2019.9.9
CREATORS 100
#01 株式会社エニグモ 代表取締役・最高経営責任者 須田将啓さん(前編)
Interview

「CREATORS 100」は、Sony Startup Acceleration Program (以下SSAP)を立ち上げ、運営するソニー株式会社Startup Acceleration部門副部門長の小田島が、様々な業界で新たな時代を創り出している起業家・経営者を訪問するインタビュー連載企画です。「クリエイターをクリエイトする」ことをスローガンに掲げ、スタートアップの創出と事業運営を支援するSSAPの視点から、スタートアップにチャレンジしてきた起業家やクリエイターの起業ストーリーやフィロソフィーなどをお届けします。

第1回目は、641万人以上のユーザーを持つ海外ファッション通販サイト「BUYMA(バイマ)」を展開する株式会社エニグモ(以下エニグモ)代表取締役・最高経営責任者の須田将啓さんにお話を伺いました。前編では、アイデアを生み出したきっかけから、開発委託先の夜逃げに至るまでの波乱万丈な起業ストーリーをご紹介します。

左:ソニー小田島、株式会社エニグモ 須田将啓さん
左:ソニー小田島、株式会社エニグモ 須田将啓さん

ヒントは「国内外でのアイテム価格差」。そこから生まれたアイデアが、すべての始まり。

小田島:まずは、「BUYMA」の元となるアイデアが生まれたきっかけをお聞かせください。

須田:BUYMAの最初のアイデアは、のちにエニグモの共同創業者となる田中が、2002年に考えたものになります。彼は以前アメリカに住んでいたことがあり現地での経験が長かったことから、日本と現地のアイテムの価格差に目を付けたのがきっかけです。「アメリカで3万円で販売されているサーフボードが、日本では10万円する」と、彼は言っていました。海外に友人がいれば現地で売られているアイテムを購入してもらうことができますが、そういった人は滅多にいないですよね。そこで、「海外在住の人と日本在住の人を繋いで、アイテムをオーダーできる」、というアイデアに大きなビジネスチャンスがあると見込んでスタートしていきました。

株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:共同創業者の田中さんとは元々ご友人の間柄だったのですか?

須田:前職の大手広告代理店の同僚で、同じチームに所属していました。担当しているクライアントは別でしたが、同い年ということもあってしょっちゅう飲みに行く仲でした。ただ飲んでいるときはお互いベロベロでしたので、起業の話はしませんでしたけど(笑)

小田島:プライベートでも仲の良い関係だったのですね。そこからなぜ起業の話をするようになったのでしょうか?

須田:2002年のクリスマスの夜、職場で残業していたところ、田中から「すごく面白いアイデアを思い付いた」と声を掛けられたのが始まりです。ちょうど私自身も30歳で起業しようと考えていた頃で、いろいろとアイデアをストックしていたので、深夜の会議室に移動してお互いのアイデアを出し合いました。そこで、どのアイデアから着手しようかという段階になって、のちに「BUYMA」となるアイデアはハードウェアなどの設備投資などが必要なく始められるので、それからスタートさせようと。年明け間もなく、渋谷のファミレスに集まって、ブラッシュアップさせた案を持ち寄って詰めていきました。

二人を待っていたのは、予想外の展開。アイデアの実現のために、必要不可欠だった「エニグモ」の設立。

小田島:そこで生まれたアイデアをきっかけに会社を辞めて、独立資金を集めるために行動していくのですか?

須田:いえ、退職したのはその1年後になります。退職までの1年間は広告代理店に勤務しながら、夜や週末に自分たちが考えたサービスの制作を進めていきました。当初はサービス構築の段階で、自分でプログラムも書いたりしていました。

小田島:資金が集まっていない状況ですと、制作を外部に依頼することもなかなか難しいですよね。

須田:そうなんですよね。ただサービスの制作を進めていくなかで段々と「ヤフオクを超えるサービスを構築する」といったような壮大なアイデアになっていったため、しっかりプログラミングしてくれる開発会社を探すことになりました。もしサービスがローンチした後に、自力で作ったシステムの不具合が原因で、他社に同様のサービスを真似られてしまっては堪らないなと思いまして。

そこで20社ほどの会社に声を掛けたところ、1社だけ、A社が話に乗ってくれました。しかも、そのA社の社長さんが「3,000万円出資してあげるよ」と。一円も出してない自分と田中に70%のシェアを渡すという提案をしてくれて、一緒にやろうと言ってくれました。それから、その開発会社と一緒にプランを練り上げていったのですが…。

株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:資金と人的リソースを確保したことで、順調に進んでいきましたか?

須田:その後、ウェブサービスに特化した開発を得意とする会社とも組む必要があるという方向になり、堀江貴文さんが経営されている会社にプレゼンすることに。堀江さんは長い企画書は読んでくれないだろうと、企画書を10枚にまとめて提案したところ、我々のアイデアをすごく気に入ってくれました。

ところが、我々が会社を設立していなかったこともあってか、パートナーであるはずのA社が堀江さんと直接話を進めていくようになってしまったのです。我々としては除外された形になったので、当然これはマズいと思い、堀江さんに「私と田中でサービスを立ち上げた後、改めて一緒にやらせてください」とお伝えし、了承をいただきました。残念ながら、A社とのパートナーシップもそこで終了してしまいました。

小田島:なるほど。アライアンスの難しさを物語っていますね。そこでの経験があったから会社を立ち上げようと思ったのでしょうか?

