くインフラも整っている。部品や製造のパートナーも揃っていて、これほどスピーディに進む環境はないと思います。周りの人に、「え、もうこんなに進んだんですか?」と驚かれることも多いです。

――アウトプットについてはどうでしょう。

初期の試作品と、SSAPの支援によりブラッシュアップされた試作品
写真左:初期の試作品 写真右:SSAPの支援によりブラッシュアップされた試作品

藤岡:進捗が目に見えて、製品レベルに近づいたというインパクトがすごいですね。まだデザインが入っていない段階のプロトタイプなのに、完成度が高い。コネクタ部分の設計の細かさやユーザービリティ、防水性など、必要な要素が全て詰まっています。さらに、もともとターゲットとしていた重量よりも軽量化されています。これであれば、実際の使用者に煩わしさを感じさせません。

中島:これ以上の小型化の追求は不要、と、ポテンシャルユーザーに言われるところまで来ています。

安住:ソニーには、モバイル機器を作るノウハウがあります。ただ小さくするだけではなく、防水性や落下耐性などをきちんと担保した設計ができる。また、予めセンサーと測定部を一体にせず自由度を持たせた設計をしているので、小型化と相まって、装着方法のバリエーションを広げることが出来たと思います。

藤岡昌泰さんと中島大輔さん

――「スピード感」という言葉も多く出てきますね。

林田:プロトタイピングで目に見える成果が出来上がるスピードだけでなく、そこから次のステップの「量産」につなげていくところのスピードも大いに期待しています。「StartDash Board」がとにかく素晴らしいです。基本設計など初期の検証スピードはもちろんのこと、量産を開始する際にぶつかるであろう様々な壁が、事前にクリアされている。例えば部品調達がその最たる例ですね。

藤岡:製品化した後も、法律や規制の準拠を始め一から自分たちで確認していくにはとても時間がかかってしまう事柄はたくさんありますが、そういったところもアドバイスをもらえているという安心感がとても大きいです。今、自分たちがやるべき目の前のことに集中できる環境が整っていると感じます。

人の縁とタイミング。恐れずに次の一歩を。

――今、同じようにアイデアを実現しようとしている人に向けて、メッセージをいただけますか。

林田:日本は、ハードウェアのスタートアップが出てきづらいカルチャーだと思いますが、恐れずに踏み出してほしいです。我々グレースイメージングの取り組みに興味がある方も大募集中です。

中島:我々はヘルスケア領域でのユーザーの需要を満たす視点で取り組んでいますが、この領域は、まだまだニーズに溢れています。そのニーズを掘り出しシーズ化する試みはたくさんあるけれど、うまくまわっていないのが現実です。

藤岡:そうですね。そこに課題があるとわかっていても、不自由な環境を受け入れて諦めてしまう人も多いです。特にお医者さんともなると、日々の仕事に追われ、「やってみよう」とはなかなかならない。

中島:我々は、本当にいいタイミングでSSAPに出会い、支援を受けることになりました。一緒に走って助けてもらいながら、日々前に進んでいます。同じように多くの人に、人の縁とタイミングを大事にしながら新たな領域にチャレンジしていただきたいと思います。

グレースイメージングのみなさん

 

■資金面での支援も!

中島大輔さんとSSAPアクセラレーターの吉村崇司(ソニー株式会社 Open Innovation & Collaboration部 Alliance & Portfolio Management Team)
写真左:中島大輔さん 写真右:吉村崇司 ソニー株式会社 Open Innovation & Collaboration部 Alliance & Portfolio Management Team

SSAPアクセラレーター財務戦略担当 吉村からコメント
「Sony Startup Acceleration Programでは、スタートアップのアイデアの社会実装や事業拡大をより加速させていく為に、支援先の企業に対して資金面での支援を開始しています。2019年9月に第1号案件として、株式会社グレースイメージングに出資しました。
グレースイメージングのケースでは、SSAPのプロトタイプ開発等の支援を経て、東京都支援事業「先端医療機器アクセラレーションプロジェクト(AMDAP)」の支援が決定するなど、一定の成果が出てきています。今回の出資を契機とした連携の強化により、乳酸センシングとその分析によるヘルスケア事業のローンチに向けた動きがより加速することを期待しています。」

Sony Acceleration Platformは、新たな価値を創造し豊かで持続可能な社会を創出することを目的に2014年にソニー社内の新規事業促進プログラムとしてスタートし、2018年10月からは社外にもサービス提供を開始。ソニーが培ってきた事業開発のノウハウや経験豊富なアクセラレーターによる伴走支援により、760件以上の支援を25業種の企業へ提供。
新規事業支援だけでなく、経営改善、事業開発、組織開発、人材開発、結合促進まで幅広い事業開発における課題解決を行ううえで、ソニーとともに課題解決に挑む「ソリューションパートナー企業」のネットワーク拡充と、それによる提供ソリューションの拡充を目指します。(※ 2024年10月末時点)

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