2019.9.12
CREATORS 100
#01 株式会社エニグモ 代表取締役・最高経営責任者 須田将啓さん(後編)
Interview

「CREATORS 100」は、Sony Startup Acceleration Program (以下SSAP)を立ち上げ、運営するソニー株式会社Startup Acceleration部門副部門長の小田島が、様々な業界で新たな時代を創り出している起業家・経営者を訪問するインタビュー連載企画です。「クリエイターをクリエイトする」ことをスローガンに掲げ、スタートアップの創出と事業運営を支援するSSAPの視点から、スタートアップにチャレンジしてきた起業家やクリエイターの起業ストーリーやフィロソフィーなどをお届けします。

第1回目は、641万人以上のユーザーを持つ海外ファッション通販サイト「BUYMA(バイマ)」を展開する株式会社エニグモ(以下エニグモ)代表取締役・最高経営責任者の須田将啓さんにお話を伺いました。前編では、アイデアを生み出したきっかけからの波乱万丈な起業ストーリーをご紹介しました。後編は、BUYMAオープンから軌道に乗るまでのヒストリーや、起業家としての心構えなどについて語っていただきました。起業家を目指す方々へのメッセージも動画でお届けします。

まったく売れなかったオープン当初。様々な施策を経て、リスティング広告によって生まれた好循環。

株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:2005年2月にBUYMAがオープンしましたが、当初のセールスや、ユーザーの反応はいかがでしたか?

須田:BUYMAオープン直後は、アイテムが全然売れませんでした。「オープンしたら、すぐにアイテムが売れるだろう」という期待があったのですが、段々と「あれ?」という気持ちに変っていきました。せっかく出品していただいても、売れないのであれば出品者のモチベーションも下がってしまうので、そこも何とかしなければいけませんでした。

小田島:出品者のモチベーションを下げないために、どのような策を講じていったのでしょうか?

須田:例えば、いまで言うSNSの「いいね!」機能のような、良い出品に対して褒めるボタンを設置しました。「この出品いいね!」と褒められることで出品者のやる気も上がってきますので。あとは出品数を集めるために、「1出品につき100円を付与する」という施策も行っていきました。

小田島:なるほど。出品数を増やしていくと同時に売上もアップしていきましたか?

須田:いえ、それでもなかなか売れなかったですね。当時はウェブサイトに1万人のアクセスがあったのですが、それでも売れていない。ということは、根本的に何か間違っているのではないかと思ったりもしました。

ただ、BUYMAというサービスをローンチしたことによって、投資家たちの興味を引くことはできるようになりました。アイデアの段階では投資家たちに見向きもされなかったのですが、結果的に1憶4000万円程度の投資を集めることに成功。サービスは軌道に乗っていなかったのですが、当面生きていくための資金を集めることはできました。

小田島:そうだったのですね。サービスが軌道に乗るまでにけっこうな時間を要することになるのですね。

須田:はい、 1年経ってもなかなか成長が見られなかったですね。そこで、トラフィックを持っている企業と組みたいと考え、各ポータル企業とお話しをさせていただきました。そこでSo-net(※1)さんと資本業務提携することになりました。

小田島:そこからどういった戦略を打ち出していったのでしょうか?

須田:BUYMA単体で月に約2,000万円の赤字を出しながら検索広告に資金を投下していきました。出品してくれた人たちに対して、きちんとお客さんをマッチングさせたいと。そして、売れることでまた出品してくれ、出品が増えることでBUYMAの検索結果がより上位に表示され、ユーザーも増えてより売れるからまた出品が増えて、といった好循環が生まれてきました。そこから状況が段々と変わってきましたね。

小田島:リスティング広告に大きな活路を見出していったのですね。

須田:そうですね。ROIで見ると、ざっくりではありますが2年半掛ければ回収できることがわかってきました。ひどい数字ですが、他の広告ではまったく回収の見込みがなかったので、とにかく検索広告だけに力を入れて、出品すれば売れるという好循環を強引に作り出していきました。

※1 So-net:ソニーモバイルコミュニケーションズの子会社であるソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社。

「女性」×「ファッション」にフォーカス。BUYMAの強みに気付いてから新たな戦略を展開。

左:ソニー小田島、株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:リスティング広告への投資が大きかったのですね。その他にターニングポイントとなるようなエピソードはありましたか?

須田:あと大きかったポイントとしては、「Abercrombie&Fitch(以下、アバクロ)」というブランドにフォーカスしていったことが挙げられます。オープンから2ヶ月後、一番初めに売れたのがアバクロの香水でした。

日本で販売されていないことや、モデルの花田美恵子さんが着用して話題になったことなども手伝って、その後もアバクロの女性向け商品が多く売れました。アバクロのTシャツは1枚数千円程度と単価が安く、冒険しても失敗できる価格帯であったことも売れ行きに貢献してくれたかと。そこから「アバクロ」で検索広告を買っていく戦略を取るようになっていきました。そこでの知見を踏まえて、BUYMAは「ファッション」と「女性」というキーワードにフォーカスしていったのです。