須田:その通りです。やはり自分たちが考えたことを実現させるには、自分たちで資金を集めて会社を立ち上げなければならないと思い知りました。関係者を増やすだけではダメだと。ここまで来るのに1年掛かりましたが、エニグモを作ろうと決意することができました。

サービスの可能性を信じて、退職を決意。

小田島:起業の段階ではどの程度の資金を集められていたのでしょうか?

須田:最初は、創業メンバー4人で持ち寄った数百万円だけでした。そこから友人たちに声を掛けて、3000万円を集めました。ベンチャーキャピタルのリストを作成してコンタクトを取っていったこともありましたが、全然相手にされなかったですね。

小田島:そうだったのですね。2004年当時、ベンチャーを立ち上げる方は多くはなかったと思います。前職を退職する時の、周囲の反応などはいかがでした?

須田:私が勤めていた広告代理店では、会社を辞めてベンチャー企業を立ち上げる人は少なかったですね。それに加え、同僚の田中と2人同時に辞めるということもあって、社内ではちょっとした騒ぎになってしまいました。

小田島:先が見えない状況で大手企業を退職するのはとても勇気がいることだと思います。起業に踏み切った思いはどこから?

須田:とにかく「BUYMA」というサービスに可能性を感じていて、世の中に出したいという気持ちが強かったのですよね。やっぱり、恋愛じゃないですけど、そこまで夢中になれないと起業することも簡単ではないのかなと思います。フラットに見ればそこまで成功するかわからないですが、とにかく世の中にインパクトを残したいという思いが強かったですね。

資金や信頼を失いかけながらも、何とか漕ぎつけた「BUYMA」オープン。

ソニー小田島、株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:さて、実際に会社を立ち上げてからサービスのローンチまでは順調でしたか?

須田: 2004年2月に会社を設立してから同年8月にBUYMAをオープンさせるためにいろいろと準備を進めていったのですが、完成予定日の1ヶ月前になって制作を委託していた開発会社B社から「1か月後のリリースは難しいです」とリリース時期を延期したい旨を告げられました。

小田島:突然オープン日の変更を余儀なくされた訳ですね。

須田:はい。ところが我々も広告畑出身で、ウェブサービスに詳しいわけではなかったこともあり、その申し入れを受け入れることができませんでした。しかもオープン日にはイベントを予定していて、会場の手配やマスコミへのリリース送付などもすでに済ませていたので。それもあって、私たちも「スケジュールの遅延は認めない」という強固な態度になっていき、そうこうするうちにB社の社長さんが夜逃げしてしまって…。

前金で渡していた開発費用も一緒に消えてしまいました…。本当に、その日はエニグモを設立してから一番落ち込みましたね。自分を信頼し応援してくれた友達から集めたお金をドブに捨てるような形にしてしまったので、大変申し訳ないという気持ちになりました。

小田島:非常に追い詰められた状況ですね。ちなみに、その前金やマスコミイベントはどうなりましたか?

須田:B社の親会社に交渉することができ、それで何とか補償してもらいました。イベントは全部キャンセルです。用意していた販促物の「うちわ」も使われることがなかったので、翌年に行われた近所の花火大会で配りました(笑)

小田島:会社設立直後は、そういった壮絶なドラマもあったのですね。そこから得た学びなどがありましたらお聞かせください。

須田:やはり「スモールスタート」で始めることが大切だと思います。私の場合、とにかく当初のアイデアに惚れ込んでしまって、それを完璧な形で世に出したいという思いに陥ってしまいました。私はそれを「コンセプチュアルの罠」と呼んでいます。その分、制作側もどんどん複雑になっていき、結果的に作り上げることができなくなってしまいました。

例えば「36人月・予算3,000万円」で始めたいと思っても、半分の「18人月・予算1,500万円」でスタートさせることで、コアなアイデアを実現させるための必要最低限な部分だけに絞り込むことができます。その状態でリリースしてから、反応をみながらバージョンアップしていくことが王道かなと思います。

株式会社エニグモ 須田将啓さん

小田島:SSAPとしても、とても参考になります。その後、無事にBUYMAをローンチさせるまでにはどのくらいかかりましたか?

須田:サイトの作り直しからリスタートし、そこからオープンまで半年掛かりました。BUYMAの将来性を信じてくれた開発会社Cが手を挙げてくださって、破格の条件で手伝ってくれました。その甲斐もあって、2005年2月に無事ローンチ。構想から2年ちょっとでようやくオープンすることができました。

(後編につづく)

あらゆる人に起業の機会を。

Sony Startup Acceleration Programはソニーが手がけるスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムです。2014年から5年間で、国内外で750件の新規事業案件を審査し34件を育成、14の事業を立ち上げ。それらを通じて培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援する仕組みを整備し、スタートアップ支援サービスとしてみなさまにご提供しています。