小田島:サービスの立ち上げ時には気付かなかった強みにシフトし、ピボットを成功させていったのですね。

須田:オープン当初は「BUYMAの構造的な強み」というものを理解していませんでした。実際に売れている商品やお客さんの動向を見ていくことで、BUYMAの強みは「ファッション」であることに気付きました。つまり、小ロット・多品種の商品で、どんどん入れ替わっていくアイテムが向いている、と。

ファッションには、サイズやカラーでもSKU(StockKeepingUnit:ストック・キーピング・ユニット)の違いがありますし、シーズンも変わってきますし、世界中にトレンドがあります。それらを網羅できるのは在庫を抱えて売る従来のモデルでは厳しく、BUYMAのようにバイイング機能をアウトソーシングできることが最大の強みだということにやっと気が付きました。そこから「ファッションに特化して、トレンドをキャッチしていく」という方向に戦略が固まっていきました。

株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:そんなBUYMAが現在では高利益な状態になっているかと思うのですが、何が成功の要因だったと考えていますか?

須田:先にも挙げたように、まずは「強み」にフォーカスしたこと。あと、私はこれを「冷静と情熱の間」と呼んでいるのですが、アイデアに対する熱狂的な思いと同時に、ROIなどからきちんと分析するような冷静さを持てたことだと思います。熱意だけで進んでいくと、ナポレオン・ヒル『思考は現実化する』にあるエピソードのように、まったく鉱脈のない部分だけを掘り続けて途中であきらめてしまうことになりかねません。根拠のない自信で始める「情熱」を持ちつつも、やはり根拠で支えていく「冷静さ」がないと事業は続いていかないと思います。この両面を持てていたことが大きな要因だったと言えるのではないでしょうか。

アイデアの具現化や業績の黒字化など、事業を成功させる上で起業家に求められるモノとは?

株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:業績黒字になるまで耐えている期間はどのくらいでしたか?

須田:単月黒字になるまで3年半で、通期黒字までには5年を要しました。最初の3年半はきつい時期でした。赤字もけっこうありましたし、本当にうまくいくのかなと思ったり、これだけお金を掛けて失敗したときの責任の取り方について考えたりしました。BUYMAの担当役員として、使うお金なども決めていたので余計に責任を感じていました。

小田島:事業の先行きが見えない状態のなかで、起業家に求められる「資質」は何だと感じられましたか?

須田:絶対に必要な条件としては、「粘り強さ」。あきらめないことが大切です。また事業は波があるので、包容力みたいなものも必要になってきます。ちょっとしたことでイライラしたり、悲観的になるようだと、長期の投資は難しいと思います。付いてきてくれる人たちもいますので、動じないマインドが必要です。あと、チームとして結果を出すチームスキルが求められてきます。

小田島:とても大切なポイントですね。BUYMAやBUYMA TRAVEL(バイマトラベル)といったアイデアを、実際のビジネスに落とし込んでいくためのコツは?

須田:ウェブサービスであれば、まずは画面を作ること。実際に画面を作ることで、必要な機能などが分かってきますから。具体的かつリアリティのある画面が望ましいです。

BUYMAのテストサイトでは、商品紹介部分にバックや洋服などのアイテム画像を登録することで、サイトの見え方や実際に売れそうかどうかが判断できます。画面を作ってリアリティを出していくなかで、ターゲットが見えてきたり、違和感がある部分を発見したりと、ビジネスの精度を上げていくことができるのです。

アイデアを思い付いたら、まずは熱狂して始めてみる。期限は「2年」。

小田島:新しい事業を始める人が気を付けるべき点などあればお聞かせください。

須田:考え尽くしたアイデアで成功した会社って実はそんなに多くないのでは、と思っています。ですので、アイデアを思い付いたら、まずはそのアイデアに熱狂してしまって、そこから市場性などを考慮した上で不要なものを除外していく、といったステップの方が成功する気がします。

株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:須田さんがまさにそうでしたよね。ピボットしていく上で、失敗を見極めるポイントはありますか?

須田:期限を決めることです。2年間やって全然成長していなかったら、それはそもそも間違いで、やめた方がいいと思います。起業家は3年でも5年でも情熱で持つことができるのですが、一緒にやっているメンバーは2年以上成長していないと心が折れてしまうかと。現実問題として、給与も上がらないですし、ストックオプションも当てにならなくなりますので。「2年」という期間が、普通の人の情熱が続く限界だと私は考えています。

小田島:なるほど。須田さんの「座右の銘」はありますか?

須田:「困難な道を選べ。そして困難を楽しめ。」です。

株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:なるほど、貴重なお話をありがとうございました。最後になりますが、スタートアップにチャレンジしている方々に向けてメッセージをお願いします。

・須田さんビデオメッセージ

須田さん、ありがとうございました!

次回の「CREATORS 100」は、須田さんからご紹介いただいた、株式会社アイスタイル 代表取締役社長の吉松徹郎さんへのインタビューです。お楽しみに!

あらゆる人に起業の機会を。

Sony Startup Acceleration Programはソニーが手がけるスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムです。2014年から5年間で、国内外で750件の新規事業案件を審査し34件を育成、14の事業を立ち上げ。それらを通じて培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援する仕組みを整備し、スタートアップ支援サービスとしてみなさまにご提供しています。